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ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~  作者: 青空顎門
第6章 終末を告げる音と最後のピース

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AR41 選定の日

「普段どれだけ長く接する機会があったとしても、ああいった極限状況にならなければ見えてこないものもなくはない。だからこそ――」


***


 ホウゲツ学園の建物が取り払われた平坦な地に無残にも転がるセト君の四肢。

 ようやく彼の身に起きたことを頭で理解し、心が千々に乱れていく。


「あ、ああ……」


 いつものように聖女となるための教育を受けていただけのはずなのに、どうしてこんなことになってしまっているのだろう。

 余りに凄惨な光景を前にして、現実逃避をするように疑問が脳裏を駆け巡る。


「「セトッ!!」」


 けれど、ダン君とトバル君の悲痛な叫びにハッとして、ボクは唇を噛み締めた。

 その痛みを強く意識して、何とか眼前の状況から目を逸らさないようにする。

 決して敵うはずもない恐ろしい襲撃者がまだそこにいることは関係ない。

 ボクのために、ボクを守ろうと傷を負った彼を前にしながら、悲鳴を上げて喚き散らすのが正しい行いではないのは確かな事実だ。

 そう自分に言い聞かせるために口に力を込め過ぎて唇が裂け、血が溢れてしまったが、それで恐怖に囚われずに行動できるなら安いものだろう。


「副学園長! セト君をこっちへ!」


 そしてボクはそう叫びながら、千切れて血に塗れたセト君の四肢を素早く躊躇なく拾い集め、こちらからも副学園長の元へと駆け寄った。

 接合や解剖の実習を何度も受けていなければ、きっと触れることすらできなかったに違いない。

 聖女となるための教育は、今このような時のためにあったのだと思う。


「……ファルンー、そろそろ次の段階に行く時間なのですー」


 と、頭上の巨大な怪物が再び間延びした声を発する。

 蛇のような巨竜と化したレンリさんを片手間に抑え込みながら。

 悔しいけれど、そんな相手をボク達にどうにかすることはできない。

 その行動を妨げることもできない。

 なら、いっそのこと意識の外に追いやってしまうぐらいの方がいい。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」


 その直後、ゴルゴーンの石像の偽善的な謝罪の繰り返しと共に、今度は拳大の石塊が弾雨となって辺り一帯に降り注ぎ始めた。

 残った十数人の中から逃げ惑うような声が発せられ、何とか回避を試みようと空を見上げる数人の姿もまた視界の端に映る。

 けれど、正直あんなものは意図して避けられるようなものじゃないと思う。

 だからボクは立ち止まらなかった。

 回避を考えず、ただ脇目も振らないように駆け……。

 幸運にも。五体無事に、地面に寝かされたセト君の前に辿り着く。


「セト君……」


 見ると、その彼の切り落とされた四肢の断面は一応塞がっていた。

 恐らく意識を失うまでの一瞬の間に、ロナちゃんとの複合発露(エクスコンプレックス)が持つ自然治癒力によって再生しかけていたのだろう。

 本来なら、意識を保っていれば時間経過で治癒していたに違いない。


「今、くっつけるから」


 勿論、祈念魔法でも再生は不可能ではない。

 ただ、そのためには再生する質量と同じだけのエネルギーが必要になる。

 複合発露、あるいは救世の転生者様や歴代の聖女の祈念魔法なら周囲の物質を利用することで補うこともできるけれども……ボクにはまだできない。

 この場では、切り落とされた両手両足を活性化した上で接合した方が合理的だ。

 だからボクは、一度塞がった部分を再度切断した上で彼の四肢を繋げていった。

 周囲の阿鼻叫喚は意識から完全に排除し、徹底的に実習をなぞるようにして。


「………………できた」


 結果、セト君の両手両足は何ごともなかったかのように元通りになった。

 実習の時よりも遥かにうまくできたような気がする。

 意外とボクは本番に強いのかもしれない。

 そんなことを思いながら、若干の安堵と共に周囲の状況を確認する。


「あ……」


 すると、何やら水の檻に守られていたダン君とトバル君を含めて男子生徒達は今も尚降り注ぎ続けている石塊に当たってしまったらしく、地に倒れ伏していた。

 偶然なのか、あるいは即死させるつもりは最初からなかったのか、まだ息はあるようだけれども……放っておけば命に関わることが目で見て分かる。

 加えてボクの他に残っていた聖女候補五人の内、三人も同じように虫の息。

 残る二人は倒れた男子生徒の治療をしようとしているけれども、石塊への恐怖から集中を大きく乱されているようでうまくいっていないようだ。

 多分ボクも目の前で傷を負ったのがセト君じゃなかったら、動揺や恐怖心を抑え込むことなんてできなかったと思う。


「他の人達も治さないと」

「待てっ! ラクラ、無闇に動くナ!」


 比較的マシな精神状態の自分が治療しなければ、という使命感から彼らの元へ向かおうとしたボクに対して学園長が叫ぶ。

 その声に顔を上げるとボク達の直上に、人一人を守れるだけの小さな結界が石塊を斜めに受けて軌道を変えるような角度で幾重にも張られていた。

 よくよく見ると他の皆の頭上も同じようになっているけれども……。

 これが十分に機能していたら、男子生徒達もああはなっていないはずだ。

 ないよりはマシかもしれないけれども、焼け石に水と見るべきだろう。

 そう判断して、改めて駈け出そうとした瞬間。


「そろそろ鬱陶しいですねー、邪魔者を排除して仕上げといきましょうかー」


 再び頭上からゴルゴーンの石像へと指示する声が落ちてくる。

 どうやら敵は、意図して彼女達を放置していたらしい。

 その一声を以って学園長も副学園長も呆気なく石化させられてしまい、それに伴ってボク達の頭上を守ろうとしていた結界も儚く消え去ってしまった。

 それだけに留まらず、折角治療の終わったセト君までもが同じように石と化してしまった。


「一体、何がしたいの……?」


 目的が全く分からず戸惑う。

 けれど今は、彼がこれ以上は傷を負うことはないと考えるしかない。

 まずは死に瀕している彼らを助けなければ。

 セト君も自分に拘ってボクが何もできなくなることをよしとはしないだろう。

 そう自分に言い聞かせ、最も傷が深そうな男子生徒の元に向かう。

 聖女候補三人も致命傷にしか見えないけれども、どうやら彼女達については全くの無事でいたスール様が治療してくれようとしているようだ。

 無防備な様子でボク達を観察していたのに傷一つないことを不思議に思いながらも、今は治療を優先しなければと視線を戻す。

 しかし、その直後。


「一通り出揃いましたかねー」


 サイの如き怪物の姿を取っている少女化魔物(ロリータ)の呟きと共に、ボクが治療しようとしていた男子生徒を含むほとんどが石化してしまった。

 残っているのはボクと聖女候補五人、それとスール様とパロンさんだけだ。

 ダン君とトバル君もすぐに治療しなければならない傷を負ったままなのに。

 けれども、石化を解除することができなければ、それも叶わない。

 複合発露の力で干渉されたそれを治療するには、治癒の複合発露が不可欠だ。


「……こんな時、レスティア様がいれば」


 そんな状況を前に、ボクが憧れた聖女を想う。

 彼女がこの場にいれば石化も解除して全員を救ってくれるはずだし、そうなるより以前に襲撃者達全員を返り討ちにしていたかもしれないのに。


「ラクラ、ないものねだりをしても仕方がありませんわ」


 と、すぐ傍でスール様の声がしてボクは驚いて顔を上げた。

 隣にはパロンさんもいる。

 未だに石塊が降り注いでいるのに、彼女達は悠然とその中を歩いてきたらしい。

 よく無事だったものだと驚く。


「ワタクシ達は運命の女神に愛されているのです」


 考えが表情に出ていたのか、スール様はそんな理由にならない理由を口にした。

 ボクが戸惑っていると彼女は更に言葉を続ける。


「貴方もまた、きっとそうなのでしょう。そして、それ以上に恐怖を乗り越え、たとえ相手が男であろうとも我が身を顧みず傷ついた者を救おうとしたその意思の強さは、ワタクシの寵愛に値する魂の輝きだと言えますわ」

「スール様……?」

「選びなさい。ワタクシと今ここで真正少女契約(ロリータコントラクト)を結び、自らが聖女となるか。それとも、ただ他の誰かによる救済を待つのかを」


 聖女候補に選ばれてから、幾度となく頭の中で思い描いた瞬間。

 それがこんな状況で訪れるとは思わなかったけれど、答えは一つしかない。

 石化した人々を救うためには、聖女としての真なる治癒の力が必要なのだから。

 それ以上に、この場を無事に切り抜けるためにも。


「いいでしょう。では、告げなさい。契約の言葉を」

「は、はい」


 だからボクは、ユニコーンの少女化魔物たるスール様に促されるまま真正少女契約を結ぶための文言をそのまま口に出した。

 それと同時に契約は確かになされ、内に力が芽生えたのを感じる。

 けれど、感慨にふける時間はない。

 ボクは即座に、手に入れた治癒の(アーク)複合発露(エクスコンプレックス)壮健回帰(ヒーリングホーン)慈悲(グレース)〉を以って皆を治癒しようと意識を集中させた。


「おやおやー、どうやらー、思った以上に効果があったみたいですねー」


 けれど、歴代の聖女達に比べてボクは未熟過ぎるのか。

 相手がボク達の認識以上に隔絶した存在だったのか。

 彼女達の物語の如く、すんなり聖女としての初陣を済ませることはできず――。


「念のためにトラレも傍に置いておいてよかったですー」


 突如として眼前に出現した少女化魔物。

 彼女は転移の複合発露を持っていたらしく、ボクとスール様はその力に巻き込まれ、どこか別の場所へと連れ去られてしまった。


***


「この事件が結果として選別を大きく早める結果となったことは確かだ。そう。最初から彼らの目的は聖女という存在だった。その誕生を早めるために、このような暴挙に出た訳だ。そして、それが何のために必要だったのかは、すぐに君も知るとことになった話だったね。……ああ、だから運命の女神に愛されているなどというのはスールの妄言だし、ラクラが石の雨を潜り抜けられたのも偶然ではないよ」

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