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ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~  作者: 青空顎門
第1章 少女が統べる国と嘱託補導員

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063 シニッドさんの実力の片鱗と補導の一例

 強化した視覚で遠くからシニッドさんの一挙手一投足を見詰める。

 彼は補導対象である土精の少女化魔物(ロリータ)へと無造作に近づいていっていた。

 傍らにウルさんとルーさんを伴いながら。


「いいか! イサク!」


 更には、俺に向けて大声を出す。相手に気づかれることも顧みず。

 不意を突くという考えは欠片もないようだ。

 彼自身の身の危険はともかく、仕事をちゃんと遂行できるのか不安になる。


「少女化魔物に無法行為をやめさせるには、まずは相手に認められる必要がある!」


 俺の心配を余所に、大声を発し続けるシニッドさん。

 そんな彼に少女化魔物の視線は釘づけになっており――。


「う、ああっ」


 案の定、彼女はシニッドさんに攻撃を仕かけ始めた。

 複合発露(エクスコンプレックス)によって生み出された無数の土塊が彼に殺到する。

 しかし、シニッドさんと傍らの二人は、軽やかなステップと共に全て回避した。

 そのまま彼は、こともなげに言葉を続ける。


「その方法は少女化魔物によって異なる。対話が可能なら話し合いでの補導も不可能じゃねえ。……もっとも、こいつは比較的理性が乏しい。話し合いじゃ無理そうだがな」


 魔物よりはマシなのは間違いない。

 しかし、それは直接的に元になった魔物よりはマシというだけの話。

 魔物の種類は勿論、同じ分類の魔物であっても個体によって異なるし、少女化魔物への変化の仕方でも差があると聞く。

 思い返せば、リクルの時とは様相が大きく違う。


「ううううっ」


 そうしたシニッドさんの説明の合間にも、土精の少女化魔物は攻撃を続けていた。

 唸り声を上げながら。

 少なくとも彼女の場合は言語能力も極めて低いらしい。

 まだまだ生まれて間もないのかもしれない。

 何にせよ、これでは余計に話し合いは困難だ。


「こういう時は腕っ節を見せつけて屈服させるしかねえ。少女契約(ロリータコントラクト)してなければ、どちらかと言えば野生に近い状態だ。野蛮かもしれねえが、この場はこれが正解だ」


 少女化魔物とは言え、少女契約以前では観測者として極めて低位。言葉も通じない。

 言い方は悪いかもしれないが、野生児のようなものだ。

 本能寄りな存在を手っ取り早く大人しくさせるには、第一にこちらが格上だと認識させなければならない。


 ……話し合いが可能なら話し合い。不可能なら力比べ。

 話し合いにしても、対象からの千差万別な要求や彼女達が抱える問題もあるだろう。

 コミュニケーション能力、戦闘能力。

 補導員とは、それら双方を高いレベルで要求される職業のようだ。


「ま、そういう訳だから、逃げ回っていても意味がねえ。むしろ悪手だ」


 シニッドさん達はそう言うと足を止め、少女化魔物と真正面から対峙した。

 当然ながら相手は攻撃をやめることなく、次の瞬間、無数の土塊が飛来する。

 尽く、まるで余裕を見せつけるように俺へと話しかけながら避ける彼の姿を彼女は挑発の如く受け取っていたのだろう。

 先程までよりも速度、数共に大きく増している。

 それを前に彼は回避行動を取ることもなく――。


「シニッドさん!?」


 曲がりなりにも複合発露。

 見た感じ増大した速度に応じて威力も高くなっているはず。

 如何に脅威度の低い少女化魔物のそれとは言え、無防備に受け止めれば命をも脅かしかねない。にもかかわらず、シニッドさんも、ウルさんもルーさんも微動だにしない。

 直後、散弾の如き攻撃が彼らにぶち当たり……。


「あ、あれって――」


 その光景を前にして、影の中からフェリトが驚いたような声を出す。

 土精の少女化魔物が放った攻撃は全て、何か硬いものにぶち当たったかのように甲高い音を立てながら砕け散り、速度を失って地面にパラパラと落ちた。

 その間、シニッドさん達はこともなげに立ち続ける。

 ただし、その姿は少女化魔物の複合発露が命中する直前に異形へと変じていた。


「ライカンスロープ……」


 元の世界では人狼、狼人間などとも呼ばれる存在。

 亜人(ライカン)の少女化魔物たるウルさんとルーさんの複合発露ならば、恐らくそうだろうとは思ってはいた。己が姿をそれへと変じる力に違いないと。

 だが、勿体ぶって冷やりとさせるのは勘弁して欲しかった。


「いいか、イサク。俺達がやるのは討伐じゃない。あくまでも補導だ。だから、こういう演出も時には必要になる。覚えとけ」


 と、俺の内心を読んだように、ギリギリまで複合発露を使わなかった理由を告げる。

 その正否はともかく、確かに討伐と補導は違う。

 討伐でいいなら不意打ちで終わらせるのが最も効率的だ。

 しかし、これは補導。相手に認めさせる必要がある。

 意識の外から攻撃されて、自身の敗北を認められる者はそうはいまい。

 力を示す必要があるパターンの補導では、正面から捻じ伏せなければならない訳だ。


 勿論。未だ戦意が衰えることなく、複合発露によって新たに生成した複数の土塊を巨大な岩石の如く成長させた少女化魔物の攻撃すらも全て。


「ウル、ルー、離れてろ」

「「はい」」


 それを前にしてウルさんとルーさん。人狼の姿となりながらも少し女性的な特徴を残している二人は、シニッドさんの指示通りに少し距離を取った。

 ただし、後方ではない。

 もし少女化魔物が逃走した場合、それを阻止に向かうことができるような位置取りだ。


「うううう、ああああああっ!!」


 直後、少女化魔物は作り出した岩石を、それまでの土塊以上の速さで投げつけてくる。

 対するシニッドさんは獰猛な笑みを浮かべた。

 普段の強面が人狼の如く変化しているため、正面から見ると一層恐ろしい顔になっていることだろう。恐らく、それもまた彼女を屈服させる演出に違いない。


 ……この人狼形態すら、あくまでも加減に加減を重ねた状態だったこともまた。


「はあっ!!」


 再度、少女化魔物の攻撃が直撃する正にその瞬間。

 シニッドさんの肉体は瞬間的に倍近くに肥大化し、彼はその膨れ上がった筋肉に裏打ちされた恐るべき速度で腕を振るった。

 祈念魔法によって強化された俺の視覚でも完全には捕捉し切れない。

 ただ、確実に相応の重量を持つ岩石が次々と粉砕されていく。

 一つ。二つ。三つ。四つ。五つ。

 音で攻撃の回数は確認できる。

 シニッドさんの攻撃の軌道は今一不明瞭だが、全て一撃で粉々にしているようだ。


「あ、う、ああ……」


 更に六つ。七つ。八つ。九つと続けていくと、ほんの少しずつ岩石は小さくなり、飛来する速度は落ち、少女は怯んだように一歩ずつ後退りした。

 恐らく、ほぼ全力の攻撃。

 それすらも防がれ、心が折れかけているのかもしれない。

 その動きにシニッドさんは鋭い視線を送り、開いた分の距離を詰める。

 ウルさんとルーさんもまた、彼女を中心に置いた正三角形を保つように位置を変える。


「ああああああああっ!!」


 追い詰められた土精の少女化魔物は、破れかぶれになったかのように絶叫すると、再び巨大な岩石を今度は一度に五つ作り出した。


「うううっ!!」


 眉間にしわを寄せながら歯を食い縛る様を見るに、それが制御できる限界のようだ。

 そして彼女はそれらを一斉にシニッドさんへと叩きつけんとし――。


「それが全力か?」


 しかし、その全てもまた容易く一瞬の内に彼の手で砕かれてしまった。


「あ……う……」


 その光景を前に、彼女はその場に膝を突いて座り込んでしまった。

 それに伴って反抗の意思もまた完膚なきまでに砕かれてしまったようで、そのまま怯えたような目でシニッドさんを見上げる。

 恐れに満ちた表情の少女と、正に野獣の如き恐ろしい形をした巨体。

 今正に大自然の理に従って捕食が行われようとしているかのような光景だ。


「悠なる根源に我は(こいねが)う。『翻訳』『伝達』の概念を伴い、第四の力を示せ。〈無窮〉之〈訳述〉。……これ以上暴れなければ、俺達は何もしない。大人しく俺達に従え」


 と、シニッドさんは頃合いと見てか翻訳の祈念魔法を使用し、少女化魔物にそう告げた。

 言葉として伝わるかは相手の知能次第だが、ニュアンスは伝わったのだろう。

 彼女は怯えた様子のままコクコクと首を縦に振った。

 ……仕方がないとは言え、ちょっと可哀想な気もするな。


「ウル、ルー」

「「はい」」


 そう俺が軽く同情している間に、ウルさんとルーさんが少女化魔物の傍に近づく。

 複合発露を解き、元の可憐な少女の姿に戻りながら。

 そして彼女を立ち上がらせると、両脇から挟み込むようにして手を握った。

 少女化魔物は諦めたようになすがままだ。

 その様子には少々思うところはあるが、一先ず決着というところか。


「とまあ、こんな感じだ。勿論、相手によって柔軟に対応を変える必要があるけどよ」


 同じく複合発露を解き、それでも一定の威圧感のある強面で振り返るシニッドさん。


「後は事務局に補導した少女化魔物を連れ帰って終いだ。どうだ? 流れは掴めたか?」

「……はい。大体は」

「まあ、習うより慣れろだ。水精の少女化魔物はお前に補導して貰うからな」

「了解です」


 俺の返答に満足げに頷いてから、シニッドさんはウルさんとルーさんに視線を移した。


「さて。ウル、ルー。その子のことは頼んだぞ」

「「はい。責任を持って学園まで連れて帰ります」」


 二人はシニッドさんの指示に従い、少女化魔物を連れて現場を離れていく。

 別々の場所での依頼を受けたことを考えると、最初からそうする予定だったのだろう。


「じゃあ、行くか」


 そうして改めて二人で(影の中にイリュファ達はいるが)次の目的地を目指し――。


「次は少し速度を上げるぞ」

「望むところです」


 俺は、複合発露を発動させながら駆け出したシニッドさんの後に続いたのだった。

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