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ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~  作者: 青空顎門
第6章 終末を告げる音と最後のピース

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298 始祖スライムと急展開

「ただいま戻りました!」


 職員寮自室の玄関先まで出迎えた俺に、そう言いながら明るい笑顔を見せたのはアクエリアル帝国からホウゲツに帰ってきたレンリ。

 久し振りの再会を心の底から喜んでいることが、表情からハッキリ見て取れる。

 そんな彼女を前にして、しかし、俺は一昨日姿を消したリクルが帰ってきたかと一瞬期待してしまったこともあって微妙に落胆の色を表情に滲ませてしまった。


「あの、旦那様?」

「あ、ああ。お帰り、レンリ」


 喜び勇んで戻ってきたところにそんな反応。

 失礼にも程があるし、普通なら文句の一つも言いたくなるだろう。


「…………何かあったのですか?」


 にもかかわらず、レンリは笑顔を真剣な表情に変えて心配そうに尋ねてきた。

 自分をそこまで蔑ろにするような対応を俺が理由もなくする訳がない。

 そんな確信が彼女の中にはあるのだろう。


「実は――」


 その信頼に甘えている訳ではないが……。

 俺は冷静さを欠いて配慮を失ったまま、つい現在の状況と共にリクルの帰りを期待していたことまで逐一説明してしまった。失礼の上塗りだ。


「そう、ですか。リクルさんが……」


 それでも彼女は怒るでもなく、沈痛な面持ちで呟く。

 ただ、その表情にはどこか納得の色も見え隠れしていた。


「レンリちゃん。何か知ってるの?」


 それを敏感に感じ取ったらしく、横からサユキが彼女に問いかける。

 普段は余り周りの出来事に興味を抱かないマイペースさのあるサユキだが……。

 つき合いの長いリクルのことだからか、あるいは突然の事態に俺の動揺も大きいからか、その声色には言い逃れを許さない強さがある。


「え、ええと……」


 そうした珍しく険のあるサユキの視線に、レンリは少したじろいだようだった。

 図星だったから、というのも恐らくあるだろう。


「レンリ?」


 その様子を目にして、俺の方からも説明を乞うように呼びかける。

 すると、彼女は一瞬躊躇するような素振りを見せてから一つ小さく息を吐き、意を決したように顔を上げて口を開いた。


「……今何が起こっているかは、少し理解できているかもしれません」


 そう告げたレンリは、何故か俺の顔を若干不安そうに見ながら言葉を続ける。


「リクルさんが旦那様と真性少女契約(ロリータコントラクト)を結ぶことができない件について似た話を聞いた覚えがあり、それを私が調べていたことは旦那様も御存知だと思います」

「ああ。……もしかして、それが関係あるのか?」

「はい。その、ここまで時間がかかってしまって申し訳ないのですが、今回の帰郷でようやく資料を見つけることができました」


 固い声で尋ねた俺に対して、どこか誤魔化すような早口で答えるレンリ。

 その妙な態度は少し気になるが、問題が起きてからの報告になったことが申し訳ないのだろうと思っておく。今はとにかく内容を聞きたい。

 続く言葉を待つ。


「旦那様。これを御存知でしょうか」


 すると、彼女は影の中から何かを取り出しながら問いかけてきた。

 それは見覚えのある表紙の絵本だった。

 タイトルは『百万回分裂したスライム』と書かれている。

 昔、まだ子供の振りをしていた頃にイリュファが読み聞かせてくれたものだ。

 無限ループのバッドエンドな感じの話だった。


「この絵本は、実在するとあるスライムの生態から着想を得て描かれたものです」


 その逸話については割と有名な話なので頷いておく。

 確か――。


特異思念集積体コンプレックスユニーク始祖スライム、だったか」

「はい。歴史上何度か確認されている巨大なそのスライムは、定期的に大規模な分裂と融合を繰り返す特徴を持っています。もっとも絵本にあるような意味合いは完全な創作に過ぎず、研究でも単なる生理現象だと考えられているようですが」


 主に生殖によってではなく、思念の蓄積によって発生する魔物。

 それに備わった機能を生理現象と呼ぶのは、若干違和感がなくもないが……。

 まあ、己の意思に依らず定められたものという共通項はあるか。

 いずれにせよ、世の中の一部を切り取って誇張して物語のネタにしようとするのはよくあることだ。話半分でも多いぐらいだろう。


「ともあれ、そういった特徴からスライムの源流と考えられており、始祖スライムと名づけられました。ただ、実際にそれがスライムの始祖かどうかは不明です」


 まだ科学の発展の乏しいこの世界では、遺伝子から進化の系統を辿るといったことは不可能だ。そうである以上は、あくまでも根拠の乏しい想像に過ぎない。

 実際、始祖と言うなら観測者の頭の中にあるスライム像こそが始祖だろうし、俺としては普通のスライムの亜種と考える方が妥当だと思う。

 勿論、過去の出来事を全て見通せる訳ではないので完全には否定もできないが。

 どちらにしても、これは丸ごと余談だろう。


「話を先に進めてくれ」

「はい」


 早く結論を聞きたい気持ちで強い口調にならないように気をつけながら俺が続きを促すと、レンリは静かに深く頷いてから再び口を開いた。


「始祖スライムが少女化魔物(ロリータ)となった記録はありません。恐らく、再び融合した状態……つまり完全な始祖スライムの状態でいる期間が短く、思念の蓄積が臨界を迎えるタイミングと重なることがなかったからだと思われます」


 そこで一度言葉を区切ったレンリだったが、一拍置いてから補足するように「勿論、確率はゼロではないので今後出現する可能性はありますが」とつけ加えた。

 それから彼女は、ここまでが必要な前置きだと示すように明確に間を取り、より一層表情と声に緊張の色を滲ませながら説明を再開した。


「……しかし、分裂体が少女化魔物となった記録はいくつかあるようです」


 レンリが口にした通り、始祖スライムは分裂状態でいる期間の方が長いが故に。

 時間にせよ、絶対数にせよ。思念の蓄積は分裂体の方に影響を及ぼす可能性が圧倒的に高いのは間違いない。そして――。


「リクルがそれって訳か」

「そうなると思います」


 これまでの説明から容易く予想できた答えをレンリが肯定する。

 推測の形ではあるが、スライムという共通点もある。間違いないだろう。


「分裂体の少女化魔物は、今回のように真性少女契約を結ぶことができなかったと記録されています。始祖スライム本体ではないからでしょう」


 何より、そこまで符合していれば尚更のことだ。


「……俺は初耳だけど、アクエリアル帝国での出来事だったのか?」

「はい。偶然、そうした事例が二度程あったようです」

「二度……何でそんなに少ないんだ?」


 少し頭を整理する猶予を作るために口にした俺の問いに、レンリは少し口を開いてから僅かに躊躇ったように視線を揺らした。

 どうやら前例が少ない理由は余談ではなく、話の本筋に関わっているようだ。

 やがて彼女は一度瞑目してから、改めて目と口を開いて答え始めた。


「分裂体は、いずれ再び始祖スライムへと融合するために姿を消します。通常は真正少女契約に漕ぎ着ける前にいなくなってしまうのでしょう」


 だからこそ二回しか前例がない訳か。

 いや、そんなことはさて置き。


「つまりリクルは……」

「恐らく、始祖スライムのところに還ってしまったのだと思います」


 俺がそうであって欲しくないと口にできなかった部分を引き継ぐように告げて肯定したレンリに、思わず顔を伏せてしまう。

 ここ数日、リクルの様子がどこかおかしかったのも、あるいはその予兆を自覚していたからだったのかもしれない。


「……遅かった、のかな。折角、腹を割って話せたと思ったのに」


 もっと早く、話を聞き出していれば何か変わったんじゃないだろうか。

 そう思って後悔が募る。


「旦那様、これは彼女の気持ちの問題ではありません。全く別の要因です。そしてそれは、欠伸をすれば涙が出るぐらい変えようのない出来事なんです」


 あくまでも、思念の蓄積によって魔物に付加された機能が作用したに過ぎない。

 だから自分を責める必要はないと諭すようにレンリが言ってくれるが、長い時間を共にしてきたリクルのことだ。

 そう簡単に納得することなどできはしない。


「何か、どうにかしてリクルを取り戻す方法はないのか?」

「……少なくとも、二度の事例では不可能でした。そもそも始祖スライム本体の居場所が分からなければ手の打ちようもありませんので」

「居場所、か……」


 当然ながらアコさんに頼むという手段は考えたし、実際にお願いもした。

 悪魔(アモン)の少女化魔物たる彼女の複合発露(エクスコンプレックス)命歌残響(アカシックレコード)〉によってリクルが行方不明になる前後の出来事の追体験をし、その動向を探って欲しいと。

 しかし、どうやらリクルは空間を超えて転移のような形で移動したらしい。

 しかも、その段階で何らかの理由によって視覚が機能しなくなってしまったらしく、周囲の風景すら分からなかった。

 アコさんの〈命歌残響〉は、本人が認識していない情報は精々視界に捉えた光景を覗き見た者が考察するぐらいのことでしか得られない。

 移動の過程の部分が吹っ飛んでいる上に周囲の状況が分からないのでは、リクルの居場所を特定することは不可能だ。それ以外の方法でなければ。


「くそっ」


 状況は多少理解できるようになったものの、結局のところ居場所を探し出せなければ、たとえ何かしらの手立てがあったところでどうしようもない。

 人間至上主義組織スプレマシー代表テネシス・コンヴェルトの時と同じだ。

 救世の転生者などと言っても、この星の全てを網羅できる訳ではない。

 半端に力を持つせいで、尚更無力感がのしかかってくる。

 一体、これからどうすればいいのだろう。


「旦那さ……えっ!?」


 そんな俺を痛ましげに見ながらレンリが労わるように声をかけようとした瞬間。

 突如としてホウゲツ学園の敷地の近くで、途轍もない轟音が響き渡った。

 まるで何か巨大な物体が落下したかのような……。


「一体、何が」


 動揺覚めやらぬ中、とにもかくにも状況を確認するために全員で外へ出る。

 すると、異常な光景が即座に目に映った。

 山が増えている。そう勘違いする程の巨躯が近くに……いや、巨体のせいで遠近感が狂っている。学園の外、少し離れた位置に出現していた。


「あれは――」


 弱り目に祟り目とでも言うべきか。

 そこにいたのは、かつて俺に敗北感を味わわせた存在の一つ。

 三大特異思念集積体が一体、ベヒモスの少女化魔物たるムートが自らの力を解放させた姿だった。

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