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ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~  作者: 青空顎門
第3章 絡み合う道

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186 再会とデバフ付巨大戦闘

「姉さん……」


 行方不明になっていた姉のセレスさんを前にしてフェリトは、一度は大きな声を上げたものの影の中から出てくることはなく、もどかしげな声を出すばかりだった。

 当然ながら、相手が石化などという厄介極まりない複合発露(エクスコンプレックス)を持つ以上、下手な行動は俺の枷となりかねない。その辺りのことは彼女も重々承知している。

 しかし、そんな俺達の警戒とは裏腹に、人間至上主義組織スプレマシーの代表たるテネシスは複合発露を使用せずに悠然と値踏みするような視線をこちらに向けていた。


「……何故――」


 その猶予に、セレスさんから残る三人の少女化魔物(ロリータ)へと視線を向ける。

 奥の奥にいる一人は全く初めて見る子だが、他の二人には見覚えがある。

 セレスさん同様、以前ヨスキ村を襲撃した少女化魔物達だ。

 内一人は転移系の複合発露を持つと思われる、名前の分からない少女。

 あの時、父さんが追い詰めたにもかかわらず、セレスさんを人間至上主義者の手から救い出せなかったのは彼女の力のためだった。

 そして、もう一人は……。


「何故、貴方がここにいるんですか。インシェさん」


 その彼女へと、感情を抑え込んだ低い声で問う。

 かつて狂化隷属の矢によって操られた被害者として、人間への恐怖心を癒やすために村で共に過ごした四人の内の一人、亜人(エルフ)の少女化魔物。

 噂をすれば影とでも言うべきか。

 丁度、今日という日の朝に、同じくヨスキ村に滞在していたヴィオレさんから行方知れずになっていると聞いたばかりの彼女がそこにいた。


「私が何故ここにいるのか。イサク様なら、想像がつくのではないでしょうか」


 と、期待していなかった返答が彼女の口から発せられ、内心驚く。

 その声色と表情は極自然なもの。

 どうやら他の三人とは異なり、狂化隷属状態にある訳ではないようだ。

 そんな彼女を前に、僅かに揺らいだ心を見せないように平静を装いながら口を開く。


「つまり、最初から……」

「はい。間諜、と言うものですね。セト様達御三方の内の誰かが本当に救世の転生者なのか、そうでなければヨスキ村に本物の救世の転生者がいるのかいないのか。その辺りを調査する役目を負っていました。依頼主はここにいるテネシス様です」

「……ヨスキ村襲撃の指示も、大元はそいつですか」

「いえ、それは違いまず。あれはそこにいるイアスの兄、バイスを中心としたスプレマシーの急進派による独断専行。私はそこに紛れ込んだだけです。勿論、狂化状態で操られていたのは演技ではありませんが」


 続けた問いについては否定される。

 スパイの言葉など信用できないが、その辺りの真偽は正直どうでもいい。

 問題は彼女がテネシスに与えた情報だ。


「それで俺が救世の転生者だと、その男に報告した訳ですか。ですが、別に俺は――」

「誤魔化そうとしても無駄です。私は知っていますから。風を操る私の複合発露〈清風(フェイスイン)共生(ゼピュロス)〉の応用で、イサク様とイリュファ様の会話を隠れ聞いていましたので」


 そうインシェさん……敵対するのなら、さん付けしても仕方がないな。

 そうインシェが告げると、複合発露を発動させたらしく風が頬を撫でていく。

 殺傷力は皆無だと周囲に散布した氷の粒子で観測したが故に、されるがままになっていたが、少なくとも風を操る複合発露を持つことに関しては真実のようだ。

 応用すれば、遠くの会話によって生じた空気の振動を拾うことも不可能ではない。

 使い方によっては広域の探知も可能だろう。

 あるいは、ホウゲツ学園を襲撃した男、イアスという名らしい彼の位置を把握できたのも、その複合発露のおかげなのかもしれない。


「……祈念魔法で防音していたはずだけど、さすがに複合発露は想定外だったな」


 村の少女化魔物達にその類の力を持つ者はいなかったし、インシェに関しては被害者という認識が強くて無意識に警戒から除外してしまっていたようだ。

 少女の姿をしていることも一因だろう。油断も甚だしい。


「まあ、それより前から聡明過ぎるイサク様には違和感を抱いていましたが――」

「インシェ、旧交を温めるのはそれぐらいにしておけ。俺達はそこのクズを回収しに来ただけだ。今日のところは救世の転生者に用はない」


 と、インシェの言葉を遮ってテネシスが告げる。

 その双眸を俺の近くで転がる石像へと向けながら。

 成程。狙いは口封じという訳だ。だが――。


「悪いが、そちらに用がなかろうとホウゲツ学園に仇なした犯人を渡す訳にはいかないし、社会を乱す人間至上主義組織(スプレマシー)の首魁を見逃す手はない。捕らえさせて貰うぞ」

「……邪魔をするのなら、排除するまでだ」


 俺が身構えたのに応じ、こちらに視線を向けたテネシス。

 瞬間、再び石化の影響が迫ってくるのを、周囲の氷の粒を通して観測する。

 その伝播速度は音速を優に超えている。

 それでも身体強化によって鋭敏になった感覚を以って、思念の伝わりとでも言うべきその気配を察知し、彼我の間に氷の壁を作り出して防ぐが……。


「何っ!?」


 石化の影響力を抑え切れずに浸食され、数瞬の内に砕かれてしまう。

 以前、ランブリク共和国で対峙したロジュエさんの暴走(パラ)複合発露(エクスコンプレックス)による宝石化よりも干渉力が遥かに強く感じる。(アーク)暴走(パラ)複合発露(エクスコンプレックス)と見紛う程だ。

 その強固な力が、氷の壁が失われたことで眼前に迫り来る刹那の間隙。

 俺は(アーク)複合発露(エクスコンプレックス)裂雲雷鳥(イヴェイドソア)不羈(サンダーボルト)〉の速度を以って上空へと回避した。

 しかし、石像を確保する余裕まではなく、それは無防備に転がったまま。

 そして、あちらには転移の複合発露を持つ少女化魔物がいる。

 このままでは、テネシスの目論見通りに犯人を回収されてしまうだろう。

 すぐにでも地上に戻らなければならない。

 だが、今のままでは石化の餌食になるだけだ。


「我流・雷翼(ライトニングソア)氷鎧巨人(フロストギガース)


 だから、転移の複合発露が使用される前に、俺は即座に分厚い氷を巨人の形に作り上げると共に雷速を以って降下し、その巨大な左手で石像を掴み上げた。

 複合発露で石化しているのなら、生身の時とは違って多少雑に扱っても問題ない。

 更に同時に、住宅街に配慮して着地はせずに浮遊したまま、氷の左腕でテネシスの視界を遮るようにしながら彼を捕縛せんと手を伸ばす。

 対して彼は避けることなく、迫る掌を睨み続け――。


「ちっ」


 氷で作られた巨人の右腕が急激に石化し、呆気なく砕け散ってしまった。

 舌打ちをしてテネシスの正面から退避しながら、瞬時に氷の右手を再生させる。

 雷の如き軌道で背後を取って再び掴みかかるが、今度はこちらを向いていた名も顔も知らぬ少女化魔物が石化の複合発露を使用したらしく、同様の結果に終わる。

 どうやらテネシスは彼女と少女契約(ロリータコントラクト)を結んでいるようだ。

 眉をひそめながら氷の巨人を万全な状態に戻し、体勢を立て直す。


「さすがは救世の転生者か」


 そんな俺を前にして、予想以上とでも言うように感嘆の声を上げるテネシス。

 だが、俺からすると予想以上なのは彼の方だ。

 ホウゲツ学園を襲ったイアスとは、それこそ格が違う。

 少女契約を結んでいることと言い、インシェを狂化隷属状態にせずに傍に置いていることと言い、頭の中にあった人間至上主義者のイメージとも全く以って違い過ぎる。


「その発想、真似させて貰う」


 次いで彼はそう告げると、転移の複合発露を持つ少女に目線で合図をして姿を消した。

 一瞬、逃げたのかと思うが……。

 直後、ホウゲツ学園の方から轟音が響いてきて、その考えは間違いだとを知る。


「俺の真似……そう来るか」


 振り返ると、そこには突如として石でできた巨人が出現していた。

 こちらとほぼ同じ、全長約五十メートルの巨体。

 先程のテネシスの発言と合わせると、彼がそれを作り出したことは間違いない。

 しかし、この応用法は一朝一夕で真似できるものではない。

 ヨスキ村で原型となる技を試したことがあるので、恐らくはインシェが教えたのだろうが、そうだとしても数年でここまで安定したものを作るには相当の訓練が必要だ。

 このテネシスという男に対する認識を更に、大幅に改めねばならないかもしれない。

 少なくとも、この場で逃してしまうと後々厄介なことになりそうだ。

 だから俺は、逃走の可能性を減じるためにイアスの石像を左手で掴んだまま、ホウゲツ学園へと雷光を撒き散らしながら空を翔けた。

 石化を警戒し、無作為で鋭角な軌道と共に。


「食らえ!!」


 そして、雷の如きその勢いのまま側面から右の拳を振り抜く。

 だが、どうやって認識することができたのか、石の巨人は予知したかのように軌道上に置いた左の掌で受け止めようとした。

 直後、超巨大質量同士のぶつかり合いにより、恐ろしい程の轟音が鳴り響く。

 余りの激しさに周囲の建物に振動が伝わる程だ。

 僅か一撃ながら破壊力で考えれば、等身大の俺達の数万倍はあるだろう。

 そんな攻防の結果は……相討ち。


「くっ、やはり――」


 氷の巨人の拳も、それを受け止めんとした石の巨人の掌も衝撃に負けて砕け散った。

 同時に、互いに相手を凍結、石化させんと複合発露を発動するが、それぞれ干渉を受けた表面を引きはがす(パージする)ことによってそれ以上の影響を防ぐ。

 巨人同士の戦いは互角の様相。

 しかし、俺が救世の転生者である事実を鑑みると異常と言っていい状況だった。

 その原因は最初から分かっている。

 真・暴走・複合発露という裏技を使用している訳ではないことは間違いない。

 何故なら、この場にはそれ以外に一つ、この異常を可能にする要素があるのだから。


「姉さんの、暴走・複合発露」


 その答えを影の中からフェリトが苦しげに呟く。

 セイレーンの少女化魔物たるセレスさんの暴走・複合発露〈不協調律(ジャマークライ)凶歌(ヴァイオレント)〉。

 周囲の祈念魔法と複合発露の威力を大幅に減退し、時に位階をも下げる凶悪な力。

 これによって、俺の複合発露の出力もまた大幅に低下していた。

 救世の転生者として基本出力が大幅に彼女達を上回っているおかげで、いつか暴走状態のフェリトと対峙した時のように位階が下がるまでは行っていないようだが……。

 それでも同じ第六位階を相手取るには厳しいレベルまで弱体化してしまっている。

 中々に困難な状況だ。しかし――。


「大人しくイアスを渡すなら、今回は見逃してやるぞ」

「はっ、馬鹿を言え」


 余裕を見せるように落ち着いた声で告げるテネシスに対し、俺は苦しさを隠すように不敵に笑いながら、巨人同士の戦いを再開させたのだった。

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