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真面目だけが取り柄の特待生は、自由なおぼっちゃまに憧れる  作者: 四葉ひろ


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 試験概要を読むと騎士科への編入試験は、長期休暇の最後に行われることになっていた。


 定期考査の後、前期終了まではあまり授業がない。新入生が親睦を深めるために遠足に行ったり、五年生や六年生になると卒業後の進路についての面談を行ったり、秋以降の行事について話し合う委員会が開かれたり。私たちはちょうど真ん中の三年生なので、学校側は基本放置だ。

 なので、実家の商売を手伝っている子などは長期休みを待たずに帰ったりする。

 

「ガイ君は、おうちのお手伝いに帰らなくていいの?」

「ああ、長期休み中ずっとこき使われるから、なるべくギリギリまで粘る。エミリは?」

「うちは暖かい時期は患者さん少ないから。どうせ雑用と待合室のおばあちゃん達の話し相手しかできないし」


 私たちはといえば、家にも帰らず、授業がほぼないのをいいことに、クリスの試験対策にみんなで取り掛かっていた。

 私は、座学。ガイ君は体力作りに付き合ってるし、ファミルも剣術の相手や座学のフォローをしている。

 ユナがマナーを見てくれると言って恐縮しまくっていたクリスだったけど、

「まあ。本気で合格を目指しているわけではないの?」

 とユナににっこり微笑まれ、硬直した後、真っ青な顔でオネガイシマスと答えていた。

 その様子に同情したのか、他の思惑もあるのか、ファミルが手を回してくれて、マナーはアンナちゃんと一緒に習っている。ユナを相手にエスコートの練習とか心臓が止まるかもしれないから助かっているらしい。なんでそんなにユナに弱いんだろう。

 男爵とはいえ貴族のクリスも、代々お屋敷勤めのおうちのアンナちゃんも基本はできているそうで、ユナは満足している。


 やはり問題は座学だ。


「うおー、もう覚えきれない!!」


 今日も、私が読み上げる魔法学のテキストを暗唱していたクリスだったけど、だんだん辿々しくなってきたと思ったら、雄叫びを上げて机に突っ伏した。

 正しくは中庭の屋外テーブルだけど。

 

「じゃあ、次は体力作りだな」


 ファミルとガイ君がやってきて、木製の剣を渡す。騎士科の授業は高学年になってくると真剣を使うらしいけど、生徒同士の練習での使用は流石に許可されていない。


 カンカンと軽い音を立てて、三人が交互に打ち合うのを眺める。


「進んでる?」


 ユナとアンナちゃんがカフェテリアからお菓子とお茶をテイクアウトして来てくれた。二人はクリスの編入試験の勉強を始めてから、よくこうやって差し入れを持って来てくれる。アンナちゃんが進んで運ぼうとするのをユナが取り上げるので、最初は驚いていたアンナちゃんだったけど今ではすっかり仲良くなった。


 私が、テキストが広がっていたテーブルの上を片付けると二人がささっとお茶とおやつを並べてくれる。

 三人でお菓子をつまみながら、おしゃべりをしていると、


「あー、いい汗かいたー」


 と男子三人もやってきた。アンナちゃんが素早く冷たくしていたお茶を配る。山盛りだったおやつは三人がきた途端にあっという間になくなった。

 

「ああ、腹減った」


 一番食べていたガイ君がお腹をさすりながら言うのでみんながどっと沸いた。


「じゃあ、今日はここまでにする?」

「うーん、俺やっぱりさっきのテキスト切りがいいところまでやりたい」


 クリスが言うので私はうなずいた。


「じゃあ、みんなは先に帰ってて。私もちょっとやっていくから」


「了解!じゃあ、一番食べた責任をもって俺が返してくる」


 ガイ君はすっかり空になったおやつのお皿なんかを抱えて、あっと言う間にカフェテリアの方に消えていった。


「ありゃあ、これからまだまだ食う気だな」


 寮の夕食もあるのになあ、とクリスが呆れて言う。ファミルがははっと笑うと立ち上がった。


「じゃあ、俺はアンナを送っていくよ」

「え!ユナさんを送らないと!」

「あら私は大丈夫よ」


 慌てるアンナちゃんに笑いかけて、ユナが軽く片手を上げると護衛の皆様が現れた。アンナちゃんは目を白黒させている。私も最初は驚いたので気持ちはよくわかる。


「じゃあ、暗くなる前にエミリも送ってもらうのよ」

「クリス頑張れよ」


 そう言ってユナは護衛を引き連れて、ファミルは、さりげなくアンナちゃんをエスコートして帰っていく。


「あー、騒がしかったー。エミリごめんな。時間とってもらってるのにいつもこんなんで」

「ううん。私、今すごく楽しいの。これまでみんなでわいわいってしたことなかったし、私には縁がないと思ってたから。クリスのおかげだね。ありがとう」


 クリスと知り合ってから、私の世界は広がった。もともとユナとは仲良しだったけど、ファミルは誰とでも仲が良いだけでただのクラスメイトだった。ガイ君やアンナちゃんとは話したこともなかったし、みんなクリスが繋いでくれた縁だと思ってる。


「こんなにみんなが応援してくれるなんてすごいね。クリスの人徳だね」


 私がそう言ってクリスに笑いかけるとクリスは真っ赤になって俯いた。フルフルと震えている。

 もしかして感動して泣いちゃった?


 クリスの顔を覗き込もうとしたら目の前で急にクリスが顔を上げた!


「わっ!」

「きゃっ!」


 二人ともあまりの顔の近さに驚いてのけぞった。クリスは勢いよくのけぞりすぎて後ろに一回転した。

 びっくりしすぎたのかドキドキする。きっと私の顔も真っ赤だと思う。


「あーあ。エミリには敵わないな。人徳があるのはエミリだと思うよ」


 芝生の草のついた髪のままクリスが笑った。


「絶対受かるからさ。見ててくれよな」


 笑って言ったクリスの横顔を照らすのは傾いてきた太陽だ。

 二人、オレンジ色に照らされながら、しばらく魔法学の続きをした。

 もうすぐ夏だけど、日暮れどきの風は爽やかだった。

明日は遅い時間の更新になると思います。できれば週末は頑張りたいと思うので少々お待ちください。

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