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ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~  作者: 青空顎門
最終章 英雄の燔祭と最後の救世

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336 想定と解決策

「何て馬鹿なことを……」


 一通りセト達の説明が終わった後。

 皆が状況を咀嚼する中で、アコさんが唖然としたように呟いた。


「こんなことをしても結末は変わらない。たとえ君があの状態から復活を果たすことができたとしても、霊鏡ホウゲツは君自身の鏡像を作り出す」

「鏡像は、所詮鏡像でしょう?」

「いいや。他の者に対しては私達との約束で、決して命を奪わないという縛りの下で完全同一の存在に留めているだけだ。翻って君は、救世のために必ず死んで貰わなければならない相手。これまで映し出してきた全ての力を解放するだろう」


 ……つまるところ、リクル達や母さん達は手加減されているという訳か。

 恐らくは、救世の転生者以外の存在を手にかけてしまうようなことがあれば、アコさんたち自身の心が潰れてしまいかねないからだろう。

 彼女達の精神状態は、契約によって必然的に道連れになる少女化魔物(ロリータ)達でさえ直接害するのは避けたいと強く思う程度には、いっぱいいっぱいなのだ。

 そのギリギリのところで保っている均衡を崩さないように。

 救世のシステムを定めた過去の英雄ショウジ・ヨスキによって、そうした交換条件のようなものが作られたのだろう。

 未来永劫救世を維持していくには、彼女達の協力は必要不可欠だから。


「だから、君は決して勝つことはできない。何故なら最低でも君と互角の力。そこに歴代の力が更に上乗せされる訳だからね。どちらにせよ、君は詰んでいるんだ」

「…………だ、そうだが。どうする? イサク」


 そんなアコさんの話を黙って聞いていた【ガラテア】が試すように問いかけてくる。が、当然ながら答えは一つだ。


「俺は、負けるつもりはありません」

「フラガラッハによって致命傷を受けた者が言っても説得力なんてないぞ」

「ですが、そちらの思惑も外れてるじゃないですか。つまり、アコさん達も、貴方達の裏にいる存在も、完璧という訳じゃない」


 何せ、とっくに死んでいるはずの俺がまだ、こうして生きているのだから。

 その反論にアコさんは一瞬だけ言葉を詰まらせる。

 それから彼女は一つ深く嘆息すると、苦虫を噛み潰したような表情を浮かべながら再び口を開いて絞り出すように告げた。


「……可能性がゼロに近いことは間違いない。そんなことに、弟達を巻き込むな」

「この世界の寿命を考えれば、次の救世まで弟達が生きている可能性は高いでしょう。そうでなくとも子孫はいるはず。破綻しかけた救世を頼みにはできません」


 対して即座に俺がそう返すと、アコさんは完全に黙り込んでしまった。

 少なくとも次の救世において大きな方針転換をしなければならないことは、彼女達も心のどこかで理解しているのは間違いない。

 最小限度の犠牲。その割合を大きく高めざるを得なくなるような方針転換を。


「ふ。無理と笑うなら全てが終わってからにすればいい。私とイサクがとまることはない。黙って続きを見ていることだ」

「……っ」


 アコさんは【ガラテア】の言葉に対しても忌々しげな息遣いをするのみで口を開かず、結果的にこちら側は静かになる。

 それを待っていたかのように、ルトアさんの視界の中で話が再開された。


「……彼女の言葉、荒唐無稽だとは思わなかったのですー? そもそもー、貴方達は彼が救世の転生者だと知らなかったのですよねー?」


 最初にムートが相変わらずの間延びした口調で、そう彼らに問う。

 テレサさんから一通りの説明を受けたということは、セト達もまた俺がそうであると知ってしまったということに他ならない。


「少し驚きましたけど、割と納得できたというか……」

「あんちゃんだから」

「むしろ、そうじゃなかったら救世の転生者ってどんな化物だって思ってました」

「自分は、その、お師匠の対応が特別だったので予想はできてたッス」


 対してセト、ダン、トバル、それからヘスさんが少し困ったように答える。

 まあ、両親も気づいていたのだ。

 確証はなくとも薄々、多分そうだろうぐらいには感じていたのだろう。

 ここに至るまで色々と事件に巻き込まれ、何度も全力を振るってきたからな。


「そんなことより、猶予がどれだけ残されているか分かりません。速やかに行動に移りましょう。旦那様を救い出すために」


 と、レンリが焦燥の滲んだ声で、横道に逸れた彼女達を咎めるように言った。

 状況的に彼女に落ち度などないのに、食いとめられなかったことに責任を強く感じているようだ。


「少し落ち着きなさい、レンリ」


 そんな彼女に対し、長年のパートナーたるラハさんが静かに宥めて更に続ける。


「冷静さを欠いてしまっては、助けられるものも助けられなくなります」

「ラハ……ええ、分かって、います」

「よろしい。ともあれ、のんびりしていられないのも事実です。早速、行くとしましょう。想定される障害を突破するための駒を得るために」


 一つ頷いてから、レンリの気持ちをくんで促すように全員を見回すラハさん。

 それに各々首を縦に振って同意を示し……。


「では、説明した通りに」


 セトの丁寧な言葉を受け、彼女達は三つのグループに分かれた。

 まずルトアさんとラハさん、そしてムート。

 レンリが祈念魔法を用いてルトアさんの影に空間を作り、残る二人はその中へ。

 次にレンリとセト、ダン。

 最後にこの場で待機するトバルとヘスさんだ。


「さあ、行きなさい」

「はい!」


 そしてラハさんの指示にルトアさんは気合を入れて返事をし、開け放った窓から雷光と共に空へと翔け出した。

 彼女達が目指す先は刑務所。

 目的はそこにいるライムさんを拉致し、協力を仰ぐことだ。

 テレサさんが告げた、氷漬けになった俺達の居場所。

 霊峰の麓。鎮守の樹海の奥深くにある社。

 元の世界で言えば、富士の樹海のどこかということになるが……。

 そこは足を踏み入れた者の感覚を惑わす概念を持った天然の祈望之器(ディザイア―ド)らしい。

 勿論、ラハさんやムート程の身体強化があれば問題はない。

 だが、同行者の中にはその効果を防げない者もいる。

 ならば、先にその影響を上回る精神干渉を先んじて施すことによって鎮守の樹海を突破しようというのが、彼女達の行動の意図だ。


「覚悟はいいですか?」

「はい。イサク君が危機的な状況にある今、私は半分死んでいるようなものですから。イサク君のためなら躊躇はしません」


 刑務所上空で問いかけたラハさんに、ルトアさんが固い口調で応じる。

 それを合図としたように。


「では――」


 影からラハさんとムートが飛び出し、それぞれの(アーク)複合発露(エクスコンプレックス)を発動させた。

 同時にラハさんが水を操って全体に濃霧を発生させ、着地したムートが大地を操って地面を隆起させることで施設を分断させていく。

 折角、【ガラテア】による攻撃を免れていたようだったのに少々申し訳ない。

 だが、こればかりは必要不可欠なことなので仕方がない。

 勿論、彼女達もここで負傷者を出すつもりは毛頭ないものの、後で罪に問われるようであれば俺も一緒に償おう。


「こっちです」


 そんな二人の力によって刑務官達が混乱の渦に巻き込まれている間にラハさんを先頭に刑務所内へと突入し、独居房を目指す。

 事前の情報と探知によって迷うことなく進んでいき……。

 やがてライムさんの部屋へと至ると、ムートが速やかに扉を破壊した。


「一体、何の騒ぎだ。……っと、君達は――」

「説明は私がします」


 突然破壊された扉から距離を取って身構えていたライムさんは、見覚えのある顔を目にして僅かに警戒を緩める。

 そして彼はラハさんの簡潔な説明を最後まで聞き、複雑な表情を見せた。


「どうか、私達に力を貸して下さい。イサク君を、救うために」

「……愚かな俺の過ちをとめ、アロンを救ってくれた男だ。俺も助けてやりたい。だが、そうすることは、人類を滅亡に導くことに他ならないんじゃないか?」


 深々と頭を下げて乞うたルトアさんに対し、難しい顔で腕を組みながら懸念と葛藤を言葉にして伝えるライムさん。


「いいえ。イサク君は、新しい救世の形を作り上げようとしていました。人々が間違えさえしなければ、そうなることはあり得ません! 絶対にです!」


 そんな彼の返答を受け、ルトアさんは必死の形相で叫んだ。

 強烈な感情を伴ったその言葉にライムさんは気圧されたように一歩後退りし、それから真っ直ぐ視線を逸らさずにいる彼女の目を試すように見る。

 数字にすればそれ程ではないだろう。

 だが、ルトアさんの主観では永遠に思えるような時間が流れた後。

 ライムさんは一つ息を吐くと、表情を引き締めて口を開いた。


「…………分かった。信じよう。君とイサクを」

「あ、ありがとうございます!」

「では、行きましょうか。時間が惜しいので」


 もう一度深々と礼をするルトアさんとは対照的に、サクッと告げるラハさん。


「転移をお願いします」

「分かった」


 そうして彼女達はライムさんの力でホウゲツ学園に戻り……。

 職員寮の俺の部屋へ向かうと、俺を救うのに必要不可欠なもう一つの要素を確保してきたレンリ達と合流したのだった。

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