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ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~  作者: 青空顎門
最終章 英雄の燔祭と最後の救世

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323 運命との対峙

 ムートから聞いた情報と風の探知を照らし合わせながら、黒を基調とした陰鬱な気配の漂うこの趣味の悪い城の内部を進んでいく。

 目指すは最奥。最凶の人形化魔物(ピグマリオン)【ガラテア】の居場所。

 可能ならば(アーク)複合発露(エクスコンプレックス)裂雲雷鳥(イヴェイドソア)不羈(サンダーボルト)〉を使用して一気に進みたいところだったが、この拠点を覆っていた結界はどうも探知をすり抜ける仕様らしい。

 あれがこの建物の内部にも設置されているかもしれない以上、過剰なスピードは危険だ。……まあ、全力を出せば衝突しても突き抜けることができるだろうが、ギリギリまで切り札を切るのは避けた方がいいだろう。

 なので一先ず〈支天神鳥(セレスティアルレクス)煌翼(インカーネイト)〉のみを使用し、ムートに示された方向へと最短一直線に突き進むために廊下の壁を打ち砕いて駆けていく。


「伏兵は……出てこないようね」


 そのさ中、影の中から緊張の色濃い口調で呟くフェリト。

 さすがに人の命には代えられない。

 手の内を見せたくないと思っていても、次に襲撃されたら狂化制御の矢と循環共鳴を使って凍結しなければならないかと危惧していた。

 しかし、父さん達が囮としての役割も果たしてくれたのか、あるいは別の理由によるものか。それは分からないが、いずれにしても彼女の言う通り敵の姿はない。


「出てこないなら出てこないに越したことはないさ」

「……そうね」


 とは言え、だからと気を緩めることはできない。

 場所は敵の本拠地の只中。

 警戒に精神を消耗しながら可能な限りの速度で進んでいく。

 だが、結局のところ。

 そのまま最後まで襲撃を受けることなく――。


「この先だ。この先に……いる」


 俺達は遂に【ガラテア】のいる大広間と壁一枚隔てた廊下に至った。

 ここまで派手に移動してきて相手が気づいていない訳もない。

 正規の入口であろう開け放たれた正面の巨大で仰々しい扉の方に向かう。


「……イサク様」

「ん?」


 その途中、影の中からイリュファに呼びかけられて立ち止まる。

【ガラテア】や人形化魔物に強烈な敵意を抱いている彼女。

 仇敵との戦いを前に何か言いたいことがあるのかと思ったが、その声色にはかの存在への憎悪や憤怒はなく、ただ躊躇いの色だけが感じられた。


「イリュファ?」


 続きを促すように呼びかけるが、聞こえてくるのは逡巡するような息遣いのみ。

 しかし、俺がもう一度繰り返し問いかけようと口を開くと――。


「いえ、何でもありません。行きましょう、イサク様。これが最後です」


 イリュファはそう告げるだけ告げて黙り込んでしまった。

 ……彼女は救世の真実を知っている。

 半分以上ヒメ様達側の少女化魔物(ロリータ)だ。

 それでも長いつき合いの中で現状の救世の形に迷いを抱く程度には、イリュファは俺のことを大切に思ってくれているのだろう。


「ああ。行こう」


 それを重々理解しているから。何より最終局面を前にここで時間を取られている訳にはいかないから。特に追及することなく歩みを再開する。

 彼女の苦悩もまた今日終わることを願いながら。

 そうして今度こそ扉を潜り、城の中央に位置する大広間に入った俺達を……。


「ようこそ。救世の転生者」


 不可思議な響きを宿した少女の声が出迎えた。

 どこから発せられたものかは分かる。

 奥の玉座。その脇に立つ少女化魔物が抱きかかえた熊のぬいぐるみからだ。

 どう見ても発声器官がないにもかかわらず声が聞こえてくるのは、祈念魔法か何かを使用して振動を作り出しているからだろう。

 間違いない。

 ライムさんから伝え聞いた形状からして、あれこそが救世の転生者の宿敵。ドールの人形化魔物。観測者が抱く破滅欲求の具現。即ち――。


「……お前が【ガラテア】だな」


 事前の情報がなくとも、俺にはそうと理解することができていた。

 眼前の存在の異質さ以前に、まさしく本能的とでも言うべき感覚によって。


「然り。私が【ガラテア】だ」


 俺の問いかけに頷きと共に答える熊のぬいぐるみ。

 恐らくは相手もまた似たような根拠を以って、俺こそが救世の転生者だと直感的に確信を持って認識していることだろう。


「ああ……君に会いたかった。今日という日を待ち焦がれていた」


 それは続けて、恋する乙女の如き熱を持った声で告げる。

 だが、そのような可愛らしいものではないことは滲み出る威圧感から分かる。

 熊のぬいぐるみから発せられていることも一種の異様さを感じさせる。


「君こそが最大の障害。君に破滅の抱擁を、無の静寂を与えることこそが、私がこの世に発生した意味と言っても過言ではない」


 敵意が肥大化し過ぎた結果、強烈な執着に変わってしまっているが如く。

【ガラテア】は朗々と語る。

 その戯言を耳にしながら、俺はかの存在を抱える少女化魔物の隣を一瞥した。

 そこにはどこか見覚えのある青年が一人立っている。

 父さんの面影を感じるその姿。

 間違いなく、十年以上前に行方不明になっていたアロン兄さんその人だ。

 まさかこの場面で対峙することになるとは思わなかった。

 ……いや、往々にしてこうなるのが世界の流れというものか。


「困るな。救世の転生者。君にはこの私だけを見ていて欲しいものなのだが……そんなにも彼女達が気になるのか?」

「単に、最凶の人形化魔物と謳われる【ガラテア】ともあろう者が、人間や少女化魔物の盾がないとまともに話せないのかと思っただけだ」


 俺とも容姿が似ているので感づかれても不思議ではないが、兄であることが知られれば一層悪辣な手段に利用されかねない。

 それを踏まえての言い訳だが、実際あの少女化魔物に抱きかかえられたままでは問答無用で攻撃を仕かけることもできない。

 その厄介さが声色に滲んでいるが故に、本心として捉えてくれることだろう。


「期待に添えず申し訳ない。ただ、この体は脆くてね。君の影の中にある私の本来の体を返してくれるのなら、面と向かって話をすることもできるのだが」

「う…………イサク」


 俺の返答に対する【ガラテア】の言葉に、不安そうに影の中で呟くテア。


「ふん、お断りだ」


 そんな彼女にも俺の意思が伝わるように、鼻を鳴らしつつ簡潔に切って捨てる。


「だろうな。私も人質共を解放する気は更々ないし、当然だ」


 どうやら【ガラテア】はテアの存在を俺達にとっての彼らの如く捉えているようだが、勿論そんなつもりは毛頭ない。

 大切な家族だから。それ以上でもそれ以下でもない。

 やはりと言うべきか、相手は人形化魔物。

 会話はできても感覚のズレを感じざるを得ない。

 それでも……。


「……最後に聞く。こんな馬鹿な真似、やめるつもりはないか?」


 声色が少女のものであることに極々僅かながら対話による解決の可能性を求めたい気持ちを抱き、一度だけ問いかける。


「なら、君は私を消滅させてくれるのか?」

「……どういう意味だ?」

「君も知っているだろう? 私という存在は観測者がある限り破滅欲求の依り代として生まれ、そして救世の転生者に倒される運命にある、と」


 それは過去五百年の間に数度繰り返されてきた事実だ。

 故に俺は小さく首を縦に振って肯定した。


「勿論、前の私と今の私は違うのだがな。それでも毎度毎度倒されるために生まれてくる身にもなって欲しいものだ」


 対して【ガラテア】はうんざりするように告げつつも、俺との会話を楽しんでいるかのように饒舌に言葉を続ける。ぬいぐるみながら小さな身振りも加えつつ。


「故に、もう新たな私が発生せずとも済むように、破滅欲求などというものを吐き捨て続ける観測者は尽く滅ぼさなければならない。それこそが私の役割だ」


 これまで遭遇した人形化魔物と、伝え聞いた【ガラテア】の所業から抱いていた印象とは大きく異なる様子に内心戸惑う。

 だが、むしろ確固たる理念の下に人類……観測者全てを滅ぼそうとしている姿はやはり異様で、破滅欲求に飲み込まれた他の人形化魔物達よりも脅威を感じる。

 今この場で討たなければならない存在であるという認識は強固になる。


「救世の転生者。君には私を理解して欲しい。同じく役割を押しつけられた者として。だから君を最後の観測者としよう。囚われ、苦痛を受け続けながら他の観測者が死に絶える様を私と共に見届けて欲しい。絶望に狂い、自ら死を望むまで」


 身勝手な未来に焦がれるように、倒錯した感情を声に乗せる【ガラテア】。

 その言葉を合図とするかのように。

 次の瞬間、無数の禍々しい姿形をした人形化魔物が、突如として大広間の天井を突き破って落下してきた。

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