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捨てステータス【幸運値】が高いだけのザコとして追放された剣士、レアイベントをすべて発生させて無双する  作者: 森田季節


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6 Bランク冒険者に到達

 短期間でBランク冒険者になっていると言われても、全然実感はなかった。


 当たり前だ。冒険者のランクなんてすぐに上昇するものじゃない。

 素質がある奴はCランクまではあっさり行ける。ただ、たいていはそこで伸び悩む。



 いや、伸び悩むっていう表現はおかしいな。

 Cランクでも十分に生活はできる。ただ、Bランク冒険者になれる奴は一握りだ。


 日本の高校の教室で一番数学ができる奴になることは猛勉強すれば可能かもしれないが、大学の数学教授になるのは一気に門が狭くなるものか。

 いや、このたとえ、なんか変かな……?





 というわけで、変化を確かめるために街を出て草原をうろついた。


 出てきたのはゾンビ。

 ちょうどいい。Eランクの時は苦戦した相手だ。


 俺は剣を振るう。剣自体は以前までと変わらない鋼の剣だ。


 

 ザッシュッ!



 小気味いい音とともにゾンビの体が斜めに切れた。


「これ、以前の俺と同じ人間か……?」


 自分でもちょっと信じられなくて、自分の手を見つめてしまった。


 Bランク冒険者は達人とよく言われる。

「ゲーレジェ」をやり込んだプレイヤーしかBランク冒険者は作成できなかった。周囲に自慢できる次元だった。ちなみに前世の俺はCランク冒険者止まりだった。



「そりゃ自慢できるわ……。普通に強いわ」





◇◆◇◆◇





 冒険者として自立できるところまで成長したので、堂々と冒険者ギルドでクエストを選べるようになった。



 冒険者ギルドの掲示板を確認する。

 直近の依頼だと「☆ 月光草の採取」というのがあった。

 山中に分け入って、月光草という超稀少な草を探す。



 この草はバイトーラ天使教というこの世界の宗教の儀式で使用するもので、草を引き抜いて持っていくだけで100万ゴールドはする。



 バイトーラ天使教のほうでは草の栽培を行おうともしているそうだが、まだ上手くいってない。少なくとも前世の「ゲーレジェ」のゲーム内ではそうだった。



 その結果、冒険者たちに月光草を探してもらって、高値で買い取る羽目になっている。



 俺の場合、もっと高い値段で売れるアイテムを魔物が落としてくれたりするんだけど……。たまには冒険者ギルドの依頼も受けておこう。



 ドロップしたアイテムを売るだけの生活は、なんか、こう……嫌なんだよな。社会との接点がなさすぎる……。





 俺は受付窓口で、「☆ 月光草の採取」を申し込む。



「えっ? このクエストは山岳地帯まで向かうものなので、Eランクのアルクさん一人ではとても進めませんよ」


 受付のお姉さんが難しい顔をする。


「これをご覧ください。Aランク冒険者バンティスさんのサインもあります」


 俺はBランクになった証明書をお姉さんに提出する。


「え、え、え? たしかに高負荷トレーニングを何度も受けていたのは知っていましたが、EからBにこんな短期間で上がるんですか!」

「シャレにならないぐらい苦労しましたからね……。上がれてよかったです」



 高負荷トレーニングの最中では、靭帯が断裂した奴や複雑骨折した奴がきっちり出ていた。ケガの復帰まで一年はかかるだろうと言われた奴もいた。


 幸い、死者は出なかったがケガのリスクは厳然としてあった。ほかにも、きつすぎて、逃亡するような奴もいた。誰でもステータスが上がるわけじゃない。



「た、たしかに本物ですね。偽造した様子もありません……。あっ、新規のBランク冒険者の名簿にアルクさんが載っていますね。し、失礼しました!」



「いえ、気にしてないですよ。俺も逆だったら本当かよって思いますし」



 うろ覚えだけど、昔、偏差値40ぐらいの女子が東大に入学する漫画があったっけ。いわば、それぐらいの不自然なほどの変化だから、混乱もするだろう。



「Bランクなら当然一人でクエストに参加してもらって構いません。内容はシンプルだからとくに説明もしなくていいですよね」



 草を採取するだけだからな。


 あと、気になっていることがあった。



「ところで、このクエストの前の☆って何ですか?」



 クエストは「☆ 月光草の採取」という名前なのだ。

 明らかに冒頭に変なものがついている。



「あ~、これは臨時のクエストってことです。このクエストはバイトーラ天使教の例大祭の前にだけ発生するんですが、新しい祭りを特別に行う必要が生じて、急遽発生したんですよ」



 受付のお姉さんが当たり前のように言う。



 それって、ゲーム的に言うと――

 一種のレアイベントの発生か!



 まあ、ほぼ定期で起きるイベントの時期がズレただけとも言えるけど、これも【幸運値】のカンストと関係してるのかもしれない。

 これは受けておくほうがよさそうだ。




「それにしても、高負荷トレーニングを3回続けて、ケガがないなんて運がよかったですね。1回ぐらいは大ケガをしてもおかしくないんですよ。ケガが治るまで何もできなくて、参加するべきじゃなかったと後悔する冒険者の方も多いです」



「運には自信があるんです。ただ、ようやく運以外にも自信を持てるものが見つかりました」



 Bランクの剣士ですと言って恥をかくことはないからな。






◇◆◇◆◇





 過去に何度か月光草が見つかっている高山地帯へクエスト参加者は移動する。


 高山地帯までの移動は大きめの馬車だ。前世では見たことないような巨体の馬が二頭で引っ張るので、小型の乗り合いバスぐらいの人間が後ろの荷台に入れる。



 自分の乗っている馬車は知らない顔、厳密には見たことぐらいはあっても詳しくは知らない顔ばかりだったが――



 一つ前の馬車に見知った顔がいた。



 武道家ガストルの大きな体が見えた……。

 魔法使いのアルティナたちの姿も見える。



 前にいたパーティーが参加してるのか……。




 そりゃ、同じ場所を拠点に冒険者をしていればそうなるか……。


次回は夜に更新予定です。しばらく1日2回更新を続けます。


ここまで読んでいただき、ありがとうございます!

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