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捨てステータス【幸運値】が高いだけのザコとして追放された剣士、レアイベントをすべて発生させて無双する  作者: 森田季節


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26 御前試合一戦目

 宮廷御前試合に開会式があるわけではなく、試合が近づいたらお呼びがかかるらしい。

 ここに来てるだけで栄誉なことではあるが、俺たちはあくまでも高貴な方々の見世物でもある。



 で、バンティスが去ってから、フクロウになったポポロを撫でていると、兵士からお呼びがかかった。



「アルクさん、会場の前までご同行ください。お連れの方も見学にいらしてくださってけっこうです」


「わかりました。行きます。にしても、最初から全員、試合会場の後ろにでも詰めさせてればいい気がしますけど」



 控え室は全員別で、どんな対戦相手がいるかも俺は何も知らされていない。


 よく聞かれる質問なのか、兵士が少し表情をゆるめて言った。




「それだと、これから戦うかもしれない相手に手の内を見られてしまいますからね。かといって、手の内を隠して御前試合をされても困りますので」


 たしかに。どの冒険者は誰と戦うか、御前試合だとわからないからな。



「ポッポポポー」


 これはポポロのフクロウとしてのエールだな。


「ポポロ、お前は見学はどうする?」



 ポポロは俺の腕から抜け出ると、部屋の隅に移動していった。



「あの、アルクさん、フクロウはどうなさいます? この部屋に置いていかれますか?」

「ああ、それなら大丈夫です」



 すぐに隅からメイド姿のポポロが出てきた。



「お待たせいたしました。私も見届けたいと思っています」

「あれ? ペットのフクロウは?」



 まだ情報が広まってないな。面倒だから兵士への説明は省く。


 ポポロが胸に手を置いて言った。



「フクロウのことは問題ありません。私が責任持って管理しております」








◇◆◇◆◇









 控え室から試合会場は直結している。会場に出ると、周囲の客席はそれなりに埋まっていた。


 ポポロは扉のところに立っている。従者なのでそこから見学してよいらしい。


 ただ、普通の闘技場などと全く違うのは、観客席にも多数の魔法使いや戦士がピリピリと周囲に視線を送っていること。



「ん? 参加者が見学しているようですが?」



 ポポロが不思議そうに俺に言った。



「あれは参加者じゃなくて警備担当の冒険者だ。この場には多数の貴族が列席している。そこを襲撃しようとする者がいてもおかしくないからな」



 その結果、高い位置にある観客席はいかめしい冒険者たちと最上層の貴族で構成されている。こんな極端な観客の会場はほかにない。



 あまりチラチラ王族や貴族を見るのは無礼だからやめろと言われていた気がするが、ずっと下を向いているのも変だし多少はいいだろう。









 俺の対戦相手は薄手の鎧を来た年かさの男だ。おそらく剣士だろう。


「剣士モルトーだ。メッサール侯爵の推薦を受けて参上した」


 相手が名乗る。

 後ろの観客席で貴族が一人、「モルトー、気張っていけ!」と声を上げていた。



 そういえば、メッサール侯爵ってゲーム内ではおっちょこちょいで事件をたまに引き起こすキャラとして描かれてたな。



 立場は偉いがストーリー上ではモブだから、あまり気にしてなかったが、たしかにミスとか多そうな雰囲気の奴だ。


 声を張り上げて応援するのも、おそらく貴族の流儀ではないのだろう。そんなことをしてるのはメッサール侯爵しかいない。侯爵のほうを見て、顔をしかめている貴族までいた。



 俺はポポロに小声で「行ってくる」と言って、試合会場の前へ出た。

 円形の会場はなかなか大きい。



「Bランク冒険者アルクです。Aランク冒険者のバンティス氏の推薦を受けた」

「アルク? 聞いたことのない名前だな。ぽっと出の新人には負けんぞ」

「ああ、ぽっと出の新人ってところは正解ですね」



 俺はゆっくりと剣を構えた。

 なお、剣は木刀だ。王の前で死体をさらすのもよくないしな。危険な技を繰り出すのは俺たちの裁量に任されているが、最初から殺傷能力が高すぎる刃物は使えない。





「なにせ、急成長したので。少し前まではEランク冒険者でした」



「はあ? EランクからBランクまで一気に駆け上がったとでも言うのか? バカか。そんなことあるわけないだろ」



 それが本当なんだよな。やり方次第で運さえよければ、誰でも実現可能な方法だ。




 ドラの音が鳴った。

 試合開始の合図だ。


 敵のモルトーが剣を持って突っ込んでくる。



 敵の剣を俺は受ける。



 ――ゴオォンッ!




 殴打されたような鈍い音。

 お互いに木刀だからだろう。妙に重さを感じる。






 敵はずいぶんと基本に忠実な剣だと思った。どことなく新人を教える教官みたいだ。





 もっとも、そう考えられるぐらいに余裕があるのは、俺がその程度までは強くなっているからだ。

 Eランク冒険者のままなら、序盤から圧倒されて、本当に何もできないまま、それで敗北していただろう。




「ほう。体力も膂力りょりょくもあるな。急成長したというところはウソ臭いが、Bランクというのは本当のようだ」



 敵のモルトーが言う。



「そちらもBランクのようですね」

「当然だ。Cランクで御前試合に呼ばれることは通常ない。過去に来たCランクの連中もたいてい大恥をかいて帰っている。恥をかかせるためだけに連れてきたんじゃないかと裏で言われているぐらいだ」




 ああ、そんな種類の見世物もあるんだな。




「負けませんよ!」





 俺も剣を振るう。




 こちらの攻撃も受けられるが、重さのようなものを相手は感じているらしい。


「ぐっ!」

 モルトーがやや苦し気な声を出す。俺の威力は伝わっているようだ。




 試合の最中に考えることではないかもしれないが――


 こんなところまで来られて俺は幸せ者だな。


 そう、ガラにもなく思ってしまった。




 Bランクの剣士と互角に戦えている。

「ゲーレジェ」プレイヤー時代は、Cランク止まりだったからな。


 それこそ練習試合でBランク冒険者にボコボコにされたことも何度かあった。完全に舐められていたと感じたこともあった。



 俺は今、前世も含めて一番強い!

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