9 レアイベント全部発生させる体質
俺の石がブラッドベアに直撃したことで戦局は一気に有利になった。
「おい、今の石、誰だ? えっ? アルクがなんでいるんだ?」
「ほんとだ! アルクがいるじゃん! なんで、なんで?」
ガストルとアルティナが叫ぶ。
「なんでって、このクエストを俺も受けただけだよ。何も不思議はないだろ」
「でも、Eランクのお前一人じゃどうにもな――」
ガストルの言葉は途中でかき消えた。
俺がブラッドベアの間合いにもう入っていたからだ。
剣を俺はもう構えている。
デカいってことは的が大きいってことだ。そんなに苦戦するほどじゃない。
俺は淡々とブラッドベアに剣を浴びせていった。
さすがに一刀両断というわけにはいかないが、苦戦するほどじゃなかった。
ブラッドベアも相当素早いが、俺のほうが速度では上だ。
少し離れたところでポポロが見守っている。
加勢はしなくても大丈夫と判断しているようだ。森の賢人と呼ばれるだけあって、フクロウは知能が賢いな。
「あのさ、今の俺って、Bランク冒険者なんだ。だから、これぐらい問題ない」
会話をしながら、俺はブラッドベアにとどめの一撃を放った。
ブラッドベアはゆっくりと倒れた。
クマの場合、アイテムのドロップというより、手とか内臓とか部位がいろいろ売れるんだよな。
でも、クマの魔物と戦う経験なんて、俺の実力では長らくなかったので、解体方法がわからない……。
「ああ、マリル、解体方法わかる? わかるんだったらこのクマの金目になりそうなところ、切り分けてくれ」
「それはいいっすけど、そんなことよりBランクになったってどういうことっすか?」
マリルが喰い気味に聞いてきた。
「そ、そうですよ! アルク君、さらっとBランクになったと言ってましたよね! 前までEランクだったじゃないですか!」
「ドルトも同じことしか聞いてないな……」
ちなみに俺が年上の相手にタメ口なのは別に失礼なことではない。
師匠と弟子みたいにはっきり垂直の関係でなければ、冒険者はそのへんなあなあだ。ドルトが丁寧すぎるといったほうが正しい。
「高負荷トレーニングを続けて、Bランクまで上げた。ステータスなら教えられるぞ。みんなが信じるかは別だけど」
他人のステータスはそいつの申告でしかわからないので、信じないならどうにもならない。俺が弱かった時のことをよく知ってるなら、なおさらだろう。
俺はステータスを全員に伝えた。
=====
アルク レベル20 冒険者ランクB
HP 112/112
MP 0/0
攻撃 122
防御 139
敏捷 134
知力 48
精神 19
容姿 36
幸運値999
スキル
超刺突・薙ぎ払い・這い上り斬り・みね殴り・一刀両断
仲間
クマ食いフクロウ(ポポロ)
=====
おっ、ブラッドベアを倒したおかげでレベル20になっている!
劇的に強くなったわけではないが、やはりレベル19とレベル20では見栄えが違う。かなりサマになってきた気がする。
ほかの元パーティーたちはというと――
絶句していた。
気まずいとかではなくて、理解ができないという反応だった。
「あの……高負荷トレーニングの存在は知ってるっすよ? でも、一回だけじゃさすがにBランクにはなれないっすよね? 何回やったんすか?」
「3回」
マリルに尋ねられたので答えた。
「正気の沙汰じゃないっす……。普通は一度ぐらいケガをして、今頃歩くこともできてないものっす」
それは大げさじゃないかと思ったが、案外そんなものなのか。
「しかも、3度続けたとしても成長しすぎっす。毎回トレーニングを終えるごとにランクが1つ上がるなんて急上昇しすぎっすよ。どんなすごい監督官に指導されたんすか?」
「Aランク剣士のバンティス」
またみんなが絶句した。俺は前世の記憶があるからバンティスを有名キャラとして認識してるけど、ほかのみんなも同じらしい。
それとゲームのことをふと思い出した。
そういや、高負荷トレーニングはレアイベントとして、Aランクの有名冒険者が監督官を務めるケースがあった――はずだ。
はずというのはレアイベントだから前世でゲームをした時には経験がないからだ。
で、運よくAランクの有名冒険者から指導を受けた場合、ステータスの上昇も大きくなるんだった。
ステータスは沈黙して自らは語らないから真相は不明なままだが――
俺の身にレアイベントやレアな事象が置きまくっているのはほぼ確実だ。
・ザコ敵が超高級アイテムをドロップする。
・原理上ありえないとまでは言えない魔物使い以外で魔物を仲間にする現象。
・ゲーム内でも名前のあるAランク冒険者が監督官をしてくれるイベント。
「ゲーレジェ」を長くやっていれば、どれも遭遇することはあるかもしれない。
でも、短期間で立て続けに起こるようなものじゃない。
というより、レアイベントがすべて起きてないか?
まさかとは思うが、【幸運値】がカンストすると、すべてのレアイベントが発生するとか……?
たとえば、あくまでも、たとえばの話だが。
超稀少なイベントが起きてもゲームが問題なく動くかどうか確かめる必要があり、そのために【幸運値】がほぼ無限で、どんなイベントも発生させるデバッグ用キャラが開発中に利用されることはあるんじゃないか?
もし、そんなものに偶然にも転生してしまったら……。
まさに俺みたいな存在になりはしないか?
確認などできないから何もわからないけどな。
俺ができることは剣士として上を目指すことだけだ。
剣士をやってるんだから強くなりたいし、Sランク冒険者だって目指したい。
と、くいくいっとポポロが俺の服を引っ張った。
こっちに来いと言うメッセージだよな。
「悪い。みんな、仲間に呼ばれてるから、また後でな」
俺は呆然としているパーティーを置いて、ポポロが導く先へと向かった。
明日も昼と夜に二度更新できればと思っています。
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