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ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~  作者: 青空顎門
第6章 終末を告げる音と最後のピース

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289 死と停滞の二者択一

『馬鹿な、何故貴様がここにいる!?』


 突如として眼前に現れた俺に対し、驚愕を顕にしながら声を荒げるオルギス。

 その姿は、シルエットとしては人型を留めていながらも炎を噴き出す水疱のようなものに全身覆われて一回り以上膨れており、眉をひそめたくなる様相だった。

 風の探知の応用で振動から再現した声も肥大化の影響か地下室の時より低く、水の中で聞こえてくるような感じになっていて一層違和感が強い。

 そんな奇怪な異形と化している彼は、肉が盛り上がって歪んだ顔に焦燥の色を滲ませながら口であろう部位を開いた。


『答えろっ!! あの炎の中から、どうやって逃げおおせたっ!?』


 地下の小部屋に繋がれていた特異思念集積体コンプレックスユニークフェニックスの少女化魔物(ロリータ)

 その(アーク)暴走(パラ)複合発露(エクスコンプレックス)灰燼新生・輪転(エターナルリカランス)〉が生み出す炎に耐え得る存在が目の前に現れることなど、オルギスは露程も想定していないのだろう。

 それだけに、彼は即座に真実に至ることはできなかったようだ。

 実際、最低でも救世の転生者と三大特異思念集積体の(アーク)複合発露(エクスコンプレックス)レベルはないと防ぎ切ることなどできない訳だから、可能性を切り捨てても不思議ではない。


『自分は逃げ出すことができて、他人にはできないなんて道理はないだろう?』


 逆説的に言えば、冷静に事実を並べていけば俺が何者か推測可能ということでもあるが、自らそれを明かして救世の転生者の関与を確定させる意味はない。

 だから俺は、オルギスの問いかけに対して、そう挑発気味に返答した。


『くっ、転移の複合発露(エクスコンプレックス)か。条約を公然と破るとは、この卑怯者め!!』


 対して彼はそう勝手に解釈し、勘違いしたまま俺を非難してくる。

 曖昧な言葉で誤解を促したとは言え、滑稽な上に厚顔無恥甚だしい。


『はっ、どの口で言う』


 そんなオルギスの言動に、誤りを正すより先に呆れの言葉が口をつく。

 確かに、転移の複合発露を持つ者の他国への移動は国際的に禁じられている。

 しかし、隷属の矢や狂化隷属の矢を長年違法に使用し、更には禁忌の祈望之器(ディザイア―ド)たるクピドの金の矢を少女化魔物(ロリータ)に使用した者が言うのは道理に合わない。

 己を棚に上げる者の言葉は虚しく響くのみだ。

 それに、そもそも俺は転移の複合発露を使用できないので的外れにも程がある。

 まあ、その勘違いも一々指摘するつもりはないが。

 今はそれよりも――。


『……王太子オルギス。何故、あんな真似をした。王都バーンデイトは壊滅してしまったぞ。自国の都を滅ぼしてまで、お前は一体何がしたかったんだ』


 あの状況に関わった人間として、そこは尋ねておかなければならない。


『ふん。人も都もいくらでも替えが利く。だが、あれらを別だ。他国に奪われる訳にはいかない。ならば、侵入者諸共に消してしまった方がいい』

『それだけか?』

『それ以外に何がある!』


 俺の確認に、逆上したように声を大きくしながら強く肯定の意を示すオルギス。

 確かに、あの場でもそんなようなことを言っていた。

 フェニックスの少女化魔物を閉じ込めていた、あの地下に隠された部屋。

 そこに侵入してきた者があり、その目的が彼女とクピドの金の矢の奪取だと考えたから、咄嗟にあのような行動に出た。それで間違いないらしい。


 勿論、オルギス自身の力では俺を排除できないと悟ったが故の判断。

 兵は拙速を尊ぶとも言うし、決断できないよりは遥かにマシに違いないが……。

 あの惨状を見た後では、さすがに短絡的過ぎるように思う。

 それだけ彼女やクピドの金の矢に優先すべき価値があったのか、あるいは自らを含めた自国の民の命を軽んじているのか。


『いずれ貴様も自壊するんだろう? そこまでする程のものだったのか?』

『はっ。残念だが、俺は身体強化系の真・暴走・複合発露をいくつも重ねがけすることによって〈灰燼新生・輪転〉を抑制している。兵達への影響も最小限だ。俺達が自壊するよりも早くアレが先に滅ぶ。俺は死ぬつもりなどない』


 嘲るようなオルギスの返答に、成程と思いながら眼下の光景を一瞥する。

 オルギスが力を抑制しているおかげか、炎を噴出する水疱のようなものに覆われながらも人型を保っているフレギウス王国の兵。

 そんな彼らに押し込まれつつあるアクエリアル帝国の兵。

 後者は僅かなりとも〈灰燼新生・輪転〉の影響下にない。

 その理由は、オルギス達があの状態を「フェニックスの少女化魔物が自壊するまでというタイムリミットのある無敵状態」として捉えているからだったようだ。

 兵士達を如何なる攻撃を受けても再生する存在と化し、戦況を更に傾ける。

 国家としての損失を少しでも減じるために手を尽くしている訳だ。

 結果として俺達に居場所を悟られてしまってはいるが、局所的に見れば、その行動を選択すること自体におかしな点はない。

 むしろ、自棄っ鉢で一人でも多くの敵兵を道連れにしようとしているのではないか、などと考えていた俺よりも余程理屈が通っている。

 もっとも、既に状況が大きく変わり、彼の想定は成り立たなくなっているが。


『残念だが、先に滅ぶのはお前達の方だ』


 だから俺はそう憐れみと共に告げながら、真・複合発露〈支天神鳥(セレスティアルレクス)煌翼(インカーネイト)〉を発動させて戦場全体に風を巻き起こした。

 研ぎ澄ました刃と化したそれを以ってオルギスの四肢を落とし、眼下の炎を纏った兵士達を暴風で空に巻き上げていく。

〈灰燼新生・輪転〉は防御力を高める類の複合発露ではないし、特異思念集積体ではない真・暴走・複合発露の身体強化相手なら、三大特異思念集積体たるアスカとの真・複合発露を用いれば切り裂く程度のことは容易い。

 大手を振って相手をズタズタにできる機会が余りないので目立たないが、彼女の力は少女化魔物の中では最強と言っても過言ではないのだ。

 王都バーンデイト以上に肥大化していたフェニックスの少女化魔物の時とは違って繊細かつ超広範囲の干渉も不要なので、真・暴走・複合発露すら必要ない。


『詰んでいるんだよ、お前は。何せ、既に彼女の自壊は停滞しているからな』

『自壊が、停滞しているだと?』


 荒れ狂う風の中、再生した肢体を動かして体勢を立て直しながら問うオルギス。

 中天に拘束されたが如き状態で全く取り乱さずにいるのは、究極レベルの再生力に加えて、そこから即座に逃れる方法をも有しているからだろう。

 だが、全てを理解した時に今のままでいられるか。見ものだ。


『ああ。何なら転移して確認してくるか? 別に構わないぞ。気が済んだら戻ってくることをお勧めするけどな。死にたくなければ』

『何を、言って――』

『お前に残されている選択肢は二つしかないってことだ』


 言いながら、何もない空間に〈万有(アブソリュート)凍結(コンジール)封緘(サスペンド)〉で氷塊を発生させる。


『この凍結は内部の状態の変化を停止させる。フェニックスの少女化魔物と同じように氷漬けになって自壊を一時的にとめるか――』


 そこで一度言葉を区切り、氷塊を粉々に粉砕してから再度口を開く。


『そのまま自壊するか。二つに一つだ。さあ、どうする?』

『……くっ』


 一瞬思考を巡らせたかのような時間の空白の後、オルギスは眼前から姿を消す。

 俺の言葉が真実かどうか確認するために王都バーンデイトに転移したのだろう。

 数分して彼は再び俺の目の前に姿を現す。

 奇襲を仕かけてこなかったところを見るに、交渉から入るつもりらしい。

 懸命ではあるが、オルギスの底は見えたとも言える。


『アレの凍結を解け。さもなくば〈灰燼新生・輪転〉の抑制をやめ、辺り一帯のアクエリアル帝国の兵を道連れにするぞ』

『……そんなにも死にたいのなら、とめはしない』


 オルギスからの要求を、平静を装いながら一蹴する。

 とは言え、自棄になって自滅前提でそうされるのが正直一番面倒ではある。

 まあ、俺にとっては外国の兵士なので義務も義理もないけれども。

 それでも一応はレンリの祖国なので無碍にはできないし、気分もよくない。

 オルギスが死んだ場合の、フェニックスの少女化魔物への影響も心配だ。

 しかし……。


『死か、停滞か。選べ』


 こちらが強気に出れば、彼が自分の命を優先することは分かり切っていた。

 襲撃を受けて真っ先にクピドの金の矢を用いて国王から真性少女契約を切り替えていたこと、身体強化で過剰な再生を抑え込んでいたことも根拠の一つだ。

 決定的だったのは、わざわざ交渉するために俺の目の前に戻ってきたこと。

 本当に死を厭わないのであれば、転移を使えるのだから、俺のことなど無視して身体強化を解除しながらアクエリアル帝国側に突っ込んで行けばいい。

 交渉も弱腰だ。俺の機嫌を損ねないために、一人も見せしめにはしなかった。

 まあ、アクエリアル帝国の人間が巻き添えを食ったとしても、オルギスが死を忌避して〈灰燼新生・輪転〉を抑制する限り、時間的な猶予は十分にできるが。


 何にせよ、オルギスが徹頭徹尾、己の身の安全を優先して行動していることは明白だ。脅しの言葉を実行することなど彼にはできはしない。

 最前線にまで来ている以上は王族として実績を上げたいといった欲はあるのだろうが、それも全て命あってこそのこと。

 だから――。


『……分かった。俺は、死にたくはない。停滞を、選ぶ』


 彼にとっては、選択肢は実質一つしかなかったとも言える。

 しかし、彼らに利用された少女化魔物には見せかけの選択肢すらも与えられなかったのだから、感謝して欲しいぐらいだ。


『そうか。だったら、後十数分の間〈灰燼新生・輪転〉を抑え込んだまま大人しくしていることだな。お前のせいで真・暴走・複合発露を使ったばかりだ』


 これ以上、炎が地上に影響を及ぼさないように風で巻き上げたまま告げる。

 幸い、王都バーンデイトにて彼女達が暴走状態にあった時間は数分。

 即座に解除して時間もそれなりに経過しているので、間もなく復帰可能だ。

 再度負担を強いるのは心苦しいが、被害を最小限にするにはこれしかない。

 勿論、彼女達なら快く引き受けてくれるはずだが。


「ふう……」


 いずれにしても、後はしばらくこの状態のまま待機していれば一区切りだ。

 そう考えて、小さく息を吐き出した直後。


『あ……?』


 オルギスが急に呆けたような声を出し、何かを探すように顔を動かし始めた。

 表情は肥大化した肉に覆われて今一分からないが、困惑の気配が感じられる。


『ラ、喇叭(ラッパ)……喇叭の、音が……あ、あああ、ああああああっ!!』


 そのまま彼は取り憑かれたように虚ろな言葉を口にし、そうかと思えば、その奇怪な形に成り果てた口を自ら引き裂かんばかりに大きく開いて叫び始めた。

 しかし、やがてピタリと動きをとめると――。


『全て……全て、死ねっ! 滅べっ! 否、俺が尽く、殺してやるっ!』


 突如としてそう喚き散らした彼は転移によって風の檻から逃れ、急激に肉体を肥大化させながらアクエリアル帝国陣営へと突っ込んでいった。

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