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ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~  作者: 青空顎門
第1章 少女が統べる国と嘱託補導員

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075 ある日の授業参観

「これは鉛筆。これは消しゴムだよ」


 職員寮の自室。

 畳の部屋に置かれたテーブルに文房具を並べ、サユキが一つ一つ指差しつつ言う。

 そうしながら綺麗な形で正座している彼女の隣には、黒のサイハイソックスに包まれた細い足を伸ばしてお人形さんのように座るテア。

 ゴスロリ系ワンピースのひらひらなスカートが、畳にふんわりと広がっている。

 彼女の視線は一応サユキの指先を追ってはいるが、それ以上の反応はない。


「これって……意味、あるのかしらね」

「わたしに聞かれても……です」


 その様子を見ながら、フェリトとリクルが疑わしげに首を傾げる。

 暖簾に腕押しのような状態を見ていては、そう思うのも無理もないが……。


「まあ、すっかり中身がなくなったとは言え、体の構造的には人形化魔物(ピグマリオン)としての機能を残していますから。意味がないとは言い切れないでしょう」


 そんな二人に対し、イリュファが目を瞑りながら淡々と告げる。

 認めたくはないが、事実だから仕方ないという感じだ。


「あれらは一応、言語を操り、一定の意思を持っていますからね」


 しかし、そこだけはどうしても納得できず、感情を抑えることもできないようで、一転して苦々しく続けるイリュファ。眉間に深いしわが寄っている。

 破滅衝動に塗り潰された意思を、一つの人格的なものとは考えたくないのだろう。

 人形化魔物らしい人形化魔物と遭遇したことがないから、俺は何とも言えないが。

 ……この場はとりあえずテアのことを考えよう。


「まあ、ともかく、今のテアは記憶も経験も完全にリセットされた……新しく生まれ落ちたような状態にある訳だな。しかも破滅衝動からも解放されてる」

「はい。その通りです」


 となれば、この彼女は言葉も一般常識も知らないまっさらな赤子のようなもの。

 地道に教育していけば、真っ当な良識のある自我を確立できるかもしれない。

 あるいは、それこそがガラテアへの何かしらの対抗策となるかもしれない。

 やっておいて損はないだろう。


「サユキはサユキ。貴方はテア」


 そんなことを俺が考えている間も、年下の幼い妹を教育するように続けるサユキ。

 思えば、テアが来るまでは正式に仲間になったのは彼女が最後だった。

 同じように俺に服をデザインして貰った者同士ということで仲間意識も持っていたようだし、もしかしたら本当に姉のような心持ちでいるのかもしれない。


「彼はイサク。サユキにとって何よりも大切な人」


 と、俺の意識が自分に向いているのに気づいたからか、サユキが唐突にこちらに視線を向け、相変わらず明け透けに言い始める。

 媚びている感じは全くない。隙あらば好意を伝えたいだけだとハッキリ分かる。

 出会ってから何年経っても、俺を見る目に宿る熱は変わらない。

 傍にいられるのが心底嬉しいと言動で示す彼女を前にすると、数年の時を重ねようとも俺の心も変わることなく温かくなる。


「あ、テアちゃん。ご主人様を見てますです!」

「…………確かに、イリュファの言う通り、無意味じゃないかもね」


 サユキの視線を辿るようにテアもまたこちらに顔を向ける。

 彼女の瞳には、ほんの僅かながら初対面の時とは異なる揺らぎが見える気がする。

 見間違いと強く言われれば、そうかもしれないと思う程度のものだが……。

 その様子を見てリクルは少し興奮した声を出し、フェリトは納得したように頷いた。

 長丁場になるに違いないが、意味はあると信じられる。


「イサクも手伝ってくれる?」

「ああ。勿論」


 だから俺は、上目遣いで尋ねてくるサユキに即答した。

 正直なところ、ヒメ様達にテアを託された瞬間から内心では、ただただ彼女を傍で守っているだけで本当にいいのだろうか、とも思っていた。

 彼女の行動は一つの答えを与えてくれたと言っていい。


「ただ、今日はそろそろ出かけないと」

「あ、そうだったね。じゃあ、テアちゃん。また帰ってから勉強しようね」


 俺の言葉にサユキは頷き、それから一度テアの鮮やかな紫色の髪を柔らかく撫でる。

 それから彼女を立たせ、俺が祈念魔法を発動すると同時に一緒に影の中に入った。

 リクルとフェリトもその後に続く。


「また授業参観ですか。イサク様も心配性ですね」

「こればかりは母さん達に頼まれてるからな」


 補導員の仕事もあるが、こちらもまた大切な役目だ。

 呆れ気味のイリュファに胸を張って返す。

 そんな俺に彼女は諦めたように苦笑しながら皆に倣った。

 それを見届けてから、職員寮を出てセト達の教室へと向かう。

 途中、気配遮断の祈念魔法を使用し、既に授業が始まって静かな校舎を歩いていく。

 そしてセト達のクラスである一年A組の教室の前で立ち止まり、俺は音を立てないように気をつけながら後ろのドアを開けて中に入った。

 授業を参観するからには、ありのままの状態を見たい。


「では、今日は拡張祈念詠唱『回転』の実習を行いましょう」


 しかし、さすがは栄えあるホウゲツ学園の教師と言うべきか。

 セト達の担任であるシモン・メンプター先生は即座に俺に気づいたようで、本日行う授業内容を口にしながら眼鏡の奥でこちらを一瞥する。

 そんな彼に俺は軽く会釈をしてから、教室の一番後ろの空きスペースに立った。

 さすがに単なる祈念魔法による気配遮断では、少し対策を立てられると通用しない。

 これまでの授業参観でも即座に見破られている。

 まあ、シモン先生には話が通っているので問題ないが。


「まず、この映像を見て下さい。光の根源に我は(こいねが)う。『投射』『制御』の概念を伴い、第四の力を示せ。〈日輪〉之〈映幻〉」


 教室に潜む俺には触れず、授業を続けるシモン先生。

 彼は祈念魔法によって黒板に映像を投影した。

 そこには、シモン先生ではない誰かが祈念魔法を使う姿が映し出されている。

 空中に浮かべた火球を高速回転させているようだ。

 これは祈念魔法を学習するための一種の教材らしい。

 最低でもこの映像を祈念魔法で再現できなくては、ホウゲツ学園の教師にはなれない。


「力に回転の要素を与える。それが拡張祈念詠唱『回転』です。通常、威力や命中精度が向上します。制御の仕方によっては攻撃の軌道を変化させることも可能です」


 それからシモン先生は映像を止め、説明続ける。

 映像でイメージさせ、言葉で補足して確かなものとする。

 俺がセト達の鍛錬で行ったことと似ている。俺の場合は実演なので微妙に違うが。

 属性の得手不得手もあるし、俺のやり方は前世知識でもなければ不可能な話だろう。


 いずれにしても、思念が力を生み出す世界。

 祈念魔法を学ぶ上では、学ぶ側がイメージし易くなるような工夫は不可欠だ。

 周囲に祈念魔法を使える人間がいなければ、ホウゲツ学園に入りでもしない限りは祈念魔法を十分に扱えるようにはなれないに違いない。


「今日は『回転』を中心に、これまで学んできた拡張祈念詠唱との組み合わせをいくつか実際に使用してみることにします」


 シモン先生は教室全体を見回しながら言い、続ける。


「では皆さん、まずは得意な属性の力を目の前で回転させてみて下さい。どこかに飛ばしてしまったり、誰かに当ててしまったりしないように気をつけて下さい」


 彼の言葉を受けて生徒達は「はい」と返事をし、すぐさま言われた通りに拡張祈念詠唱『回転』を使用して祈念魔法を発動させ始めた。

 セトやダン、トバルは一発成功だ。使用したことのある拡張祈念詠唱なので当然だが。

 しかし、中には今一うまくいっていない生徒もいる。

 回転の軸がぶれたり、回転速度が安定しなかったりしているようだ。


「お前ら、どうやって合格してきたんだよ」


 と、そんな同級生の様子を見て、名字からしてフレギウス王家ゆかりの人間と思われるレギオ・フレギウスが揶揄以外の何ものでもない言葉を吐き捨てる。


 この学園の入学試験では祈念魔法も科目に入っている。

 ただ、上述の通り周囲に祈念魔法を使える人間がいないと習得は難しいため、その場の軽いレクチャーで初歩的な祈念魔法が使えるようになるか否か、という試験もある。

 その試験では理解力と成長速度が一定水準以上であれば、合格となる。

 その上でA組にいるのなら、学力試験が相当優秀だったのだろう。


「レギオ君。ホウゲツ学園の入学試験に関する合否の基準は、入学案内に記載されています。寮に帰ったら確認することをお勧めします」


 その辺りのことについて、シモン先生がわざと絡まれた生徒から意識を逸らそうとするように皮肉っぽく指摘する。すっとぼけもいいところだ。

 チクリと刺されたレギオは顔が苛立ちで歪む。


「……先生。いい加減、少女化魔物(ロリータ)を使った複合発露(エクスコンプレックス)の授業に入ってくれよ。どうせ祈念魔法なんて複合発露には敵わないんだからさあ!」


 彼は声を荒げ、八つ当たりをするように少女化魔物を道具の如く言い始めた。

 それに対し、目に余ると思ったのかラクラちゃんが机をバンと叩いて立ち上がる。


「キミさ、最初の授業で先生が言ってたこと聞いてなかったの!?」


 そして彼女は、彼をビシッと指差しながら強く言い放った。


「複合発露も使用者のイメージ次第で威力が上下するって教わったはずだよね? だから、色々な祈念魔法に触れてイメージを固めることが今後のためになるって」


 そんなラクラちゃんの反論に、レギオは憎々しげに彼女を睨みつけた。


「ラクラさんの言う通りです。相性のいい少女化魔物が使い易い複合発露とは限りません。どのような相手とパートナーになってもいいように備える必要があります」


 眼鏡をクイッと上げながら淡々と告げるシモン先生。

 九年制のホウゲツ学園の一年目。今は基礎固めの期間だ。

 A組ならば今後先取りしていくこともあるかもしれないが、まだまだ早過ぎる。

 入学から一ヶ月も経っていないのだから。


「分かりましたか? レギオ君」

「………………はい」


 不満たらたらという感じの返事をするレギオ。

 それから一先ず授業は正常な流れに戻ったものの……授業終了の鐘が鳴り響くまでの間、妙な緊張感が続いたのだった。

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