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ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~  作者: 青空顎門
最終章 英雄の燔祭と最後の救世

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335 操られたように、導かれるように

 雷光で廊下の壁を照らしながら、ルトアさんが空間を翔け抜けていく。

 行く手を阻んでいた鏡像の姿は、既に彼女の視界の中にはない。


「馬鹿な」


 そうした状況を前にして、アコさんは呆然と呟いた。

 突如としてルトアさんの鏡像を拘束した蜘蛛の巣と無数の蔦。

 それらが複合発露(エクスコンプレックス)による現象であることは誰が見ても明らかだ。

 しかし、既に詰んだ状態だと認識していたアコさんの頭に、それがこの場で生じる想定などある訳もなく……彼女は予想外の事態に動揺する以外ないようだった。

 加えて、超高速で移り行く視界の端に一瞬だけ映り込んでいた二人の存在。

 それもまたアコさんからすれば異常事態故に、彼女の混乱は増すばかりだ。


「な、何故、あの子がそこにいたんだ……」


 震える声で自問するように呟くアコさん。

 あの子とは、現れた二つの人影の内の一つ。俺の弟分であるダンのことだろう。

 移動範囲を制限するために廊下に張り巡らされた蜘蛛の糸も、ルトアさんの鏡像を直接絡め取った蔦も。全て彼がなしたことだった。

 真性少女契約(ロリータコントラクト)を結んだアラクネの少女化魔物(ロリータ)のトリンさんとアルラウネの少女化魔物のランさんとの力を以って、ルトアさんの行動を援護したのだ。

 しかし、当然ながらダンは今回の作戦に参加していない。

 非常事態下で彼を含め、生徒のほとんどはホウゲツ学園地下に避難中だ。

 そんな中でダンがどうやってここに現れたかと言えば――。


「テレサ! 一体何をやっているんだ!?」


 もう一人。ヒメ様直属の部下であるはずの彼女。

 その転移の複合発露によって、ダン()はこの場にやってきたのだ。

 だが、彼女がそのような行動を取ることが信じられないアコさんは、こちらから言葉が届くはずもないにもかかわらず、声を荒げて問い質そうとしていた。

 勿論、彼女からの返答はない。


「ふ、ふふふ。信頼のないことだな。あの少女化魔物は、お前達をいとも容易く裏切るような性格だったのか?」

「そんなことは……そんなことは、ない。けれど、あの子はまだ……」

「ああ。忠誠はあれど、迷いもあった。救世の転生者とその仲間の少女化魔物達を諸共に犠牲にするこの救世にな。そうした心の隙に悪魔はつけ込むものだ」


 含み笑いをしているような気配と共に【ガラテア】は告げる。

 その迷い故に、俺に対して冷たい態度を取っていたのだろう。

 理由は恐らくチサさんと同じ。

 親しくなってしまうと後で辛くなるのは自分だからだ。

 もっとも、そういう自覚の下に距離を置こうとしている時点で、一定の情が生じてしまっているとも言えなくはないが。

 いずれにしても、アコさん達よりはまだまだ経験の浅い彼女。慣れて割り切ってしまうには、まだまだ純真な心を残し過ぎていたようだ。


「…………そうか。全て、お前の仕業かっ!」

「ふふっ」


 諸々理解したアコさんの怒りに染まった声に【ガラテア】は意味ありげに笑う。

 その反応で彼女は一層の確信を得たようだった。


「くっ、テレサ……」


 歯噛みしているような気配を湛えながら、しかし、何もできずに眼前の光景を見ていることしかできない様子のアコさん。

 もっとも、この夢の世界を終わらせてしまえば、こちらの意識は闇に沈んでしまうため、俺達は何の干渉もすることができなくなるのだが……。

 テレサさんに比べて小さいものにせよ、彼女もまた心の内に迷いを抱いている。

 だからこそ、その選択肢を取るという思考が生じることはない。

 複合発露で【ガラテア】の意図を読もうとすらしないのと同様に。

 そうしてアコさんが動揺から立ち直れずにいる間に。


「お母さん!」

「ルトア!?」


 ルトアさんは母さん達の下に辿り着いた。

 しかし、こちらはこちらで各々の鏡像と千日手のような戦いを繰り広げている。

 そうした状況を好転させる力は、ルトアさんにはない。むしろ――。


「何があった!?」

「イサク君が、致命傷を負ったままヒメ様達に連れ去られました!」

「何じゃと!?」


 端的に状況を告げたルトアさんの言葉に衝撃を受け、母さんが体勢を崩す。

 戦闘経験の乏しさが、こうした面でも出てきた形だ。

 しかし、鏡像はその隙を狙うようなことはなかった。

 ヒメ様が言った通り、俺達以外の無用な犠牲を出すつもりはないようだ。

 代わりに、母さんの鏡像は何かを確かめるようにルトアさんを睨む。


「ひっ」


 その無機質な視線を受け、ルトアさんは小さな悲鳴を漏らした。

 直後、再び何もない空間から彼女の鏡像が現れて目の前に立ち塞がる。

 その様子を見る限り、ダンの拘束を振り解いてきた訳ではないのだろう。

 アチラで自壊して、コチラで再生したと考えるのが妥当か。

 母さんの鏡像の動きを鑑みるに、別の鏡像による認識が必要なのかもしれない。

 レンリのところに発生した一体目を思い返すと、また別の要素もありそうだが。


「お、お母さん! レンリさんはどこに!?」

「城の外じゃ! 妾達と同じく己の偽者に襲われておる!」


 奥歯を噛み締めて恐怖に耐えつつ尋ねたルトアさんに、母さんは即答した。

 それを受けてルトアさんは即座にレンリの下へと向かおうとするが、再び自身の鏡像に邪魔をされてしまう。単独で突破することは、彼女には不可能だ。

 しかし、次の瞬間。


「え?」


 突如として廊下が業火に包まれ、ルトアさんの鏡像は焼き尽くされた。

 身体強化の強度が高い他の鏡像達も、炎に煽れて僅かながら動きをとめている。


「今度は誰だっ!?」


 苛立ったようなアコさんの問いに答えるように、咄嗟に城の外へと飛び出そうとしたルトアさんの視界の端には俺達の妹、ロナの姿が映り込んでいた。

 過剰なぐらいメギンギョルズを巻きつけ、狂化制御の矢を手に刺している。

 それによって強化された炎で隙を作り出したのだろう。

 加えて、テレサさんが瞬間的にムートの傍に出現し、彼女と共に更に転移していった様子もまた、ルトアさんの目には映っていた。

 認識することはできていなかったようだが。

 ともあれ、そんな状況の廊下に背を向け、ルトアさんはレンリの下を目指す。


「レンリさん!!」

「え? ルトアさん!?」


 彼女の居場所は、上空で派手な戦闘を展開していたが故に一目瞭然だった。

 そこへ近づき、ルトアさんは彼女に呼びかける。

 同じ過ちと言うべきか、それに驚いて動きを鈍らせてしまうレンリ。展開を繰り返すように鏡像は追撃をせず、再びルトアさんの存在を目に映そうとする。

 だが、正にその刹那。

 背後にテレサさんとムート。更にレンリのパートナーたるラハさんが出現した。

 そして、多数の複製改良品によって大幅に強化された三大特異思念集積体コンプレックスユニーク二体の攻撃が同時に放たれ……。

 レンリの鏡像は、完膚なきまでに叩き砕かれて消え去った。


「ラハ!? どうしてここに!?」

「その説明は……後程。……今は……転移を」


 レンリの問いに、夢遊病患者の如き異様な雰囲気を湛えて告げるテレサさん。

 その様子に得も言われぬ圧を感じたのか、レンリも他の面々も口を噤む。

 疑問はさて置き、言われた通り全員テレサさんの傍に集まり……。

 彼女が速やかに発動した転移によって、視界が移り変わった。

 そうして目に映ったのはホウゲツ学園の俺の部屋……と思われる間取りの、一つも家具のない寮の一室。

 瓦礫の山となっていたはずだが、トリリス様がガワだけ修復したのだろう。


「ここまで来れば……鏡像は一先ず……追ってきません」

「どうしてそう言えるんですー?」

「印刀ホウゲツが一定範囲内になく……別の鏡像も存在しなければ……霊鏡ホウゲツが新たな鏡像を作り出すことは……ありませんから」


 ムートの問いに、息も絶え絶えと言った様子でテレサさんが答える。

 とりあえず、現時点では追手については考えなくていいらしい。

 ルトアさんも心の中で安堵し、改めて部屋の状況へと意識を移す。

 そこにはレンリとムート、ラハさん以外にも何人かの姿があった。

 更にセトとダン。トバルとヘスさん。

 ロナはいない。ムートを確保するために、あちらに残さざるを得なかった。

 今頃自身の鏡像と相対しているはずだが……。

 心配と申し訳なさは、今は心の奥にしまい込んでおく。

 そうこう考えている間に、テレサさんが辛そうに言葉を再開した。


「霊峰の麓……鎮守の樹海の奥深くにある社……そこにイサク様はいます。……後のことは……運命の導くままに」


 そして、何とかそこまで告げると、彼女はフッと糸が切れた人形のように意識を失って倒れ込んでしまった。

 迷いにつけ込まれてヒメ様達を裏切るような行動を半ば強制された結果、精神的に大きく消耗してしまったのだろう。


「説明もなく気絶したのですー。この子は何だったのですかねー?」


 そんなテレサさんを目にして、若干困惑したようにムートは首を傾げた。

 内情を知らなければ当然の反応か。


「話は彼女から全て聞いていましたので、僕達が説明します。皆さん、どうか兄さんを助けるために、手を貸して下さい」


 そこへセトが、必死に冷静を装っているような口調と共に頭を下げる。

 対して【ガラテア】の居城から連れ戻されたルトアさん、レンリ、ムートの三人は、テレサさんへの疑問は棚に上げ――。


「パートナーとして、それは当然です!」

「妻の役目は、必ず果たします」

「彼には借りがありますからねー」


 それぞれの言葉で応じると、セトの説明に耳を傾けたのだった。

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