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ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~  作者: 青空顎門
最終章 英雄の燔祭と最後の救世

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315 祈望之器ガラテアの器

「とりあえずアスカさんから紹介してあげて下さい」

「あ、ああ、うん。……アスカ、出てきてくれるか」


 有無を言わさぬ口調のレンリに戸惑いつつ、再び影に視線を向けて呼びかける。

 そんな俺達の様子を、父さんと母さんは疑問の表情を浮かべたまま眺めていた。

 俺が今一把握できていないのに二人がレンリの意図を理解できるはずもない。

 だから両親は口を挟むことができず、そうこうしている間に――。


「承知いたしましてございまする」


 俺の呼びかけに応じてアスカが影の外に出てきた。


「……じゃあ、一旦私が影に入ってるわ」


 入れ替わりに、テアが一人にならないように配慮してかフェリトが影の中へ。

 そのことに父さんと母さんは一層困惑を深めたようだったが……。


「ふむ?」


 薄緑色の末広がりなツインテールを揺らして新たに現れた少女を前にして、一先ず疑問は棚上げにしておくことにしたのか母さんは彼女へと顔を向けた。


「…………お前はもしや――」

「三大特異思念集積体コンプレックスユニークの内の一体、ジズの少女化魔物(ロリータ)、か?」


 どうやらアスカの外見的な特徴から彼女の正体に当たりをつけたらしい。

 母さんの言葉を引き継ぐようにして父さんが問う。

 風属性を示す髪と瞳の色。

 それに加え、しばらく前に救世の転生者がジズの少女化魔物を調伏したという記事が新聞に載っていたにもかかわらず、これまで顔を合わせたことのある中にジズの少女化魔物がいなかった事実。

 以上から推理して正答に至ったのだろう。


「はい。主様と真性少女契約(ロリータコントラクト)を結んでおりますジズの少女化魔物、アスカと申しまする。よろしくお願いいたしまする。母上、父上」


 対してアスカは即座に肯定すると共に、望まれることになるだろう呼称を母さんに言われるまでもなく自ら進んで使用する。

 割と楽しみにしていたのかもしれない。


「う、うむ。……まさか三大特異思念集積体に親と呼ばれることになろうとは、さすがの妾も思わなんだな。じゃが、お前はそれでよいのか?」

「ワタシの主様たるイサク様の御両親の望みとあらば、否やはありませぬ。ワタシのこともアスカと気軽にお呼び下さい、母上」

「そ、そうか。ならば、よろしく頼むぞ、アスカ」

「はい! 母上!」


 自分が口にした通り、俺の親であるが故に最初から好感度がマックスに近い状態でグイグイと行くアスカ。そんな彼女に母さんは珍しく押され気味だ。

 少女化魔物の中でも最強と名高い存在が、子犬のように尻尾を振ってじゃれついてきているような感じだから仕方がないと言えば仕方がないか。

 だが、何にせよ、アスカについては特に問題はないだろう。


 子供達とは違って母さんは種族まで追求してくるだろうし、そこが明らかになると俺が救世の転生者であることが芋づる式にバレる。

 だから両親に紹介することができなかっただけで、彼女が仲間になった経緯的には単なる補導員としての仕事の結果に過ぎない。

 加えて性格的にも。

 暴走する彼女を真正面から打ち倒したおかげで、ラハさんやムートのように我が強い訳でもなく、随分と俺を立ててくれるしな。

 後は……。


「…………レンリ、そこまでテアの正体に問題があるのか? テアの身が危険だなんて言うぐらい。相手は俺の両親だぞ?」


 アスカが母さん達と話をしている間に小声で問いかける。

 それこそ性格的な部分で言えば、母さんに猫可愛がりされそうなぐらい幼気(いたいけ)なテア。そんな彼女に懸念があるとすれば、当然その身が最凶の人形化魔物(ピグマリオン)【ガラテア】の肉体であるという一点以外考えられない。

 だが、テアはテアとして独立した人格を持ち、【ガラテア】そのものではない。

 俺が間に入って説明すれば母さん達なら分かってくれると思うのだが……。


 いや、イリュファやレンリが最初険のある態度を取っていたように、アロン兄さんのことで【ガラテア】に個人的なところで因縁がある二人だと怪しいか?

 よくよく考えてみると、確かに短絡的だったように感じてくる。

 そうしたところまで思い至らなかった辺り、身内としての過信があったのかもしれない。両親ならきっと受け入れてくれるという安易な考えに基づいた。

 加えて、俺の中でテア≠【ガラテア】という認識が余りに強過ぎる点もまた、客観的な判断を失わせている大きな要因だろう。

 ことこの件に関してはレンリの方が正しい評価をしていると見た方がいい。

 そんな風に頭の中で納得するが……。

 勿論そうした考えは全くの的外れという訳ではないのだろうけれども、彼女の意図とは少しずれていたらしい。


「救世の転生者たる旦那様はご存知ないかと思います。旦那様と契約されている皆さんも気づかないでしょう。ですが、それ以外の者がテアさんを見ると、違和感と言うか本能的に忌避感を抱くのです」


 レンリは大真面目な顔でそんなことを言い出した。

 内容からして、それは人形化魔物への嫌悪感とまた別なのだろう。


「え……っと、何でそんな?」

「それは御義母様と御義父様への説明と合わせてお答えします」


 彼女は俺の問いにそう応じると、両親へと視線を移す。

 二人はアスカからこちらに意識を戻し、再び疑問の表情を浮かべていた。


「もう一人……テアと言ったか。何ぞ問題でもあるのか?」

「はい。【ガラテア】の器と言えば、お分かりになるかと」


 母さんの問いに対するレンリの答えに、二人はあからさまに顔色を変える。


「最凶の人形化魔物【ガラテア】の肉体。人を模した玩具。魂を宿すとも言われる疑似的な祈望之器(ディザイア―ド)……。イサクが救世の転生者ならば傍にあるのは当然か」


 そして納得したように一つ頷いて呟く母さん。

 父さんも腑に落ちたような顔をしている。

 その単語だけで二人が理解したような素振りを見せる理由がよく分からず、俺はレンリに問うような視線を向けた。それに応じて彼女が答えるには――。


「これは、ある種の都市伝説として広く知られていることなんです。暗黙の了解と言うか、みだりに口にしてはならないとされる類のものですが」

「どういうことだ?」

「普通の人々は救世についてそう多くのことを知りません。ですが、【ガラテア】を討つ切り札としてガラテアの器というものを救世の転生者が持つことは皆、教育機関などで過ごす間にそれとなく耳にしているのです」


 レンリは更に「恐らくは、彼女達(・・・)が何らかの目的で共通認識を形成するために意図して行っているのでしょう」とつけ加えた。

 彼女達……ヒメ様を始めとした救世に関わる者達か。

 聞いた感じ、学校の七不思議のような感じで耳に入ってくるのだろう。

 救世の転生者であるが故に、その辺りのコミュニティを華麗にスルーしてしまっている俺が他人から全く聞いたことがないのも当然の話のようだ。

 ……前世の知識を持つ者ならトリリス様達に見出されて教育機関での学びをスキップしそうだろうし、意図的に救世の転生者にのみ除外されている感もあるな。


「この世界の者は皆、【ガラテア】の脅威という記憶と記録により、人形というものに忌避感を抱いています。その感情の蓄積が、分類としては道具に属するテアさんの祈望之器としての機能に付随してしまっているのです」


 だから俺達以外はテアに無意識的に忌避感を抱く、と。成程。

 何も説明せずにテアを二人の前に立たせたら、その印象に引っ張られて【ガラテア】とは異なる存在である事実を認識する前に攻撃される可能性もあった訳だ。

 両親がテアを傷つける。考えるだに恐ろしい。


「レンリ、助かった」

「私は旦那様の妻ですから。当然のことです」

「それでも、ありがとう。……でも、それはつまり。レンリはその祈望之器ガラテアの器とやらの効果を諸に受けてるってことか?」

「はい。ですが、そこは気合で耐えています。彼女の本質は、決して厭われるようなものではないと重々理解していますから。無辜の存在を問答無用で拒絶するような人間にはなりたくありませんので」


 レンリはキッパリと答える。

 テアと接する中で、そうした考えが固まったのだろう。

 彼女はそれから母さんと父さんに向き直って口を開いた。


「御義母様、御義父様。重ねて言いますが、テアさんは【ガラテア】ではありません。とても素直で愛らしい女の子です。確かに体は人間とも少女化魔物とも違います。ですが、どうか拒絶せず本質を見詰めてあげて下さい」

「ふむ。お前がそこまで言うのなら」

「そのように理解した上で向き合うことを約束する」


 頭を下げて告げたレンリにそう応じ、二人は合図するように俺に目を向ける。

 今度こそ、いい頃合いか。


「じゃあ……テア。おいで」


 俺の言葉を合図に、フェリトにつき添われてテアが影の中から恐る恐るという感じに出てくる。これまでの話を聞いて、躊躇っているのだろう。

 そんな彼女の姿を前に、父さんと母さんはほんの一瞬眉をひそめた。

 が、テアの弱々しい表情を目の当たりにしてか、力を入れてそれを抑え込む。


「……イサクは、何ともないのか? お前達も」

「俺は、特に何も」


 母さんの問いにチラッとサユキ達を見ると、彼女達も同意するように頷く。


「……そうか。やはり救世の転生者なのじゃな」


 そんな俺達の反応を受けて母さんは改めて納得したというように軽く苦笑し、そうしながらテアに視線を戻して一歩傍に寄った。

 対するテアは少しだけ身を縮こまらせて及び腰になる。


「テアと言ったな」

「………………うん」

「イサクはお前を大事にしているか?」

「……うん」

「お前は、イサクのことが好きか?」

「うんっ」


 戸惑い、躊躇いながらも問いかけに少しずつ強く肯定していくテア。

 そんな彼女の姿を前に母さんは少しの間だけ瞑目し、それから一つ小さく頷いて目を開くと、少しだけぎこちなく微笑んだ。


「お前がイサクにとって大切な存在であり、お前もまたイサクを慕っているのならば妾達は、妾達だけは受け入れてやらねばなるまい」

「その身に纏わりついているように感じられる気配。それは確かに、世界中の観測者によって押しつけられたものなのだろうからね」


 母さんに続いて父さんもまた、自分に言い聞かせるように告げる。

 俺達には全く分からないが、正に言い知れぬ嫌な感覚を感じているに違いない。

 しかし、それは父さんの言う通り、誰かに貼りつけられたレッテル。

 俺達のテアを心配する態度、彼女自身の姿とは程遠いものだ。

 そうしたレッテルに影響されてしまうのは人間仕方がない部分もあるが、相手と向き合う時は一旦それを脇に置いて偏見なく事実だけを見詰めるべきだろう。

 言うは易く行うは難し、だが。

 両親はそれをテアのために、俺のために実行に移そうとしてくれている。

 改めて、この二人の間に生まれてくることができてよかったと思う。


「今日から妾達はお前の親じゃ。他の者と同じようにそう呼ぶがよい」

「えっと…………お母さん、お父さん?」

「うむ。じゃが、テアよ。お前の境遇は中々に難しい。妾達とて、ふとした瞬間に意にそぐわぬ反応をしてしまうかもしれぬ。無数の思念の蓄積。生半可なものではないからな。それでも、妾達はお前の親であろうと努力するつもりじゃ」

「だからテアも頑張って欲しい。俺達が間違った時、全てを諦めて心に壁を作ったりするのではなく、間違ってると叫ぶんだ。他の人達には難しいかもしれないけれど、俺達はそれを必ず受け止める。受け止めて正すから」


 テアに抱く忌避感は無意識のもの。

 当然常に気を張っていられる訳ではないから、突発的な事故は起こり得る。

 咄嗟に忌避を顕にするような反応をしてしまうこともあるだろう。

 それでも、そうした部分を正直に告げて、その上で懸命に受け入れようとする二人の姿をテアは本物だと感じ取ったようだ。

 少しだけ表情を和らげて「うん」と頷く。

 その愛らしい姿に、両親もまた幾分か自然な笑みを浮かべて頷き返した。

 今はまだ少し不自然な部分があっても、救世の先まで世界が続けば、慣れて本当の家族らしくなっていくことができるはずだ。

 だからこそ。俺自身のためにも、両親のためにも、彼女達のためにも。

 運命を乗り越えて、必ず未来に至らなければならない。

 そう強く思いながら……。


「折角の熊鍋が冷めてしまったな。温め直すとしよう。……む? そう言えば、テアはその体で食事ができるのか?」

「大丈夫。食べることはできる」

「そうか。ならば、お前もたくさん食べるといい。妾の好物じゃ」

「うん。ありがとう、お母さん」


 俺はレンリを始めとした仲間達と共に、祈念魔法で熱々になった熊鍋がよそわれたお椀を母さんから嬉しそうに受け取るテアの姿を見守っていた。

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