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ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~  作者: 青空顎門
第4章 前兆と空の旅路

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210 時間稼ぎと本番

 正直なところ、俺の胸の内には微かな苛立ちが生じていた。

 ある程度は謙虚を心がけてきたつもりだったが、どうやら救世の転生者としての自負のようなものが無意識に少なくない割合で存在していたらしい。

 これまで俺は幾度か厳しい戦いに直面し、それでも最終的には何とか潜り抜けてきた。

 勿論、敗北が全くなかったという訳ではないが、それでも雑魚をあしらうかのように虚仮にされたことなど一度たりともなかった。

 だと言うのに、眼前の存在は……。


「俺なんか軽く跳ね飛ばして、飛行機もどき(マナプレーン)に体当たりしてやろうって腹積もりか」


 唯一明確に俺の方が勝っている速度を以ってジズを一気に追い抜き、マナプレーンの傍まで先行。それから反転して待ち構えながら呟く。

 ジズは俺など眼中にないかの如く真っ直ぐに、速度を緩めることなく突っ込んでくる。

 彼女は先程の攻防……にも満たない、まるで茂みに分け入る時にチクチクする葉を煩わしく振り払ったが如き状況から、俺を全く以って脅威にもならない存在と見なした訳だ。

 しかし――。


「…………あんまり、なめてくれるなよ」


 俺とフェリトは今も尚、循環共鳴を維持している。

 それにより、こちらの複合発露(エクスコンプレックス)の力は時間経過で強くなり続けている事実があるのだ。


 とは言え、純粋なスケールの違いから、生半可な攻撃は容易く再生されてしまう。

 たとえ相手を傷つけることができるだけの攻撃力を有していようとも、どれだけ複合発露の力が増そうとも、つけることのできる傷が余りにも小さ過ぎては何の意味もない。

 それではジズの目が再び俺に向けられることはない。

 ならば、どうするか。

 答えは一つ。相手と同じ土俵に乗る以外にない。

 スケールが異なると言うのなら、スケールを合わせてしまえばいい。


「我流・循環共鳴(ループレゾナント)雷翼(ライトニングソア)氷結巨竜(ギガフロストドラゴン)!」


 だから、俺は全霊を込めて巨大な氷の竜を作り出した。

 循環共鳴のバフ効果が増大したおかげで、その大きさは最初に作り出した氷塊を遥かに超え、全長数キロを誇るジズに匹敵する大きさに至っている。

 ……ただし、これもまた体積を優先しているため、それこそ最初の氷塊と同じようにジズの突進を食らったら粉々に砕けてしまうことだろう。

 現状では、ほとんど張りぼてに過ぎないと言っても過言ではない。

 空に属している存在全てを感知していると思しきジズもまた、正確にその事実を把握しているようで、迫り来る彼女の速度が緩むことはない。

 このまま行けば、この氷の巨竜もまた呆気なく粉砕され、そのままマナプレーンまでもが撃墜されてしまうことは想像に容易い。

 しかし、当然ながら想像に容易いことを考えなしに実行するはずもない。


「なめてくれるなと、言ったはずだぞ!」


 にもかかわらず、僅かたりとも警戒せずに突っ込んでくるジズに対し、久方振りに格下として挑む立場に立った妙な高揚感から不敵に笑いながら告げる。

 まあ、最初から声は届いていないだろうから、いちゃもんレベルの言葉ではあるが。


 等しく張りぼてに過ぎない氷塊と氷の巨竜。

 だが、この二つには大きな違いがある。

 それは……。

 この氷の巨竜には中心部に俺自身が乗り込んでおり、その指の一本に至るまで細やかな操作をすることができるということだ。


「さあ、仕切り直しだ」


 そして俺は、(アーク)複合発露(エクスコンプレックス)裂雲雷鳥(イヴェイドソア)不羈(サンダーボルト)〉の力で氷の巨竜ごと迫る巨鳥へと翔けた。

 対するジズの進路に変更はない。

 当たり前だ。彼女の中では、そうする意味など皆無なのだから。

 単純に真正面からぶつかって終わりにするつもりだ。


 勿論、俺はそれにつき合うつもりはない。

 敗北の結末が目に見えている行動を取るなど、愚の骨頂としか言いようがない。

 故に、そのまま互いに一直線に翔けた先。正面衝突する寸前。

 前世の物理法則を完全に無視する挙動で、俺は直角に急上昇してジズの突進を避けた。

 それと共に急反転し、上空から全体重を乗せるように彼女の背中へと圧しかかる。


「落ちろっ!」


 たとえ概念的な強度が足りなかろうと、自らと同程度の大きさの氷の塊を無防備な背に押しつけられて、何の影響も出ないはずがない。

 果たして、ジズは上からの力に高度を強制的に下げさせられ……。

 彼女はその雷鳴の如き唸り声を、苛立たしげに空に響かせた。


「どうしてもマナプレーンを落としたければ、俺を倒してからにすることだ!」


 この攻防を受けて。

 たとえ言葉が届かなくとも、二度も邪魔をされたジズは今度こそ俺を先に排除しなければ、空を侵犯した異物に断罪を下すことなどできないとハッキリ理解したようだ。

 彼女は自ら速度を緩めると、再び胴体を軸に高速回転して俺を振り落とそうとする。

 が、俺はその予備動作を察知し、先程と同じように即座に射程内から退避した。

 それでも図体がでかくなった分だけ安全圏への離脱が僅かに遅れ、氷の巨竜の半分近くが鋭利な刃の如き翼によって削り落とされてしまう。

 中心にいる俺を守る氷にも、風の刃の爪痕が刻み込まれていた。


 敵も然る者。

 三大特異思念(コンプレックス)集積体(ユニーク)たるジズの少女化魔物(ロリータ)だ。

 俺を見下した行動は、空の支配者としての実力に裏打ちされたものに他ならない。

 当然ながら、この張りぼて如きに押し切られる程に弱いはずもない。


「ここから、だな」


 とは言え、それは全てあくまでも現時点においての話に過ぎない。

 今も尚、循環共鳴によって徐々にではあるものの、氷の強度は増し続けている。

 つまり、いずれはこの埒外の巨大さを誇るジズと同等の大きさを有しながらも、彼女の身体強化を上回るだけの攻撃力を持つに至る訳だ。

 それまでジズの攻撃に耐え抜けば、ようやく彼女を補導する目が出てくる。

 だが――。


「……やっと、本気になったか」


 言うは易く行うは難し。

 今の今までジズは俺を、それこそ周りを飛び回る煩わしい蚊ぐらいにしか見なしておらず、雑に振り払うような攻撃しかしてこなかった。

 しかし、これからは明確な敵として戦闘態勢に入ることだろう。

 これまでの行動だけを判断材料として、容易に時間稼ぎできるとは思わない方がいい。


「お前が俺を倒すのが先か、俺達の力がお前を上回るのが先か」


 そして。

 即時再生成された氷の巨竜と、空を覆わんばかりの巨鳥ジズが向かい合う。

 先程までとは打って変わって空の中で停止飛行している彼女の瞳には、俺に対するハッキリとした敵愾心と警戒心を感じ取ることができる。

 虫けらの如く思って振り払ったはずの存在が改めて障害として立ち塞がったことへの苛立ちもまた滲み出ているが、同時に俺を見定めようとしているようにも見えなくもない。

 暴走状態は暴走状態なりに、速やかに空の異物(マナプレーン)の排除に戻るため、俺を打ち倒す算段をつけようとしているのだろう。もはや油断することなく。

 正に、ここからが本番だ。

 高高度の冷たい空気が急激に張り詰めていくのを肌で感じる。


「勝負と行こうか」


 そんな中で己を鼓舞するように口にした言葉は、変わらず彼女に届くことはない。

 しかし、その声が合図となったかの如く。

 次の瞬間、睨み合うように対峙していた俺達は、全く同じタイミングで動き出した。

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