第百八話 仲良しは【ルージュ】
雪がどんどん降ってくる。
テーゼのと違って、いつまでも止まなそう。
遠い所だと全然違うんだな・・・。
あのお兄ちゃんは今どこにいるのかな・・・。
遠い所に行っちゃったのかな?
それともまだテーゼにいるのかな?
『ルージュ、兄さんを許してね。でも、君の幸せをずっと祈っているよ・・・』
思い出すとなんでかドキドキする。
それに不思議・・・。
この手袋と襟巻きをつけていると、あのお兄ちゃんがそばにいるみたいな気がする。
・・・なんでだろう?
◆
「お母さーん、お使い終わったよー」
「手伝ったんだから早くお駄賃ちょうだい!」
お店の中に、シロと同じくらいのお姉さんと、わたしたちくらいの女の子が飛び込んできた。
急に扉が開いてびっくりした・・・。
セレシュとシリウスも驚いて固まっちゃってる。
「おかえり、バニラとチルちゃんにお客さんよ」
「え・・・あー!シー君だー!!!」
バニラさんがシロをぎゅーっと抱きしめた。
すごいな・・・わたしたちよりもずっと仲良しみたい。
「本当だ!シロだ!」
「チル・・・久しぶりだね」
「あんた何しにきたの?」
「ちょっと用があって・・・」
シロはああされてとっても嬉しそうだ。
そうだよね、ぎゅっとされると嬉しい・・・。
◆
「ふんふん、みんなもシー君のお友達なのね」
シロはわたしたちを一人ずつ紹介してくれた。
「そうだよ。みんな、この子はバニラ、ステラと話してるのがチルだよ。チルは僕と同じで精霊なんだ」
「よろしくね。三人ともチーちゃんとおんなじくらいでかわいいね」
バニラさんはずっとシロと手を繋いでいる。
仲良しのずっと上の仲良しって感じだ。
「あんたが・・・」
「はじめまして」
「・・・頑張ってね」
「うん」
チルとステラさんも挨拶をしていた。
見た目では信じられないけど、チルの方が年上みたい。
「ねえシロ、ニルスは?」
「チル!!!」
突然シロが大声を出した。
怒ってる感じじゃないけど、急にされるとびっくりする。
「チルじゃないよ、ニルスは?」
ニルス・・・さっきフラニーさんも言ってた名前だ。
・・・なんでかわかんないけど、胸がきゅっとなる。
「ちょっと二人とも来て・・・」
「なんなのよ・・・」
「いいから・・・」
シロは慌てて二人を奥に引っ張った。
秘密のお話なのかな?
「ニルスって人は誰なんだろうね。二人は知ってる?」
なんだか気になる。
セレシュとシリウスは、シロからなにか聞いてるのかな?
「私・・・聞いたことない・・・」
「ボクも・・・わ、わかんないや」
シリウスだけなんか変・・・。
「シリウスは本当に知らないの?」
「わ、わかんないよ・・・ステラさんなら知ってるんじゃない?」
本当に知らないのかな?
でも、もし知ってても隠すことはなさそうだし・・・。
「ごめんなさい・・・私もわからないの。チルみたいに仲間の精霊じゃないかしら」
「精霊・・・」
「うん、何人かいるのよ」
ステラさんは本当に知らないみたいだ。
「そうよ、精霊さんの名前。ずっと前にシロと一緒にうちに来たの」
フラニーさんが教えてくれた。
「カッコよかったらまた会いたいんだけど、シロもどこに行ったか知らないみたいなのよ。とりあえず来たら一緒かどうか聞いてるの」
「あ・・・シロから・・・今は少ないけど・・・火山とか、川にも精霊さんはいるって・・・聞いたことある。どこかの・・・精霊さんかも」
「あ、ボクもその話聞いたよ。きっとそうだよ。精霊のお仕事が忙しいんじゃないかな」
なんだそうか・・・。
「・・・ルージュ、ニルスっていう名前に憶えがあるの?」
「ううん・・・知ってる気がしただけ」
「そう・・・わからなくてごめんね」
ステラさんは寂しい顔で謝ってきた。
わたし変なこと気にしちゃったのかな?
◆
「ごめんね、チルはたまにおかしなこと言うんだ」
「・・・む」
シロたちが戻ってきた。
チルはなんでかむすっとしてる。
「シロ、みんなでニルスのことを話してたの」
ステラさんがさっきの名前を出した。
聞いてくれるみたい・・・。
「え・・・」
「精霊の名前だったのね?フラニーさんは会ったことあるって」
「ん・・・そうだよ・・・。今はどこにいるかわからないから、あんまり名前は出したくなかったんだ・・・」
なんだかいつもよりも大人っぽい話し方だ。
こういう時のシロは、いつも寂しそう・・・。
「ごめんなさいシロ、わたしが気にしちゃったから・・・」
謝っておかないといけない。
いっぱいいた精霊の仲間は、どこか遠くに行っちゃったってシロが言ってた。
きっと寂しくなるから名前も思い出さないようにしてたんだ。
「ルージュ・・・あの、大丈夫だよ。僕も変に慌てたから・・・ごめんね」
「そうだよ。ルージュちゃん気にしないで・・・ねえ、今日は一緒に遊ぼうよ」
「チルも一緒に遊ぶ」
ん・・・なんかみんな明るい・・・。
「ステラさんも行きますか?」
「私はフラニーさんとお喋りしてるわ。シロ、夕方までには戻るようにしてね」
「わかった。みんな、キビナを案内してあげる」
もう気にしないようにしよう。
せっかくすごいところに来たんだから楽しくしてないとね。
◆
みんなで外に出ると、降っていた雪はさっきみたいにたくさんじゃなくなっていた。
そのおかげで、少し先の家とか煙突も見えるようになってる。
「今日は・・・山が見えないの?」
少し歩いたところで、セレシュがバニラさんの腕に掴まった。
・・・もう頭に雪が積もってる。
後ろを見たら、歩いてきた足跡にも雪が積もってわからなくなっていた。
シロがいるから大丈夫だけど、みんなとはぐれたら誰も見つけてくれなさそうで怖いな・・・。
「今日はっていうか・・・今の季節は毎日雪なの。花の月くらいからならよく見えるんだけどね」
「そう・・・なんだ。お父さんから・・・高い山って・・・聞いてたから・・・」
セレシュは山を楽しみにしてきたみたい。
でも、これじゃしょうがないな。
「また連れてきてもらおうよ」
わたしはセレシュの背中をさすってあげた。
かわいそうだけど、このお天気じゃね・・・。
「・・・でも・・・シリウスが・・・」
「セレシュ・・・ボクは一緒に来れただけで楽しいよ」
「今日・・・みんなでがよかった・・・」
そっか・・・シリウスがいなくなってからじゃ意味が無いんだ。
そう言われると、わたしも一緒に見たい。
「そしたら雲の上に行けば見れるよ」
チルがセレシュの頭の雪を払った。
雲の上・・・。
「どうやって・・・行くの?」
「チルとシロで運んであげる。バニラもたまにラッシュの所に連れてってあげてるの」
あ・・・そっか、シロとチルは飛べる。
わたしとシリウスもきのう運んでもらった。
「・・・行けるの?」
「うーん・・・でも僕は持てて二人だよ。チルはちっちゃいから一人しか無理でしょ?」
「大きな鍋を持ってたじゃない。この子たちならみんな入るよ」
「あ・・・それなら運べるね」
鍋・・・スープとかシチューを作るやつ?
ほんとにみんな入るのかな?
「私・・・行きたい・・・鍋でもいい・・・」
「じゃあちょっと出してみるね」
「うん・・・」
セレシュの顔が明るくなってる。
わたしもおんなじ顔してるかも・・・。
「鍋は・・・」
シロの鞄はなんでもしまえるすごいものだ。
さっきもたくさんの糸を出してた。
◆
「わあ、これなら本当にボクたちみんな入るよ」
出てきたお鍋は、わたしが五人くらい入りそうなくらい大きかった。
・・・お鍋のお父さんみたいだ。
なんでシロはこんなの持ってるのかな?
「チルの言ったとおりでしょ?」
「うん、チルは頭がいいね。・・・あれ、なんで変な口してるの?」
「ふふ、シリウスくん。チーちゃんは褒められるとこうなるんだよ。じゃあみんなで乗ってみよう。・・・シー君」
「うん、じゃあ一人ずつね」
シロがセレシュを持ち上げてお鍋に入れた。
うーん・・・うちにあるのよりずっとずっと大きい・・・。
「ふっふっふ・・・みんなが中に入ったらチルが火をつけてあげる」
お鍋に入ったら恐いことを言われた。
「え・・・やだよ。わたしたち食べられちゃうの?」
「子どものお肉は、柔らかくておいしいんだよー」
「・・・チーちゃん、恐がらせちゃダメでしょ。みんな、そんなことしないから安心してね」
なんだ嘘か。
・・・たぶんわたしはおいしくないと思う。
◆
「シロ、しっかり持ってね」
「大丈夫だよ」
みんながお鍋に入ると、シロとチルが片方ずつ取っ手を持った。
いよいよ飛ぶのか・・・。
「じゃあ行くよー」
「みんな落ちないようにね」
すぐに足がふわっとした。
あ・・・飛んだ・・・。
「きゃっ・・・」
セレシュがよろけてシリウスに抱きついた。
うん、ちゃんと掴まってたほうがいい。
「大丈夫セレシュ?」
「うん、平気・・・わあ・・・飛んでる」
「なんかわたし、絵本のお話の中に入ったみたい」
雪の中で飛ぶお鍋は、他の人から見たらとっても不思議かもしれない。
でもわたしたちにとっては素敵な空飛ぶお鍋だ。
「ルージュちゃんはわたしが支えててあげるからね」
「あ・・・ありがとう。みんな羨ましがるかな?」
「この雪だから誰にも見られてないと思う」
バニラさんが頭を撫でてくれた。
なんだ・・・他の人には見えてないのか。
「ねえ、シロはなんでこんな大きなお鍋持ってるの?」
シリウスが横に顔を向けた。
わたしも気になってたことだ。
「これはね・・・ミランダのお風呂だよ」
「え・・・ミランダさんはお鍋のお風呂に入るの?」
「うん、気に入ってるよ」
・・・ミランダにも今度聞いてみよ。
「じゃあ雲の上まで行ってみよう」
「うん、もっともっと高いとこに行くよ」
シロとチルが上を向くと、わたしたちはどんどん雲に入っていった。
雲の中って、霧の中とおんなじだったんだ・・・。
ふわふわしてると思ってたけど、お話の中だけなんだな・・・。
「雲を抜けたら眩しくなるから、今のうちに目を閉じておいてね」
バニラさんがわたしたちの目を押さえていった。
雲の上・・・下と違ってお日様が近くにあるのかな?
◆
「みんな、雲を抜けたけどまだ目を開けちゃダメだよ。お日様が眩しいから手で押さえて、ちょーっとずつ開くんだよ」
バニラさんがちょっと恐い声を出した。
・・・これはちゃんと聞いておいた方がよさそうだ。
わたしは目を押さえている手を少しずつ離していった。
目を瞑ってるけど、さっきよりずっと明るい・・・。
ちょっとずつ・・・ちょっとずつ・・・。
「うわあ、すごい。山のてっぺんが見えるよ!」
シリウスの嬉しそうな声が聞こえた。
む・・・もう開けたのか。
「ルージュちゃんもセレシュちゃんも焦らないでね。目が見えなくなったら大変だから・・・」
早く開けたい・・・でも目が見えなくなるのはやだ・・・。
「綺麗・・・私たち、雲の上にいる・・・」
セレシュまで・・・。
わたしもそろそろ大丈夫かな?
「きゃあ、たか―い。山も大きい!」
わたしはシリウスとセレシュに抱きついた。
そうしたくなるくらい胸がドキドキしてて、もっとぎゅっとしてあげたい。
さっきまでは、雲と雪で山があるのかどうかもわからなかったのに、今はそのてっぺんが目の前にある。
周りは青い空がどこまでも続いていて、眺めていると吸い込まれちゃいそうだ。
「ルージュ・・・危ないよ。ほら、セレシュみたいにボクに掴まって」
シリウスが手を握ってくれた。
「あ・・・うん。ありがとう」
楽しいけど、落ちたら死んじゃうんだよね・・・。
「シリウス・・・来てよかった?」
「うん、みんなとずっと見てたい」
「私も・・・」
「わたしもそう思う」
悲しくないのに涙が出てきた。
二人も・・・そうみたいだ。
今みんなで見ているものは、わたしの頭の中にずっと残っていそう。
きっとセレシュとシリウスもそうだよね。
「キビナは、夏でも雪の帽子をかぶってるんだよ」
バニラさんが山のてっぺんを指さした。
「今は帽子じゃなくてマントみたい」
「そうだね、冬の姿って感じかな」
夏と冬で恰好が違うなんてわたしたちみたい。
今日はとってもいい日だと思うけど、いつか・・・夏の姿もみんなで見にきたいな。
◆
わたしたちは、また雲の中に入った。
もう一度雪の世界に戻るのか・・・。
「・・・寒くなってきたね」
「うん・・・上にいる時は忘れてたけど。雪だらけだしね」
セレシュとシリウスが震えている。
そう言われるとわたしも寒い・・・。
せっかくお母さんがいっぱい着せてくれたけど、それでも足りないくらいだ。
「シー君、みんな寒いみたい。おじさんの所に連れてこ」
「そうだね、暖めてもらおう」
「ラッシュはいつもの山小屋にいるよ」
これからラッシュさんって言うおじさんのところに行くみたい。
山小屋か・・・これもお話でしか知らないところだ。
寒いし、なんでもいいから早く行きたい。
◆
山小屋は雪の中にぽつんとあった。
本当に絵本と同じだ・・・。
「おーボウズ、よく来たな。それに・・・小さい子をいっぱい連れてきたのか」
出てきたのは、とっても大きなおじさんだった。
セレシュのお父さんよりも、軍団長さんよりもずっと背が高い。
「おじさん、みんな寒がってるの」
「バニラもいたのか・・・よし、暖まってるから中に入れ」
おじさんはすぐにわたしたちを小屋の中に入れてくれた。
優しい人みたいでよかったな。
◆
「テーゼから来たのか・・・すげーな」
シロがおじさんにわたしたちのことを話してくれた。
テーゼから来るとすごいのかな?
「ボウズ、兄ちゃんと姉ちゃんはいねーのか?」
「え・・・訓練場で鍛えてるよ。戦士になったんだ」
「ああ・・・そういやそうだったな。頑張れよ」
姉ちゃんは・・・ミランダだよね?
兄ちゃんって誰だろ・・・もしかして、おじいちゃんのこと言ってるのかな?
「まあ、あいつらは元気でやってんならいいよ。それより・・・三人ともかわいいじゃねーか」
「おじさん・・・シリウスくんは男の子だよ・・・」
「あ?・・・紛らわしい顔すんな」
「え・・・ごめんなさい・・・」
シリウスの頭に大きな手が乗せられた。
怒られたわけじゃないみたいだ。
「そんな恐がるなよ。俺は子どもには優しいんだ」
「そうだよシリウスくん。おじさんは本当にいい人だから」
「は・・・はい」
シリウスはまだ震えている。
ずっと頭を掴まれてるからだと思うんだけど・・・。
「よし、せっかく来たお前らにうまい昼をご馳走してやる。雲鹿の肉って食ったことあるか?」
「ボクは無いです」
「私もない・・・」
「わたしも・・・」
雲鹿・・・雲みたいな鹿?
「キビナで肉っつったら雲鹿だ。食ったことねーなら用意してやる」
「本当に・・・おいしいの?」
「お嬢ちゃんも気に入るよ」
今度はセレシュの頭に手が置かれた。
あれ・・・わたしもしてほしいな。
◆
ラッシュさんは大きな鉄の板を持ってきて火の上に乗せた。
「こうやって焼くのがうまいんだよ」
そこに大きめに切られたお肉とかお魚、キノコに野菜もどんどん落とされていく。
すごいな。お母さんもお肉を焼いてくれるけど、こんなにごっちゃにはしない・・・。
「わあ、いい匂いがしてきた」
「そうだろ、焼いたのが一番だ」
お肉の焼ける匂いが「早く食べて」って言ってる気がする。
なんだかいっぱいお腹に入りそうだ。
「待っておじさん。前に焦がしたでしょ?焼き加減はわたしが見る」
「うん、ラッシュはいつも焦げたの食べてる」
「焦げがあった方がいいんだよ。男の料理だ」
「やだ、ちゃんとしたのを食べてほしいの。野菜とお肉は分けないとダメでしょ」
バニラさんとチルはこれをよく食べてるみたいだ。
たしかに焦げてない方がいい。
「うるせーな・・・。お嬢ちゃんもそう思うだろ?」
やっとわたしの頭にも手が置かれた。
ふふ・・・これでみんな一緒だ。
「あれ・・・そういやお嬢ちゃんの髪・・・」
「おじさん!火が強すぎるよ!」
「あ?ああ・・・悪いな」
あ・・・もう離れちゃった・・・。
◆
「これくらいね・・・」
お肉の色が変わってきた。
もう・・・いいのかな。
「いや、もう少し焼いた方がいい」
「ダメ、これ以上は焦げちゃう」
「・・・ふふ」
「あはは」
セレシュとシリウスが笑いだした。
「ちょっとカリっとした方がいいだろ」
「おじさんのはガリ・・・でしょ?」
「あはは、おかしい」
キビナはみんないい人ばっかりみたいだ。
ああ・・・ずっと遊んでいたいな。
「はい、まずは雲鹿からどうぞ」
わたしたちのお皿によく焼けたお肉と野菜が乗せられた。
さっそく・・・。
「わあ・・・やわらかーい」
「私・・・このお肉好き」
「本当だ、おいしい」
これ、お母さんのシチューに入れたらもっとおいしそうだな。
帰ったら教えてあげよう。
◆
「さて、腹もいっぱいになったしお前らも暖まったか?」
本当にお腹いっぱい食べさせてもらった。
欲張りかもしれないけど、スープもあったらよかったな・・・。
「ボク・・・まだ、足が寒いです」
「テーゼのガキは寒さに弱いんだな・・・バニラは平気だろ?」
「まだ小さいんだから当たり前だよ。それに南部から来たんだからこっちの寒さは慣れるまで時間がかかるんだよ」
顔はあったかいけど、わたしも足だけが寒い。
凍っちゃったみたいに冷たくなってる。
「そういうもんなのか・・・」
「アカデミーで習ったんだよ。おじさんは行かなかったの?」
「バカ言うな。ちゃんと行ってたよ。お前ら・・・悪かったな」
「あ・・・いえ、ボクたちは気にしてません」
これはもう町に戻った方がいいかも・・・。
「あ・・・そう言えばシー君とチーちゃんは周りを暖かくできるよね?」
バニラさんが不思議そうな顔をした。
たしかにそうなんだけど・・・。
「こういうのが・・・思い出になるって・・・ステラさんに言われた」
「ステラさんに?」
「はい、寒い時、雪が降った時、一緒に今日のことを思い出せるようにって言われました」
「なるほど・・・さすが聖女様ね・・・」
だからわたしもこのままでいいと思っている。
みんなとの思い出はたくさん欲しいもんね。
「よし、そしたらもう一つ思い出を作ってやる。温泉って知ってるか?」
ラッシュさんが知らない言葉を使った。
「おんせん?」
「裏で湧いてる。えーと・・・デカい風呂だよ。バニラも好きだよな?」
「うん、好き」
お風呂・・・入りたい。
「つまり、風呂に入るたびにここに来たことを思い出せるようになる」
「わたしそうしたい、みんなで一緒に入ろうよ」
それにきっと楽しいよね。
「え・・・お風呂って・・・裸になるんでしょ?恥ずかしいよ・・・」
「わたしとは一緒に入ってるじゃん。それに仲良しなんだから関係ないよ」
「そうだぞ、ガキなんだから気にするな」
大きいお風呂にみんなで入れるなんて楽しみだ。
◆
「楽しかったね。ずっと体がぽかぽかだよ」
温泉から出て山小屋に戻ってきた。
外はずっと雪が降っているのに全然寒くならない。
「・・・気持ちよかったね」
「うん。見てセレシュ、足が赤い」
「お前らすぐに着込め、風邪ひくぞ」
なによりも外のお風呂っていうのが気持ちよかった。
・・・うちにもほしい。
「でも、やっぱり裸だと恥ずかしいね。男の子はボクとシロしかいないし・・・」
「なんで?僕は平気だよ」
「シー君は、少しだけ恥ずかしいって気持ちがあった方がいいよ」
シロもシリウスも・・・男の子だったな・・・。
「ねえ、なんでラッシュさんは来なかったの?前は一緒に入ったのに」
ラッシュさんはずっと小屋で待っていた。
シロが言ったとおり、みんなで入ればよかったのに。
「バニラが・・・ダメだと言いやがるんだ・・・」
「当たり前だよ。女の子と一緒に入れるのは子どもの時だけ!」
「え・・・僕は入っちゃダメだったの?」
「シー君は別にいいの。もちろんシリウス君もまだ平気だよ」
バニラさんの声は真面目だ。
でも・・・一緒に入りたかったな。
「それにおじさんの・・・なんか恐いし」
「ノックスにも付いてんだろ」
「おじさんのは・・・なんか違うから・・・」
「できることは同じだ・・・」
なんの話だろ?
「ほらルージュ、早く全部着ないとあったかいの逃げちゃうよ」
「あ・・・うん」
まあいいか・・・。
◆
服を着たあとは、ラッシュさんが使っている色んな道具を見せてもらったり、絵札で遊んだりした。
楽しいけど、外が暗くなってきてる・・・。
「もうすぐ夕方だね。そろそろお店に戻らないと」
ああ・・・早いな。
楽しかったから?
◆
「ラッシュさん、ありがとう」
「あの・・・ごちそうさまでした・・・」
「いいんだよ。俺は子どもが大好きなんだ」
ラッシュさんはまた頭を撫でてくれた。
このまま持ち上げられたら背が伸びそうだな・・・。
「ラッシュさん、ありがとうございました。大人になったらまた来てみたいです」
シリウスは丁寧におじぎをした。
わたしたちのよりしっかりできている気がする。
たぶん、おうちで教えてもらってるんだろうな。
「そうだな、ボウズはまだチビだ。たくさん食ってもっとデカくなったら自分の足で登りに来い」
「はい、大きくなったらみんなで来ます」
シリウスはわたしとセレシュを見て笑った。
大人になったらか・・・わたしはどんなふうになってるのかな?
綺麗な女の人になってるといいんだけど・・・。
◆
フラニーさんのお店に戻ってきた。
「おかえり、みんな楽しかったみたいね」
ステラさんはフラニーさんとずっとお喋りしてたみたい。
そのせいか、ちょっとだけ疲れた顔をしてる。
「ステラさん大丈夫?」
「平気よ。今日はなにもしないで休む予定だから」
「連れてきてもらってありがとう」
「どういたしまして。私・・・あなたの笑顔好きよ」
わたしのほっぺが撫でられた。
・・・ステラさんみたいな大人になれば、あのお兄ちゃんは戻ってきてくれるかな?
「シー君、次はいつ来るの?」
「ええと・・・戦いが終わったらかな」
「わかった。そしたら一番に会いに来てね」
「うん、そうするね」
シロとバニラさんは笑顔で話している。
ずっと遠くに離れちゃうのに、なんで二人とも平気そうなんだろう・・・。
「あ、そうだ。バニラに渡したいものがあるんだ」
シロはポッケから、メピルさんが持たせてくれた水晶の首飾りを出した。
わたしも忘れてたな。
「僕のとおんなじ形なんだ。仲良しな人しか持ってないんだよ」
「光ってる・・・綺麗。・・・もらっていいの?」
「仲良しだからね。ちゃんとまた来るから待っててよ」
「うん、ありがとうシー君」
またぎゅーっとしてる・・・。
恋人ってああいう感じ?
「チルのは?チルは仲良しじゃないの?ルージュもセレシュもシリウスもお話ししたよ?」
「ちゃんとあるよ。チルのはミランダにあげちゃったからね」
シロはチルにも首飾りをつけてあげた。
「だって、チルは・・・いけないもん」
「チルは長い間戦ったよ」
「えらい?」
「うん、とってもえらい」
チルの口が変な形になった。
ずっと戦ってた・・・誰とだろ?
まあ・・・今は遊んでるから、それはもう終わったんだよね。
「じゃあ、シー君頑張ってね」
「うん」
「あの、二人とも離れちゃうのに寂しくないんですか?テーゼは・・・とっても遠いのに・・・」
シリウスがずっと笑顔の二人に話しかけた。
「寂しいよ。でも、また会えるからいいの。いつ来るかなって考えてると楽しいんだよ」
「そうだよ、シリウスもおんなじだと思うけどな」
「そうそう、離れても仲良しは変わらないでしょ?」
「また・・・会える・・・ボクもそうしたいです」
シリウスがとってもいい笑顔でわたしとセレシュを見てくれた。
遠くに行っても仲良しは変わらない。
そうだよね。それならわたしも笑顔でいよう。
シロとバニラさんはどんなに離れても仲良しだ。
きっとわたしたちとシリウスも一緒だよね。
・・・あのお兄ちゃんもそうだったらいいな。




