最終話
カフェテリアの周りに広がる中庭。
秋はだいぶ深まったけど、今日は日差しが暖かい。
私たちは、休日にも関わらず、相も変わらず集まっている。ユナとアンナちゃんが用意してくれたお菓子はとっくに食べ終わっていて、皆思い思いに過ごしていた。
いつもと変わらぬ光景。でもいつもと違うことが一つ。
「あー、もう俺たちのことなんて忘れたかと思ってたよ」
ガイ君がぼやく。
「俺は、ボロボロになって部屋でへたってるんだと思ってた」
ファミルはいつもしれっと核心をついてくる。
「でも、すごかったのよ。剣術大会」
アンナちゃんはいつも優しい。
「だからご褒美あげたでしょう」
はい、ユナ様。
「……不義理をして大変申し訳ございませんでした!!」
ゴチン!!
クリスが頭を下げた勢いのままテーブルにぶつかった。
剣術大会で入賞したクリスは、騎士科のみんなにも認められたようで、ウェルウッド先生からも許しを得て、晴れて休日返上の補習地獄から脱した。
転科以来、ご無沙汰だったみんなとのお茶会にもこうやって参加することができた。
あの日ーー、あの剣術大会の日。クリスは、「公爵令嬢」に呼ばれて女子寮に来た。ユナは一生徒ではなく公爵令嬢として学園を通じて、正式にクリスを呼び出したのだそうだ。護衛の補佐として。王族が誰も学園に在籍していない現在、護衛が四六時中ついているのはユナくらいのものだが、高位貴族の子女になると家の名代として国の公式行事に参加することも多く、その際には護衛をつけることが多い。家から派遣してもらうのが基本だが、補助として実習を兼ねて騎士科の生徒をつけることもある。常時護衛がついているユナはそれを利用したのだ。
「十分たったわよ」
と戻ってきたユナは、クリスに公爵家の紋章の入った封筒を差し出した。そして、
「じゃあ、今日はご苦労様」
と言ってさっさとクリスを追い出してしまった。相変わらずユナに弱いクリスは、サッと立ち上がると「ありがとうございました!」と叫び、直角に腰を曲げてお辞儀をして、それでも最後に私に笑いかけ帰っていった。
ユナは、私の横に腰掛けるとぎゅっと私を抱きしめた。
「良かったわね」
「ユナぁ」
私は、ぎゅうぎゅうとユナを抱きしめ返してその肩に顔を埋めた。
ぽんぽんと背中を叩いてくれるユナに、気持ちが落ち着いていくのを感じる。
予想通り、いや、予想以上に眠れなかったその夜は夜遅くまでお菓子とお茶をつまみながらユナと過ごしたのだった。
「これからは少し落ち着くのか?」
「まあ。体づくりとかしないといけないし、剣術や体術も練習しないといけないから普通科にいた時ほどには時間があるわけじゃないけど、流石に季節が変わるまで全く顔を出せないってことはないと思う」
「じゃあ、たまには顔出せよ。エミリも寂しがってるしな」
からかい顔で言うガイ君にユナが爆弾を落とす。
「あら。エミリとは別で会うからいいのよ」
「な……!」
「ちょ……、ユナ」
慌てる私たちを一瞥もせず、ユナは済ました顔でお茶をのんでいる。
「へえ。そういうこと」
ファミルがにやっと笑って言う。
「良かったね!エミリちゃん」
アンナちゃんは本当にいつも優しい。
「落ち着くところに落ち着いたかあ」
ガイ君にまでしみじみ言われて、私はいたたまれず下を向いた。
もうやめてくれよー!とクリスが叫ぶ。そのままガイ君に掴みかかって二人でじゃれはじめた。みんながあははと笑う。
次の休みには、ずっとお預けになっていた町に行くことになっている。
ーークリスと二人で。
クリスとお出かけするのはとても楽しみだけど、私はこうやってみんなでたわいもないおしゃべりをするのが大好きだ。
クリスと知り合わなければ、クリスがいなかったら、こんな学園生活は考えられなかった。
秋の夕暮れは早い。
日が傾いてくるにつれて吹いてくる風も冷たさを増してきたけれど、私の心はいつまでも暖かかった。
これにて完結です。最後までお付き合いいただいてありがとうございました。
ひっそり目に始めた連載でしたが、誤字報告していただいたり、Twitterで呟いていただいたりとても嬉しかったです。
気に入っていただけたら感想などいただけるととても喜びます。
次作は、もう少し間を空けずに投稿できればと思っていますので、よければまたお付き合いください。




