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ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~  作者: 青空顎門
最終章 英雄の燔祭と最後の救世

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320 決戦の始まりを前に

 それから精神統一をするように瞑目しながら待つこと十数分。

 ホウゲツ学園地下の空間に新たな気配が生じ、俺は目を開けて周囲を見回した。

 現れたのは見覚えのある十名弱の人影。

 しかし、陽動部隊と言うには余りにも数が少ない。

 そのことに疑問を抱いて首を傾げていると――。


「陽動部隊は別の部屋に集まって貰っています。ここにいる彼らは救世の転生者様が【ガラテア】の本拠地へ突入するのを直接サポートするための人員です」


 言外の問いに答えるように、ヒメ様が俺の顔を見て告げる。

 早合点し、怒りの表情と共に口を開きかけた母さんにも言っているのだろう。

 俺はヒメ様に「成程」と頷いて理解を示し、バツが悪そうに顔を背けている母さんに小さく苦笑してから再び視線を戻した。

 転移を終えた彼らは、そこらで部屋の状況を認識し始めたようだ。

 その中の一人と目が合う。

 以前の事件で知り合った補導員仲間のガイオさんだ。


「イサクじゃないか。お前もこっち側なのか。いや、お前なら当然か」


 彼は俺に気づいて手を軽く上げながら、こちらに近づいてこようとしてくる。


「ガイオ」


 しかし、彼のパートナー。亜人(ウェアタイガー)の少女化魔物(ロリータ)のタイルさんが窘めるように言いながら、注意を促すように彼の脇腹を強めに突いた。

 ビクッとしたガイオさんは不満げに振り返るが、彼女は目でヒメ様達を示す。


「あ……っと、し、失礼いたしました! ヒメ様」


 それを受けて彼はハッとしたように居住まいを正し、深々と礼をした。


「いえ、いいのですよ」


 対して真面目モードのヒメ様は、たおやかな微笑みを浮かべながら返す。

 顔を上げたガイオさんはその姿に騙されて魅了されたようになったが、タイルさんに二の腕を抓られて、その痛みを誤魔化すためか再び頭を下げた。


「……皆様の役割は陽動よりも遥かに危険なものになるでしょう。しかし、救世の転生者様を【ガラテア】の下へと辿り着かせるため、どうか力をお貸し下さい」

「も、勿体ない御言葉です。このホウゲツに、この世界に生きる者として、この時この瞬間に尽力することは当然のことです」


 丁寧に助力を乞うたヒメ様を前にして、今にも膝を突いて平伏でもしそうな勢いで言うガイオさん。だが、何も彼だけが特殊という訳ではない。

 同じくこの場に転移してきた禿頭(とくとう)の大男シニッドさんと、そのパートナーである亜人(ライカン)の少女化魔物のウルさん、ルーさんも同様の様子だ。

 ホウゲツの一般的な国民にとって、五百年もの間、社会を維持し続けてきた彼女達に向けられる感情は尊敬を通り越して崇拝に近いものがある。

 ……まあ、補導員にとって割と近いところにいるトリリス様やディームさん、アコさん辺りには若干の慣れもあって大分緩和されているようだが。

 さすがに普段首都モトハの御所にいて、手の届かないところにいるヒメ様に対する敬意が目減りするようなことは決してない。

 外面も大分取り繕っているみたいだしな。

 ただ、それはあくまでも長らくホウゲツで暮らした国民であればこそのこと。


「偉そうな奴ですねー」


 近くにいた三大特異思念集積体コンプレックスユニークベヒモスの少女化魔物ムートのように、社会に余り迎合していない者は特に気にした素振りを見せていない。

 彼女に関しては、むしろ反感を抱いている有り様だ。

 その辺については種族的なプライドの高さ故だろうが。

 大事件を引き起こした過去があるからか目立たないよう後ろの方にいるテネシスことロト・フェイロックが恐縮しているだけに、ムートの態度は余計に目立つ。

 この場にいる大部分が彼女を睨んでいる。


「ムート」


 それに合わせて俺が諫めるように名を呼ぶと、どこ吹く風という様子だった彼女はつまらなそうな顔をして引き下がった。

 救世の転生者だから俺には一定の配慮をしてくれているようだが、少しはその気持ちを他の人に対しても分けてやって欲しいところだ。

 ヒメ様が特に気にしていない様子なのが救いとしか言いようがない。

 裏の顔でどう思っているかは全く分からないけれども。

 しかし、少なくとも五百年もの間要職についていた訳だから、最終決戦の直前に場を乱すようなことを自らしないだろう。

 それはそれとして。

 この火急の事態に、服役中であるロト達まで引っ張り出してきたらしい。

 まあ、当然か。三大特異思念集積体の力、眠らせておくのは余りに惜しい。

 ラハさんをセト達の護衛として残しているから尚更だ。


「…………ヒメ様。イサクが俺達よりも先にこの場所にいたってことは……そういうことでいいんですかい?」


 と、それまで黙り込んでいたシニッドさんが確認を取るように問う。


「そういうこと、とは?」


 ガイオさんは何を言いたいのか今一理解できていないようで、首を傾げながら尋ねる。すると、再びタイルさんに、話の腰を折るなと抓られてしまった。

 ちょっと乱暴なのは彼女も緊張しているからか。

 ともあれ。そんな彼らのためではないだろうが……。


「イサクが、救世の……」

「転生者なのですね?」


 ウルさんとルーさんが重ねて具体的に確認する。

 それでようやく理解が及んだのか、ガイオさんはバッと俺を振り返った。


「その通りです」


 ヒメ様はそうハッキリと答えると、俺の隣まで近づいてきて言葉を続ける。


「ここにいらっしゃるイサク様こそが、当代の救世の転生者様です」

「な、え……」「うそ……」

「…………やはりか」「「ええ」」


 呆然とした声を漏らすガイオさんと大きく目を見開くタイルさんの二人とは対照的に、シニッドさんとウルさん、ルーさんは納得したように頷く。


「すみません。黙っていて」

「気にするな。正直俺達は薄々そう思っていた」


 シニッドさん達は長らく補導員として新人研修の指導も担ってきた。

 アロン兄さんの件以来、遠ざかっていたようだが、それでも彼の身には多くの新人補導員を導いてきた経験が深く刻まれている。

 特に俺の一つ前に担当したアロン兄さんは、周囲から救世の転生者に違いないと思われていた程の実力者だった。

 母さん達と同じように、そんな彼との比較によって俺の、厳密に言えば救世の転生者という役を負った俺の特異性を強く認識していても不思議ではない。


「ふん。妾達の方が先に気づいておったわ」


 そんなシニッドさん達に対し、謎の対抗心を見せる母さん。

 大人げない母親の姿に思わず内心呆れてしまう。

 いずれにしても、あくまでも心の中での話。

 そう主張したところで実際にどっちが先かなど分からないし、そもそもヨスキ村で一緒に暮らしていたのだからスタートラインからして大幅に違うだろうに。

 そんなことを考えて小さく嘆息していると――。


「お、え、っと。イサク、様」


 ガイオさんが妙に畏まって話しかけてきた。

 突然、目の前にいる知り合いが救世の転生者だと言われ、混乱してしまっているのだろう。これまで気づいていなかったのなら、当然の反応とも言える。

 しかし、俺は彼に対して友人に近い感覚を持っているので少々寂しい。

 両親やシニッドさんが普段とそう変わらなかっただけに尚のことだ。


「普通にして下さい、ガイオさん。救世の転生者と言っても、単に見た目より少し精神年齢が上でちょっと強い力を持つだけです。今までと特に変わりませんよ」

「…………そうよ、ガイオ。急に態度を変えるのはよくないわ。相手が改めろって言ってるのならともかく」


 複雑な感情を声に滲ませた俺に配慮してくれたのだろう。

 気持ちを落ち着かせるように軽く息を吐いてから、タイルさんが指摘する。


「……そうか。そうだな。すまん、イサク」


 俺と彼女の言葉を受け、自省したように頭を下げるガイオさん。

 その角度はヒメ様の時と比べると大分浅い。

 距離の近さの分だけそうなっているのだろう。

 そう考えて小さな笑みを浮かべてから。


「いえ。俺もすみませんでした。隠していて」


 表情を引き締め、改めて俺の方からも謝る。


「それは仕方ないさ。大っぴらに知られちゃいけないことぐらい俺にも分かる」


 対してガイオさんは、まだ少しだけ動揺の色は残っているものの、普段通りに近い表情と口調で応えてくれた。

 今はこれで十分だ。

 俺は安堵と共に再び微笑み、それから残る一人の少女化魔物に視線を移した。


「パレットさん。ライムさん達は?」

「私達は直接的な戦闘力が乏しい。だから今回は、転移の複合発露(エクスコンプレックス)を持つ私だけがお手伝い。近くまで転移して帰るだけの簡単なお仕事」


 つまり戦闘には参加しない、と。

 まあ、当然だな。

 彼女がこの部屋に現れてから少し心配していたのでホッとする。


「ライムから言伝。事後処理は任せろって。それと、アロンをよろしくって」


 行方不明のアロン兄さんと幼馴染で同郷のライムさん。かつてアロン兄さんのために事件を起こしたことを思えば、彼も同行したかったに違いない。

 だが、彼らが持つ最大の力、精神干渉は極めて強力ではあるものの、乱戦になりそうな状況では活用することは中々に厳しいだろう。

【ガラテア】の滅尽(ネガ)複合発露(エクスコンプレックス)と干渉して、うまく作用しない恐れもある。

 言伝の通り、全てが終わった後で操られた影響が色濃く残ってしまっている被害者達の精神的なケアをして貰うのが適当だ。


「そも、救世の転生者としての特権が及ぶお前のパートナー以外は、高いレベルの身体強化を持つ者に限定しているのだゾ」

「これは【ガラテア】の干渉を少しでも受けないようにするためなのです……」


 そこへ横から補足を入れるトリリス様とディームさん。

 成程。ロトの傍に他の少女化魔物達がいないのはそうした理由からか。

 下手をしたら操られて敵になる可能性もあるし、道中精神干渉を仕かけてくる相手もいるかもしれないしな。

 陽動ではなく突入の補助をする側としては妥当な人選だろう。

 その条件に合致しないパレットさんもここにいるが、彼女は自分で言っていた通り、あくまでも戦闘要員ではなく転移役。別の枠組みだ。

 一応、ロトのパートナーの中にも転移の複合発露を持つ少女化魔物がいたはずだが、彼女が選ばれなかったのは彼らがまだ収監されて間もないからに違いない。

 パレットさんは特別労役を何度もこなし、模範囚として扱われているだろうからな。それに、待機しているライムさん達が形の上では人質としても機能するし。


「……さて、挨拶は済んだナ?」


 と、一通り声をかけ終わったと見てか、トリリス様が全体を見回しながら言う。

 実際、頃合いだろう。

 俺達は口を閉ざし、背筋を伸ばして彼女達に顔を向けた。


「余り悠長にしている訳にもいかないのです。簡潔に流れを説明するのです……」


 続けて固い声色で発せられたディームさんの言葉に各々頷きを返し、その口から語られる内容に静かに耳を傾ける。


「皆様に未来百年の安寧を託します。どうか、よろしくお願いいたします」


 そうしてヒメ様が一歩前に出て頭を深々と下げたのを以って最終決戦の簡易的なブリーフィングを終え……。

 俺達はパレットさんの複合発露で最凶の人形化魔物(ピグマリオン)【ガラテア】の本拠地がある島の近くまで転移したのだった。

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