14
船を降りるともう学園行きの乗り合い馬車が待っていた。
私は旅行鞄を両手で持って、馬車に乗り込む。他の航路の船が同じタイミングで着いていたらしく、既に馬車には何人か他の生徒も乗っていた!
「エミリ! 久しぶり〜」
「ガイ君」
西からの船で帰ってきたというガイ君は大きな荷物を抱えていた。エミリの分もあるからなと言うので、おそらく大量のお土産を持ってきたのだろう。
「ありがとう。私、お土産らしいお土産なくて……」
「いいよ、いいよ。うちは商売柄、帰るたびに目新しいものがあるからさ。持ってきてみただけだから」
ガイ君が荷物をちょっと横に避けてくれたので、隣に座る。
たぶんだけど、俺たちで最後だぜ。みんなもう戻って来るらしいとガイ君が言うので驚く。
「え、そうなの?」
「ああ、ファミルとアンナはクリスの試験に合わせて、早めに帰ってきてるし、ユナさんは、帝国の皇子殿下が王都訪問をされるのについて来て、そのまま学園に戻ったらしい」
「そっかあ。ガイ君、すごい情報網だね」
「そうじゃないと商人なんてつとまりませんよ。皇子フィーバーで王都じゃ帝国風のアクセサリーなんかが流行ったんだよ。子ども用の安物でよかったら手に入るよ」
「お気持ちは嬉しいけど、うちも商売柄、付けられるアクセサリーが限られるのよね。ユナは安物はしないだろうし、アンナちゃんは?」
「いやいや、ファミルに殺されんだろ」
二人で顔を見合わせてあははと笑う。
学園に戻ったら、みんなに会えるんだ。私は楽しみで仕方なかった。クリスの編入試験の結果も気になる。いつ結果が出るんだろう。
学園に着くと、ガイ君と別れて寮に向かった。
荷物をまとめていたら、コンコンとノックされる。
「はーい」
「私」
ユナだ。
「久しぶり! 元気だった?」
「ええ。なんだか忙しかったけど」
「皇子様に付き合って王都まで行ったんでしょ」
「あら、よく知っているわね」
「将来の西の大商人が言ってたよ」
「ガイ君と同じ馬車だったのね」
うふふと笑うユナから疲れは感じられず安心した。私にとっては長期休みはお休みだけど、ユナにとっては学園にいるときの方がはるかにお休みなのを知っているから。
「荷物をまとめ終えたら、カフェテリアに行かない? エミリが今日戻ってくるってファミルに言ったから、みんな集まっていると思うわ」
「うん! じゃあ急いで片付けるね」
ユナは部屋に入ってくると、ベッドに腰掛けて私が片付け終わるのを待ってくれた。
荷物を片付けた私は、着替えてカフェテリアに向かう。みんなに久しぶりに会えると思うと嬉しい。
カフェでは、私と一緒についたはずのガイ君がもう一食食べ終わっていた。ファミルとアンナちゃんも一緒にいて、こちらに手を振ってくれた。
でもーー。
「クリスは?」
「ああ、たぶんそのうち来るとは思う。エミリに会いたがってたしな」
「そうなんだ……」
あれ?
みんなに会えたのに、なんだか急に気持ちが萎んでしまった。
「そんなに悲しそうな顔しないで、エミリちゃん。休暇中のクリスの話聞く?」
「え? 私、悲しそうな顔してた?」
アンナちゃんの言葉に驚いて聞き返すと、みんながうんうんとうなずく。
「うちの子がポンコツでごめんなさいね」
ユナが言って、みんながどっと笑う。……ポンコツって。公爵令嬢のくせに。
でも、クリスに会えなくてへこんでいる私をみんなが励ましてくれているのはわかった。ひとしきり、みんなで近況報告をする。ファミルは本当にアンナちゃんも連れて、クリスのところに行ったそうで、クリスの家での様子を二人で話してくれた。みんなの話が落ち着いたところで、ファミルに一番気になっていたことを聞いてみる。
「……クリスの編入試験、どうだった?」
「ああ、それはーー、本人に聞いたらいいよ」
ファミルがニヤリと笑って、顎をしゃくる。それに釣られるように後ろを見るとーー。
「ハアハア、……久しぶり、エミリ」
クリスが息を切らして立っていた。ドキッとした。どうやら走って来たらしいクリスは、休み前よりひとまわり大きく、日に焼けて黒くなっていた。
「クリス、大きくなった?」
私の間抜けな質問に、クリスは白い歯を見せてははっと笑った。なんだか、精悍になって、別人みたいだ。
「夏の間に背がちょっと伸びたのと、あとだいぶ鍛えられたからなあ。大きくなってるかも」
そう言うと、表情を引き締めて私の正面に立った。
「エミリ。俺、編入試験受かったよ」
そのせいで、寮の引っ越しとか、新学期に向けて未習部分の補習とかあって忙しくてと早口でまくし立てていたクリスが、目を見開いて固まった。
隣からユナの手が伸びて来た。ハンカチを差し出している。
「ほら、鼻もちゃんとふくのよ」
鼻とか言わないの。公爵令嬢のくせに。と思って鼻をすすったら、思いの外大きい音がした。
私、いつの間にか、涙をぼとぼと流して泣いていた。
クリスが編入試験に受かった。
「ーー嬉しい」
出した声も震えていた。ユナと反対側にいたアンナちゃんが頭をよしよしとなでてくれる。クリス〜、泣かしてんじゃねーよーと言うガイ君に、え! 俺? とクリスが慌てている。
私はもう声が出なくて、ユナの高級ハンカチを顔に押し当てたまま、かぶりをふった。きっとクリスは困り果てた顔をしているだろうけど、しばらく、顔はあげられそうにない。
みんな、クリスを小突きながら、私が泣き止むのを待っていてくれた。




