第百十四話 自分の幸せ【ルル】
今年最後の配達が来た。
「明日から・・・新年ですね」
「そうだね・・・来年もよろしくねグレン君」
返事は・・・まだできていない。
「新年はどのくらい休みますか?」
「五日間だね」
「うちも・・・そうなんですよ。では・・・また」
グレンはなにか言いたそうな顔をしていた。
わかってるよ・・・でも、なんでか言えないんだよね・・・。
宵の月も今日で終わり・・・。
待たせたのはあたしなのに・・・。
こっちから返事をしないといけないのに・・・。
明日から新年・・・そして最後の戦場まであと三ヶ月・・・。
やっぱり戦場が終わってからにしようかな・・・。
・・・それまで、待っててくれるのかな?
◆
時の鐘が聞こえた。
次で夕方・・・今日はお客さんも少ないだろうし、早めに閉めよう。
「失礼いたします。こちらにルル・ブルームという方は・・・あら」
酒場の扉が開かれた。
入ってきたのは・・・。
「よかった。・・・久しぶりですね」
「セス院長・・・」
「ふふ、もう立派な大人ですね」
セス院長は前と変わらない微笑みを浮かべた。
突然どうしたんだろう・・・。
南区からわざわざ来てくれた?
「忙しかったのですか?」
「あ・・・いえ・・・ただ・・・まだ・・・」
「お酒を飲みに来たわけではありません。今日は院長の集まりがあったので・・・なんだか、ふと気になって寄ってみただけなの」
「そうなんですか・・・座ってください」
なんだか嬉しくなった。
まだ、あたしの存在がこの人の中にある。
巣立ってから十年以上・・・それでも憶えてくれてるんだね・・・。
◆
「これ、お酒じゃないので」
子どもたちに人気の苺ミルクを出した。
甘さは控えめだ。
「・・・おいしいですね」
「ありがとうございます」
「繁盛しているのですか?」
「まあ・・・戦士たちが毎日来てくれますので」
目を閉じると孤児院にいるみたい・・・。
あの時と同じ雰囲気だからかな。
「戦場が本当に終わるらしいですね。精霊に聖女様までいらしていると新聞で見ました」
「そうです。きっと次で最後になります」
「あなたは近くで見ていますからね。孤児たちが減ればいいのですが・・・」
セス院長は寂しそうな顔をした。
身寄りが無ければ、戦士の子が孤児になってしまうこともある。
戦死する人がいなくなるわけだから、減ってくれるはずだ。
「アリシアは・・・どうですか?あの子も新聞でよく見ますよ」
「ああ・・・元気ですよ。そうだ、五歳の娘もいます」
「娘まで・・・まあ、幸せならなによりです。ニルスも大きくなったでしょう?」
「はい、とってもいい男になってますね。ちゃんと親子仲良くしていますよ」
ああ、セス院長にも見せたい・・・。
「アリシアに子育てができるのか心配でしたが、なんとかなったようですね」
「あはは・・・」
そうじゃなかったっては言えないな・・・。
「ふふ、たぶんあなたが支えてあげたからではありませんか?」
「・・・お見通しですね」
「当たり前です」
余計言えない・・・。
「あなたはどうですか?」
セス院長に見つめられた。
「え・・・」
「幸せなのか教えてください。恋人・・・いえ、旦那様はいるの?」
「あ・・・いえ・・・」
あたしは自分の胸を押さえた。
どっちもいない・・・。
「ルルならいい人を見つけられると思いますよ」
「あ・・・実は・・・あたしを好きって言ってくれる人はいて・・・」
「あなたはそう思っていないの?」
「いえ・・・そういうわけじゃ・・・」
恥ずかしくて返事ができていないだけ・・・。
でも、笑われそうだから言いたくないな。
「この子が幸せであるように・・・あなたのお母様が言っていました」
「お母さん・・・」
「あなたを私に託す時、抱きしめながらでしたね。・・・そろそろ戻らなければいけません。明日は新年のお祝い、子どもたちのごちそうを用意しないといけないの」
セス院長は立ち上がった。
知ってる。あたしも好きだったから・・・。
「・・・私も歳を取ったでしょう?」
「いえ、今でも綺麗ですよ」
「・・・ありがとう」
「お世辞じゃありませんからね」
心から思っていることだ。
育ててもらった子は、みんなそう思ってる。
「じゃあ・・・外まで見送ります」
あたしも席を立った。
扉を開くくらいはしたい。
◆
「あなたに会いに来てよかった」
二人で外に出た。
少しだけ雪が舞っている。
「あたしも会えて嬉しかったです。たまにでいいので、また来てください」
「忙しくなければそうしましょう」
難しそうだな・・・。
「無理はしないでくださいね」
「していません。では、最後に・・・」
「あ・・・」
あたしの体が抱きしめられた。
ああ・・・暖かいな。
「あなたが幸せであるように・・・」
「セス院長・・・」
「巣立っても、私の大切な子です。・・・いい新年になるといいですね」
セス院長の体が離れた。
ありがとう・・・お母さん。
◆
晩鐘が鳴った。
お店は戦士たちで賑わっている・・・。
「その酒はこっちのだ」「頼んだ料理まだ来てないよ」「ちょっと、それあたしのグラス」「酒じゃないのをくれ」
なんでこんなに集まったのかしら・・・。
こっちは稼げるからいいけど、帰ってゆっくりしてればいいのに。
◆
「ニルス、ニンジンを食べてみてくれないか?」
「嫌だ・・・誰のせいで食べれなくなったと思ってるんだ」
親子は寄り添いながら食事をしていた。
二人とも昔と同じ顔ね。
「大丈夫よニルス、私がかわりに食べるわ」
息子の恋人も同じテーブルに付いている。
二人きりにはさせたくないんだろうな。
「あ・・・ステラ、余計なことを・・・」
「あら、そろそろ子離れしたらどうかしら?」
「私は・・・母親に戻ったぞ。嫌がらせはやめろ」
「あなたこそ嫌がらせはやめてちょうだい」
誰も近寄れない雰囲気だ。
姉妹なんだから仲良くしなさいよ・・・。
まあ・・・睨み合ってるよりはいいか。
『ルルさん、心配をかけました』
『今まですまなかった・・・』
親子は和解したあと、あたしの所に来てくれた。
お母さんはちゃんと愛を伝えられたみたいだ。
「二人とも仲良くしなよ・・・」
「私は仲良くしてるつもりなんだけどな・・・」
「していないだろう。あ・・・ニルスの手に触るな」
「・・・」
けど、新しい問題も生まれている。
そっちは・・・あなたたちでなんとかしてね。
◆
楽しそうなテーブルを見つけた。
座っているのはシロ、スコット、ティララ、ヴィクターさん、イライザさん、ティムの六人だ。
年末なのにみんな暇なのね・・・。
「ニルスから聞いたけど、僕の城に来たいの?」
「え・・・ああそうだよ。ティララも見たいって言ってる。戦場が終わったら頼むよ」
「水晶でできてるお城なんでしょ?お願いシロ君」
「そこまで言うなら見せてあげる。でも、誰にも場所を教えちゃダメだよ」
戦場が終わったらか・・・いい話。
水晶のお城・・・あたしも今度頼んでみようかな。
「じいさん、俺は戦場までにニルスに勝てるか?」
「・・・無理じゃ。自惚れは捨てろ」
ヴィクターさんとティムは真面目っぽい話をしていた。
「雷神は筋がいいって褒めてくれたぞ」
「お世辞もわからんのか・・・」
おじいちゃんと孫って感じね。
ティムもうちの常連だ。
お客さんが減った夜遅くに来て、料理だけを食べに来ている。
本当はお酒も頼んでほしいけど、おいしそうに食べてくれるから特別だ。
「名前の公表はするなと言ったそうじゃな?」
「ああ、別にいらねー。もし功労者になれたとしても誰かに譲る」
「ニルス殿と同じで栄光はいらないようじゃな」
「あいつに勝つことがそれだな」
ティムはニルスに執着している。
その感情は負けた悔しさじゃなくて、単純に好きだからって感じだ。
友達・・・みたいに思ってるのかな?
「あんたがニルスに勝てんのはまだまだ先だね」
黙って聞いていたイライザさんが口を開いた。
ティムのことが気になってるって感じなのよね。
そして、おじいちゃんが変なイタズラしないように見張りも兼ねて一緒にいるんだろう。
「うるせーな・・・怪力女も勝てねーだろ」
「その怪力女に勝てないあんたじゃまだ無理だって言ってんのよ」
「お前こえーんだよ。首根っこ掴まれて投げられたのは初めてだったぞ」
「軽すぎるんだ。もっと食いな」
あのテーブルには、料理をたくさん追加だな。
◆
珍しい組み合わせのテーブルを見つけた。
ミランダ、ジーナさん、ウォルターさん、べモンドさん、あの四人で何を話してるんだろう・・・。
「ジーナさん、この二人あたしをいやらしい目で見てくるんですよ」
「べモンドもウォルターも若い子相手に何考えてんのかしらね。そうだ・・・今日はうちに泊まって色々吐き出していきなさい」
「ミランダ・・・やめておけ」
「はあ?べモンドに止める権利無いでしょ」
ミランダがあの三人と同じ席にいるのは新鮮ね。
「いや・・・べモンドはミランダを本当にいやらしい目で見てるのかもしれない」
「ウォルター・・・鍛えてやってるだけだ」
「その割に随分入れ込んでるように見える」
「べモンド・・・あんた自分がいくつかわかってるの?十代になに考えてんのよ」
たしかに・・・本当だとしたらちょっと見る目が変わる。
「やっぱりそうだったんだ・・・あたしちょっと年上過ぎるのはキツイな」
「うるさい奴らだ・・・」
べモンドさんはまったく気にしてないって感じだ。
怪しいけど、そういう雰囲気ではなさそう。
「ジーナ、エディはどうした?たまにはあいつとも飲みたい」
「具合悪いみたいだから休ませてる。本当は来たかったみたいだけどね」
「お前が無茶させたんだろ?たまにげっそりしてる時あるからな」
「なんですかそれ・・・こわ・・・」
エディさんか・・・ゆっくり休んでほしいわね。
◆
「アリシア、そろそろ他の席に行ったら?」
「なぜだ、私だってニルスといたい」
「十五年もニルスと一緒にいたんでしょ?もうあなたとの時間はおしまい」
姉妹のテーブルは相変わらずだった。
取り合ってるのはおもちゃじゃないのよ・・・。
「・・・」
ニルスはどっちにも弱いみたいだ。
あれじゃ楽しくないだろうな。
「ニルス、こっちに来ない?」
だから誘った。
あたしとの時間はまだ残ってるはずよね。
「・・・ルルさん。・・・ちょっとそっちに行ってくるよ」
ニルスは助かったって顔をしている。
そりゃそうよね。
「ニルス、アリシアはどこかにやっておくからすぐに戻ってきてね」
「私は動かん」
そして姉妹も文句は無いみたいだ。
少しくらい仲良くしててほしい。
◆
「仲直りしたらしたで大変ね」
「助かったよ、動けなかったんだ」
二人でカウンターに座った。
悪いけど、仕事はちょっと休憩させてもらう。
「あの二人はあんまり近付けちゃいけないわね」
「そうだね。ステラは、まだアリシアになにか思う所があるみたいだし・・・」
優しい子、わかってるから間にいてあげてたのか。
「ルージュは?」
「エイミィさんが見ててくれるって。明日は新年の朝市を見に行くらしいから、もう寝てるはずだよ」
「一緒に行きたいんじゃないの?」
「・・・」
ニルスは答えずに微笑んだ。
・・・そうだよね。
「・・・戦場が終わったらお祭りになる。その時、一緒に手を繋いで・・・それがあるから今は我慢する」
「できるよ。あなたは強いもの」
背中を軽く叩いてあげた。
それ・・・見たいな。
「それに、もう辛いことはないんだよね?」
「うん、ありがとうルルさん。色んなこと、助けてくれたってミランダから聞いたよ」
「あたしはあなたたち親子を放っておけなかっただけよ」
あとは戦いを終わらせて、ルージュとの再会だけだ。
・・・なんだか涙が出てくる。
「・・・大丈夫?」
「大丈夫よ、嬉しくなっただけ・・・」
「・・・ごめんなさい」
ニルスが突然謝ってきた。
どうしてそんなことを言うんだろう・・・。
「あたしは、嫌なことはしてないよ」
「・・・ルルさんは、オレたち親子にとても良くしてくれているけど、そのかわりに自分の時間を持てなくなっていたんじゃないかって思ったんだ・・・」
「そうかもしれない。でも、あたしがやりたいことをしただけだよ」
アリシアたちに関わってきたことに後悔はない。
だからニルスが気にすることじゃないんだけどな。
「たとえば・・・恋人とか。オレやルージュを預かってくれていた時間で色々できたんじゃないかなって」
「ふふ、心配いらないわ」
「・・・そういう人がいるの?」
ミランダはグレンのことを誰にも話してなかったみたいだ。
お喋りなのに、変な所は堅いわね。
「まあ、あたしを好きだって言ってくれてる人がいる・・・それだけよ」
「ルルさんはどう思ってるの?」
「・・・あたしもいいなって思ってる。年下だけど、頑張り屋で正直で・・・かわいいのよ」
「・・・きっといい人だよ」
ニルスを見ると彼と同じような笑い方をしていた。
・・・そうか、だからいいなって思ったのかもな。
「オレ・・・ルルさんは幸せにならないといけないって思ってる」
「ニルスは優しいのね」
「だって・・・ルルさんはオレのもう一人の母さんだから・・・当たり前だよ」
ニルスの言葉が体中を駆け巡った。
そうか・・・あたしはそう見てもらえてたんだ・・・。
自分の幸せか・・・。
返事できてないから、自分で遠ざけちゃってるんだけどね。
あたしが幸せであるように。
お母さん、あたしもそうなりたいんだよ・・・。
「ルルさん、師匠がいつものお酒くださいって言ってますよー。倉庫の鍵お願いしまーす」
ティララの声が背中に当たった。
もう・・・せっかくニルスと話してたのに。
「ちょっと誰か・・・」
お店を見渡して、手の空いてそうな女給を探した。
みんな忙しそう・・・。
「ニルス、ちょっと待っててね」
「うん、待ってる」
「いい子ね」
暇だったのはあたしだけか・・・。
◆
「おじいちゃんってば、今日はよく飲むわね・・・。んー・・・寒い」
外の空気はとても冷えていた。
二本でいいと思ってたけどもう三本目だ。
じゃあ・・・あと三本持っていこう。
「お酒もおいしそうに冷えちゃって・・・。人肌・・・やっぱり暖かいのかな・・・」
一人だから声に出してみた。
『あの・・・好きです』
あなたを思い浮かべながらだ。
『・・・待っています』
ああ・・・なんで今日言えなかったんだろう・・・。
『・・・笑った顔、好きですよ』
返事ができていたら、明日からのお休みは一緒にいれたのかな?
「新年おめでとう」とか言ったりして・・・。
『いつもルルさんのことを考えていて・・・』
住んでる場所を聞いていれば、ここを閉めたら向かってたのかな?
今頃はなにをしているんだろう?
あたしのこと、考えてくれてるのかな・・・。
◆
「・・・あれ?」
倉庫から戻ると、店の明かりが消えていた。
真っ暗だ・・・。
「なにが・・・」
みんなの気配はあるのに静かだ。
いたずら?まったく・・・。
「どういうこと?みんないるのはわかってるのよ」
誰も返事をしない・・・。
「明かりをつけないと今日は倍の代金を払ってもらうからね!・・・え」
急に手を掴まれた。
・・・知ってる。この暖かい手はニルスのだ。
「ニルスね、どういうことなの?」
「ステラ、シロ」
「はーい」
店内に光が戻った。
「え、なに・・・どうして・・・」
「こんばんは・・・ルルさん」
目の前には・・・彼がいた。
状況がわからない・・・。
「驚かせて申し訳ありません。ミランダさんから、この時間にここに来れば返事をもらえると聞きまして・・・」
「返事って・・・ミランダ、どこにいるの?」
周りのみんなはなぜか暖かい目で見ている。
なによこれ・・・。
「ほら、ルルさんはなんの返事かわかってないみたいよ。もう一度伝えて」
ミランダはグレンの後ろにいた。
もう・・・余計なことを・・・。
みんなで計画してたってことか。
やっぱりお喋りだった・・・。
「ルルさん、あなたが好きです。そして・・・一生愛していきたいと思っています」
頭の中を整理する前に、グレンが愛を口にしてくれた。
「一緒に生きていきたいです・・・お返事を頂けますか?・・・もしダメなら、今日できっぱり諦めようと思います」
目の前に花束が出された。
ここで、こんなことをさせるなんて・・・。
「ルル、これからは自分の幸せだけを考えてほしい」
アリシアがあたしの背中を押した。
「ルルさん、オレもそう思ってるよ」
「ニルス・・・」
「返事を待たせちゃダメだよ」
ニルスも背中を押してくれた。
・・・そんなに急かさないでよ。
返事は・・・もう決まってるんだから・・・。
「・・・待たせて、ごめんね。よろしく・・・お願いします」
あたしはグレンからの花束を受け取った。
「あの・・・ルルさんからの気持ちも聞きたいです」
「あ・・・あたしも・・・あなたが好き・・・」
「ルルさん・・・」
「あ・・・」
グレンは、あたしを優しく抱きしめてくれた。
「ずっと待っていました・・・」
泣いてる・・・。
気持ちを受け取ってくれたこと、そして想いに応えてくれたこと・・・嬉しかったんだね。
「待っていて・・・よかったです・・・」
ああ・・・愛のある人からの気持ちは暖かい。
あたしも暖かいのかな?
ニルスが安心してくれてたからそうだと思うんだけど、聞いてみたいな・・・。
「ルルちゃんおめでとう」「そのまま二人で帰ってもいいぞー」「俺は断られちゃったけど・・・」「ルルさん、お店は私たちで閉めますよー」「新年は二人で過ごすのー?」
戦士や女給たちが、祝福とからかいを贈ってくれている。
まったく・・・聞くのは二人きりの時にしよう
◆
「事情はニルスさんから聞きました。・・・早く言ってくれれば、返事の催促だってしませんでしたよ」
グレンが優しい抱擁を解いた。
こんな事情・・・言えるわけ・・・。
「だって・・・他人からしたら・・・バカバカしいでしょ?」
「そんなことありません。あなたはとても優しい人だと思います。だから・・・好きなんです」
あなたもそうだ・・・ずっと待っていてくれた。
その分はこれから返していこう。
「それに・・・ニルスさんのことなら協力したかった。・・・恩人ですから」
「かわりにルルさんを幸せにしてあげてください」
ニルスが微笑んだ。
ふふ、それでいいかも・・・。
◆
「グレン・・・ルルを泣かせたら私が黙っていないと思え」
「は・・・はい」
あたしたちが離れたところにアリシアが割り込んできた。
この女は余計なことしかしないのかしら・・・。
「やめろアリシア、オレたちが口を挟むことじゃない」
息子がそんな母親を叱った。
なんでアリシアが育ててこんないい子になったのかしら・・・。
いや・・・あたしも育てたからだよね。
「みんなー、今日はニルスがぜーんぶ払うんだって。あんまり安いとニルスが恥かくからどんどん飲んでこー」
今回のこと、提案は絶対にミランダだ。
知ってたのはあの子だけだし・・・今度じっくり話をしないとな。
「ルル、なにかあったら相談してくれ。子どもの育て方は聞いてくれて構わない」
「まだ早いわ・・・それにどの口が言ってんのよ。悪いけど、ニルスはあたしが育てたようなものだからね」
「それは・・・私はお前に恩返しがしたいだけだ」
「アカデミーではずっと守ってくれてたじゃない。恩があるのはあたしだよ」
だから、あたしは・・・。
「それを返していただけ・・・」
「返し過ぎだ。だから私も恩返しをする」
「オレもそうしていくよ。なにか困ったら言ってね」
アリシアとニルスがそっくりな顔で微笑んでくれた。
「まったく・・・遠慮しないからね・・・」
ありがとう・・・あなたたちに寄り添ってきてよかった。
お返しなんて期待してなかったけど、こんなに素敵な日を用意してくれたんだから・・・。
あたしの幸せは、この親子がくれたんだと思う。
だからこれからも寄り添って、想って生きていこう。
そうしていけば、もっと幸せになれるだろうから。
・・・もっと幸せになりたいから。
ルル【完】




