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ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~  作者: 青空顎門
最終章 英雄の燔祭と最後の救世

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332 八方塞がりの少女達

「リクル殿……どう、されまするか?」


 己の鏡像を視界の中に収めつつ、少し離れた位置からアスカが問う。

 対してリクルは、平静を欠いた思考ながら頭の中で懸命に状況を整理していた。

 選択を委ねられる形となり、かつてない程の重苦しい感覚を抱きながら。

 イリュファがヒメ様達や氷漬けの俺達と共に去ってしまった以上、この場に残っている者の中では彼女が一番俺とのつき合いが長い。更には戦闘力も最も高い。

 アスカが判断を仰ぐのは当然の話と言えなくもないが、リクルの心は今にも押し潰されそうで、それを垣間見ている俺は胸が張り裂けそうだった。


「当然……ご主人様を助け出しますです。何があろうとも、です」


 彼女はそれでも絞り出すような声で答える。

 そうする以外に道は残されていないと改めて告げるように。

 無論、リクルが葛藤していたのは助けるか助けないかの部分ではない。


「承知いたしましてございまする。……しかし――」


 その返答をアスカもまた当然と受けとめるが、彼女は間合いの外で微動だにせずにいる鏡像達に視線を向け、忌々しそうに表情を歪めて言葉を詰まらせる。

 抗おうとさえしなければ、それらが皆を傷つけることはない。

 ヒメ様はそんなようなことを告げた。

 そして事実として。彼女達が転移によってこの場を去った後。

 こうしてリクル達が距離を取って会話をしている間、それらは完全に攻撃の手をとめて彼女達の様子を窺うように佇んでいた。

 アチラとしては、後はサユキの氷を打ち砕くだけで俺は勝手に死ぬ。

 それまでの間、彼女達を足どめすることさえできればそれでいいのだろう。

 だが、リクルが自ら口にした通りの行動を実際に取ろうとすれば、すぐにでも鏡像は再び動き出して襲いかかってくることは間違いない。

 故に――。


「如何にして天秤を傾けるか。それが問題でありまする」

「分かってます、です」


 本物と鏡像の力は完全に互角。

 無策で戦っても結局は千日手に陥ってしまうだけだ。

 それは避けなければならない。

 かと言って、どれだけの猶予が残されているかは分からない。

 リクルにかかっている重圧は生半可なものではないだろう。

 心の内を見る限り、自分の選択に全てがかかっていると思い込んで半ば視野狭窄に陥っているような状態なのだから尚更のことだ。

 しかし、傍観者である俺にはそれを指摘することすらできない。


「ルトアさん、私達はここであの鏡像を抑えますです。ですから、助けを呼んできて下さいです。この均衡を崩すには第三者の力を借りる以外ありませんです」


 俺が悔いている間に、リクルはそう固い声でルトアさんに乞う。


「……わ、分かりました!」


 それを受けて彼女は恐怖心を何とか抑え込もうとしているかのような微妙な表情の変化を見せてから、己を鼓舞するように力を込めて応じた。

 皆、既に精神的に追い詰められている。

 それでも尚、俺のため、自らのために袋小路の如き状況を打開しようと必死だ。


「私達が生きているということは、ご主人様はまだ死んでないということです。生きてさえいれば、きっと可能性はありますです」


 そして自分に言い聞かせるように呟いたリクルは、その場にいるフェリト、ルトアさん、アスカを見回してから一度瞑目して一つ深く呼吸をし……。


「ルトアさん。今から仕かけますです。そうしたら、すぐ行動して下さいです!」


 覚悟を決めたように目を開き、そう強い口調で指示を出した。

 それに対し、ルトアさんが「は、はい!」と張り詰めた声で答えた直後。


「行きますですよ、二人共!」

「承知!」

「ええ」


 呼びかけに応じたアスカとフェリトと目線を交わしてタイミングを計り、三人は各々(アーク)複合発露(エクスコンプレックス)を解放した。と同時に、リクルとアスカが駆ける。

 それを合図に、ルトアさんと鏡像達が一斉に動き出した。


「全力で、機先を制する! です!」


 スライムの分裂体をも利用した循環共鳴による強化を一点に集中し、絶大な威力を伴った拳を真っ直ぐに自分自身の鏡像へと叩き込まんとするリクル。

 アスカもまた、彼女の鏡像がそれを妨げることがないように、鋭く研ぎ澄ませた風の刃で左右対称の己を撃った。しかし――。


「ぐっ」


 鏡像というものは本来、自らの動きに合わせて動くものだ。

 あるいは、光の速さならば異なった結果が生じたかもしれない。

 いや、恐らく概念の蓄積によってそれでも同じ結果だった可能性が高いが……。

 何にせよ、この程度では均衡を破ることができず、拳は拳を以って、風の刃は風の刃を以って迎撃されてしまい、続く攻防もまた天秤を傾けることはなかった。

 それでも、今の主たる目的はルトアさんをこの場から逃がすこと。

 援軍が来るまで耐え切れば、状況を打開できるはず。


「負けません。絶対に、です!」


 そう信じて鏡合わせの戦いを維持しようとするリクル。

 しかし、彼女は視界の端で、雷光を纏った何かが大広間から飛び出していったルトアさんを追いかけていくのを認識し……正にその瞬間、視界が移り変わった。

 どうやら、今度はルトアさんの視点に切り替わったようだ。


 アコさんの意図の一つとして、八方塞がりの状況を自覚させることで俺に諦めを抱かせ、結末を受け入れて貰うというのがあると推測できる。

 それによって己の内の罪悪感を僅かばかりでも軽減しようとしているのだ。

 意識的であれ、無意識的であれ。今後も救世を継続していく意思を保つために。

 いずれにしても。

 そう考えると、俺がこの場面を目にしてしまっている時点で、彼女達の思惑がすんなりとうまくいく可能性は限りなくゼロに近いと見た方がいい。

 アコさんは、どうしようもない状況を見せつけようとしている訳だから。

 故に、案の定と言うべきか。


「早く。早くお母さん達と合流して……」


 リクルの視界に映った存在、背後から追いかけてきた何かが、急くルトアさんを追い越して彼女の前に立ち塞がった。

 それがルトアさんの鏡像であることは、先程の場面がなくとも想像に容易い。

 もっとも鏡写し故に最大速度は同じはずなのだが……。

 入り組んだ城を進むに当たって諸々の経験が不足している彼女は全速力を出すことができず、それ故に追いつかれたというところだろう。


「ひっ」


 己と同じ形の存在を前にして、小さく悲鳴を漏らして立ちどまるルトアさん。

 よくも悪くも普通の少女らしく死を恐れている彼女だ。

 俺のためにと一緒にここまで来てくれたものの、片足が死の沼に浸かったような状態では平静を保つことも困難に違いない。

 実際、彼女の心の中は恐怖心で覆われている。

 しかし、ルトアさんはそれでも俺に対する想いを支えとして、何とか自分に託された役割を果たそうと必死に頭を回転させていた。

 このような姿を見ては、アコさんの罪悪感はむしろ募る一方だろう。

 それもまた一つの罰、贖罪のようなものか。


「どうにか、どうにかしないと」


 とは言え、どちらが正しく、どちらが間違っていようとも。

 気持ちだけで都合よく事態を打開できるはずもない。

 ルトアさんは行く手を塞ぐ己の鏡像を何とか突破しようと試み、比較的空間の大きい相手の右側を通り抜けようと駆け出すが……。

 それこそ間に鏡でもあるかのように、即座に鏡像は彼女の行く手を塞ぐ。


「うう……」


 ルトアさんの力は、言ってしまえばスピードだけ。

 それに特化していることが最大の長所だが、封じられてしまえばなす術もない。

 勿論、戦闘に耐え得る力があったところで鏡像は同じ能力を持つことになる。

 一対一に持ち込まれてしまった時点で行動不能に追い込まれたも同然だ。

 保有する能力に依らず。


 この地に残されたリクル、フェリト、ルトアさん、アスカ。更にはアコさんの力で見た限り、レンリや母さん達の下にも既にあの鏡像が発生している。

 少なくとも目にしている範囲では、詰んでいるとしか言いようがない状態だ。

 その事実は否定しようがない。

 それを俺が認識するのを待っていたかのように。


「ここまでが、現時点までの状況だ。理解してくれたかな、イサク。もう決着は、ついてしまっていることを」


 そんなアコさんの悔恨の色が滲む言葉が脳裏に響き渡り、そうして俺達の意識は再び夢の世界にいる自分自身へと戻ったのだった。

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