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ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~  作者: 青空顎門
第6章 終末を告げる音と最後のピース

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270 連続する想定外

 暗くなりつつあった空の色が再び赤みがかり、そして青空に戻っていく。

 定点カメラの映像を早回しで逆再生したかのような光景が視界の端に映る。

 西の地平線から帰ってきた太陽もまた移動を続け、今はほぼ真上。

 とは言え、それらは何ら異常な現象ではない。

 元の世界で言えば日本に位置するホウゲツから、フランスとスペインの国境辺りに位置するフレギウス王国の地方都市までニ十分弱で至れば当然の話だ。

 しかし、今はそんなことに意識を向けている余裕はない。

 三大特異思念(コンプレックス)集積体(ユニーク)が一体、ジズの少女化魔物(ロリータ)として空の全てを感知可能なアスカのナビで一直線に翔けてくれば、迷うことなどなく目的地はもう目の前だ。

 もはや俺が探知をしても正確に把握できる距離であり……。


「まずいっ!!」


 強化された俺の視覚もまた、今正に真紅の鱗を持つ巨大な竜が体勢を崩す姿と、無数の傷を負った彼女へと巨大な片刃の両手剣を叩きこもうとする男を捉えた。

 予想通り彼がフレギウス王国の国王で、この剣が本物の、竜殺しの思念が蓄積された第六位階の祈望之器(ディザイア―ド)アスカロンであれば。

 あの一撃は間違いなく彼女に致命傷を負わせることだろう。


「させるかっ!!」


 だから俺は、雷の軌道と共に両者の間へと瞬時に割って入り、どこか鳥を思わせる異形と化した手でその剣を受け止めた。

 アスカとの(アーク)複合発露(エクスコンプレックス)支天神鳥(セレスティアルレクス)煌翼(インカーネイト)〉を以ってすれば、生身でそうしても切り裂かれることはない。

 たとえフェリトの消耗を考えて既に循環共鳴を解除しているにしても。

 むしろ、これが国宝たるアスカロンそのものなら破壊してしまっては国際問題になりかねない、と受け止めた衝撃で砕けないように注意したぐらいだ。


「何っ!?」


 それから一瞬遅れて。

 眼前の状況に認識が追いついたのか、この国の王であろう男が目を見開いた。

 どうやら空を飛ぶことはできない様子の彼は、しかし、周囲に作り出されていたいくつもの足場を踏み、俺達から距離を取って体勢を整える。

 離れた地面に隊列を組む王国の軍人と思しき百人弱は、魔炎竜相手には男が一人で対応するのが最適と見てか、攻撃からサポートに切り替えていたようだ。

 そう状況から推測していると――。


「貴様っ! 我が、この偉大なるフレギウス王国の王ジーグ・イクス・フレギウスと知っての狼藉か!? 何故、魔炎竜討伐の邪魔をする!?」


 正面に位置した男が、両手剣の切っ先をこちらに向けてがなり立てる。

 やはり彼こそがフレギウス王国の国王だったらしい。

 となれば、彼が持つ剣もまた本物の国宝アスカロンで間違いないのだろう。

 ……破壊しないでおいてよかった。

 いや、本音としては破壊したいところだが。


 いずれにしても、俺の目的は彼らと争うことではない。

 とは言え、彼らの様子を見るに話し合いが通用する雰囲気でもない。

 ならば、とっとと氷漬けにでもして身動きできなくし、妹(仮)をこの場から遠ざけてしまうべきだろう。


「答えよっ!!」


 だから、不敬にも(この状況では敬う気もないが)俺は国王ジーグの問いを黙殺してサユキとの真・複合発露〈万有(アブソリュート)凍結(コンジール)封緘(サスペンド)〉を発動させようとした。

 しかし。正にその瞬間。


「っと」


 既に周囲に散布していた氷の粒子が反応を示し、俺は咄嗟に回避行動を取った。

 一瞬前まで俺がいた空間を、巨体が高速で通り過ぎていく。

 暴走(パラ)複合発露(エクスコンプレックス)の力でドラゴンと化した少女化魔物が攻撃を仕かけてきたのだ。

 俺の乱入に一瞬だけ虚を突かれていたようだが、彼女は暴走状態のまま。

 こちらが味方だと認識することは難しいだろう。

 そうやって俺が意識を彼女に逸らしている間に。


「答えぬならば、王の名の下に断罪してくれる!」


 ジーグはそう告げると足場を蹴り、しかし、俺達に向かってくることなく地上で待機している配下達のところへと降下していった。

 言行の不一致に、一体何を企んでいるのかと警戒する。

 だが、何にせよ、彼ら諸共凍結させてしまえば同じことだ。

 そう考えて再び意識を向けるが……。

 またも暴走するままに彼女が邪魔をしてくる。

 開かれた巨大な口から吐き出された紅蓮の炎が迫る。


「なっ!?」


 それを前にして、俺は思わず驚愕の声を上げてしまった。

 この領域に無数に展開されていた氷の粒子が、バーナーの如く高速で放出された炎によって消し飛ばされてしまったからだ。

 彼女のブレスが特異思念集積体級の威力を秘めていなければそうはならない。

 故に俺は、身体強化を頼みに無防備に受けるべきではないと大きく避けた。


 しかし、それはそれとして。

 本来ならば、複合発露の発動に伴って変化した異形の体に付随する能力が第六位階に勝る力を持つはずがない。

 よくよく見ると、俺が到着した時に負っていた傷も全て癒えている。

 この事実が意味するところは一つ。

 特異思念集積体()ではない。通常は一体につき一種類である複合発露の効果を複数持つ、正に特異思念集積体そのものだと考えるべきだ。


「……特異な一体として思念が蓄積し過ぎましたか」


 そうした状況を受け、イリュファが影の中から推測を口にする。

 彼女もまた俺と同じ考えに至ったようだ。


「けど、彼らが恐れた本当の魔炎竜は母さんじゃないのか?」

「今のファイム様も特異思念集積体なのでしょう。いつからそうなったかは分かりませんが……その娘なのですから同等の存在となっても不思議ではありません」


 つまるところ。母さんが火竜(レッドドラゴン)の少女化魔物の中の特別な個体なら、彼女は特異思念集積体魔炎竜の少女化魔物というところか。

 いずれにしても、目の前の存在が妹であることはもはや確定的だ。

 一先ず、それが分かったのはいい。

 だが、想定外のことに妹へと意識を集中し過ぎた。

 ここにいるのは俺達だけではない。


「奴は間違いなく魔炎竜以上の脅威だ。貴様らの力、一時的に借り受けるぞ!」


 地上に降り立ったジーグが、そこにいた配下達に告げる。


「元より陛下よりお預かりしているものです。仰せのままに」


 対して彼らはそう応じると、ジーグが何ごとかを行うための時間稼ぎをしようとしてか、俺達に向けて無数の攻撃をばら撒くように放ってきた。

 一番多いのは炎。後は水や風に土、闇を固めたような何かや光線。

 恐らくは世の中で比較的数の多い精霊系の少女化魔物との複合発露だろう。

 それだけに、普通ならばそこまで脅威とはならないはずだが――。


「まさかっ!?」


 こちらはこちらで全てが氷の粒子の強度を上回っていた。

 俺達の身体強化を貫く程ではないが、それでも異常事態としか言いようがない。

 それが真・複合発露であるにせよ、暴走・複合発露であるにせよ、特異思念集積体でもなければ、そのようなことは起き得ないはずだ。

 曲がりなりにも、俺は救世の転生者なのだから。

 しかし、特異思念集積体が数十も集まることは……国王直属の配下ならあり得るかもしれないが、それにしては攻撃がシンプル過ぎるし、威力が中途半端だ。

 もしも特異思念集積体の力を行使できるなら、早々に魔炎竜への攻撃に見切りをつけてジーグのサポートに徹する選択をするとも思えない。

 そこから導き出される答えは……。


(アーク)暴走(パラ)複合発露(エクスコンプレックス)か!?」


 少女化魔物を奴隷の如く扱われていると言うフレギウス王国。

 真性少女契約(ロリータコントラクト)もまた隷属の矢によって相手の意思を捻じ曲げてなされると聞く。

 それが真・暴走・複合発露を使うとなれば、そこから更に狂化隷属の矢を用いて少女化魔物に多大な負担を強いる暴走状態を強制していることになる。


「こいつら……」


 隷属の矢を用いた真性少女契約は、国家としては法律で禁止して取り締まっているとしながら、近衛の軍であろう者達が堂々と尚惨い真似を平然と行っている。

 他国の問題故に手を出す訳にもいかず、わだかまっていた怒りが溢れ出す。


「くっ」


 その間にも暴走した妹は俺を撃ち落とそうとブレスを放ってくるが、攻撃自体は十二分に回避できる。

 一度見てさえいれば、その威力への動揺もない。


「凍りつけ!」


 だから俺は、今度こそジーグごと地上一帯を凍結させた。

 そして妹をこの場から連れ出そうと、彼女へと向き直る。が――。


「何っ!?」


 ほとんど間を置かずに氷漬けとなったジーグが氷ごと灰となって崩れ落ち、かと思えば、その灰が再び人の形を作って彼の肉体を再構築した。

 更には彼の周りで、真・暴走・複合発露によって身体強化していたと思しき者達までもが氷を内側から破って出てきてしまう。

 後者は氷の粒子を砕かれた時点であり得るかとも思ったが、前者はまた不可思議な現象だ。命を落としても灰の中から復活するとはレンリから聞いていたが……。

 どうやら、凍結による生命活動の停止が復活の条件に当てはまったらしい。

 配下達の半数以上は氷漬けのままだから全くの無意味ではないだろうが、それにしてもこの短期間で予想だにしていなかった事態が多過ぎる。

 腐っても一国家の最高戦力だったという訳か。


「王よ。お早く」

「分かっている」


 そんな中。ジーグは配下の一人にそう応じると、彼の影の中に入っていった。

 それ以外の、凍結から抜け出した者達は再度俺達への牽制を再開する。

 妹もまた変わらず、一番近くにいる俺に襲いかかってくる。

 想定外続きに混沌とした状況を整えることができない。

 妹にだけ集中したいのに。

 しかし、そんな俺の思いとは裏腹に、そこへ更なる異常が生じた。

 地上からの攻撃がやみ、ジーグが入った影から何かが這い出てきたのだ。


「あれは――」


 それは複数の異種族の翼を持ち、無数の生物の特徴が散りばめられた異形のあちこちから炎を吹き上げながらも人型を留めた存在であり……。

 その手には片刃の両手剣、アスカロンが握られていた。

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