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ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~  作者: 青空顎門
第1章 少女が統べる国と嘱託補導員

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053 インスタント迷宮攻略

「分かれ道か」


 ホウゲツ学園の学園長トリリス様が、自身の複合発露(エクスコンプレックス)によって作り出した迷宮の中。

 その最初の一本道を進むと、まず十字路が見えてきた。

 罠や疑似魔物とやらとの遭遇を警戒し、一先ず大分前で立ち止まる。


「悠なる根源に我は希う。『探知』『広域』の概念を伴い、第四の力を示せ。〈無窮〉之〈探界〉。………………駄目か」


 その位置で、探知の祈念魔法を用いて脅威の有無を探ると共に正しい道を判別しようと試みたが、探知可能な範囲内では違いは分からなかった。

 十字路の先はひたすらに真っ直ぐだ。

 しかし、とりあえず罠や疑似魔物は存在しなさそうではある。

 なので、慎重に十字路の直前まで進む。すると――。


「……何か書いてあるわね」


 看板のようなものが壁にかけられていて、影の中から訝しげにフェリトが言う。


「……読めない、です」

「どこの文字かな?」


 リクルとサユキもまたそこに書かれたものを読もうと目を凝らしているようだが、恐らく彼女達では読むことはできないだろう。一目見て分かる。


「イサク様。救世の転生者であるイサク様なら読むことができるのではないですか?」

「ああ。読める」


 半ば確信しているように問うてきたイリュファの予想通り、看板に書かれた内容を俺は当たり前のように理解することができた。

 何故なら、その文字は日本語だったからだ。

 ちなみに、その下には念のためという感じの小さな文字で英語の文も書かれていた。


「何て書いてあるの?」

「……右利きの人間が箸を持つ手と逆の方に進め」


 サユキの問いに応え、原文をそのまま読み上げる。


「何そのまどろっこしい文章」

「多分、これで救世の転生者かどうか判断するんだよ」

「じゃあ、左に行くです!」


 問題文に対してフェリトが感想、サユキが推測、最後にリクルが答えを口にした直後。

 維持していた探知の祈念魔法が状況の変化を知らせる。

 左に曲がる道の先が急激に形状を変え、新たな十字路が作り出されていた。

 成程。こうして進んでいく訳か。


「日本人の主食は米である。○か×か。○なら左。×なら右へ進め」

「最も暑い季節はいつか。春なら左。夏なら真っ直ぐ。秋なら右。冬なら後ろへ進め」

「最も太陽が高くなるのはいつか。朝なら左。昼なら真っ直ぐ。夜なら右へ進め」


 その後もそんな感じの子供でも分かりそうな単純で簡単な、しかし、文字を読むことができなければ正解の道を選び続けるのは難しいであろう問題が十以上続く。

 と言うか、そもそも探知した感じから言って、俺達が答えを口にしてから道を作っているようだ。たとえ物凄い運の持ち主であっても、これでは踏破不可能だろう。

 転生者である俺には簡単な話だが。


 ……にしても、最も大きく書かれた文字が日本語である辺り、救世の転生者は日本人であることが想定されているようだ。

 あるいは、最初に転移してきたショウジ・ヨスキが日本人だったから、この世界の人間にとっての転移者や転生者はそのイメージで固定されているのかもしれない。

 そして観測者たる人間や少女化魔物(ロリータ)の大半がそう思い込んでいるから、この世界を訪れる人間は日本人である可能性が高くなっているのだろう。


 途中、そんな益体もない考察をしながら解答を続け、正しい道を進んでいくと……。


「おっと」


 唐突に探知の祈念魔法が足元の道に違和感を示し、咄嗟に立ち止まる。

 突然、そこに発生したというような感覚だった。


「どうしたの?」

「落とし穴だ」


 サユキの問いに硬い口調で答える。

 どうやら今度は実力を見る領域に入ったらしい。

 常に祈念魔法で身体強化は施しているが、更に気を引き締めていくべきだろう。


 そう考え、自分自身の複合発露である〈擬竜転身(デミドラゴナイズ)〉を含め、全員分の複合発露を同時に発動させてから歩みを再開する。

 勿論、最初に気づいた落とし穴は避けて。


 そのまま他の罠らしい罠の位置も探知で把握しながら、慎重に進んでいく。

 しかし直後。

 丁度足を地面に降ろす正にその瞬間に、その真下に罠を起動させるスイッチが出現する。

 さすがにそうなると抑制が効かず、踏み抜かざるを得なくなり――。


「意地汚いなっ」


 直後、俺を目がけて飛来してくる無数の矢。

 その全てを真紅の鱗を纏った両腕で叩き落とす。

 一歩進む。

 今度は地面を踏んだ瞬間に別のスイッチが作り出され、体の重みで勝手に起動する。

 直後、背後から巨大な球形の岩が転がってきた。

 一本道で、こういうシチュエーションにありがちな回避するための窪みもない。


「このっ!」


 仕方がなく、正面から思い切り殴って破壊する。


「ってか、スイッチの意味ないだろ!」


 矢を飛ばすにしても、大岩を転がすにしても直接突然に行えばいいはずだし、何でもありな感があるこの迷宮ではそれができるはずだ。その方が避ける難易度は高い。

 だが、そうしないのは、あるいは罠という体裁を保つ縛りプレイの一種のつもりなのかもしれない。いや、十中八九そうだろう。

 何と言うか、性格が垣間見える。


 とは言え、いずれにしても複合発露の産物。

 五百年もの間、生き長らえていることを考えると、学園長トリリス様は真性少女契約(ロリータコントラクト)を誰とも結んでいないと考えるのが妥当だ。

 即ち、この罠も全て第五位階相当。

 仲間達の複合発露でバフ、デバフを重ね、俺自身も身体強化の効果も持つ〈擬竜転身〉を使用している今、細かなトラップでは脅威と呼べる程の威力にはならない。

 ただ……。


「ええい、もう。面倒臭いっ!」


 それも何十回と続くと、ひたすら煩わしくなる。

 ゆっくり進み、一つ一つを処理していくのは余りにも時間がかかってしまう。

 小石に蹴躓かせ続けるような妨害にイライラが募る。

 今何時かは分からないが、救世の転生者判別クイズでも結構な時間を取られたため、そろそろ腹も減ってきた。正直、真面目にやってられない。

 だから、俺はそこから一気に駆け出し、地面を踏む度に連続的に作動する罠全てを力任せに捻じ伏せて一本道を走り抜けた。

 最初からこうすればよかった。慎重になり過ぎるのもよし悪しだ。


 やがて視界の中、真正面に扉の開いた出入り口が現れる。

 俺は、そのまま探知の祈念魔法を頼みにそこへ駆け込んだ。

 すると一気に視界が開け、サッカー場程の広さがある大きな部屋に出る。

 そして、それと同時に……。


「今度は擬似魔物って奴か」


 この迷宮の壁と同じ石造りの巨大な人形。

 RPGに登場するようなゴーレムが中心に一体。

 その他、狼のような形をした四足の亜種ゴーレムとでも言うべきものが百体以上。

 その部屋に一歩足を踏み入れたのを合図とするように、突如として発生した。

 全てが第五位階相当の力を持つと考えると、中々の戦力と言えるだろう。

 俺もいつかのように肉体のみを武器に戦えば、割と骨が折れそうだ。

 状況的に、破壊したところで復活してきそうだし。


「……トリリス様。すみませんが、そろそろ終わりにしましょう」


 故に、それを前にして俺は静かにそう宣言した。

 無駄に試されるのが好きな人間など余りいまい。

 正直、飽きてきたし、苛々も通り越して疲れてきた。

 イリュファに脅かされたから気を張っていたが、結局のところは真剣ではあっても全力ではない力試し。フェリトやサユキの時の戦いを思えば、肩透かしもいいところだった。


 そんな俺の微妙な落胆を感じ取って逆上したかのように。

 次の瞬間、ゴーレム達が一気に俺に襲いかかってくる。

 この数全てを一瞬で捌くのは、父さんでも難しいに違いない。

 しかし――。


「凍れ」


 その一言と共に発動した力で、即座に勝負は決した。


 自分の死が相手の死ともなる真性少女契約。

 サユキと新たに結んだ契りが生んだ、俺が持つ最大の力。

 (アーク)複合発露(エクスコンプレックス)万有(アブソリュート)凍結(コンジール)封緘(サスペンド)〉。

 最高位たる第六位階を誇るその力は、瞬く間に第五位階の力を持つ広間の壁ごと百体以上のゴーレム達全てを凍結させてしまった。

 …………ちょっと、やり過ぎたかもしれない。


 仲間達は影の中にいる以上、当然ながら俺以外動くものはなくなっている。

 凍りついた世界は美しいが、根源的な恐怖もまた同時に感じさせる。

 初めて攻撃の意思と共に使用したが、実感を伴って恐ろしい力だと思い知らされる。

 かつて身を以って片鱗を体験したこともあるだけに尚のこと。


「イサク、格好いい!」


 しかし、そうした光景を前に、サユキは影の中から無邪気に俺を褒め称える。

 もし彼女のそんな様子を敵が目の当たりにしたら、悪魔のようにも見えるかもしれない。

 彼女の善悪の判断は道徳的なものではなく、あくまでも俺が基準なのだ。


「……サユキと俺の力だ」

「うん!!」


 だからこそ俺は、彼女が好意を向けてくれることを幸運を喜ぶと共に、俺達の間に生まれる力には責任を持たなければならないだろう。

 一撃で状況を終わらせた複合発露の威力に、改めて強く思う。

 それを再確認できただけ、この面倒臭い迷宮にも価値があったかもしれない。


「イサク様、あれを」


 そうこう考えていると、イリュファがわざわざ影から出てきて指を差して言う。

 促されるようにその方向に目を凝らすと、広間の奥で新たな扉が作り出されていた。

 これまでの石造りのものとは雰囲気が違う。しかし、見覚えがある。

 そうだ。あれは校舎で見た学園長室の扉と同じ形状のものだ。


「どうやら終わったようですね」


 これで試験は終了と言うことらしい。今の一撃で実力を認めてくれたのだろう。

 ようやく解放されると内心で安堵しつつも、油断したところに最後の罠があるかもしれないと気を引き締めながら扉に近づく。

 しかし、そうやってちゃんと警戒すると大抵何も起きないもので……。

 結局、何ごともなく扉の目の前に至り、俺はそれを開け放った。


 途端に光が視界に溢れ、ハッとして振り返ると背後に迷宮はなく、学園長室前の廊下。

 それから正面に向き直ると、学園長用の立派な机とその奥に一人の少女。

 傍らにはもう一人別の少女が立っているが、本命は奥の少女の方だろう。

 ようやくご対面という訳だ。


「貴方が?」

「その通り! ワタシこそホウゲツ学園の長トリリスなのだゾ」


 彼女は俺の問いかけに大きく頷き、不敵な笑みを見せながら自己紹介をする。

 その威厳も糞もない口調に虚を突かれ、一瞬思考が停止する。


「救世の転生者ヨ。よくぞ、ワタシが課した試練を突破したナ。褒めて遣わすゾ!」


 全く響いてこない称賛と余りにも妙ちきりんなイントネーションに、一応真面目に対応してきたつもりだった全てが台なしに感じられて言葉を失ってしまう。

 その有り様に疲労がドッと増し、俺は思わず深く深く嘆息してしまった。

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