24 剣士の上位職「騎士」を目指す
王都に来た翌日は、本来は宮廷御前試合前日の調整日だったのだが、急遽忙しくなった。
「ポポロ、そなたをマヒア協会に仕える騎士として認める。これからも力を尽くし、教会とマヒア女神様の信仰を守るように」
「はい、謹んで拝命いたします」
ポポロが頭を下げ、任命書と指輪を受け取る。
教会にて騎士身分を授ける式が開かれている。ポポロだけでなく、当然、俺も出席している。
面倒だからパスしますというわけにはいかない。なにせ、マヒア女神様にはお世話になりっぱなしだからな。無礼なことは絶対にしてはならない。【幸運値】が下がりでもしたら大変だし。
宮廷御前試合で活躍すれば、冒険者としての立場も上昇するかもと意気込んでいたが、その前にポポロが偉くなるとは……。俺に何も損はないのでうれしいんだけど、変な気分ではある。
式典の後、ポポロと話をした。
「あの……ポポロ……さん……貴族階級になられたわけですが、人の時はメイドの姿でいらっしゃるんですか?」
「アルクさん、変なしゃべり方はやめてください。やりづらいからタメ口でお願いしますよ」
「しゃべりづらいのは認めるけど、そっちは貴族だからな……。まあ、いいか」
会話する時はたいてい二人でいる場合だから不敬だと文句言われることもあんまりないだろ。
「何も変わりませんよ。ステータスも変化がなかったですし。盗賊から教会騎士という職業になったのかと思ったんですが」
「ややこしいけど、教会騎士っていうのは職業じゃなくて身分の名前だからな。平民って職業がないようなものだ」
これはこの世界が「ゲーレジェ」の影響を受けてる弊害だと思う。ステータスに関係する職業と、それっぽい名前が混ざってる場合がある。
たとえば、騎士は貴族の下っ端の身分の名前だが、剣士の上位職としての名前でもある。つまりステータスを見ると、職業欄が騎士の「騎士」と、職業欄が騎士ではない「騎士」の二種類がありえる。
「ところで、人の見た目のことだけど、メイドのままでいいのか?」
メイドというと、誰かに仕えることが前提の見た目だからな。
「別に構いませんよ。それに貴族といってもだいぶ下の身分ですし、お嬢様という顔をするほどでもないですから。大貴族には貴族階級の人が仕えるのも珍しくないとも言います」
「わかった。じゃあ、このままで行こう」
一応、「ゲーレジェ」内の知識を動員して、こういう場合、どうするのがいいか考えてみたが、イレギュラーすぎて何もわからなかった。
魔物使いだって、仲間にした魔物が貴族になるシチュエーションなんて存在しないだろうからな……。
ちなみにポポロがフクロウということは騎士に叙任されることも触れられなかった。
フクロウが貴族になる前例なんて絶対にないからな……。表面上は、人間のポポロがマヒア女神様の奇跡によって教会騎士になったという設定でいくらしい。
まあ、いろいろ変なイベントがあったほうが、宮廷御前試合に緊張しすぎないですむからいいか。
◇◆◇◆◇
試合当日の朝、宮廷内にある会場に移動する。
四方に見学用の席が用意されている。すでに、いかにも貴族ですという見た目の人間が座っていた。
この試合を見学できるのは王族を含む貴族、それと城で働く者たちだけだ。とはいえ、炊事担当がいい席で見学できるとは思えないから、実質、貴族の見世物である。
中にはショーを見せる側なんてやりたくない奴もいるかもしれないが、地位を上げるチャンスなのだから別に構わない。いい見世物で自分も騎士身分を手に入れるぐらいのモチベーションで臨んだほうがいい。
控え室に戻って気持ちを落ち着けていると、見知った顔が入って来た。
「おお、アルク。元気にやっとるかな」
Aランク剣士のバンティスだ。「ゲーレジェ」をやってた時から見知った名前だから、敬意をこめて心の中では呼び捨てでいかせてもらう。
「バンティスさん、お久しぶりです!」
すぐに立ち上がって、礼をする。
ゲーム内のネームドキャラに名前を覚えられるというのは少し気恥ずかしいが、それの数倍は光栄だ。普通にうれしい。
「別に君はワシの弟子でも、職務上の部下でもないんだから、そんなに頭を下げんでいいぞ」
「いえ、バンティスさんに監督官をやってもらっていなければ、自分の殻を破ることはできませんでした。自分はEランクでくすぶっていたんです」
「たしかに最初はEランクだったな。それでもう、この場に来たと考えると、なかなかの奇跡だな」
きっと【幸運値】カンストの影響だ。
「だが、なかなか成長しない冒険者がコツをつかむと一気に伸びることはよくある。君はそういう感じがあった」
バンティスはいたずらっぽく、にやりと笑った。
「だから、宮廷御前試合にワシが推薦した」
「あれ、バンティスさんによるものだったんですか!」
「ゲーレジェ」内では宮廷御前試合のイベントを誰が推薦してるかなんて語られることはないが、よく考えたら実際には誰かが参加者を選定してるんだよな。
「Bランク冒険者、ましてCランク冒険者などいくらでもいるが、その中でも君ほど急成長した冒険者は珍しいからな。もし、まだ成長の途上だったらもったいないので、こんな場を用意した」
少しだけバンティスは真面目な顔になった。
「Bランク冒険者が力を存分に発揮できる場所はそれほど多くないのでな。成長できる時に実力者と戦って鍛えんとな。誰でもできる魔物の討伐依頼をやっても上にはいけん」
それはそうかもしれない。Bランク冒険者向けのクエストの数はゲーム内でも限られていた。
Bランク以上のプレイヤーはたしか1割未満。
1割未満のプレイヤーのためだけのイベントを大量に用意するのは効率的ではない。
なので、そこからさらに上を目指すのは難しい。
「この試合の結果だけでAランク冒険者になることは難しいだろうが、王族にファンができたりすれば騎士に推薦されることぐらいはありえるぞ」
騎士――この場合は、剣士の上位職のほうである騎士のはずだ。
「ゲーレジェ」をプレイしてた時はたどり着けなかった高みに俺はどんどん上っている。
「おっ、いい目をしてるな、アルク」
「活躍してみせます!」
運だけじゃなく、実力もすごい冒険者になってやる!




