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真面目だけが取り柄の特待生は、自由なおぼっちゃまに憧れる  作者: 四葉ひろ


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 次の日、またクリスが私たちの教室にやってきた。

 昨日とは打って変わって深刻そうな顔だ。


「どうしたの?」

「……うん」


 ここでは話しづらそうだったので、特待科校舎裏の広場に向かう。普通科側の広場と比べたらささやかな場所だが、いくつかベンチもあってゆっくり話くらいはできる。


 口数少なくベンチに座ったクリスが話し始めるのを待つ。

 クリスも私が待っているのは感じていたようで意を決したような顔で口を開いた。


「実は……、編入試験を打診されたんだ」

「へんにゅうしけん?」


 想像していなかった単語が出て、思わずカタコトになってしまった。


「昨日、騎士科のウェルウッド先生に呼ばれただろ。今までも剣術の成績には注目してくれていたらしいんだけど、他の科目の成績が悪すぎて騎士科への編入に推薦できなかったらしいんだ。今回の追試の特に魔法学の結果が良かったから、実技と口頭試問の編入試験を受けないかって」


 クリスによると、元々騎士科は口頭試問形式の試験が多いらしい。戦場でいちいちメモを見ることはできないし、知識は全て頭に叩き込んで暗誦できるようにしろって言うのが基本姿勢らしい。口頭で回答するときの姿勢や態度も採点対象なんだそうだ。体育会系……。


「だから俺だけ特別扱いってわけじゃなくて、後期からの編入はいつもこの形式なんだっていうんだけど」

「すごいね! 騎士科って剣術や体術のエリートコースじゃない。でもクリスは行きたいの?」

「そうだな。行けるなら行きたい。兄さんも騎士だし、俺は兄さんほどの騎士にはなれないかもしれないけど、王都でなくても自領を守る騎士になれたら嬉しいな」

「じゃあ、受けるの?」


 私の質問にクリスがばっと立ち上がってこちらを向いた。そのまま地面に伏せるように土下座する。


「ごめん! 街に行くのは試験が終わってからにしてもいい? いや、こっちから誘っといて、行くとも言われてないけど、でも試験が終わったら行きたい! そして試験まで勉強教えてください!」

 

 クリスは一気にそう言うとびっくりしすぎて固まっている私をそうっと上目遣いに見上げた。

 その様子がなんだかおかしくて、私はあははと笑ってしまった。


「うん。でも騎士科の勉強で私が教えられるものあるかな」

「魔法学とか統計学とか、とにかく戦術を考えるのに必要な科目は一通りやるから、わかるのだけ教えてくれれば十分だよ。後期前の長期休み中に試験があるらしいから、休み中に兄さんに稽古をつけてもらえるよう頼んでみる」


 そう言うとクリスは嬉しそうに笑った。こっちまで嬉しい気持ちになる笑顔だ。


「じゃあ、試験の概要教えて」

「概要?」

「うん。どんな科目かどのくらい出るのかとか、何分で何問答えるのかとか」

「……え?」

「え?」


 私の質問にクリスが真っ青になった。


「……聞いてない」


 ウェルウッド先生の言葉に舞い上がって、詳細を聞いていなかったらしい。それで受けるって決めるってある意味すごい。私じゃ絶対できないなあ。まずは挑戦してみるその姿勢、とても良いと思うけど。


「……職員室行こう」

「……はい」


 

「お、来たな。彼女を連れてきたってことは受けるんだろ」


 ちょうど職員室にいたウェルウッド先生がクリスを見つけて向こうから来てくれた。

「ちょ、ちょっと先生!」

 何故かクリスは焦ってるけど、別に勉強を教えてもらう人がいても良いと思う。一目で私が試験勉強を手伝うと気付いたウェルウッド先生は流石だ。


「はい。私でお役に立てる科目があるようなので試験概要を伺いにきました」


 そう言った私に微妙な顔になったウェルウッド先生は、その顔のままクリスに試験概要の用紙を渡す。そして、


「まあ、がんばれ」


 と小さい声でクリスに言う。

 クリスは何故か力なくうなずいた。

 ……もっと元気出したほうがいいと思う。


 試験概要は細かい字でみっちり書かれている。

 私はクリスに向かって読み上げた。


 実技と口頭試問。普通科も特待科も比較的広範囲の科目を習うので、二人とも習ったことのない科目はない。

 

「じゃあ、魔法学、統計学、地政学、幾何学はノート作ってみるね。実技はお兄さんに習うとして、この騎士道とマナーはどうする?」

「騎士道は兄さんに習うとして、マナーは上の兄さんとその奥さんに習う。たぶん社交での振る舞いだと思うから。まあ俺も基本的なことは子どもの頃家庭教師に習ったから、何とかなるかな」

「さすが男爵様」

「いやいや、公爵令嬢のご学友が何言ってんだ」


 騎士科は貴族の家の次男三男が多い。代替わりして長男が家を継ぐと貴族じゃなくなっちゃうから、騎士になって騎士爵をもらうのが目的だと聞いたことがあるけれど、騎士様っていうのはやっぱり貴族の職業なんだなあ。

 私は、急にクリスが少し遠い存在になったように感じて少し悲しくなった。

 いつも一緒のユナも同じクラスのファミルももっと上位の貴族なのに、変なの。


「とにかく、長期休み前までは座学中心で対策するからよろしくな。いつもいつも頼りにして悪いけど、正直エミリ頼みなんだ」


 クリスが大袈裟に拝むので、おかしくなって笑ってしまう。とにかく休み前までまたクリスと勉強だ。

 頑張らなくっちゃ。


 

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