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真面目だけが取り柄の特待生は、自由なおぼっちゃまに憧れる  作者: 四葉ひろ


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 クリスの追試の結果は思った以上だった。


「口頭試問の科目。普通の試験の平均点以上取れた! カードを持ち込めた科目も、平均点前後は取れた。ありがとう、エミリ!」


 昼休み、特待科のクラスまできて、クリスは嬉しそうにそう言った。


「よかった! クリス、頑張ったね」


 私も嬉しい。

 

「で、俺、エミリと一緒にアンダーソン先生に呼ばれてるんだけど」

「え? なんで?」

「さあ。だから、ここまで誘いにきたんだ。アンダーソン先生。普段、こっちの職員室にいるし」


 何が何だかわからないまま、二人で職員室に向かう。もう怒られるようなことはないはずなんだけど。

 アンダーソン先生は、私たちのことを待ち構えていたようだった。


「アドラーさん! 追試結果見事でしたよ。特に口頭試問の魔法術はとても良い成績でした。プラナーさんの提案に反対してごめんなさいね」


 アンダーソン先生によると、口頭試問にしたことによって劇的に成績が上がった生徒が他にもいたらしい。でも先生が調べたところによるとクリスとは逆に読むのは問題がなくても耳から聞く情報を処理するのが苦手な生徒もいるらしく、これから一律に試験様式を変えるというわけにはいかないそうだ。


「でも、一人でも多くの生徒がより多くの学びを得てこの学園を卒業できるよう、より一層考えると約束します。あなたたちによって投じられた一石が作る波紋はきっと大きなものになるわ。私たちに気づきを与えてくれてありがとう」


 そんなことを言われて私はひどくくすぐったい気持ちになった。いつも規則に厳しい堅物のアンダーソン先生がこんなに生徒思いだなんて知らなかった。

 クリスも隣で照れ臭そうにしている。


「あ、そうそう。アドラーさんにウェルウッド先生から話があるそうよ。放課後、騎士科の訓練場に行きなさい」

「ウェルウッド先生が? 普通科は持ってもらってないですが」


 クリスは不思議そうだ。私もウェルウッド先生のことはよく知らない。この間職員室で話したのが初めてだ。特待科も少なくとも女子は習っていない。担任しているのはもちろん騎士科だろうし、もしかすると騎士科の専属なのかもしれない。

 この間は衝撃的な格好で驚いたが、その後職員室にいるのを見かけたときには、まあまあ普通の服装だった。ラフだけど剣術の先生なら許される範囲だと思う。30歳くらいの若い先生で、アンダーソン先生からみるとうちの学園を卒業した教え子なのだそうだ。


「そうね。とにかく、行ってみて頂戴。騎士科の訓練場はわかりますか」

「はい。兄が卒業生なので」


 クリスには、お兄さんが二人いる。一番上のお兄さんが将来男爵位を継いで領主になる予定。騎士科の卒業生だという二番目のお兄さんは、この間ユナが言っていたアドラー二等陸尉だ。王都の騎士団に所属していて、ユナなどは公式行事の時に護衛してもらうこともあるという。だから顔見知りなのね。クリスの運動神経はこのお兄さんに似ていて、成績さえよかったら、騎士科も狙えたのにとずっと言われ続けていたそうだ。


 とにかく、職員室ならともかく、騎士科の訓練場に私が付いていくのはおかしい。呼ばれているのもクリスだけらしいし。

 とりあえず、クリスとは別れて、特待科の教室に戻ることにした。


 別れ際、クリスが思い出したように言った。


「あ! エミリ。もうすぐ長期休みじゃん。その前に一度街に行かない? 今回のお礼。うまい店ファミルに聞いたんだ」

「う、うん。えっと、私ほとんど街に出たことがなくて」

「じゃあ、考えといて。返事は次に会った時でいいから」


 それじゃあと言ってクリスは帰っていく。

 街か。学園は小高い丘の上にある、というより小高い丘そのものが学園なんだけど、その麓には小さな街がある。王都の郊外と言うにはちょっと距離があるこの街だけど、学園の先生が家族で住んでいたり、学園に卸す商品を扱うお店が色々あったり、貴族出身の学生も多いから、その従者や護衛の人用のお店や宿があったりと小さいなりに結構栄えている。

 学生が休日に出かけたり、デートしたりするのもこの街だ。

 だけど私はほとんど行ったことがない。

 ユナと街に出るには、護衛の数を増やしてもらわないといけないし、学園にも生徒が必要なものが揃うように売店があるから、家同士の付き合いなどがない私は街に出てまで買うものがないのだ。時々、街に行った友人にもらうお菓子はとてもおいしかったけど。


「行ったらいいじゃない」

「俺の紹介した店美味しいよ」


 まあ、こう言われるのはわかってた。

 ユナとファミルに、満面の笑みで言われ、俯いて手元を見た。


「でも男の子と二人で出かけるなんてデートみたいじゃない?」

「デートでしょ」

「デートだろ」

「でも、お礼って言ってたよ」

「……」


 急に黙ってしまった二人を見上げると、残念な子を見るような顔で私を見ていた。


「……お礼だとしても、素直に受けていいと思うわよ」

「……そうだよ。迷惑だったらわざわざ街にまで誘わないって」

「そうかな」

「そうよ! 絶対に行くのよ!」


 といつになく強い口調で私に言ったユナは、ファミル、話がありますと時々出す公爵令嬢オーラで有無を言わせずファミルを連れ去った。


 よし。じゃあ次に会った時に返事しようと決意を固めた私だったけど、街行きは結局お預けになった。


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