8 かつての仲間を救う
一人で冒険するのは大変だなと思っていたら、仲間(ただし魔物)が増えるとは。
人生というのは一寸先はわからないものだ。この場合、悪い変化ではないからいいんだけど。
俺はフクロウのステータスを見ようとしてみたが、ステータスの数字が何も脳内に出てこなかった。自分のステータスならぱっと浮かぶものなんだが。
「そういや、魔物のステータスを見るのは魔物使いの能力の範囲内だったか」
俺は魔物使いではないので、魔物使いの力は行使できない。絶対に不可能なことは【幸運値】が高くても実現できないのだ。それができるとただのバグになってしまう。
というわけで、仲間といってもステータスはわからない。同じパーティーでもほかの仲間のステータスは自己申告制なのと似ている。仲間は自分ではないし、自分の所有物でもないからだ。
むしろ魔物使いが仲間の魔物のステータスを見られるのが例外と言える。所有物の一種ということなのだろうか?
道義的な意味で、所有物と言っていいのかは議論が分かれそうだが、ゲーム制作サイドはそこまで考えてなかったよな……。単純にステータスが見れなかったら不便すぎるからだろうな……。
フクロウは軽く羽ばたいて俺の肩に乗った。
動画をアップしたらバズりそうだが、この世界にSNSはない。それと……。
「重い……。フクロウってでかいしな」
「ポポポポ!」
なんかフクロウが怒っている。体重を指摘されると腹が立つのか。鳥の体重って重いと飛ぶのに不利そうだし、わからなくもないか。
「ごめん、ごめん……。それよりも名前ぐらいはつけないと呼びづらいな。ええと……」
俺にネーミングセンスはないので、本人の使ってた音の響きを利用するか。
「ポーポー鳴くから、お前の名前はポポロ。それでどうだ?」
「ポッポポポ♪」
おそらく喜んでくれているようだ。そう解釈する。
これで久しぶりにパーティーでの冒険になるな。
ポポロのステータス、まったくわからないし、戦闘に参加してくれるかすら不明だけど。
◇◆◇◆◇
何度か魔物との戦闘が発生したが、ポポロも協力してくれた。
「ポー! ポポポ!」
爪でひっかいたり、かじりついたりと、それなりに敵の魔物にダメージを与えていた。
感覚的にCランク冒険者ぐらいの能力は十分あるんじゃないかなと思う。
「けっこうやるな、ポポロ」
戦闘の後に、頭とか撫でていいんだろうか。
野生動物ってどこを撫でたらいいか、わからないんだよな。猫とか、頭を撫でると怒る奴もいるし。
どうしたものかと思っていたら、ポポロのほうから頭をおじぎみたいに前に出してきた。
「これは撫でてくれと判断していいよな」
手で撫でてやると、ポポロの顔が楽しそうなものに変わった。
そっか、フクロウの表情って人間にもけっこうわかるんだな。
ところで、撫でていると手がズボっと奥に入るんで、少し怖いんだが……。
肉の部分って、かなり少ないんじゃないだろうか。
「にしても、お前はなんで俺の仲間になろうと思ったんだ?」
答えが返ってくるわけはないのはわかっているが、ポポロに尋ねてみる。
魔物使いだろうと、どんな魔物でも仲間にできるわけではない。当たり前だが、この魔物使いについていこうと魔物が思わなければ仲間にはできない。
「あんな短時間で実力があるってわかったのか?」
「ポー」
なんか、「そうだよ」という意味のあいづちを打たれた気がするが、真相は不明だ。
まだペットを飼ってるというような実感も、牧羊犬みたいなパートナーを手に入れた実感もないが、撫でると癒される感じはあるな。ストレスが減っていく感じがあるというか。
バサバサとポポロが空に舞い上がった。
飛び方からして、偵察行動のようだ。一緒に過ごす時間は短いが、それぐらいはわかるようになってきた。少なくとも俺に愛想を尽かして逃げようとしている動きじゃない。
しばらく旋回して、ポポロが俺の前に下りてくる。
「ポーポーポー! ポーポポポ!」
言葉はわからないが、何か訴えているのは感じ取れた。
「何かあるんだな?」
ポポロがうなずいた。コミュニケーションができていると信じよう。
ゆっくりとポポロが飛ぶ。俺が走って追いかけられる程度の速度で。
自分についてこいという意味だろう。
何があるかわからないが、ついていってやろうじゃないか。
しばらく高原の低い草むらを突き進むと、殺気がこちらに伝わって来た。
間違いなく戦闘が起きている。その程度のことは長らくEランク冒険者止まりだった俺でもわかる。
敵の姿は遠目にも見えた。
クマの魔物だ。赤毛の毛並みからして、おそらくブラッドベア。クマの魔物でもかなり強力な奴だ。人間側が多人数でも苦戦するだろう。
人間側の姿を見て、はっとした。
数年間、過ごしてきたのだから間違えるわけがない。
「ガストル! それ以上接近するのは無理! 一回離れないと危険!」
「だからって、魔法だけで仕留められるランクの敵じゃないだろ! 背中を見せたら爪で切り裂かれるぞ!」
魔法使いのアルティナと武道家のガストルが叫んでいる。
その後ろで回復薬の治癒師の中年男ドルト、女子で盗賊のマリルがいる。マリルが座り込んでいるのはすでに前衛として出てケガをしたからのようだ。
戦闘力になるのが武道家ガストルの物理攻撃とアルティナの魔法だけとなると――
かなり厳しいな。大きなダメージを与えられないから、ブラッドベア側に余裕が生まれている。
気まずいとか言ってる場合じゃなかった。
命がかかっている。
ブラッドベアが大きく一歩踏み出して、腕を振り上げた。
「くそっ!」
ガストルが身を守る。カウンターを狙う余裕もないらしい。
俺はそこに手のひらサイズの石を投げつける。
ひとまず石をぶつけてブラッドベアの注意を引ければそれでいい。
その間に距離を詰めて加勢する。俺もBランクになってるからな。
だが、その石はブラッドベアの目に直撃した。
「グオオオオアア!」
目つぶしを受けたブラッドベアが悲鳴を上げた。
あれ? うまい具合に当たったな……。




