表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~  作者: 青空顎門
最終章 英雄の燔祭と最後の救世

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

391/396

345 永遠の共犯者

「イリュファ」


 気まずそうに俯き加減で視線を逸らし続ける彼女を前にして、俺はもう一度可能な限り丁寧な口調で呼びかけた。

 しかし、イリュファはこちらを見ることもなく、黙り込んだままでいる。

 俺を裏切ってしまったと自分自身を強く責めているのだろう。

 少し考えて、そんな彼女にかけるべき言葉を頭の中で定めて口を開く。


「ごめん」

「…………え?」


 俺が謝罪の言葉と共に頭を深々と下げると、イリュファはその言動の意味を即座に理解できなかったのか、少しだけ間を置いてから勢いよく前を向いた。

 そして、驚きと動揺の入り混じった表情と共に俺を見詰める。


「な、何故、イサク様が謝るんですか? 私が……私が迷ってしまったせいで、危うくイサク様は、命を……」

「それは、イリュファのせいじゃない。イリュファは、何も悪くない。絶対に」


 悔いるように表情を歪めるイリュファに、努めて穏やかに、諭すように告げる。

 彼女が躊躇ったのも無理もない話だ。

 この世界のあり方そのものを丸ごと変えてしまいかねないような選択を委ねられては、むしろ当然の反応だったと言うべきだろう。

 それに、もしイリュファが迷うことなく決断できていたとしても、何らかの形でヒメ様達の妨害があったことは予想に容易い。

 下手をすると延々とフラガラッハの一撃に狙われ続けることになり、気の休まる瞬間もなく、いずれは命を失っていた可能性が高い。

 よしんば、そこまでは防ぐことができたとしても、ショウジ・ヨスキの鏡像という想定外の障害もあった。この流れ以外の状況でアレと対峙することになっていたら間違いなく、なす術もなくやられていただろう。

 何故なら、その場合は【ガラテア】が味方になっていないだろうからだ。

 結果論だが、むしろイリュファの行動は今この瞬間に至るのに必要不可欠なものだった。そうでなくとも、彼女に咎などあろうはずもない。

 にもかかわらず、この一連の出来事が彼女を苦しめているとすれば――。


「悪いのは、俺だ」


 その原因は、俺がイリュファに甘え過ぎていたことに求められるだろう。


「そんな、イサク様が悪いだなんて、それだけは絶対に……絶対にあり得ないことです! イサク様には何一つとして罪などないのですから」

「……いいや。罪はあるさ」


 確かに、あのまま既存の形の救世に利用されて命を落としていたなら、憐れな犠牲者として同情されるような終わりを迎えていたかもしれない。

 ただ生贄とされるためにこの世界に転生した者として。

 だが、俺は今も尚、こうして生きている。

 運命を乗り越え、世界のあり方を覆そうという強い意思と共に。

 言い換えれば、ショウジ・ヨスキが望んでいた美しい世界を完膚なきまでに破壊しようとしているということに他ならない。


「そして、それ以上の罪をこれから負うことになる」


 結果として社会は大きく変質し、多くの混乱が生まれるだろう。

 あるいは人々が傷つき、場合によっては命が失われる事態にもなりかねない。

 それを俺は重々理解している。それでも尚、俺は迷うことなく実行する。

 勿論、世界の変容によって起こる被害は最小限に留めるように尽力するつもりではあるが、その所業を悪と断じる者は間違いなくいるだろう。

 たとえショウジ・ヨスキの救世に大きな綻びが生じつつあったとしても。


「だからこそ、俺はイリュファに謝らないといけない」


 改めて彼女の揺れる瞳を真っ直ぐに見詰めながら静かに告げる。


「この世界に生きてきたイリュファに、重荷を押しつけ過ぎた。ごめん」


 人格形成の段階からある種の妄執に囚われた存在と接し続けていたレンリのように、救世のあり方を通じて世界そのものに疑問を持っていたならいざ知らず。

 普通は世界を変革させる重さを容易く跳ね除けることなどできないものだ。

 ただ加担するのみならず、自分自身が最後の鍵になるとすれば尚更だろう。


「や、やめて下さい! 私なんかに、謝らないで下さい」


 俺の行動をとめようとするように、一歩前に出て必死な様子で言うイリュファ。

 より一層の罪悪感に襲われていることがハッキリと見て取れる。

 そんな彼女の姿に、心の中でもう一度「ごめん」と呟く。

【ガラテア】との力こそ使っていないが、この世界で最も長いつき合いだ。

 イリュファがそういう反応をすることは分かり切っている。

 しかし、たとえ卑怯な言い方だったとしても。

 彼女と共に明日の世界を生きていくために必要なことであるなら、強引にでも俺の理屈が通るように仕向けるのみだ。


「もうイリュファが苦しむ必要はないんだ」


 だから俺は、こちらからもイリュファに近づいて彼女を抱き締めて告げた。

 若干体格が不釣り合いなのが不格好だが、無視してそのまま言葉を続ける。


「霊鏡ホウゲツは破壊した。【ガラテア】の協力も得た。もう、この世界では誰も俺を殺すことはできない。ヒメ様達が保ってきた救世は決定的に破綻した」


 生贄が機能しない以上、儀式は成り立たない。


「【ガラテア】は生き残り、何もしなければ破滅欲求は蓄積され続ける。後はそれによって人間社会が崩壊するのを待つだけだ。けど、イリュファなら、それを少しだけマシな状況にすることができる」


 これまでのあり方を変え、世界に大きな混乱をもたらすのではない。

 既に詰んでしまった現状を、彼女の手で覆すことができるのだ。


「選択肢は一つ。そうする以外にないんだ。だから、イリュファが選択の責任を問われることはない。責められるべきは、そこまで追い込んだ俺なんだから」

「イサク様……」


 体を少し離して至近距離の真正面から告げた俺の言葉をイリュファは困ったような表情のまま咀嚼し、やがて微かに頬を緩めた。

 彼女もまた俺とは長いつき合いであるが故に、こちらの意図を大まかに感じ取ったのだろう。全て、純粋に自分を慮っての言動であると。


「……イサク様を失いかけて、ようやく気づきました。私がどれだけイサク様との日々を大切に思っていたのか。もう二度と、あんな思いはしたくありません。今更かもしれませんが…………私は許されるのなら、イサク様のお傍にいたいです」

「許可なんて必要ないさ。イリュファが望んでくれるなら、ずっと傍にいてくれ」


 躊躇いがちに自身の望みを口にした彼女に、その手を取りながら即答する。


「はい」


 対してイリュファは目を潤ませて手を握り返し、安堵の微笑みと共に頷いた。

 それから彼女は一度瞑目し、覚悟を決めるように息を吐いてから口を開く。


「ですが、そうであるなら私はイサク様と同じものを共に全て背負っていきたいです。だから私が、私自身の選択で貴方と共に世界の全てを覆します」

「イリュファ……大丈夫か?」

「はい。貴方を失うことに比べたら、どのような罪も軽いことです」


 力強く告げた彼女の言葉には、もはや逡巡の気配は僅かたりともなかった。


「なら、真性少女契約(ロリータコントラクト)を結ぼう。イリュファ」

「はい。イサク様」

「よし。……ここに我、イサク・ファイム・ヨスキとイリュファとの真なる契約を執り行う。イリュファ。汝は我と共に歩み、死の果てでさえも同じ世界を観続けると誓うか?」

「誓います。私は……イサク様を愛していますから」


 これまで何度か試しながらも結局は結ぶことができなかったもの。

 しかし、まるでイリュファの覚悟の程を表すように――。


「あ……」


 今度はすんなりと契約は結ばれ、彼女は観測者としての意識の拡張を受けて小さな声を上げた。その感覚に感極まったように、一筋の涙を零す。

 それを拭って顔を上げたイリュファは、これまで見え隠れしていた引け目のない迷いから解き放たれたような穏やかな表情を浮かべていた。

 いつになく魅力的で愛らしい。

 しかし、これこそが本来の彼女なのだろう。

 それを見ることができて感慨深く思う。


「ありがとう、イリュファ」

「いえ。それは私が言うべきことです。イサク様。こんな私のために、懸命に言葉を尽くして下さった貴方に、そして、叱咤してくれた仲間にも、感謝を」


 少し離れたところで見守っていた皆と視線を交わすイリュファ。

 俺至上主義のサユキ辺りはまだ微妙な気持ちが残っているようだが、それはきっと時間が解決してくれるものだろう。俺達が共にある明日が続いてさえいけば。

 そして、それが叶う未来はもう間もなくだ。


「……【ガラテア】」

「ああ、始めようか、イサク。世界の新生を」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろうSNSシェアツール 小説家になろうアンテナ&ランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ