第百十二話 繋がる【ステラ】
あなたは今何を考えているのかな?
幸せな顔をしているのかな?
毎日、毎日・・・あなたを想いながら手を動かした。
早く会いたい、あなたの元へ・・・。
◆
「これで・・・かんせーい」
フラニーさんが針に繋がっていた糸を切った。
そう・・・これで完成だ。
「きっと喜んでくれるわ」
「はい、ありがとうございます」
できあがったマントは、絹織物よりも繊細で滑らかな肌触りになった。
それに柔らかくて、風によくなびきそう。
旅人っぽく灰色で染めたけど、気に入ってくれるかな?
「今日はお祝いしましょうか」
フラニーさんは嬉しそうに笑ってくれた。
でも・・・それはできない。
「すみません・・・すぐに帰りたいです。早く・・・会いたくて」
「あ・・・そうよね。うん、そうしなさい」
わかってくれたみたいだ。
「荷物をうちに取りに行かないとね」
「あ・・・待ってください。お代を・・・」
二十日間もお世話になった。
先に支払っておかないと。
「ああ・・・そうねえ、私は教えただけだから・・・二十日間と道具の貸し出し、合わせて五万くらいでいいかな」
・・・安すぎる。
ずっと付き添ってくれていたのにそれでいいわけない。
「あの・・・泊めてもいただきました。宿代だけでその四倍くらいはかかるはずです」
「私も石鹸を貰った。あれって普通に買ったらかなり高いと思う。だから、本当はタダでもいいかなって思ってるの」
「あれは別に・・・」
「ノックスがね、毎晩擦り付けてくるようになったの。バニラに弟か妹ができるかも・・・」
フラニーさんは頬を染めて照れ笑いをした。
誘惑の香り・・・試してもらうために渡したけど、旦那さんといい夜を過ごせているみたい。
「その分割引ってことにしましょ。・・・やっぱりそういうのがあるだけで違う」
「・・・羨ましいです。私は、今の状態では命を授かることができないので・・・これはニルスには秘密でお願いします。絶対に・・・」
「・・・わかった。・・・愛してもらうことはできるの?」
「それはできます」
まあ、そのつもりで香りを作ったからね。
ニルスを受け止めることはできる。
というか、欲しい・・・。
「でも、毎日使うのは良くないですからね。媚薬は、慣れさせてはダメなんです」
「ん・・・わかった」
フラニーさんは子どもみたいな顔になっていた。
それと・・・。
「一応言っておきますが、ノックスさん以外を誘惑しないでくださいね。それをしたら恩人でも許しません」
「心配しないで。私はノックスがいいの」
「はい、見ていればわかります。だから一応なんです」
「・・・本当はあれが無くても求めてくれたらいいんだけどね。疲れてるからって・・・けっこう傷付くのよ」
毎日でも欲しいって感じだ。
そうだよね・・・私だって・・・。
◆
「では・・・お世話になりました」
フラニーさんの家に戻り、荷物をまとめ終わった。
あとは転移で帰るだけ・・・。
「ステラ、女神様のこと・・・」
チルが心配そうな顔で寄ってきた。
「大丈夫よ。安心して待ってて」
「うん・・・次は、ニルスとミランダも連れてきてね。おいしいお菓子あげるから」
「ありがとう。チルはいい子だから、ちゃんと連れてきてあげるね」
「・・・」
チルの口が曲がった。
みんなでまた・・・。
「ステラさん、シー君に大好きだよとすぐに来てねって伝えてください」
バニラは明るい顔だ。
戦いが終われば必ずまた会える・・・誰よりも信じてくれている。
「任せてちょうだい。・・・バニラの恋は必ず実るようにしてあげる」
「えへへ・・・お願いしますね」
シロはこの子の心を完全に奪っているみたいだ。
まあ、私が口を出すことではないか。
・・・精霊と人間、どうなるか未来が楽しみね。
「それと、毎晩お話ししてくれてありがとうございます。きのうまで言えませんでしたけど、聖女様ってもっと厳しくて堅い感じの人だと思ってました」
「ふふ、外に出なかった私も悪いわ」
バニラとはとっても仲良くなれた。
青い季節をめいっぱい楽しんでいる女の子・・・純粋でかわいい。
「聖女様と生活ができたこと・・・とても貴重な経験だったと思います・・・」
ノックスさんも家にいた。
ちょっと、げっそりしてる・・・。
お仕事を休んだのかな?
「いえ、こちらこそお世話になりました。・・・それと、これからもフラニーさんの相手をしてあげてくださいね」
「あ・・・聞こえていましたか・・・。そうですね・・・なんだか夜になると、疲れていてもその気になってしまって・・・。ステラさんが来たくらいから・・・色気が強いというか」
「そ、そうですか・・・」
・・・私のせいだ。
「じゃあねステラ」
フラニーさんはノックスさんと正反対でとっても元気だ。
活力が漲ってるって感じね。
「私の所感ではあるけど・・・ニルスはたぶん奥手よ。ミランダにも手を出してなかったみたいだし」
「ふふ、そうでしょうね」
「でも・・・一度あなたの味を覚えたら変わると思う」
私の味か・・・。
「おいしいって言ってもらえるようにします。では、ありがとうございました」
「うん、戦場が終わったらまた来てね。石鹸・・・無くなっちゃうだろうし」
「あはは・・・はい」
いい人だったな・・・また来る時は服を仕立ててもらおう。
そう・・・また・・・。
◆
テーゼに戻ってきた。
二十日ぶり・・・当たり前だけど、家の中に大きく変わったところは無いみたいだ。
「さて、帰ってきたはいいけど・・・」
まだ昼間だ。
ニルスたちは訓練場かな?
気配が無い・・・。
◆
みんなの部屋を周ってみたけど誰もいなかった。
「おかえり」が欲しかったけど、戻ってきた時間が良くなかったわね・・・。
「おお、ステラ様。お戻りになられたのですね。おかえりなさいませ」
談話室に戻った時、ヴィクターが入ってきた。
まさに今帰ってきたって感じだ。
「ただいまヴィクター、あなたは訓練場じゃなかったのね」
「たまには休みを貰い、庭の手入れをしなければなりません。子どもたちが楽しみにしている石鹸も、シロ殿と交代で見ております」
「じゃあ今日はお休みなんだね。どこ行って・・・まさか娼館とか?」
「あるはずがないでしょう・・・。紅茶が切れていたので買ってきただけです」
冗談なのに・・・。
真面目に答えないでほしかったな。
「ステラ様、ニルス殿とアリシア殿ですが・・・」
ヴィクターは前触れもなく話そうとしてきた。
「待ちなさい。自分で聞く」
「ふふ・・・そうですか。では儂からは何も言いません」
ニコニコしちゃって。
・・・いい方向に動きはあったみたいね。
◆
「あなたと二人きりになるのは、スナフを出てから少なくなったわね」
「そうですね」
ヴィクターが紅茶を淹れてくれた。
色々やりたかったけど、少しお話をしてからでもいい。
「ニルス殿たちとの出逢いから、ステラ様はよく笑っていらっしゃいますね。儂と話す時以上です」
「そうかもしれないわね。座ってちょうだい」
「問答ですか?」
「いえ、お礼を言いたいの。ヴィクター、ありがとう」
この戦いに来てくれたのがあなたで良かった。
今までの騎士の中で一番柔らかい。
「・・・ステラ様、私はあなたの考えを尊重しています。なので・・・あまり口を出したくはないのですが・・・」
ヴィクターが優しい顔のまま私の目を見つめた。
・・・真面目な話ってことかな。
「口を出したいことがあるの?」
「戦士全員の治癒と支援・・・本気ですか?」
「冗談でした・・・なんて言うと思ってる?」
ヴィクターからこの話をしてくるとは思わなかったな。
「・・・やめろって言いたいの?」
「はい。仲間を愛しているのならやめていただきたい」
「その言い方嫌いよ。ニルス、ミランダ、シロ、あなたも・・・愛しているに決まってるじゃない」
「ならば考え直していただきたい。それ以外の作戦をなんとか考えましょう。・・・儂はあなたの幸せも守りたいのです」
皺の奥にある目が潤んでいた。
気持ちはちゃんと伝わってるよ。
・・・でもねヴィクター、私だってニルスの幸せを守りたいの。
「・・・ニルスは、目に見える人はみんな助けてあげたいんだって」
「わかっております・・・だからあの青年は悩みが多い」
知ってるんじゃない・・・。
「私たち仲間・・・共に戦う人たち・・・千人よ?ちょっと荷が重いんじゃないかしら」
「・・・一人では無理でしょうね」
「だから・・・戦士たちは私が持つ。愛しているからそうしたい・・・でも、そのあとはよろしくね。・・・私は考えを変えるつもりはありません」
「・・・承知しました。騎士の役目ですから」
わかってるよヴィクター、だからそんな悲しい顔しないでよ・・・。
「もうこの話はいたしません。お許しください」
「怒ってないよ。それよりこれを見て、私が作ったの」
私はできあがったマントをテーブルに広げた。
沈んだ空気は入れ換えないとね。
「ほう・・・これが太陽蜘蛛の・・・ニルス殿に似合うでしょうね」
「でしょ?炎、氷、風、色々試したけどこの状態よ」
「この薄さで鉄壁の守り・・・素晴らしい外套です」
「刺突と打撃には弱いけどね・・・」
「心配いりませんよ。ニルス殿はそう簡単に貰いませんから」
話してたら早く見せたくなってきた。
そうだ・・・どうやって渡そう・・・。
「ねえヴィクター、やることを増やして悪いんだけど・・・」
思い付いたっていうより、そうしたいって心が命じた。
「仰ってください」
「今夜は・・・ニルスと二人きりにしてほしいな」
「容易いことです。ではこれから訓練場に行き、シロ殿とミランダ殿にも伝えましょう」
ヴィクターが立ち上がった。
なによ、嬉しそうな顔しちゃって・・・。
「ありがとうヴィクター」
もういないけどね・・・。
宵の月がもうすぐ終わる。
あとは明けの月、紬の月、種の月、そして殖の月に戦場・・・。
もう半分・・・半年なんてあっという間だ。
「そうだ、シーツを取り換えないと」
色々準備をしないといけない。
戻ったあなたは、きっとお腹を空かせてる。
夕食の支度をして・・・体を洗っておいて・・・。
◆
「ミランダの匂いがしない・・・」
寝室のベッドの香りを確かめた。
ここ何日かは一人で寝ていたみたいで、シーツにはニルスの気配しか無い。
「もう大丈夫ってことなのかな?」
それなら・・・なおさらいい。
ヴィクターに頼んでおいてよかった。
・・・もうちょっとだけあなたの香りに包まれていよう。
色付く朝・・・幸福を呼ぶような香りとして作ったもの。
それを使ったニルスはとても魅力的になる。
あなたの汗とか・・・そういうのが混ざって素敵な香りに変わるんだろうね。
ああ・・・直接嗅ぎたい・・・。
「あれ・・・」
私の目から流れた雫がシーツを濡らした。
・・・なんでだろう。
幸せなのに・・・悲しくないのに・・・ちょっとだけ辛い。
◆
涙が全然止まらない・・・。
落ちる一粒一粒が「このままじゃダメだよ」って言っているように感じる。
いいよ・・・話だけは聞くから、夕方までには枯れてね。
・・・どうせシーツは取り換えるんだから。
◆
「やっと枯れてくれたわね・・・」
夕方前、思いはすべて流れ切った。
気持ちも落ち着いたし、おいしい夕食を作って待っていよう。
◆
夕方の鐘が鳴った。
やっぱり晩鐘が鳴ってからかな・・・。
「ステラ!どこにいるの!」
扉が開いた音と共に、あなたの愛を感じた。
そんなに離れてないのに、ずっと恋しかった声・・・。
「ニルス、こっちだよ。早く来て」
「談話室か。・・・開けていい?」
なんだか恥ずかしくて出迎えられない・・・。
だから、あなたから来てほしい。
◆
「ふふ、おかえりステラ」
扉が開かれた。
「あ・・・ただいまニルス・・・」
姿を見た瞬間に、私の体が勝手に動いた。
恥ずかしかったはずなんだけどな・・・。
「ニルス・・・もっとぎゅっとして」
「ステラ、ずっと会いたかったよ・・・」
「本当に・・・ん・・・」
ニルスの唇が私の声を止めた。
・・・本当だ、ずっと会いたいって思ってくれてたんだね。
時が止まったみたい・・・。
周りの音が消えて二人だけの世界ができた。
ずっと願っていた瞬間・・・。
目は閉じているけど、たくさんの色が見えて・・・それが私の胸を焦がていく。
◆
「・・・まだ夜には早いよ。お腹も減ってるんじゃない?」
「あ、ああ・・・そうだね。一緒に食べよう」
二人で食堂に入った。
そういえば、ヴィクターはみんなになんて伝えたのかな?
「ミランダたちは?一緒に帰ってくるものだと思ったけど」
「なんか・・・みんな今日はアリシアの所に泊まるって言ってたんだ。ステラが帰ってきたっていうのに・・・」
「二人きりは嫌だった?」
「そういうわけじゃない。・・・嬉しいよ」
気が利く人たち・・・だから大好きだ。
「ありがとう。・・・ねえニルス、約束・・・憶えてる?」
本当は楽しくお喋りをしながら夕食にしたかった。
「アリシアには勝てた?」
でもまずはどうなっているのかを聞かないとね。
ニルスの心に迷いがあれば、今夜は寄り添うだけにしよう。
「勝ったよ。そしてもう・・・大丈夫」
ニルスは穏やかに笑った。
・・・それだけじゃわからないよ。
「詳しく教えてほしいな」
「ん・・・ちゃんと・・・母さんだったよ。もう揺らがない」
ニルスがはにかんでいる。
恥ずかしいのか・・・まあいい。
ニルスから感じていた迷いは消えているから、母親を疑うことはもう無いんだろう。
「アリシアはステラに感謝していたよ」
「ふーん・・・私はちょっと叱っただけだよ」
「それも含めてだと思う」
あのおバカさんに感謝されてもな・・・。
「そうだ・・・ルージュはお兄ちゃんと再会できたの?」
母親とどうなったかよりも、こっちの方が重要だ。
「まだ・・・。戦いが終わったら会いに行くことにしたんだ。なにも背負ってない状態がいい」
「それでいいの?」
「うん、誰も戦う必要が無くなったら・・・そうしたいんだ」
そうか・・・ルージュは特別なのね。
・・・これだけは仕方ないな。
◆
私はニルスのためだけに作った夕食を並べた。
ここからはずっと幸せな時間にしたい。
「外では雪が降ってたんだ」
「キビナは毎日大雪だったよ。でもみんな元気なの」
二人きりの夕食だけど、たくさんお話ができて楽しい。
「市場の有名人だったって聞いたよ」
「え・・・ああ、余りものを全部買い占めてたからね」
「救世主だって・・・ふふ、また来ないかなーって言ってたよ」
「あはは、また行くけどね」
もっと・・・あなたの声が聞きたい。
「私がいない間、おうちのことは大丈夫だった?」
「ほとんどオレとシロだね。オレが炊事、シロが掃除と洗濯」
「ええと・・・ミランダは?」
「・・・家主だから」
・・・そうなんだ。
「ヴィクターは?」
「本当は洗濯をやってもらうはずだったんだけど・・・」
「だけど?」
「ミランダの下着を戦いの時と同じくらい真剣な目で見てたんだ。そしたらミランダが、おじいちゃんは庭以外何もしないでって」
昼間の真面目な感じと差がありすぎる。
困ったおじいちゃん・・・。
ああ・・・なんかいいな。
何気ない会話なのに、心が触れ合おうと近付いている気がする。
だから・・・今日は特別な夜になる・・・。
「そうだ、今日はミランダがいないから私が体を洗ってあげる」
「え・・・」
「恥ずかしがらなくて大丈夫よ。私は目隠しでもできるから」
そうしたい、ちゃんと綺麗にしないとね・・・。
◆
ニルスの体を洗い終わった。
「どうだったニルス、私も洗い屋さんになれる?」
「なれるよ。見られないのは助かる」
せっかく広いお風呂だから、本当は一緒に裸になって入りたかった。
まあ・・・それはその内ね。
◆
「じゃあ・・・私も洗い終わったら寝室に行くから待っててね」
私はニルスと入れ替わりで浴室に入った。
「ゆっくりでいいからね」
「うん」
さすがに食事前に香りを付けるわけにはいかないと思って、体を洗うのはやめておいた。
ニルスへの効き目はどのくらいなのかな?
・・・求めてくれるのかな?
◆
「お待たせ」
ニルスの待つ寝室に入った。
でも、まだベッドには入らない。
先に・・・。
「まずは・・・ご注文いただいていた旅人の外套でございます。十七歳・・・ちょっと過ぎちゃったけどね」
このために離れてたんだから、今渡すしかないよね。
「わあ・・・」
ニルスの顔がぱっと明るくなった。
そんなに楽しみにしてくれてたんだ・・・嬉しいな。
「これがあの糸・・・触ったことない質感・・・」
「羽織ってみようよ」
ニルスの肩にマントをかけてあげた。
うーん・・・やっぱり似合うな。
「・・・いい感じだ。それにステラが包んでくれてるみたいで・・・なんかドキドキする」
ニルスの顔が赤くなっている。
つまり・・・効果が出てきた。
誘惑の香りは本能に呼びかけるけど、理性が強ければ意味が無い。
だからそれを少しずつ剥がしてあげないとダメだ。
「当たり前だよ。私の想い・・・ちゃんと込めたんだから。恥ずかしがらないでもっとドキドキして」
ニルスの胸を撫でた。
・・・体温が高い。
「なんだろう・・・体が火照ってる感じがする・・・」
「大変・・・熱でもあるのかしら。お試しはこれくらいにして、早くベッドに入りましょ」
「え・・・あ・・・うん」
もう少しね・・・。
◆
二人でベッドに入った。
けど、ニルスは私ではなく壁の方を向いている。
・・・強情ね、覆いかぶさってきてもいいのに。
あ・・・明るいからかな?
「もう暗くしてもいい?」
「うん・・・」
私たちは暗闇に包まれた。
あ・・・雨戸を閉め忘れたかも。
でもいいか。今夜は月明かりが無い、雪が降っているから・・・。
「静かだね・・・」
「誰もいないから・・・」
「私がいるよ」
「二人きりだ・・・」
気配も無く静かに降る雪はよく積もる。
感情も同じだと思う。
現に私は、降り積もった自分の気持ちに埋もれてしまいそうだ。
さて・・・もう素直なニルスになったかな?
「ニルス・・・こっちを向いてほしいな」
「・・・」
ニルスは振り向いたと同時に抱きしめてくれた。
「そう・・・ぎゅーっとして」
「苦しく・・・ない?」
とっても優しい抱擁・・・苦しいわけがない。
「ニルス・・・もっと・・・近付いて」
「もうくっついてる・・・」
「それでも・・・もっと・・・」
「どうしたら・・・いいの?」
吐息交じりの声だ。
ニルスの体は、さっきよりも熱くなっている・・・。
「もっと近付く方法があるの・・・」
「もっと・・・」
「うん・・・知ってる?」
「なんとなく・・・わかる。繋がるってこと・・・」
もう言葉はそんなにいらない。
あとは唇が触れ合えばいいだけだ・・・。
「ステラ・・・」
「大丈夫・・・あなたの思うようにして・・・」
「オレの・・・」
「私も・・・そうするから・・・」
情熱で温度の上がった唇が重なった。
夜はまだ長い。
あなたが私の味を覚えるまで繋がっていよう・・・。




