第百七話 想いを【ステラ】
シロはまだ子どもたちの所から戻ってこない。
説得に時間がかかってるのかな?
できればみんな連れて行きたい。
あの子たちが幸福であれば、ニルスも穏やかな気持ちでいられるだろうしね。
◆
「どのくらい向こうにいるかわからないけど、私がいない夜はミランダかシロに一緒にいてもらってね」
私はニルスに明日からのことを話した。
「きっといいものを作ってくるから、期待して待っててね」
「わかった・・・楽しみにしてるよ」
私が作ってあげたいと思った。
魂の魔法は私も使える。
だからニルスへの愛を込めたい・・・そして渡す時に・・・。
「私が帰ってくるまでに、アリシアに勝っていてくれると嬉しいな」
「どうだろう・・・あの人、日ごとに強くなってる」
「約束してくれないんだ・・・」
「・・・期待に応えられるようにはしよう」
ニルスは曖昧な約束をしてくれた。
私の愛を渡すのは、あなたの氷がすべて溶けてからの方がいい。
戻ってきて、そうなっていることを祈ろう。
「ステラ様、本当に儂無しで問題ありませんか?」
黙って聞いていたヴィクターが顔を上げた。
・・・何日かかるかわからないのに連れて行けない。
「大丈夫よ。私の居場所をジナスは知らないんだから」
「キビナには精霊がいるのでしょう?ステラ様は知られていなくとも来る可能性はあります」
ああそっか・・・チルね。
「魔法封印の結界を使われれば転移も使えなくなります。どうされるおつもりですか・・・」
「それならオーゼの輝石を貸すよ。オレはイナズマのも持っているから」
ニルスが自分の輝石を外した。
「アリシア殿に渡していなかったのか・・・」
「はい、なのでステラの好きなようにさせてあげてください」
そして私の首にかけてくれた。
これは嬉しい・・・。
「まあ輝石もあれば平気でしょ」
ミランダが上着を脱ぎ捨てた。
・・・明日から洗濯とか大丈夫かな?
「ステラ、本当にあいつが来たらチルも助けてあげてね」
「わかった。でも大丈夫だと思うよ」
今日までなにも無いのがその証拠だ。
次の戦場のことで頭がいっぱいなんじゃないかな。
「ニルス、明日からはあたしが一緒に寝てあげるよ」
「それなら儂も共に寝るか・・・」
「え・・・ステラはあたしかシロって言ったじゃん。おじいちゃんに慰められても嬉しくないからだよ」
「・・・」
ヴィクターが私を見てきた。
・・・スープを温めに行こう。
◆
「ニルス、ルージュが手袋と襟巻きを気に入ってたよ」
シロが帰ってきた。
そして、ニルスが喜ぶ話を持ってきたみたい。
「そうか・・・嬉しいな」
「あのお兄ちゃんが近くにいるみたいって言ってた。なんとなく感じたんだろうね」
「・・・」
ニルスは目を閉じた。
魂の魔法が届いたんだね。
「ていうかそれ早めに話しといてほしかったんだけど」
「あ・・・ごめん。もう許してよ・・・」
「やだ。で、どーすんのよー?あんたのお嫁さんになりたいってさー」
「・・・すぐ忘れるよ」
ミランダは、兄妹の再会をルージュから聞いて初めて知ったと言っていた。
そのせいか、たまにニルスをからかっている。
お兄ちゃんのお嫁さんか・・・。
今のルージュからすれば、私は敵になっちゃうのかな?
「知らなかったのは儂とミランダ殿だけじゃな。除け者同士・・・今夜は慰め合うというのはどうじゃろうか?」
「・・・奥さんとイライザさん、どっちに言うのがいいと思う?」
「待て、冗談の通じない娘じゃな・・・」
「そのお肉ひと切れで許してあげるよ」
ああ・・・少しの間だけど、こういうやり取りが見れなくなるのか・・・。
◆
「しっかりしたのを作りたいから、時間はかかるかもしれない。でも、たくさん想っているから・・・」
ニルスと二人でベッドに入った。
今のうちにたくさん唇を貰っておきたい。
「オレもずっと想っているよ。そうだ・・・ニコルさんは、様子を見て紹介するか決めてほしい」
「うん・・・たぶんみんな驚くだろうからそうするよ」
うーん・・・会わせない方がいい気もするわね。
それにあの部屋も子どもには衝撃的だろうし・・・。
「フラニーさんはとてもいい人だよ」
「うん、仲良くなってくるよ。それより・・・今は愛を囁いてほしいな」
「ふふ、ステラ・・・愛しているよ」
「私も愛してるよニルス・・・」
あなたの言葉はとても暖かい・・・。
「戦いが終わったら・・・オレも君に贈り物をしたい。綺麗なのを作ってあげる」
「うーん・・・私はあなたが欲しいな」
「ふふ、なんかかわいいね」
「そういう気持ちがあればいいんだ」
私は物はいらない。
ニルスからの愛を貰えればそれでいい。
ニルスはまだ起きていてくれるかな?
あなたが眠るまでなにを話そう。
毎晩、この時間が幸福だった。
次にあなたの腕に抱かれるのはいつになるか・・・。
◆
夜が明けてニルスたちが家を出たあと、シロが子どもたちを連れてきてくれた。
さて・・・愛はたくさん貰ったから、元気を出していこう。
「じゃあ、みんなで私に触れて。まずは精霊の城に行くわよ」
「はーい」「どこに触れば・・・」「よろしく・・・お願いします・・・」
子どもたちが私を囲んだ。みんなもふもふの服を着てて可愛らしい。
着こむのはキビナに着いてからでもよさそうなのに、家を出る時からこの恰好で来たのね。
「ステラさんは・・・寒くないの?」
セレシュが私の心配をしてくれた。
「私はシロと同じような感じね。でも変に見られないようにちゃんと外套は持ってるから大丈夫よ」
薄着で雪の町を歩くのはさすがに目立つだろうし・・・。
「・・・あら、そのブローチ素敵ね」
ルージュの胸に目を奪われた。
綺麗・・・見た感じ本物の宝石が使われてる。
「うん、死んじゃったお父さんが作ってくれたんだって。お母さんがつけていきなさいって」
「そうなんだ・・・。きっとルージュのことをたくさん想って作ってくれたんだね」
「えへへ・・・」
ケルトさんか・・・。
ニルスと会わなければ、自分に娘がいることも知らなかったのよね・・・。
ニルスはとても愛のある人だと言っていた。
だから、娘の存在を知ってなにか残してあげたくなったんだろうな。
きっと魂の魔法で想いを込めたはず。
この子にとっては大事な宝物の一つ・・・。
「じゃあ出発するね」
五人で北部まで・・・前より一人増えただけ・・・。
うん、大丈夫そうだ。
「繋がり、響き合え・・・さすらう我らを彼の地へ・・・」
子どもたちの前だから恰好つけた。
頭の中で唱えればいいんだけど、こうした方が雰囲気出るもんね・・・。
◆
精霊の城の前に着いた。
「すごーい、これ本当にシロのお城なの?」
「テーゼのお城より・・・綺麗・・・」
「ボクもっと近くで見たい」
子どもたちはその美しさにはしゃいでいる。
幼い時にこんな景色が見られるのは、とても幸福なんだろうな。
「このお城は女神様が僕のために作ってくれたんだよ」
「王様だもんね」
「シロのためだけに作ってくれるなんてすごいな・・・」
「・・・えらい」
「ふふん」
王様はちやほやされて上機嫌ね。
子どもたちも喜んでるし連れてきてよかった。
私も、またニルスと来たいな・・・。
◆
「メピルー、シロだよー」
シロの声が水晶の壁に響き、何度か跳ね返された。
いい音色だ。
「あ、今日はステラと一緒だったんだ。・・・シロ、また人間を連れてきたの?」
メピルが姿を現した。
子どもたちを連れてくるって言ってないのね・・・。
「僕の友達だから大丈夫だよ。みんな、この子は僕の分身のメピル」
「シリウスです・・・」
「る、ルージュです」
「・・・セレシュです」
「・・・」
みんながぺこぺこと挨拶をすると、メピルの顔が少しずつ緩んできた。
まあ、シロと同じだもんね。
「えっと・・・歓迎するわ。みんなにお城の中を見せてあげるね」
「メピル・・・ニコルさんは?」
「シロ、戻ったらなんて言うんだっけ?」
「・・・ただいま、メピル」
・・・前も同じやり取りをしていたわね。
分身と言ってもちゃんと自我を与えているから、寂しいとか嬉しいっていう感情がある。
ニコルさんがいるから紛れはするんだろうけど、たまには大好きなシロが必要な時もあるんだろうな。
「メピルさんは、シロやステラさんみたいに長生きなの?」
ルージュが早速話しかけた。
「そうよ、二百年くらい前だね。シロが寂しくなっちゃったから作られたの」
「寂しくて?」
「うん、シロは甘えんぼさんなの」
「メピル!やめてよ!」
ふふ、みんなから頼られるお兄さんだったのに、メピルには敵わないのね。
「シロが王様だったら・・・メピルさんは・・・女王様?」
セレシュもお話ししたくなったみたいだ。
「へ・・・まあ、たしかに今はシロがいないからここの主は私になるのかな」
メピルもちやほやされるのに弱そうね・・・。
「ねえメピル、糸は?」
「あの部屋の隣よ。・・・あなただけで行ってきなさい」
メピルは子どもたちを見つめた。
わかってるみたいだ。
まあ・・・私も見るのはちょっと嫌だったからそうしてもらおう。
「さあみんな行こうね。そうだ、なにか水晶で作ってあげる」
「メピル、私も一緒に行くわ。シロ、糸をよろしくね」
「わかった。みんな、自由に見てていいからねー」
王様は扉を使わずに壁をすり抜けていった。
あれ・・・私もやりたいな・・・。
◆
私たちは二階の階段へ向かった。
「キンキン鳴るね。セレシュのもシリウスのも音が違う」
「楽器よりもボクの足音の方が綺麗・・・」
子どもたちは響く床を楽しみながら歩いている。
純粋・・・なんでも気になるし、なんでも楽しいって感じだ。
「本当に全部水晶なんですか?」
「そうよ。階段はもっといい音がするの」
前は、上には行かなかったな。
階段は一歩足を付ける度に高く透き通った音が鳴る。
一つずつ音が変わるから、みんなで協力すれば素敵な旋律が生まれそう。
◆
「ここが玉座の間よ。王様・・・本来はシロが座るんだけどね」
だだっ広い部屋の奥に、背もたれの高い椅子がぽつんと置いてあった。
他になにも無いせいか、圧倒的な存在感だ。
玉座と言えば・・・。
「シリウス、座ってみたらどうかしら?」
「え・・・あれはシロのですよ」
たぶん女神は、そこに座るシロがかわいいと思ったから作っただけだと思う。
「大丈夫よ。ね、メピル?」
「うん、座っていいよ。シロは女神様に言われた時しか使ってなかったんだって」
やっぱりそうか・・・。
「シリウスが座ってるとこ見たーい」
「早く・・・行こ・・・」
「え・・・別に僕は・・・わ・・・」
シリウスは女の子二人に押されて玉座に腰を下ろした。
まあ王子だし、けっこう似合ってるような気もする。
「なんかシリウスも王様みたいだね」
「本当だ・・・でもまだ子どもだから・・・王子様?」
子どもの想像力だけど当たってる・・・。
「・・・シロに悪いよ」
「大きいし、わたしたちも座ってみようよ」
「うん・・・」
ルージュとセレシュがシリウスを挟んで座った。
いい・・・もふもふの子どもが三人くっついてるだけでこんなにかわいいのか。
「ねえステラ・・・あのルージュって子、あなたやニルスとなにか関係があるの?」
メピルが私の隣に立った。
「シッ・・・静かに。ニルスの妹よ・・・関係は隠してるからなにも言わないでほしいの」
「・・・ありがとう。危なかったわ」
シロよりも察しがいいわね。
女の子だからかな?
だとしたら・・・ニコルさんと二人きりって大丈夫だったのかしら・・・。
「ニコルさんとは仲良くしてるの?」
「まあ・・・仲良くはしてるかな。お風呂も一緒に入ってあげてるし」
「え・・・そうなんだ」
待てよ・・・精霊だから別に気にしてないのか。
そういえば、シロはミランダにお風呂に連れてかれることもある。
裸にさせられても平気そうだったから、羞恥心とかは無いのね。
「それとね、お喋りしてて思ったけど、かなり頭がいいと思う。・・・変な人ではあるけど」
「研究者はそういう人が多いのよ」
「まあ・・・退屈しなくて済むから助かってる」
メピルはかわいい顔で微笑んだ。
この城で一人ぼっち・・・シロが旅立ってからは本当に寂しかったんだろうな。
◆
「じゃあみんなに水晶で何か作ってあげる」
私たちは工作室みたいな部屋に案内された。
メピルがおみやげを作ってくれるらしい。
お城の見学は終わったけど、シロはまだ戻ってこない。
なにか話し込んでいるのか、それとも捕まって無理矢理話を聞かされているのか・・・。
「みんなで・・・同じのがいい・・・」
「うん、そうしようよ」
「どんなのにしましょうね」
メピルが台の上に大きな水晶の塊を置いた。
太陽蜘蛛に食べさせてるやつじゃ・・・。
「シロのと同じ首飾りは?」
「あ、それがいい。ね、セレシュ」
「・・・うん」
みんなの意見は一緒みたいだ。
そっか、友達同士で同じのを持っていたいよね。
「ただ丸いだけだよ?色んな形にできるけど・・・」
「大丈夫、同じ形のを持ちたいの」
「ふーん・・・仲良しなのね」
「うん」
この子たちにはしっかりとした絆がある。
それは何年経っても変わらないはずだ。
◆
「みんなお待たせー」
やっと王様が戻ってきた。
けっこうお喋りしてたって感じね。
「見てシロ、みんなでおんなじの作ってもらったんだ」
「え・・・あ、僕の輝石と一緒だ」
「一緒にいない時もこれを見ればみんなを思い出せるね」
「仲良しの・・・しるし・・・」
「うん、ボクたちはずっと友達ね・・・」
シリウスは寂しそうに笑っていた。
自由に会いに来れるようになるまで何年くらいなのか。
アカデミーもあるからあと八年くらいかな?
まあ、ずっとあれを付けていれば何があっても忘れないよね。
「じゃあ、光も入れてあげる」
シロがシリウスの水晶に触れた。
「あ・・・おんなじになった」
「みんな一緒の方がいいもんね」
水晶に光の魔法が込められた。
たしかにその方がいい。
「これで千年くらいは光り続ける」
「千年・・・シロがいれば灯り屋さんのお仕事無くなっちゃうね」
「え!!・・・みんなのだけにする」
魔法を使うお仕事を精霊がやればかなり稼げるんだろうな。
人間の何百倍もあるし・・・。
「いい?僕たちだけの秘密だからね」
シロはルージュとセレシュの水晶も薄く光るようにしてあげた。
これで本当に何があっても忘れない。
◆
「シロ、糸を見せて」
子どもたちが静かになった所で声をかけた。
どのくらい強いのか知りたい。
ニルスが持っていたのは私の炎で少し焦げ付いたのよね。
同じ感じだったら困る・・・。
「はい、ちょっとぐちゃぐちゃだけど・・・」
シロは鞄から無造作に絡まった塊を取り出した。
・・・もう少し綺麗に纏めてほしかったわね。
「これだけじゃないよね?」
「うん、もっといっぱいあるよ。全部出すと僕三人分くらいかな」
織って生地にして・・・余るかも。
「じゃあ、お城の外に出ましょう」
「もしかして・・・試すの?」
「当たり前じゃない」
ふふふ・・・けっこう楽しみだ。
◆
「みんなちょっと離れててね」
門の前まで出てきた。
まずは前と同じくらいの力で・・・。
「火遊びはダメってお母さん言ってたよ」
「大人がいるからいいんじゃない?」
「・・・危ない」
子どもたちは炎を出しただけで喜んでくれた。
全力・・・見せたいな。
「・・・焦げてない。大丈夫みたいだね」
「何言ってるのシロ、ドラゴンの炎を防げないと意味がないわ」
たしかに前よりも強いけど、まだわからない。
「というわけで・・・シロ、メピル、みんなに結界を張って。・・・全力で守ってね」
「待って・・・みんなもうちょっと離れよ」
シロが子どもたちを下がらせた。
いい判断ね。
「始まりの灯・・・集いて、焼き尽くせ・・・」
全力で炎を放った。
普通の糸なら触れる前に灰になって消える。
・・・もう少ししたら、消して見てみるか。
◆
「残ってる・・・本当に強い・・・」
太陽蜘蛛の糸は、何事もなかったかのように私の炎を耐え抜いた。
こんなものがあったのか・・・。
「ステラさんは・・・やっぱり聖女様なんですね・・・」
「・・・暑い」
「ここだけ夏みたい。・・・見て、わたし汗かいちゃった」
子どもたちはもふもふを脱ぎだした。
キビナに着いてからやればよかったな・・・。
「あとは・・・この糸、鋏が通らないと思うの。どうすればいいかな?」
生地にするのはいい。
針は通るだろうけど、切れなければダメだ。
「水晶を食べて作ってるから同じだと思う。・・・メピル、作ってみて」
「うん。・・・はい」
メピルが水晶の鋏を作ってくれた。
なるほど、この糸は蜘蛛の体内で水晶を加工して作られるって感じなのね。
「試してみるね。・・・うん、これなら通る」
「メピルの特別性だからね。でも幾重にも織ったら無理だと思う」
「わかったわ、完成してからの調節は無理ってことね」
「そういうこと」
たぶん大丈夫だ。
重ねる前に合わせればいいだけ。
「じゃあメピル、僕たちもう行くね」
糸は手に入った。
次はキビナだ。
「あ・・・待って。バニラとチルもいるんでしょ?みんなと同じのを作ったから渡してあげなさい」
メピルの首にも友達のしるしが下げられていた。
ふふ、仲良しになったもんね。
「わかった」
「ちゃんと光らせてあげるのよ?」
「うん」
チルは精霊、女神から貰った記憶にある。
バニラは・・・シロのお気に入りだったかしら?
◆
シロから場所を教えてもらってキビナに着いた。
真っ白・・・。
転移してすぐ目に映ったのは、すぐ先も見えないほどに降る雪だった。
雪か・・・景色は記憶にあるけど、実際に見るのは全然違う。
みんなと旅をしたらこんな風景を見て回るのか・・・。
幻想的でいい気持ちだ。
「さむーい、雪がいっぱい降ってる。あはは、みんなーどこー」
「ルージュ、一人で動き回らないで。迷子になったらアリシアに叱られちゃうよ」
「転んでもいたくなーい」
ルージュもこんなに降る雪は初めてみたいだ。
あちこちを眺めたり、積もった雪を触ってみたりとはしゃいでいる。
「セレシュ、離れないように手を繋いでおこうね」
「・・・あ、うん」
こっちの二人はいい感じだ。
・・・連れてきてよかった。
◆
「まったく・・・ダメって言ったでしょ」
「だって・・・テーゼだとこんなに積もんないんだもん」
「埋まっちゃうとこだったんだよ」
シロがルージュを抱えて戻ってきた。
どこまで行ってたんだろ・・・。
「ルージュ・・・もう寒いよ・・・」
「あ、ごめんねセレシュ」
セレシュはぴったりとシリウスにくっついて待っていた。
寒くてよかったっても思ってそう。
「みんなの周りだけ暖かくしようか?」
シロが味気ないことを言い出した。
それはやめた方がいいと思う。
「寒いままでいた方がいいよ」
「えー・・・あったかいのダメなの?」
「こういうのが思い出になるの。冬が来て寒いなって思った時、たくさん降る雪を見た時、みんなでここに来たことが頭に浮かぶようになるのよ」
だからこのままの方がいいと思う。
まあ・・・さすがに危なかったら別だけどね。
「・・・その方がいい」
「うん、そうしよう」
「ボクも寒いままでいい」
子どもたちはわかってくれたみたい。
きっといつまでも消えない思い出になるはずだ。
「じゃあこのままにするね」
「うん、でも・・・早くお店に行こう・・・」
「お店はここだよ。中では静かにしないとダメだからね」
雪で見えなかったけど、フラニーさんのお店は目の前だったのか・・・。
◆
扉を開けると鈴の音が響いた。
いくつも付いてて騒がしいくらいだけど、外が吹雪いていても聞こえるようにしてるのね。
「いらっしゃいませー」
奥から女の人が出てきた。
緩くて、退屈そうで、でもなんだか色っぽい人だ。
この人がフラニーさん?
「また来たよ」
「え・・・シロちゃんじゃない!」
フラニーさんは、シロを見ると駆け寄ってきた。
退屈な顔が一気に変わったわね。
「久しぶりねー。あら・・・今日はたくさん連れてきたのね。ミランダとニルスは?」
「わー!!!」
シロが叫び出した。
・・・誤魔化すつもりかもしれないけど、そのやり方は余計注目を集めるからやめた方がいい。
「な、なに・・・どうしたの?」
「きょ、今日はお仕事を頼みに来たんだ。ステラ、早く話そう」
そんなに焦ると余計変だよ・・・。
「すみません、子どもたちにお店の中を見せてもいいでしょうか?」
「え、ええ・・・あ・・・髪の毛・・・」
「・・・みんな、ちょっとだけ中を見て待ってて。先にお仕事の話をしたいの」
「はーい」「見させていただきます」
子どもたちは売り場の方に行ってくれた。
「見たことないのがいっぱいある。あれなんだろうね」
「見せて・・・もらおうよ・・・」
「なんかかっこいい」
子どもたちは大丈夫そうだ。
初めて見るものばかりだから、しばらくはそっちに興味が向いているはず。
・・・今の内に事情を話してしまうか。
◆
「聖女様・・・なんか信じられないわね・・・」
「本当ですよ。でも、ニルスたちと同じように接してほしいです」
「あなたがそれでいいなら・・・。ニルスの家族事情は、前にシロちゃんから少し聞いてたの。だから協力するわ」
自分のこと、ルージュのことは私から説明した。
「次で戦場が終わるかもって、新聞に大きく載ってたけど・・・関わってたのね」
「そうですね。そちらにも協力していただきたいのです」
「・・・戦場に?」
そして、ここからが本題だ。
◆
「これで・・・」
「はい、できますか?」
今回の目的を話すと、早速糸を見せてほしいと言われた。
なんだか手繰る指がいやらしい・・・。
「やんちゃな糸・・・織るのは大変そうね・・・でも、できるわ」
「あの・・・実は私が作りたいんです。魂の魔法も使えます。想いを込めて・・・教えてください」
「ふふふ、任せてちょうだい。・・・恋してるのね?」
「はい、大切な人です」
気持ちは自信を持って言える。
そのくらいニルスを愛している。
「よかったねステラ」
「ありがとうシロ。まだ明るいから、子どもたちと遊んできてもいいわよ」
シロたちが遊びたいなら夕方まで待っていてあげるつもりだ。
「そうしようかな。フラニー、バニラは?」
「チルちゃんと一緒にお使いに行ったわ。たぶんそろそろ来るから待ってて」
お使い?ここの子どもってこんな大雪でも平気なのね・・・。
「あの・・・作るのは明日からでもいいでしょうか?」
私はフラニーさんとお話をして待っていよう。
「私はすぐにでもかまわないけど」
「今日は・・・あの子たちを送ったら休もうと思っています。少し・・・疲れたので」
「あなたに任せるわ」
子どもたちをテーゼに帰して、すぐに休めば問題ない・・・。
「それと、宿はまだ取ってないんでしょ?うちに泊まってもいいわよ」
「え・・・」
「聖女様と一緒・・・きっと楽しいと思う。あ・・・でも、うちの人に手を出しちゃダメよ」
「・・・出しませんよ。でも・・・嬉しいです」
旦那さんって、誘われたら受けちゃう人なのかな?
違うんなら、失礼だから人には言わない方がいいと思う・・・。
「でも・・・興奮までならさせていいわ。そのあとは私がやるから」
フラニーさんが艶めかしく唇を触った。
もしかして・・・。
「・・・最近無いんですか?」
「疲れてるとか言うのよ・・・」
なるほど・・・なら・・・。
「試作品ですが、旦那さんがその気になるものを持ってきています。ちょっと使ってみてください」
「え・・・聖女の媚薬ってやつ?」
「まあ・・・そういうのですね」
申し訳ないけど、旦那さんには実験台になってもらうことにしよう。
奥さんを放っておいてるのが悪いもんね。
◆
「みんな、もうすぐ僕の友達のバニラと精霊のチルって子が来るんだ。そしたら紹介するから一緒に遊びに行こうね」
シロの楽しそうな声が聞こえた。
たぶん、バニラって子と会えるのが嬉しいんだろうな。
「・・・ちゃんと手袋と襟巻きを渡せたみたいでよかったわ」
フラニーさんはルージュを見つめた。
仕上げ以外はこの人が作ってくれたって言ってたっけ。
「でもニルスは、つけているところをまだ見れていないんです」
本当は自分で渡して、兄だと伝えるのが良かったんだけどね。
「・・・お母さんとはまだギクシャクしてるの?」
「そうですね。でも少しずつ近付いています」
「うまくいきそうなのね?」
「ニルスは強いですから」
私はそうなると信じてここに来た。
・・・信じてるのはニルスだけなんだけどね。
ニルス・・・寂しい夜もあると思うけど、それは私も同じだよ。
そしてその気持ちは、誤魔化したりしないで残しておいてね。
また会えた夜に・・・全部教えてほしいから・・・。




