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ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~  作者: 青空顎門
最終章 英雄の燔祭と最後の救世

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327 揺り戻し

「テア!! どうした!?」


 絶叫する彼女に、焦燥と共に呼びかける。

 しかし、その声がとまることはなく……。


「あああああああああああっ!!」


 影の中から転がり出てきたテアは、激しい苦痛に苛まれているかのように苦悶の表情を浮かべ、頭を抱えながらのた打ち回った。


「あああ、ああああっ!!」


 俺は突然の異変に動揺しながらも傍に駆け寄り、暴れる彼女に触れようとした。

 しかし、テアは俺の手を振り払うと、よろよろと立ち上がって後退りする。


「う、うう、うう……」


 やがて叫び声は呻き声へと徐々に変わり、少しずつ収まっていく。

 そして――。


「……ふう。我が体ながら手間取らせるものだ」


 テアは彼女の声と、彼女らしからぬ口調と表情でそう呟いた。

 埃がついてしまったゴスロリ風のワンピースを手で軽くはたきながら。


「お前……まさか、【ガラテア】か」

「その通り。全く焦らせてくれたな、イサク」


 わざとらしく黒の衣を翻し、優雅に一礼してから告げる【ガラテア】。

 これまで俺のことを救世の転生者としか呼ばなかったにもかかわらず、急にテアの顔と声で馴れ馴れしく名前を呼ばれて思わず眉をひそめる。


「あの仮の体は破壊していない。なのに、何故……」

「凍結して封印する。成程、いいアイデアだ。しかし、イサク。君は強くなり過ぎた。内からも外からも思念の干渉を受けない封印。それはもはや死と変わらん」

「それは…………つまり、世界は仮初の体が破壊されたと判定したってことか」


 俺の若干問い気味の呟きに対し、【ガラテア】はその推測を肯定するようにテアの顔でニヤリと笑う。さすがにそれは想定外だ。

【ガラテア】という存在が、他の人形化魔物(ピグマリオン)少女化魔物(ロリータ)とは根本的に異なるものであることは十分理解していたつもりだったが……。

 恐らく蓄積した思念が実体化したのではなく、破滅欲求そのものが概念的な人格のフィルターを通して人型の物体から出力されているに過ぎなかったのだろう。

 故に出口が詰まれば、別の出口に移るだけという訳だ。


「ふっ。たまには世界も公平な真似をするものだ。……否、それだけ死の静寂を求める観測者が多いということなのだろうな」


【ガラテア】は取り戻した己の肉体を確かめるように、球体関節の手を目の高さにかざして握ったり開いたりしながら呟き、それから俺を見据えて再び口を開く。


「さあ、滅びを再開するとしよう」


 そうテアの声が告げると、気を失って倒れていたアロン兄さんやマニさん、シャテンさんが幽鬼のようにふらりと起き上がった。

 そして、覚束ない足取りで彼女の下へと歩いていく。


「……と言いたいところだが、私達も消耗した。ここは一度引かせて貰おう」


 と、彼女が前言を撤回したのを合図としたように更に一人。

 別の少女化魔物が風に吹き飛ばされて倒れた椅子の影から現れた。


「逃げるつもりかっ!?」


 話の流れからして、彼女は転移の複合発露(エクスコンプレックス)を持つ少女化魔物なのだろう。

 退路を残しておくために、今の今まで隠しておいたのだ。


「さすがの私も、ことここに至ってまで君に拘り続ける程、愚かではない。以前までの私達を代表して救世の転生者という存在に意趣返ししてやりたかったが、後は君から逃げ続けて少しずつ観測者を削り取っていくことにしよう」

「させるかっ!」

「おっと、あれらを凍結させようと言うのなら、この身を破壊するぞ」


 咄嗟に〈万有(アブソリュート)凍結(コンジール)封緘(サスペンド)〉を発動させようとするが、【ガラテア】の脅しを受けて思いとどまる。その体は……。


「やはり、君にとってこの体は弱点のようだな。愛着を持つ程までに、保持させるとは一体何を考えているのやら」


 テアの記憶をおおよそ共有しているのだろう。

 肩を竦めてヒメ様達の判断を馬鹿にしたように言う【ガラテア】。

 その身が彼女にとって本体であることに間違いはない。だが、最悪別の形で出現することも不可能ではないが故に、唯一無二と言う程のものではない。

 逆に、俺達にとってテアはこの世に一人だけ。祈望之器(ディザイア―ド)に相当するその人形に宿った魂のみだ。それを失うような真似はできない。

 そうやって攻撃に躊躇していると――。


「ふむ。一人繋がりが弱い者がいるな。それも貰っていこうか」


【ガラテア】は俺の影を指差しながら告げた。直後。


「あ、う、ああ……」

「イリュファ!? 何を!?」


 影から這い出てきた彼女が、操られたように【ガラテア】の方へと歩き出した。

 咄嗟に制止しようと手を伸ばす。


「動くな!」


 しかし、【ガラテア】にテアを人質に取られ、身動きができなくなる。

 その間にもイリュファは憎き仇敵であるはずの存在に近寄っていく。


「イリュファ……」

「ふ。本来の体と力を取り戻した私ならば、如何に救世の転生者との結びつきであろうとも、単なる少女契約など凌駕して操ることぐらい容易い」


 勝ち誇ったように説明を口にした【ガラテア】は、己の傍に来たイリュファを背後から羽交い絞めにするように抱き締め、その人形の指で彼女の喉を掴んだ。

 テアの体のみならず、イリュファをも人質にする気のようだ。

 激しい怒りが湧き上がるが、しかし、何も行動はできない。

 意思を失った状態のマニさんが熊のぬいぐるみを抱いていた時とは状況が違う。

 既に俺の全力も知られた以上、妙な真似をすればイリュファの命がない。

 迷いが体を硬直させる。


「では、さらば――」


 そんな俺を嘲笑うかのように、【ガラテア】は別れの言葉を口にしようとした。

 同時に少女化魔物へと転移の指示を出そうとしていたのだろう。

 彼女は合図をするように視線を動かしたが……。

 その途中。何故か表情が驚愕によって固まる。


「き、貴様。これは我が体だ。勝手な、真似は……ぐっ」


 そして、そう【ガラテア】が忌々しげに自分に向かって言った直後。


「……イサ、ク……今の内に、わたしごと……凍らせて」


 テアらしい声色の絞り出すような言葉がその口から発せられた。


「テア……」

「ふ、ふふふ。別に構わないぞ。私はどこか別の場所に再び発生し、そこで再起を図るだけだからな。そして再び、この体を奪い取るのみだ」


 熊のぬいぐるみを凍りつかせた時と同様に。

 破滅欲求の干渉を上回る凍結は、結果として【ガラテア】の逃亡を助けることに繋がってしまう。テアが口にした手段では堂々巡りだ。

 ここで【ガラテア】を逃せば、彼女はより慎重に、狡猾に行動するだろう。

 そうなれば居場所を再び見つけ出すまでの間に、新たな被害が出てしまう。

 いや、見つけ出すことすらできないかもしれない。

 ならば……。

 ならば、俺に取ることができる選択肢は一つだ。


「…………ああ。そういうことか」


 そこまで考えて、俺はようやくヒメ様達が計画した救世の全容を全て理解した。

 そして、俺がその選択をすればテアの存在を留めることができると確信する。

 あるいは。これこそが既定の救世に至ろうとする御都合主義。

 道から逸れようとした俺達の行動に対する揺り戻し、なのかもしれない。


「テア」

「近づくなっ!! この身とこの少女化魔物がどうなってもいいのか!?」


 一歩踏み出した俺に、警告するように叫ぶ【ガラテア】

 首から下の主導権は完全にそちらにあるようで、イリュファの首を掴む手に力が込められる。やはり肉体のほとんどは【ガラテア】の管理下にあるようだ。

 テアが何とか動かすことができるのは、目と口ぐらいのものか。

 ほぼ全ての力を、支配下にある者への指示を妨げることに使っているのだろう。

 複合発露を持たぬ身ながら、彼女もまた俺達のために戦ってくれているのだ。


「テア。俺の言葉をよく聞くんだ。そして、本当の気持ちで答えてくれ」

「イサク……?」


 何を言いたいのか分からないというように疑問の声を出すテア。

 そんな彼女に微笑みを向けながら、改めて口を開く。


「……ここに我、イサク・ファイム・ヨスキとテアとの真なる契約を執り行う」

「それは……気が触れたか! この身と真性少女契約(ロリータコントラクト)を結ぼうなど!」


 俺の意図を察して【ガラテア】が叫ぶ。

 もし名づけるなら真性人形契約ピグマリオンコントラクトとでも呼ぶべきだろう。

 テアも。恐らくは【ガラテア】すらも。思念の蓄積によって生み出された人格ならば、少女化魔物と同じようにすることは決して不可能ではないはずだ。

 そして、少女化魔物が契約の付随的な効果によって観測者として確固な存在となることを考えれば、テアという人格がより強固なものになると推測できる。


「テア。汝は我と共に歩み、死の果てでさえも同じ世界を観続けると誓うか?」

「…………うん。誓う。誓いたい。わたしはイサクとずっと一緒にいたい」


 一瞬の逡巡を振り切り、俺の願い通り本心を口にしてくれるテア。

 その返答がなされた正にその瞬間。


「う、ぐ……」


 赤黒い何かが俺の中に一気に流れ込んできた。

 この感覚には覚えがある。破滅欲求だ。

 テアを介して【ガラテア】と、【ガラテア】と介して破滅欲求と繋がったようだ。

 しかし、耐えるのは難しくない。

 破滅欲求そのものと直接繋がった訳ではないからだろう。

 これぐらいの負の感情ならば、前世における並みのストレス耐性でも十分だ。


「ふう……」

「イサクッ!」


 この契約によって体の主導権をテアが握ったらしく、彼女はイリュファを解放すると同時に俺の名を呼びながら駆け寄ってきて抱き着いてくる。


「よかった、テア」

「うん……うん」


 緊張の糸が切れたように弱々しく頷くテア。

 彼女にとっては短くとも初めての戦いの場。恐怖も小さくなかったはずだ。

 体の自由が利かなかったのも拍車をかけていたに違いない。

 対照的に【ガラテア】の人格は、先程までのテアのように極々限られた行動しかできなくなったらしく――。


「く……こんなことをしても、時間稼ぎにしかならない。破滅欲求が更に蓄積されれば、いずれ私が主導権を得ることになる」


 負け惜しみのような言葉をテアの口を介して吐くのみだった。


「そんなことは分かっているさ。言っただろう? 俺は救世の転生者に依らない救世を目指すと。それが果たされれば、そんなことは考える必要がなくなる」


 対してそう反論した俺に【ガラテア】は、納得がいかなそうに鼻を鳴らした。

 だが、恐らくそれは彼女を彼女の役割から解放する方法でもあるはずだ。

 そして、そのカギとなるのはイリュファだ。

 俺は気を失って倒れた彼女を振り返り、起こすために近寄ろうとした。

 正にその瞬間。


「申し訳ありませんが、そのような未来が訪れることはありません」


 ハッとして、聞き覚えのある声がした方向に顔を向ける。

 俺達が入ってきた大広間の入口。

 そこには、ホウゲツにいるはずのヒメ様達の姿があった。

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