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ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~  作者: 青空顎門
第6章 終末を告げる音と最後のピース

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295 押して押して

 ダンの訓練を軽く見学した後。

 俺とラクラちゃんはホウゲツ学園前の停留所からバスもどき(メルカバス)に乗り込み、ゆったりとセトとトバルがいる複製師アマラさんの工房を目指していた。

 ただ早く着くだけなら別の手段がいくらでもあるが、今日は折角の休日だ。

 せかせかしていても気が休まらない。のんびり行くのも悪くないだろう。

 それは俺の意見だが、ラクラちゃんの方も特に文句はないようで……。


「それで、その人はですね。スール様に媚びへつらった結果、彼女の機嫌を損ねて聖女候補から外されてしまったんです」


 メルカバスの一番後ろの座席に俺と並んで座りながら、彼女は陰りのない表情で教育施設での生活について語っていた。

 勉強がハードで心身共に疲れるのは間違いないけれども、それはそれとして聖女候補としての日々については特に悪いものとは捉えていないらしい。

 一番年下の候補者だけに、いじめられたりしていないか少し心配だったが、杞憂だったようだ。いや、話を聞く限り、それらしいことはあった感じだが……。


「ユニコーンの少女化魔物(ロリータ)スール。単なる女好きって訳じゃないみたいだね」


 俺からすると劇薬にしか見えない彼女の存在が、秩序を保っているらしい。

 節操なく手を出すタイプではなく、一本筋が通った感じなのだろう。一応は。

 思い返すと補導した時もアーヴァンクの少女化魔物パロンを従えていたし、彼女にはカリスマ的な何かがあるのかもしれない。


 ユニコーンの少女化魔物は特異思念集積体コンプレックスユニークではないが、認知度は上位に入る。

 原典の性質とは異なる概念が勝手に付与されていてもおかしくはない。

 有名な存在に対して実態とかけ離れた幻想を抱いてしまうように。

 前世でも、調べてみると結構とんでもない生物なのに、治癒力の部分をクローズアップしてか何故か聖なる獣として創作に登場してくる場合もあったしな。


「ま、まあ、でも、少なくとも悪い少女化魔物ではないと、思いますよ」


 割と酷い俺の物言いを受け、ラクラちゃんは若干苦笑気味にフォローする。

 だが、ハッキリと言い切ることができていない辺り、邪悪な存在ではないけれどヘンテコな存在ではある、という認識が透けて見える。


 善良さも余りに完璧過ぎると逆に疑わしい印象を受けることがあるが、欠点らしき部分も併せて見えていると少し信用し易くなる。そんな心理もなくはない。

 それも含めて演技だったら、やり手だが……。

 実際、俺から見ても明け透けなタイプだったし、何よりアコさんが〈命歌残響(アカシックレコード)〉でその本質も事前に見極めているはずだ。

 近くで見て判断したラクラちゃんの評価は間違ってはいないだろう。


「この前もですね――」


 その後も彼女はメルカバスに揺られつつ、教育施設での出来事を話し続けた。


「あの時もスール様が――」


 若干不自然な早口になっているのを見るに、あるいはセトがいる場所に近づきつつあることを意識から外そうとして喋り倒しているのかもしれない。

 そうした彼女の初々しい反応を微笑ましく思いながら聞き役に徹して相槌を打っていると、しばらくして最寄りの停留所にメルカバスが停車した。


「……着いたな。行こうか」

「は、はい」


 俺の言葉で一気に緊張が戻ってきたのか、硬い表情で返事をするラクラちゃん。

 そんな彼女と共にメルカバスを降り、歩いてアマラさんの工房を目指す。

 やがて目的地に辿り着いた俺達は、いつもの如く出迎えてくれた祈望之器(ディザイア―ド)ターロスに要件を告げ、その案内でそれと分かりにくい小さめの屋敷に入った。

 勝手知ったる廊下を進み、奥の部屋の隠し階段から地下工房へと下りていく。

 その間、ラクラちゃんは先程までとは打って変わって口を噤んでいた。

 動きも微妙にぎこちない。実に分かり易い。

 だが、立ち止まらずに普段セトとトバルがいる部屋、アマラさんの弟子であるヘスさんの工房前に至り、ラクラちゃんが少し体を強張らせるのを横目に扉を開く。

 余り身構え過ぎても緊張が増すだけだ。

 ならば、さっさと突っ込んでしまった方がいい。


「あれ、イサクさんにラクラちゃんじゃないッスか。今日はどうしたんスか?」


 と、複製に集中しているらしいトバルの代わりに、俺達に気づいたヘスさんに尋ねられる。それに答える前に、一通り部屋の中を見回して弟の姿を探すが……。


「あれ? セト君は?」


 拍子抜けした様子でラクラちゃんが問いを返したように、ヘスさんの工房にはセトはいなかった。珍しくアマラさんの姿はあるけれども。

 ともあれ、俺も彼女達に視線をやって言外に疑問を投げかける。

 すると、ヘスさんよりも先にアマラさんがそれに応えて口を開いた。


「セトならば、複合発露の訓練をすると言って今日は来ておらんぞ」

「あれ、そうなんですか?」

「うむ。トバルから伝え聞いた限りはな」

「…………ってことは、学園か」


 ダンに会いに行った時はまだ訓練施設にはいなかったはずだが、もしかすると入れ違いになってしまったのかもしれない。


「そう、ですか」


 それを聞いたラクラちゃんは、ついさっきまでは緊張して顔を会わせ辛い雰囲気だったのに、何とも残念そうに言う。

 が、彼女は俺の生温かい視線に気づき、慌てたように再び口を開いた。


「えっと、今日はその、外出の許可が出たので気分転換に皆が頑張ってるところを見て元気を貰おうと思って来たんですけど」


 取り繕うように最初のヘスさんの問いかけに立ち戻って不自然な早口で答えるラクラちゃん。彼女はそれを証明するためかトバルの作業をジッと見詰め始める。

 その姿にヘスさんは何やら目を輝かせ――。


「イサクさん、イサクさん」


 俺だけを部屋の外に引っ張り出し、耳元で言葉を続けた。


「もしかしてラクラちゃん、そういう感じッスか?」

「そういう感じって……?」

「だから、セト君のことを」

「ああ……うん。そういう感じです。まだ自覚し立てみたいですけど」


 ヘスさんも女の子だからか、どうやら恋バナは好物のようだ。

 彼女は俺の答えに満足げに頷いて、こちらを少し気にしつつもアマラさんの隣で見学に集中するラクラちゃんへと微笑ましく見守るような視線を送っていた。


「あれ? ラクラちゃん?」

「あ、うん。トバル君、久し振りだね」


 しばらくして彼女が一通り複製の作業を終えたトバルと会話を始めたところを見計らって、俺達は再び部屋の中に戻る。

 するとヘスさんは、二人の傍に近寄って口を開いた。


「あ、そうそう。実はッスね。自分、トバル君と真性少女契約(ロリータコントラクト)を結んだッスよ」

「えっ!?」


 驚いてトバルを見るラクラちゃん。ついでに俺。

 対して、急に暴露されたトバルは慌てたようにヘスさんを見て、それから視線を左右に彷徨わせてから恥ずかしそうに顔を赤くして頷いた。


「トバル君とならもっといい複製ができると思って、自分から説得したッス。押して押して寄り切ったッス。ラクラちゃん。こういうことは押しの一手ッスよ」

「押し……」


 どうやらラクラちゃんへのアドバイスのつもりだったらしい。

 種族は違えど女の子同士。

 この前の合宿で親睦も深めたし、うまくいって欲しいのだろう。

 ……しかし、トバルがヨスキ村を一緒に出た三人の中で一番乗りか。


「じゃあ、トバルもいつでもヨスキ村に帰れるな」

「いや、けど、まだ勉強したいことがあるから」

「自分もまだまだここを離れるつもりはないッス」


 ヨスキ村の掟についてはヘスさんにも話してあるようで、特に疑問を抱いた様子もなく、彼女もトバルの言葉に追随する。

 まあ、いずれにしても学園ぐらいは卒業しておいた方がいいだろう。

 ……今生では全く通っていない俺が言うことではないが。


「お師匠の工房は小さいッスけど、設備は最高峰ッスからね」

「いいように利用するつもりか。全く。ヘスには万が一の時、ワシの役目を継いで欲しかったのじゃがな」

「それは、申し訳ないッスけど、自分は自分なりの複製を究めたいッス」

「……まあ、ワシらにも利がない訳ではないから問題はないがな。それはそれとして、また新しい弟子を探さねばならん」


 若干面倒臭そうに言うアマラさん。

 役目というのは救世の転生者のサポートのことだろう。

 五百年という月日、複製関連は彼女が一手に担ってきたのだろうが、確かにその身に万が一のことがあったら一大事だ。

 勿論、それはヒメ様を始めとした他の面々にも言えることだが。

 そうした裏の事情は、この場では余談だろう。


「……トバル君も、着実に前に進んでいってるんだね」


 当初の目的に立ち返り、ラクラちゃんが感心したように言う。

 一先ずセトのことは横に置いておくとして、ここに来た甲斐もあったようだ。


「勿論。セトのためってところもあるけど、あんちゃんの役に立てるような複製改良品も作れるようになるつもりだからね」

「自分も、トバル君と一緒に一層複製を究めていくッスよ」

「うん。ボクも二人に負けないように、聖女になるための勉強、頑張るよ!」


 ここでも十二分に元気を貰うことができたようで、熱意に満ち溢れた二人に負けず劣らない力強さで続くラクラちゃん。

 そうした姿を目にしていると、俺もまた改めて救世の転生者として彼女達が夢を追い続けられる世界を維持しなければと強く思う。

 俺にとってもいい休日だ。後は……。


「じゃあ、ホウゲツ学園に帰ろうか。セトにも会うために」

「は、はい」


 そうして。ラクラちゃんが若干ぎこちなく頷いたのを区切りにアマラさんの工房を辞去し、俺達は来た道を戻ったのだった。

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