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ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~  作者: 青空顎門
最終章 英雄の燔祭と最後の救世

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338 積み重ねてきたもの

「一体、どうしたと言うのですかー?」

「えっと、その、見渡す限り森しか見えなくて……」


 訝しげに問うたムートに、ルトアさんは困惑気味に答えた。


「……どうやら、鎮守の樹海の効果にやられているようですね」

「俺が話に聞いた限り、樹海の外に出ようとすればすぐに出ることができるが、中心に向かおうとすると途端に迷ってしまうらしいな」


 ラハさんの呟きを補足するように、ライムさんが告げる。

 彼もまた身体強化系の複合発露(エクスコンプレックス)を有していないだけに、恐らくルトアさんと同じものを目にしているはずだ。

 どことなく、伝聞の知識を実感と共に理解できたというような気配がある。


「中心。つまるところ私達の目的地ですねー」

「ええ。そして、精神干渉の効果は、そこに近づけば近づく程に大きくなると考えていいでしょう。勿論、私ならそれを跳ね除けて突き進むこともできますし、皆を抱えて強引に辿り着くことは不可能ではないはずですが……」

「どんな副作用が生じるか分かったものじゃないな。それこそ強迫観念に囚われたように、冷静さを失って逃げ出そうとしてしまうかもしれない」


 もしも肝心要のラクラちゃんとスールがそのような状態になってしまったら、もはやどうしようもなくなってしまう。

 新たな救世を形作るどころか、俺達はそのまま命を失って敗北することだろう。


「そこで貴方の出番という訳です」

「ああ。分かっている。全てを正しく認識できるという精神干渉を施そう」


 深く頷くように告げたライムさんは、自らに巻きつけた祈望之器(ディザイア―ド)メギンギョルズの複製改良品によって強化された(アーク)複合発露(エクスコンプレックス)千年(ラスティング)五色(オーバーライト)錯誤(パーセプト)〉を発動した。

 瞬間、ルトアさんの目に映る全ては正常になり、地平線まで埋め尽くされていた樹海は常識的な範囲のそれとなる。

 富士山の雄姿もまた視界の中に戻ってきた。

 位置関係的に、どうも樹海の上空に入ったところで右往左往していたようだ。

 いずれにしても、これで先に進むことができる。


「さあー、急ぐのですー」

「は、はい! 中心、ですね!」


 そしてムートの指示に従い、再び雷光と共に翔け出すルトアさん。

 精神干渉が解除されれば、樹海の中心部に至るのは一瞬。

 そこには柱をいくつも組み合わせたような、どこか鳥居に似た構造物があった。

 まるで何かを囲んで守っているかの如く円周上に複数配置されており、ルトアさんが奥に目を向けると中心に小さな木造の社がポツンと建つ様が見える。


「アレの地下ですねー」

「はい!」


 ムートに言われ、ルトアさんは早速そこに向かおうとした。

 アコさんの力を通して伝わってくる思考は、俺を救出することでいっぱいだ。


「待ちなさい」


 そんな彼女を言葉で抑制すると共に、ラハさんが影の中から出てくる。


「……やはり、あの鳥居。結界のような役割を持っていますね」


 それから少しの間その鳥居もどきを睨みつけ、彼女はそう断定した。

 恐らく水の粒子を周囲に散布して確認したのだろう。

 それがなくとも、よくよく見れば柱一つ一つにメギンギョルズが幾重にも巻きつけられており、少なくとも祈望之器であることは明らかだった。

 緊張感と焦燥感からか、ルトアさんの注意力が大分散漫になっている。

 ラハさんもそれを懸念したに違いない。

 彼女を落ち着かせるように、若干わざとらしく鷹揚に続ける。


「更に言うなら、重なるようにもう一つ。複合発露によるものと思われる結界もありますね。相乗効果によって大幅に強化されているようです」


 こちらはディームさんの〈破魔(アイソレント)揺籃(フィールド)〉によるものだろう。

 当然と言うべきか、これもまた様々な祈望之器で底上げされているに違いない。

 二つの結界を重ね合わせた鉄壁の守り。

 あのまま突っ込んでいたら、間違いなく致命傷を負っていた。

 あるいは、不測の事態が起きた時の最後の砦がここなのかもしれない。

 とは言え、その程度のものに阻まれ続ける彼女達ではない。


「そんなものー、壊せばいいだけですー」

「……勿論、私達ならば不可能ではありませんが、少々消耗してしまいます。今後を考えれば余力を残しておくべきでしょう。ですので――」


 ラハさんはムートの言葉にそう返してからルトアさんと向き直り、彼女の影に手を突っ込むと一本の刀を取り出した。


「これを使いなさい」

「これは――」

「あらゆるものを断ち切ると謳われる祈望之器布都御魂(ふつのみたま)を、対結界に特化させる形で複製改良した刀、結界通し。その最新型です」


 ルトアさんにそれを手渡しながらラハさんが答える。

 元々は人形化魔物(ピグマリオン)コロセウムの結界を切り裂くために作られたもの。

 今回、【ガラテア】の居城に突入する障害となったヴィナーヤカの少女化魔物(ロリータ)シャテンの〈生障滅障(フォールン)擯斥(ガネーシャ)〉を破った祈望之器でもある。

 その柄には、もはや当たり前のようにメギンギョルズが巻きつけられている。

 一度限りに限定することで効果を最大限に高める工夫も施されているはずだ。

 これならば狂化制御の矢を使ったりせずに結界を打ち破ることができるだろう。


「ここから先は貴方の速さが不可欠です。後は手筈通りに」

「は、はい!」


 そしてラハさんは再び影の中に戻り、ルトアさんは結界通しを構えた。

 武器を扱う経験も乏しいだけにへっぴり腰だが、その斬撃に技巧は必要ない。

 概念的な効果は素人の振り下ろしでも十全に発揮される。

 故に、遅く鈍い一撃ながらも、それを受けた結界はガラスが割れるような甲高い音を立てて刀身と共に完膚なきまでに砕け散った。


「行きます!」


 そう宣言すると同時にルトアさんは地を蹴り、新たに取り出した結界通しを転ばぬ先の杖として一気に社に突っ込もうとする。

 しかし、次の瞬間。突如として視界が移り変わった。

 アコさんが何かした訳ではない。

 視点はルトアさんのままだ。


「これは……」


 彼女の目に映ったのは、木造の社とは似ても似つかない石造りの部屋。

 何となく覚えがある。

 ホウゲツ学園地下の空間によく似ている。つまり――。


「トリリス様の〈迷宮悪戯(メイズプランク)〉……?」


 かの力で、社の近辺を自らの領域として再構築していたのだろう。

 その内部に入り、強制的に移動させられたのだ。


「って、また!」


 俺と同じ結論をルトアさんが抱いている間に、彼女の目の前に鏡像が現れた。

 その奥には銅鏡を人間の全身が収まる程に大きくした鏡が安置されていたが、それを各々が認識するより早く更に別の場所に移される。ルトアさんの鏡像と共に。

 恐らくは、あの鏡こそ霊鏡ホウゲツ。

 破壊することができれば一気に王手をかけられたかもしれないが、もしラハさんとムートが影の外に出ていたら二人の鏡像も発生していたことだろう。

 そうなれば攻撃を妨げられてしまう上に、二人を完全に封じ込まれてしまう。

 こちらが不利になるだけだ。

 それは移動させられたこの場でも同じこと。

 鏡像のルトアさんの目に映れば、二人と同等の敵が襲ってくることになる。


「落ち着いてー、やるべきことに集中するのですー」

「はい……!」


 影の中からのムートの声に、緊張感を高めて応じるルトアさん。

 しかし、先程とは違い、恐怖心を抑え込む適度な精神状態となっている。

 そのおかげもあるだろう。

 拠点に侵入されて警戒を強めたのか、鏡像は【ガラテア】の居城で現れたものとは対照的に積極的に攻撃を仕かけてくるが、ルトアさんは冷静に回避できていた。

 ヒメ様達との盟約により、彼女達が対峙する鏡像の強さは互角。

 認識外からの援護があれば、天秤は容易く傾く。故に――。


「一直線に突き進むのですー!!」


 次の瞬間、ムートの言葉を合図としたようにダンが影から飛び出し、再び蜘蛛の巣と植物の蔓で鏡像を拘束した。視界も塞ぐように雁字搦めに。

 と同時に同じく影から出たムートが、大地を司るその力を以って辺り一帯を掌握し、地下のとある一方向へと向かう真っ直ぐな道を作り出す。

 それを待ち構えていたように、ルトアさんは結界通しを前方に突き出すようにしながら雷速を以って目の前の道を翔け抜けた。

 その直前に再び影に飛び込んだダンやムートも伴って。


「押し通りますっ!!」


 一つ一つを顧みれば、今生で積み重ねてきた全てを以って切り開いた道。

 それが続く先には、地上で見た社に似た雰囲気の木造の部屋があった。

 出入り口にはディームさんが再び張ったと思われる結界があったが、それもまた結界通しによって打ち砕いて部屋の中に至る。

 そして……。


「イサク君っ!!」


 ルトアさんの目に驚愕の表情を浮かべるヒメ様達と、頬を涙で濡らして座り込むイリュファ、それから氷漬けになった俺達の姿が映った。

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