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ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~  作者: 青空顎門
第6章 終末を告げる音と最後のピース

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290 喇叭の音

 気が狂ったように叫びながら、転移によって眼前から姿を消したオルギス。

 直前の不可解な反応も相まって内心少し混乱してしまっていたが、彼の突然の心変わりの理由を考えている暇などなかった。

 暴風によって戦闘が強制中断されている戦場から離れた位置に出現した彼は、迂回しながらアクエリアル帝国の兵が多数集まる側へと急速に接近しつつある。

 抑制から解き放たれた過剰再生によって、肉体を急激に肥大化させながら。

 どうやら膨張した身体の質量を以って風が吹き荒れる中に突っ込み、アクエリアル帝国の兵達を飲み込んでしまおうとしているようだ。

 実際、まだ炎の影響を受けていなかった彼らの側は、巻き上げられる程ではないが身動きはできない、という程度に風速が抑えられている。

 保存則を完全に無視した、どこから持ってきたか分からない思念の蓄積による概念的な質量だとしても、勢いよく突っ込めば間違いなく彼らに到達するだろう。

 このままでは尽く無制御状態の〈灰燼新生・輪転(エターナルリカランス)〉の影響下に入ってしまう。

 だから――。


「ちっ」


 俺は軽く舌打ちしながら、すぐさま(アーク)複合発露(エクスコンプレックス)裂雲雷鳥(イヴェイドソア)不羈(サンダーボルト)〉の速度を以ってオルギスに迫った。

 無音結界によって雷鳴の如き音が周囲に轟くことはないが、激しい雷光で戦場を照らしながら、彼がアクエリアル帝国の兵達に辿り着く前に間に割って入る。

 そして再び真・複合発露〈支天神鳥(セレスティアルレクス)煌翼(インカーネイト)〉の力で風を操り、既に人の十倍程の大きさに肥大化していたオルギスを細切れにしながら天高く吹き飛ばした。

 そうした状況や、俺という相対する存在を確と認識しているのかいないのか。


『ああ、あああああっ! 滅べ! 全て滅べえええっ!!』


 オルギスは肢体を別々に同時再生させながらも、頭部のパーツだけで叫ぶ。

 自滅を回避するために停滞を選ぼうとしていた男とはとても思えない様相だ。

 どことなく、暴走した状態の少女化魔物(ロリータ)を思わせる。

 加えて、急変する直前に口にしていた喇叭(ラッパ)というキーワード。

 それが意味するところは……。


「まさか……レンリ、あれは――」

「はい。喇叭の人形化魔物(ピグマリオン)【終末を告げる音】の滅尽(ネガ)複合発露(エクスコンプレックス)響く音色は本性を(プロヴォーク)暴き立てる(メギド)〉による干渉を強く受けていると見て間違いありません」


 諸々の状況から導き出した己の推測を確認しようと口を開いた俺の言葉を引き継ぐように、レンリが影の中から固い口調で肯定する。

 やはりと納得もするが、オルギスの只ならぬ様子に戸惑いも覚えざるを得ない。


「ああ成り果てるのか……」


 彼でなくとも生物ならば当たり前に持つ生存欲求が、完全に塗り潰されている。

 まるで狂戦士(バーサーカー)の如き姿だ。


 無意識の奥の奥。人格を隔てる境界の更に先。深淵に鎮座する赤黒い塊。

 最凶の人形化魔物【ガラテア】を始めとした人形化魔物の根源。破滅欲求。

 観測者が己を守るために世界に押しつけたとも言えるそれが、件の【終末を告げる音】の力によって逆流してしまった結果として。

 たとえ自らもまた破滅するのだとしても、己の最大限の力を以って周囲を害し尽くさねば収まりがつかないような状態に陥ってしまっている訳だ。

 かの人形化魔物の恐ろしさというものを、改めて実感を伴って知る。


「旦那様!」


 そうこう考えている間にオルギスが再び転移によって風の領域から脱し、レンリが注意を促すように呼びかけてくる。

 遠くの空に再出現した彼は、風の刃によって細切れにされた肉体を完全に再生させた上で、更に急激に肥大化させていっていた。

 王都バーンデイトを覆い尽くしたフェニックスの少女化魔物と同じように、膨張した体が徐々に鳥のシルエットへと近づいていく。

 国王ジーグから真性少女契約(ロリータコントラクト)を切り替えたのか、飛行の概念を持った複合発露(エクスコンプレックス)をも有しているようで翼をはばたかせて滞空する様は彼女の時よりも鳥らしい。

 しかし――。


「……動かない?」

「質量……いえ、体積を増やすことを優先しているのでしょうか」


 離れた空に留まりながら、目に見えて巨大化していく鳥の形をした肉塊。

 それを不審に思いながら注視していると、レンリが推測を口にする。

 恐らくは、それも一つの理由と見て間違いない。

 大きさのごり押しで風を突破しようとしているのだろう。

 加えて、もう一つ。


「イサク様っ!」

「分かってる!」


 焦ったように俺の名を呼んだイリュファに応じながら、この場に到着した時から炎の影響下にあったフレギウス王国の兵達を振り返って風の刃を走らせる。

 既に〈灰燼新生・輪転〉の抑制は失われ、彼らもまた急激な膨張を始めていた。

 しかも、その質量で暴風になす術もなく吹き飛ばされていた状態から体勢を立て直すと共に、各々が持つ(アーク)暴走(パラ)複合発露(エクスコンプレックス)で攻撃を仕かけようとしている。

 先んじて放った風の刃は、その機先を制するためのもの。

 空間を駆け抜けたそれは確かに彼らを切り裂き、バラバラにしていく。


 だが、その状態になって尚、彼らは再生と同時並行で攻撃を放ってきた。

 ほとんどが過剰再生の炎とは別種の炎の弾丸。稀に土塊や岩石、鉄塊等々。

 それらは全て風に流されてあらぬ方向に飛んでいくが……。

 彼らの意識は俺を捉えたまま。目の色を変えて、こちらを見据えている。

 なす術なく、風に弄ばれていた先程までとは明らかに違う。


「……こちらはこちらで【終末を告げる音】の影響が色濃くなっていますね」


 そんな彼らの様子に、レンリが苦々しげに告げる。

 自滅という結末をたとえ聞かされておらずとも、己の肉体が尋常ならざる状態であることは自覚できているだろうに、攻撃の意識しかない

 我が身を顧みぬ姿は勇敢な兵士と言えなくもないが、実態は理由なき死兵だ。

 幸いにして干渉力の差という決定的な隔絶のおかげで実際に傷を負わせられるようなことはないが、破滅欲求丸出しの様は見ていて言い知れぬ恐ろしさがある。

 加えて、肥大化によって風の中に封じ込めておくために必要な干渉力も徐々に増している。オルギスのみならず、こちらにも意識を割かざるを得ない。

 離れた空に留まる彼は、それによって隙ができるのを待っているのだろう。


「……ともあれ、フェリト達が目を覚ますまで、せめてアクエリアル帝国の兵達だけでも〈灰燼新生・輪転〉の影響下に入らないように守らないと」


 時間としては後数分程度。

 全員揃わなければ凍結の干渉力が不足してしまう以上、今はこのままの状態を維持し続ける以外にない。

 フェリト達が目覚めるのが早いか。オルギス達が自壊するのが早いか。

 王都バーンデイトの時を思えばまだ猶予があるはずなので分の悪くない勝負ではあるが、万が一を考えれば巻き添えを食う人数はなるべく少ない方がいい。

 可能な限り、アクエリアル帝国の兵には近づけないようにしなければ。


「旦那様、来ます!」


 やがて十分な体積を得たと判断したらしいオルギスが動き出し、再び先程と同じような軌道でこちらに接近しようとしてくる。

 未だ膨張を続けながら攻撃を繰り返しているフレギウス王国の兵達を抑え込みながら、それに備えるために身構えた正にその瞬間。


「何っ!?」


 突如として、全長数百メートル程度まで巨大化した彼が姿を消した。

 かと思えば俺の直上に現れて、翼を広げた状態のまま迫ってくる。


「くっ」


 想定していなかった彼の選択に、迎撃が間に合わず炎と肉塊が俺を包み込む。

 だが、真・複合発露〈支天神鳥・煌翼〉によって強化されたこの身は、それらに触れたところで干渉を受けることはない。

 そこから脱出することなど容易いことだ。

 だからこそ、オルギスがアクエリアル帝国の兵達よりも先に俺を狙うような真似をするはずがないと思っていたのだが……。

 そんな思考を巡らせつつ、風の刃で脱出のための道を作り出そうとした直後。

 ようやく、その真の狙いに気づかされる。

 彼ではなく、この戦いの裏側で争いの火種を大きくしていた者の狙いに。


「これは…………喇叭の、音?」


 恐らくは、無音結界の範囲よりも遥かに巨大なその体を媒質として。

 直接的に聴覚へとその音が届く。

 何かを急き立てるような、強烈な不快感を抱かせるようなメロディ。

 それが脳内を駆け巡っていく。


「あ、あ、ああ、うく」


 負の感情を掻き立てる歪な音楽は影の中にまで届いてしまったらしく、レンリ達の苦しげな呻き声がそこから漏れてきた。

 それと共に、どこからともなく。


『さあ、醜き観測者共。己が内から生じた破滅欲求に身を委ねるがいい』


 喇叭の音に乗せて、そんな声が聞こえた気がした。

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