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ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~  作者: 青空顎門
最終章 英雄の燔祭と最後の救世

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331 彼女達の戦いの始まり

「嫌……嫌ああああああああああっ!!」


 視界の中で、俺が胸から血を流して膝をついていた。

 それをテアが必死に支えているところに、サユキが絶叫しながら凄まじい形相と共に駆けていって縋りつくように俺達を抱き締める。

 次の瞬間、(アーク)複合発露(エクスコンプレックス)万有(アブソリュート)凍結(コンジール)封緘(サスペンド)〉が発動し、彼女自身ごと俺とテアを分厚い氷の中に閉じ込めた。

 俺が意識を失った直後の状況だ。

 アコさんの複合発露(エクスコンプレックス)命歌残響(アカシックレコード)〉は、過去の出来事であれば現在から一瞬前の状態までは読み取ることができる。

 それを見ている主観時間は、現実の時間とリンクしない。

 夢の世界であれば尚更のことだ。


「困った子なのです……」


 その記録の中で、目の前の状況を指してディームさんが辛そうに呟く。

 視界に映るものから判断するに、この光景はリクルの視点と見て間違いない。

 彼女の思考も同時に我がことのように感じられる。

 心臓を穿たれた俺を目にした混乱が収まらず、ただただ呆然としているが。

 それは他の子達も同様のようだ。

 しかし、彼女達がそうしている間にも時間は進む。


「……結果が変わることはありません。そうすることで少しでも彼女の気が晴れるというのなら、別に構わないでしょう」

「まあ……どうせ、次で終わりになるだろうからナ」


 暗い表情のヒメ様に続き、諦観を漂わせてトリリス様がそう告げた次の瞬間。

 動揺したままのリクル達の隙を突くように、新たな矢が高速で飛来した。

 真っ先に気づいたアスカが防ごうと動き出したが、一瞬遅い。間に合わない。

 結局、何にも妨げられることなく氷の塊に命中してしまった。

 その音に思わず目を背けるリクル。


「なっ!?」


 しかし、直後トリリス様の驚愕の声が耳に届き……。

 ようやく顔を上げたリクルが目の当たりにしたのは、傷一つない氷と、その中で変わらず時がとまったようになったままの俺達の姿だった。

 救世の転生者たる俺が作り出した氷の盾を容易く貫いたはずの矢は、逆に激突の衝撃によって圧し折れて床に転がっている。


「馬鹿ナ。チサが放った矢だゾ!?」

「い、いくらメギンギョルズで強化されているとしても単なる少女化魔物(ロリータ)の力で防ぐことができるものではないはずなのです……」


 続けて狼狽を顕にしながらディームさんが呟く。

 事実、三大特異思念集積体コンプレックスユニークの真・複合発露による身体強化状態にあった救世の転生者すら撃ち抜いた一撃なのだから、この結果に二人が驚くのも無理もない。

 俺自身もアコさんから聞かされて内心驚いていたぐらいだ。


「これは…………まさか少女残怨ロリータコンタミネイト?」


 対照的に、冷静に眼前の状況からそう即座に推測するヒメ様。

 怠惰そうな部分を見せることもあった彼女だが、こうしたところでの判断力、思考力を買われて一国のトップという立場を担うことになっているのかもしれない。

 アコさんは恐らく先行してこの場面を見て、それから俺達に伝えたのだろう。


「い、一体何のつもり!? どうしてイサクを!!」


 と、そこでようやく状況に思考が追いついたのか、フェリトが強く問い質す。

 しかし、混乱と怒りと疑問と恐れと。いくつもの感情が入り混じり、それ以上の行動には移れずにいるようだ。


「……簡単な話だゾ。【ガラテア】と真性少女契約(ロリータコントラクト)を結んだ救世の転生者を殺し、諸共に破滅欲求を消し去る。救世とは、そういうものなのだゾ」


 対してトリリス様は、わざとらしく煽るような雰囲気を出しながら答えた。

 状況を客観視させられて比較的落ち着いている俺だからそう見えたが、その場にいる彼女達がそれを感じ取るのは無理な話だろう。

 リクルの思考に激しい怒りの炎が燃え上がり、全身に力が込められていく。


「とにかく、その氷を打ち砕かなければ話になりません。しかし、この場でそうしようとしても時間の無駄でしょう。……仕方がありません。テレサ」


 ヒメ様がそう告げると、三人の後ろからテレサさんが姿を現して近づいてきた。

 転移の力で俺達をどこかに移動し、そこで氷を排除しようとしているのだろう。


「ご主人様は、渡しませんです!!」


 同じ予測を脳内で行ったリクルは声を張り上げて叫び、すぐさま自身の真・複合発露〈如意(フィギュア)鋳我(トランスファー)合一(ユナイト)〉を発動させた。

 俺を通じて全員の複合発露を使用することができる特異な力。

 今や俺に次ぐ戦闘力を持つと言って過言ではない。

 そのリクルは、紫電を帯びてテレサの動きを妨害しようと駆け出した。

 ディームさんが咄嗟に複合発露〈破魔(アイソレント)揺籃(フィールド)〉を使用して彼女の眼前に壁を作り出すが、容易くぶち抜いて手を伸ばす。が――。


「なっ!?」


 突然傍に出現した何かによって腕を掴まれ、テレサさんに辿り着くことはできなかった。風の探知も利用して周囲の状況を把握していたにもかかわらず。

 リクル自身の感覚を信じるなら、転移ではない。

 明らかに手が最初に構成され、そこを起点に全身が形成されていっている。

 異常な現象だ。


「な、何です? これは」


 その感覚に動揺を顕にしながら、完成したその何かの姿を目の当たりにして一層のこと心を激しく乱されるリクル。

 彼女の行動をとめたのは、彼女自身の姿をした存在だった

 ……いや、そっくりだが、どこか違う気がする。

 これは……左右対称だ。まるで鏡に映った像のように。


「抗おうとさえしなければ、それが皆様を傷つけるようなことはありません。そういう約束になっていますので」


 腕を振りほどこうとするリクルに対し、ヒメ様が諭すように告げる。

 その表情を見るに、恐らくその言葉は全て事実なのだろう。

 しかし、この状況では容易く信じられるような話ではない。

 だからリクルは、即座に風の刃を放って鏡像を切り裂こうとした。だが、相手もまた同じように風を巻き起こし、全て相殺されてしまう。


「リクル殿! 助太刀いたしまする!」


 リクルと鏡像の力はほぼ互角。

 アスカもそう理解したのか、天秤を傾けるために助けに入ろうとするが……。


「くっ、今度はワタシの!?」


 目の前にアスカの鏡像もまた発生し、それを妨げようとする。

 見ると、奥の方に左右反転したフェリトの姿もあり、彼女と同じようにその複合発露で両者を強化しているようだ。

 フェリトがその真・複合発露を以って、リクルとアスカの補助を始めたのに応じたのだろう。戦力を完全に均衡させるために。


「さあ、行きますよ、イリュファ。イサク様と真性少女契約を結ばずにここまで来た貴方は、共に命を落とす必要はありません」

「生きて、一緒にイサクの犠牲の上に成り立つ世界を守り続けるのです……」

「それが手向けとなるのだゾ」


 その間にヒメ様達は、イリュファに対して続けて諭すように言った。

 彼女達も無駄に死者を増やす気がないことは、俺から見ても間違いない。

 これもその一環であることは間違いないだろう。


「イリュファ」

「………………はい」


 再度促すようなヒメ様の呼びかけを受けてイリュファは、リクル達が自らの鏡像と戦う中、一人躊躇いがちに歩き出してしまう。

【ガラテア】への憎しみ深く、最後の最後まで迷い続けていた様子だった彼女だけに、ことここに至ってはそうなってしまうのも仕方がないことだと思う。

 俺としてももはや手立てがなく死を待つだけの身であったなら、長年連れ添った彼女まで道連れにはしたくはないし。

 ただ、この場でのこの行動は皆に裏切りと見なされてもおかしくはない。


「イリュファさん! それでいいんですか!? 貴方にとってイサク君は、そんな程度の存在だったんですか!?」


 そんな彼女に向けて、戦意と戦闘能力が乏しいと判断されたのか、まだ己の鏡像が出現していなかったルトアさんが責めるように叫ぶ。

 その悲痛な声を背に受け、イリュファはビクッと体を震わせて立ちどまった。


「わ……私、は……」

「いずれにしても、手遅れです。もはやどうしようもありません。どう足掻こうともイサク様の死は揺るぎません」


 振り返ろうとする彼女の肩に手を置き、ヒメ様は選択肢を奪うように告げる。

 そんな風に言われてしまっては、イリュファも諦めたように俯いて「……はい」とか細い声で応じることしかできない。

 そして……。


「ですから、どうか皆様も最期の時を有効に使われますよう」


 ヒメ様達に連れられ、彼女は俺達を内包した氷と共にどこかへと転移していってしまったのだった。

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