第67話 エルフの布は凄いものになりそうだ
一泊の宿を提供してくれた村長さんによると、ここから東に2日歩いたところに一つ。ここから西に5日歩いたところに一つ人の住む街があるという。
西の街はさらに西へ三日歩くと海に東の街はそこから北へ馬車で三日行くと、この国でも二番目に大きな街にたどり着けるという。人がいる時点でダンジョン外だという確信はあったけど、かなり大きな街に海の存在から異世界の可能性は高い。
問題は、次の纏まった休暇が11月の三連休でさらに長期の休暇としては冬休みまでないということかな?
出来れば街には一番乗りといきたいところだ。
「ということで、これがそのときの収穫です」
レジャーシートにインップ村で買い取った品々と貨幣を並べ、ダンジョンドローンの記録映像をモニターを流す。
「おぉエルフ!」
画像を見ていたJ隊の隊員さんたちがざわめく。
「金の含有量が判らないから日本での価値は判らないけど・・・すぐに鋳つぶすのはなしだな」
田中さんは金貨を弄りながらつぶやく。まぁ鋳つぶすのは金の含有量次第だよね。
「で、これは魔石か・・・」
貨幣の近くに置かれた魔石を眺める。大きさは大人の親指の二本分ぐらい。地球ではオーガクラスで、買い取り価格で約三千円ぐらいの魔石だ。
「この魔石が何から取れるかでこの世界の価値が解りますね」
オーガ以下なら魔石の確保がそれだけ楽になる。
ちなみに魔石の活用方法だけど、魔石は錬金術師の作成するとある水溶液と混ぜると膨大な気体へと気化する。このとき発生する気体でファンを回して発電するのだ。気化した魔石は冷えると1ランク劣化した魔石となり、最終的には砂に還る。家康・秀吉・信長コインも性質は同じだが、コインは魔石よりかなりエネルギー効率がよく、そのまま砂に還るという違いもある。
「エルフの工芸品はどうします?」
「ギルドに卸すのは魔石だけでいいよ。国としても今のところ魔石にしか関心がないようなので・・・あ、画像データは提出してください」
田中さんは笑う。まぁ、興味があるなら直接交渉してくるということでしょう。
取り敢えず異世界への扉の鍵を開け、J隊の人を1人残して異次元を通じて地球に帰ってくる。
「お休みなさい」
挨拶を交わして家に帰った。
翌日、学校からの帰り道、とあるティラーの店に来ていた。実は父親の高校のときの同級生がティラーをやっているらしい。
「ようこそ。店主の井上といいます」
口髭を蓄えた三ピースの背広を着こなした高身長のダンディーなオジサマが優雅に腰を折る。
「九竜隆一の娘で美里といいます」
ぺこりと頭を下げる。
「お電話でお伺いしております。で、御用は?」
「実はですね・・・ダンジョン由来の布を手に入れまして、それで鎧の下服を仕立てて貰いたいのです」
そういってエルフのお嬢さんから手に入れた布を差し出す。
「これは・・・魔法が付与されていますね?」
布を検分していた井上さんが唸る。
「解るのですか?」
「そうでございますね。でも、こんなの可能なのでしょうか?」
井上さんは難しい顔をする。
「ちょっと待って下さい」
そういって井上さんは机から単眼鏡を取り出す。
「やっぱり。風魔法が付与されていますね」
へぇ・・・あの単眼鏡は鑑定のマジックアイテムか。
「しかし、布に風魔法が付与されたという話は聞いたことがない・・・」
まあ、魔法に耐性があるという防具は珍しくないけど風魔法が付与されているというのは聞いたことがないよね。
「この布に掛かっている風魔法は、起動させると布の周りに風を巡らせるようです。お嬢さん。この布をどこで?」
井上さんの目が光る。
「ええっと・・・ちょっと秘密です」
異世界産だとは言えないよね。
「恐らくこの布で服を作ると、任意のタイミングで身体の周りに空気の層を作って、耐熱、耐寒仕様になる服が出来そうですね・・・」
「で、この布で服を仕立てて貰うことは出来るでしょうか?」
「そうですね・・・シャツなら仕立てられるでしょう。ところでお嬢さん。この布が再び手に入るようなら、当店に是非卸して下さいませんか?」
「まぁ・・・手に入れることが出来ましたら」
料金の前金を払ってそそくさと店を後にした。




