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ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~  作者: 青空顎門
第4章 前兆と空の旅路

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197 人形化魔物【ミミック】

「ふう」


 世界に溶け込むように消えゆく異物を前に、小さく息を吐きながら警戒を少し緩める。

 人形化魔物(ピグマリオン)【イヴィルソード】及び【リビングアーマー】を討伐してから三日。

 俺は今、隣国ランブリク共和国にある遺跡の一つ、ヴィマナ遺構にいた。

 場所は元の世界で言うところのヒマラヤ山脈の内部。

 最初の発掘された祈望之器(ディザイアード)ヴィマナにちなんでヴィマナ遺構と名づけられたそこは、二十年程前に発見されてから今も尚、探索と調査が続いている広大な地下迷路だ。

 入口は複数あり、今回は北側の麓から来たが、南側からも入ることができる。

 何故そんなところに俺がいるかと言えば、人形化魔物が出現したからに他ならない。


「……これで合計三体目か。昨日も思ったけど、この【ミミック】って名前の人形化魔物は余り強くないよな。あの二体に比べると」


 既に討ち果たしたそれが、目の前で完全に消え去ったのを確認してから呟く。

 居酒屋ミツゲツで聞いた、探索済みの遺跡で行方不明者が出たという噂。

 その元凶としてトリリス様達に名前を挙げられていた人形化魔物だが、勿論ヴィマナ遺構は現在進行形で探索中の遺跡であるため、ここが噂の出どころではない。

 丁度昨日、一体目を倒したところこそが件の遺跡だ。


 ホウゲツの都市の一つ、三重県に当たる位置にある神都サカキバに存在するそこは、八咫鏡が発見されたことでヤタ遺構と呼ばれている。

 深い森に囲まれたどこか宗教的な(神社っぽい)遺構で、隅々まで探索が済んだ後は一種の観光地として神都サカキバにて管理されているとのこと。

 そのヤタ遺構を訪れた観光客が数名行方不明となり、あの噂が広がった訳だ。

 当然、早い段階でヒメ様が指示を出し、優秀な補導員を向かわせてはいたのだが……。

 俺にお鉢が回ってきた時点で自明のことではあるけれども、残念ながら【イヴィルソード】と【リビングアーマー】の時と同様に、芳しくない結果に終わっていた。


 ちなみに二体目は同じくホウゲツの、島根県の辺りにある古都カシワバのトクサ遺構に出現し、こちらも昨日の内に俺が既に処理している。

 一体目以外は噂に付随して出現したものと推測され、噂という前例のおかげで被害者が少ない段階で【ミミック】の出現を知ることができたようだ。

 おかげで、トクサ遺構とヴィマナ遺構に関しては、補導員を送らずに最初から俺が対応する形となっていた。無駄に犠牲者を増やさずに済んだのは不幸中の幸いだ。

 討伐に全く苦労しなかったこともまた。


「しかし、腐っても人形化魔物です。救世の転生者としての補正がなければ、同じ感想は抱けなかったでしょう。今回は、補正が有効に作用するタイプだったようですし」


 先の俺の呟きに対し、犠牲になった補導員にフォローを入れるイリュファ。

 実際、彼女の言う通りだろう。

 比較的相性がよかった。そこまで強く感じなかった理由はそれに尽きる。

 自惚れは人形化魔物にさえ隙を作る。俺も増長しないようにしなければ。


滅尽(ネガ)複合発露(エクスコンプレックス)は身体強化を含む身体変化。ザックリ言えば擬態。この部分は特筆すべき部分かもしれないけど、強化の方向性自体はやや防御寄りのバランス型だったものね」


 (アーク)複合発露(エクスコンプレックス)共鳴調律(イントネイトディア)想歌(アンプリファイア)〉を解除したフェリトが、補足するように続ける。

 人形化魔物【ミミック】。

 元の世界の知識的には、その名を聞くと宝箱的な外見が思い浮かぶ。

 しかし、人形化魔物の【ミミック】は全く別ものだった。

 と言うか、本当の姿がどんなものなのか、既に討伐してしまった今となっては不明だ。

 どうやら、元来のシェイプシフター(姿形が変化する魔物)的な要素が強いらしい。

 実際、俺が目の当たりにした【ミミック】の形状は……。


「けど、でかい牛乳瓶が遺跡の床に置いてあったのには、さすがに笑っちゃったわ」

「しかも、サカキバとカシワバの時に続いて三回目だもんね」


 笑いを噛み殺すように言ったフェリトに、サユキが同意するようにつけ加える。

 二人の会話に出てきた通り、俺が対峙した【ミミック】は牛乳瓶(中身入り)だった。

 そんなものが古めかしい坑道的な通路の真ん中にぽつねんと置かれていたのは、余りにもシュール過ぎて【ミミック】だと一目で分かった。

 ちなみにヤタ遺構では獣道の脇の地面に、海岸近くにあるトクサ遺構では砂浜に三分の一程度埋まった状態になっていた。不自然極まりなく。

 擬態とは一体、何だったのかと言いたくなるレベルだ。


「いくらイサクの大好物だからって、ねえ。……ふふ」


 我慢していた風だったのに、結局は笑い声を零してしまったフェリトに微苦笑する。

 人形化魔物【ミミック】が持つ滅尽・複合発露は、仕事を受ける前に聞いたところによると、殺害対象と定めた人間が今現在欲しているものに擬態することだった。

 観光客に関しては、それに目が眩んで近づいたところを狙われたのだろう。

 恐らく【ミミック】は、遺跡から発掘されてもおかしくなさそうな祈望之器や貴重な鉱石などの形で彼らの前には現れていたはずだ。

 事前に情報を聞いていたはずの補導員がやられてしまったのは、単純に力負けだろうが。


 しかし、対照的に俺の目の前に出てきたのは牛乳瓶。

 何でだよ、と思わず突っ込みを入れたが、よくよく考えると至極当然の結果だった。

 最高レベルの祈望之器である印刀ホウゲツを持ち、EX級補導員として金に不自由してもいない俺は、出自不明の祈望之器も金目のものも特別欲しいとは思っていないからだ。

 故に、それ以外で一番欲しいものに関連して牛乳瓶が出てきたのだろう。

 とは言え――。


「いや、別に大好物って訳じゃないぞ。普通に好きではあるけどさ」

「え? でも、最近じゃ毎日欠かさず飲んでるし、【ミミック】も擬態してたじゃない」

「まあ、そこだけ見ると、勘違いするのも無理もないことだけどな……」

「じゃあ、イサクが今一番欲しいものって何なの? もしかして瓶の方?」

「違う違う。俺が欲しいのは身長だよ。牛乳を飲むと背が伸びるって言うからさ」


 そろそろ二次性徴を迎えてもいい頃合いなのだが、一向に伸びる気配がない。

 なので、牛乳をよく飲んでいるのだ。

 まあ、牛乳と身長の因果関係は特にないという話もあったが、前世では幼い頃からよく言い聞かされてきたし、この世界でも一般的に広く知れ渡った考え方になっている。

 少なくとも人間原理に基づくこの世界なら、因果関係が発生してもおかしくはない。

 とにもかくにも「身長が伸びて欲しい→牛乳を飲むと背が伸びる→牛乳瓶」という感じの連想に囚われ、【ミミック】はそれに擬態してしまったのだろう。


「でも、サユキは今の身長のイサクも好きだよ? きっと皆も」

「それはありがたいけど、俺は自分の背が高い方がいいからさ」

「そうなの?」

「そうなの」


 恐らく俺がどんな姿でも全肯定するであろうサユキが首を傾げて問うのに深く頷く。

 これは彼女達とのバランス的な話なのだ。譲ることはできない。

 何せ、今の俺は一般的な少女化魔物(ロリータ)よりも背が低いぐらいだからな。

 下手をすると、おねショタとかそっち系統に行ってしまう。

 それは人外ロリコン的に正直もにょる。

 なので、早く大人の体格になりたいのだ。


「ともあれ、【ミミック】は退治できたことだし、ここを出ようか」

「ですが、もう一体とか、いたりしませんです?」

「まあ、もしいたとしたら、ヴィマナ遺構を出るまでにまた通路に牛乳瓶が落ちてるさ」


 出口に続く道へと体を向けたところで心配の声を上げたリクルにそう返す。

 場所が違うとは言え、既に三体も同じ人形化魔物と戦った訳だからな。

 そう不安に思うのも理解できる。

 とは言え、今日は探索も調査も中断して俺以外誰もこのヴィマナ遺構に入らないようにしているから、もし他にも【ミミック】がいたら(人間)を襲うために自ら現れるはずだ。

 なので、心配はいらない。


「まあ、折角だから、この遺構を少し探検してみたいけど――」

「トリリス様は速やかに帰国するように仰っていました」

「分かってるって」


 イリュファに窘められ、少しだけ未練がましく後ろを振り返ってから出口を目指す。

 一昨日の複数の案件を含め、とりあえず緊急性を要するものは処理できた。

 けど、いつ緊急の案件が飛び出してくるか分かったものじゃないからな。

 正直、今度こそ世界最大の祈望之器万里の長城を拝んでみたかったけども……。

 俺はそんな風に若干後ろ髪を引かれる思いを抱きながらも、一先ず素直にヴィマナ遺構の安全を軽く確認しながら出口へと向かうことにした。

 ちなみに、リクルが憂慮したように新たな【ミミック】が出てくることはなかった。

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