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Our Story  作者: NeRix
水の章 第三部
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第百一話 助言【ステラ】

 みんなはニルスとアリシアを和解させるために動いている。

ニルスの不安の元、それが解決すればすべて丸く収まるんだから当然のこと・・・。


 ただ・・・アリシアに嫌悪感のある私としては、気に入らない解決方法だ。自分で関係を壊していったくせに・・・そんなの通したくない。


 だけど・・・ニルスも和解を望んでいる。

母親の愛・・・たしかにそっちも必要だとは思うけど、できるなら私の愛でニルスを救ってあげたい・・・。



 ニルスとミランダが暗い顔で帰ってきた。

なにかあったのかな・・・。


 「アリシアと戦ったんだ・・・負けはしなかったけど、勝てもしなかった・・・」

ニルスは私の顔を見なかった。

・・・落ち込んでるわね。


 「せっかくチルと修行したのに・・・まだまだ使いこなせてない・・・」

ミランダもいつもの明るさが無い。

かなり効いたのね・・・。


 『ヴィクター、そろそろあなたも訓練場でみんなに教えてあげなさい』

『承知しました。雷神の力量を見たいと思っていましたので』

私がヴィクターを行かせたせいなのかな?

 ・・・どうであっても今の二人は放っておけない。

私が慰めなければ・・・。



 「ほら二人とも、明日も頑張れるようにしっかり食べて」

まずはお腹を満たしてもらうことにした。

食べれば気力もある程度回復するはずだ。


 「・・・」

「・・・」

食卓が暗い・・・静かすぎる。

・・・何か話そう。


 「えっと・・・シロとヴィクターはどうしたの?」

「・・・」

「二人は酒場に行くってさ・・・」

ミランダは答えてくれた。

まずはこっちからかな。

 「ミランダの守護は強いよ。ちゃんと鍛えられてる。だから胎動の剣以外は弾けるでしょ」

「そうなんだけどさ・・・」

「守るためにあるならそれでいいと思うよ」

ヴィクターも戦いの中での使い方なんか教える必要は無かったのに・・・。

シロは一人で問題ないから、自分とニルスだけを守れれば充分なのよね。


 「たぶん・・・あたしが嫌なんだろうね。・・・みんな必死だから、目に見える人の役には立ちたいって思うんだ」

そう思うのはいいことだけど、ミランダは死守隊だ。前線に出るわけじゃない。

・・・でもこの感じなら寝て起きたら元気になってるな。

 「まあ、今よりも使いこなせるようになるのは悪いことじゃないわ。それにまだ時間はあるし、ミランダならできるよ」

「・・・うん、ありがと。明日も頑張る」

ミランダは少しだけ笑ってくれた。

 こっちはただ吐き出したかっただけみたい。

だからすぐに気持ちの切り替えができる。


 次は・・・。


 「ニルス、あなたは負けたわけじゃないんでしょ?スープが冷めるわ」

「ヴィクターさんに余裕が無いみたいに言われた。・・・その通りなんだ。ほぼ毎日顔を合わせてるのに、うまく話せもしない。シロも心配してくれてるのに・・・」

ニルスは目を細めた。

これは今夜うなされるわね・・・。

 アリシアは何をしてるの?

ひと月も経ってるのに、すべての動きが遅すぎる・・・。


 「ていうかニルスって、旅に出る前にアリシア様と全力でやって勝ってんでしょ?」

ミランダはもう大丈夫って感じだ。

お腹も減ってきたみたいで、ニルスが手を付けていないパンをじっと見ている。

 「・・・あげるよミランダ。なんで勝てたか・・・よくわからないんだ。あの時は・・・誰にも負けない気がした」

「元気出しなよ。体洗ってあげるから明日もがんばろ」

「・・・うん」

ニルスはゆっくりとスープを飲んでくれた。

 ただ、食欲は全然だ。

あとは安らぎの魔法しかないか・・・。



 「ニルス、大丈夫よ。私がそばにいるから・・・なにも心配しないで」

二人でベッドに入った。

なにも不安が無ければ、私を求めてくれるんだろうな・・・。


 「まだ、アリシアのことを信用できないんだと思う。・・・普通に話そうとしても力が入るんだ」

「あなたは焦らなくていいのよ。ずっと抱きしめていてあげるから安心して眠って・・・」

唇を重ねた。

これだけで不安を飛ばせてあげられたらな・・・。



 「・・・待って・・・すぐに行くから・・・」

ニルスはやっぱりうなされた。

 「・・・母さん・・・消えないで・・・」

まだ夢の中のアリシアは動かないのね・・・。

 「約束・・・」

頭にくる・・・。


 ニルスは私を愛してくれている。

私もニルスを愛している。

 それでもまだ足りない。

・・・悔しくてしょうがないけど、アリシアの存在の方が大きいんだろう。


 母親のことを忘れて、私だけを見てくれれば・・・。

そう思って動いてきたけど・・・無理そうだ。

 だから許せない・・・。

私がとても長い時間をかけなければできないこと、アリシアは簡単にできるはずなのに・・・。


 「ステラ・・・」

ニルスが目を覚ました。

 「ありがとう・・・また助けに来てくれたね・・・」

「うん、ずっとこうしてるって言ったでしょ?」

「・・・わかっているんだけど。どうしても不安が消えない・・・」

ニルス・・・。


 「ジナス・・・勝てるのかな・・・」

・・・わかったわよ。

それが一番いいんでしょ・・・。

ニルスのために・・・。


 「ねえニルス、私も・・・アリシアやルージュと話してきていい?」

「・・・オレに確認することじゃない」

私を抱く腕に力が入った。

 「大丈夫よ、私はあなたの味方、離れたり・・・しないよ」

「ありがとうステラ・・・」

胸が焦げる・・・体が熱い。

でもまだ・・・あなたは冷えている。


 「ルージュはお喋りだから、たくさん話してあげてほしい」

「うん、そうするよ。・・・早くケープが必要なくなるといいね」

毎日髪の毛を隠して出て行かなくてもいいようにもしてあげたい。


 ルージュ・・・ニルスの大切な妹だから、私も仲良くなりたいっては思ってた。

アリシアには嫌われてもいいけど、ルージュには気に入ってもらいたいな。



 「ミランダ、そろそろ出るよ」

「よーし、今日もやるぞー」

「儂も一緒に出よう」

「僕もそうする。ルージュたちと朝から待ち合わせなんだ」

朝になって、ニルスは少しだけ元気を取り戻してくれた。

帰ってきた時にこの状態だといいんだけど・・・。


 「じゃあステラ、行ってくるね」

「うん、頑張ってきて」

「ちょっとちょっと、言葉だけじゃなくってさ。ぎゅっとしてちゅっとしてもやってよ」

「・・・ミランダがいない時にね」

ミランダがずっと元気なら大丈夫かな。



 洗濯を終わらせてひと息ついた。

はあ・・・アリシアと話すのはいつにしようかな。


 たぶん昼間は訓練場にいるのよね。

ニルスが近くにいる時は避けたいし・・・シロに頼んで来てもらうようにしよう。・・・明日か。

 なら今日は調香をしよう。

その日のために、誘惑の香りを完成させないといけないしね。


 「・・・ちょっとだけだからね」

「おっきい家だね。それになんかあったかい」

「お花がたくさんあるよ。綺麗」

立ち上がった時、外から子どもたちの声が聞こえてきた。

シロとシリウスと・・・あと女の子だ。


 「ミランダとおじいちゃんはいないの?」

「あのね・・・僕もだけど、みんな戦士なんだよ」

「シロは遊んでるよ」

「今日はお昼過ぎに行くの」

なるほど・・・ルージュを連れてきてるのね。

・・・調香はあとにするか。



 「あらシロ、お友達を連れてきたの?」

私は研究室を出て、声の聞こえた庭に出た。

 四人・・・女の子の一人はセレシュって子かな?

ルージュは髪の毛ですぐにわかる。


 「あ・・・こんにちはステラさん」

「よく来たわねシリウス。ふふ、かわいい子たちも連れて」

「・・・」「・・・」

女の子二人がペコッと頭を下げた。

・・・本当にかわいい。

 「お邪魔でしたか?」

「大丈夫よ。おうちのことが終わったところだったの。ふふ、みんな仲良しなのね」

「あ・・・まあそうです」

「・・・」

セレシュって子は、ずっとシリウスにくっついている。

将来を考えるといい選択・・・子ども相手に品のないことを考えるのはやめよう。


 『ごめんステラ、うちが見たいって言われて断れなかったんだ』

突然、シロの声が頭の中で響いた。

・・・呼びかけ?

 ああそうか・・・精霊じゃないけど、女神と繋がりのある私とはできるのね。

こっちからもできたら便利なんだけど・・・。


 『平気よ、私もルージュと話したいと思ってたの』

『よかった・・・』

でもせがまれて連れてくるなんて・・・本当に女の子に弱いのね。

 『どうせなら来る前に呼びかけなさい』

『ごめん、できるの忘れてた』

・・・そう。

まあいい、気を取り直して・・・。


 「そっちのお嬢さんたちは初めて見る顔ね。シロ、紹介してちょうだい」

「あ、そうだね。この人はステラ、僕たちの仲間なんだ。ステラ、ルージュとセレシュだよ」

「・・・」

「・・・」

二人とも私の髪の毛をずっと見てる。

・・・そりゃそうよね。

 「どうしたのかな?私の頭になにかある?」

「ルージュと・・・同じ髪の毛・・・」

「ああ・・・たしかにそうね」

うーん、なんて説明しようかな。

まあ、堂々としてればいいか。


 「アリシアも同じ色だったわね」

私はルージュに顔を近付けた。

 「お母さんのこと・・・知ってるの?」

「知ってるよ。髪の毛似てるねって話したの」

「・・・」

シロが心配そうに見てる。

大丈夫、余計なことは言わないわ。

 「でも似てるだけ、そんなに気にしないで」

「うん・・・」

ルージュはなにか聞きたそうだけど、話せるのはこれくらいかな。


 「ステラさんは聖女様なんだよ」

シリウスが話題を変えてくれた。

 この子は事情を知ってるから気を遣ってくれたんだろうけど、聖女ってことは言わないでほしかったな・・・。

 「せいじょさま?」

「どうして・・・ここにいるの?」

バレちゃったら仕方ない・・・。


 「私も次の戦場に出るの。戦士さんたちが思う存分戦えるようにしてあげるのよ」

「次で最後って・・・お父さんが言ってた」

「そう、だから私も出てきたの」

ていうか新聞でも発表されてるからいいか・・・。

ここにいるってことだけ秘密にしてもらえればいいし、それはシロがやってくれる。


 「セレシュのおうちの絵本で見たことある。ずーっと生きてるって本当?」

ルージュが目を合わせてくれた。

私・・・絵本になってるのか。

 「本当よ。これでも三百年以上生きてるの」

「聖女様って・・・なにをした人なの?」

「人間に魔法を教えたのよ」

「魔法・・・すごい」

子どもたちの前で、女神に命じられたから・・・とは言えないわね。


 「絵本だと・・・かっこいい騎士と結婚してた・・・」

セレシュはちょっとだけほっぺを染めていた。

 「あはは・・・その絵本は間違ってるわね。私は・・・誰とも結婚してないもの」

好き勝手してくれてるわね・・・。


 「じゃあ騎士はいないの?わたし会ってみたいな」

「ルージュ、きのうお話ししたおじいちゃんいたでしょ?」

「うん、今度遊んでくれるって言ってた」

「実はね・・・」

シロは少女の夢を壊す気らしい・・・。

それはダメだ。

 「シロ、待ちな・・・」

「あのおじいちゃんが騎士だよ」

「え・・・」

間に合わなかった・・・。

 「そうなんだ・・・でも、おじいちゃんなのに強いってかっこいいかも」

「本当に強いよ。軍団長さんも勝てなかったみたいだし」

「えー!あんなに大きいのに・・・」

でも傷付いてないみたいでよかった。

もう話を変えよう・・・。


 「ねえみんな、せっかく来てくれたから渡したいものがあるの。中に入りましょ」

「え・・・入っていいの?」

「うん、どうぞ」

聖女の話はまた今度、まずは仲良くならなきゃね。

 子どもは好きだ。

みんな綺麗な目をしている。



 子どもたちを食堂に入れてあげた。

ここの大きいテーブルがいい。


 「私ね、自分で石鹸を作ってるの。北部にあるお店でも売ってるのよ。色々あるから好きな香りをあげる」

テーブルにスナフから持ってきた石鹸を全部並べた。

決まったらかわいいので包んであげよう。


 「わあ、全部いい匂い。・・・本当にいいの?」

「私もあなたたちと仲良くなりたいの」

「仲良く・・・ありがとう」

ルージュはかわいく笑ってくれた。

 ぎゅっとしたいな・・・。

ニルスが大切に想っているのもわかる。


 『・・・中にまで入れて大丈夫?』

シロがまた呼びかけてきた。

 『ニルスのものは全部寝室にある。ここは大丈夫よ』

『じゃあ・・・任せるからね?』

『ええ、安心なさい』

シロも心配性ね。

大丈夫だから入れたの。



 「ステラさん、ボクはこの香りがいいです」

一番最初に決まったのはシリウスだった。


 「えーとその香りは・・・夏の風ね。セレシュは決まった?」

「まだ・・・です」

この子もいいのよね。消えかけの街明かりみたいな切ない雰囲気がたまらない・・・。

シリウスのこと好きみたいだし、もっと近付けてあげたいな。

 「それならシリウスの選んだこれはセレシュにあげる」

「え・・・どうして?」

セレシュは不思議そうな顔をした。

ふふふ・・・。


 「シリウスの好きな香りと同じになれるわ」

耳元で教えてあげた。

 「あ・・・」

あっという間にセレシュの顔が赤くなった。

どういうことかわかってくれたみたいだ。


 「ごめんねシリウス、セレシュはこの香りがいいんだって」

「いえ・・・それならボクは他のを選びます」

ふふ、それじゃダメだ。

 「セレシュ、シリウスのを取っちゃったから彼のはあなたが選んであげて」

「・・・はい」

相手が自分の好きな香りになる・・・こういう手助けはどんどんしてあげたい。

シリウスは明の月には遠くに行ってしまうけど、記憶にはずっと残ってくれるはずだ。



 「これがいい・・・」

セレシュもお気に入りを見つけた。

これは・・・。

 「いいのを選んだわね。それは未来の音って名前よ」

「香りなのに・・・音?」

「・・・その時に感じた名前を付けただけだから」

二人は決まった。

香りを確かめたくて、もっと近づくようになるかもね。


 「ルージュは決まった?」

「うん、迷ったけど・・・これがいい」

ルージュは一つを手に取った。

ええとこれは・・・幸福な季節だったかな?

 「ちょっと大人っぽい香りね」

「本当?もっとお姉さんになれる?」

「なれるよ。それは恋を呼ぶ香り、素敵な人と巡り逢えるかもね」

「えへへ・・・」

まだよくわかってなさそう。

・・・アリシアの生娘顔は好きじゃないけど、ルージュのはかわいいから許せる。



 「ねえステラさん、わたしたちとおんなじ髪の人っていっぱいいるの?」

石鹸を包んであげていると、またルージュが聞いてきた。

たぶんニルスのことよね・・・。


 「んー、どうかな。いっぱいではないけど、割といるんじゃないかしら」

「・・・男の人では見たことある?」

「うん、何人か見たことあるよ」

「・・・ありがとう」

ルージュは寂しそうに俯いた。

 会いたいのね・・・たぶん心が呼んでいるんだ。

アリシアのせいでこうなってる・・・仕方のない妹・・・。


 「まだ時間はあるでしょ?座ってお菓子でも食べましょうか」

本当はお昼も用意してあげたいけど、シロがいなくなっちゃうからな。

私が送ってあげてもいいけど、ルージュとセレシュの家は行ったことないからわからないのよね・・・。


 

 「みんな、そろそろ帰るよ」

シロが椅子から下りた。

訓練場に行く時間が近付いてきたみたいだ。

 「残念だけど、またみんなで来てね。普段私はここにいるから」

昼間ならニルスもいないし、たぶん大丈夫。


 「あの・・・そしたら私・・・石鹸作ってみたい・・・」

セレシュが顔を赤くして呟いた。

あ・・・そっか、もっと仲良くなれそうだ。

 「あ・・・ボクもやってみたいです」

「わたしも!」

シリウスとルージュも興味あるみたい。


 「いいよ、教えてあげる。それなら・・・シロが一日中遊べる日に一緒に来て」

「あ・・・ありがとう」

「ありがとうステラさん」

「ありがとうございます」

なんか楽しみだな。直接誰かに教えたことなかったし、子どもたちとも触れ合える。

 「じゃあ予定はまたあとで決めようね。・・・急ごう、遅刻するとミランダに叱られるんだ・・・」

「裁判?」

「それはないと思うけど・・・怒られたくないから」

シロは大変ね・・・。

あ・・・せっかくいるんだから頼まなければ・・・。


 「シロ、待ちなさい」

「え、なにステラ。早く行かないと・・・」

シロだけが戻ってきてくれた。

すぐに終わる話だ。

 「アリシアに、明日ここに来るように伝えて」

「・・・」

シロの顔が引きつった。

焦りも消えたみたい。


 「ケンカ・・・しないよね?」

「助言するだけよ。ああでも・・・叱りつけはするかもね」

「・・・僕も一緒に聞く」

「構わないわ。じゃあ、子どもたちをよろしくね」

シロの心配するようなことにはならない。

私とアリシアが争っても、ニルスの不安が消えるわけじゃないしね。


 ・・・気に入らない、本当に気に入らないけど・・・これでいい。

時間があれば私だけでニルスの不安を消してあげることはできる。

 でも殖の月まで・・・今回はその時間が無い・・・。

母親との和解・・・どうしても避けては通れないみたいだ。

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