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ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~  作者: 青空顎門
第3章 絡み合う道

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183 縛りプレイ

「ふざけるなっ!!」

「いいや、ふざけてなんかいない。俺は極めて真面目だ」

「黙れっ!! その傲慢、後悔させてやる!!」


 静かに刀を正眼に構えながらも、挑発のためにゆったりと余裕を見せつけるように告げた俺に対し、そう激昂して一斉に襲いかかってくる無数の分身体。

 冷静さを欠き、統制が全く取れていない様子はさながら無双ゲームの雑魚敵のようだ。

 即ち、プレイヤーが爽快感を得るためだけにある弱々しい存在。

 いみじくも、人間至上主義を標榜していながら人間を至上とせずに弱者と見なしたこの男、その頭の中にあるがままの人間の姿と言えるだろう。


「……勿体ない」


 そんな相手を前にして俺は、心に浮かんだ言葉をそのまま呟くように口にしながら日本刀を振るい、それぞれに届く直前で刃を返して峰を打ちつけていく。

 特性は失われていても、曲がりなりにも第六位階ではある複製改良品のキュウカ。

 その刀身はそれ故に、金属の塊という属性をそのまま相手に叩きつけることができる。

 第六位階の身体強化などで防御しなければ、ダメージは据え置きだ。

 勿論、祈望之器(ディザイアード)としての特殊な力はないため、プラスの補正も存在しないが……。

 分身体にはそれこそ、金属の棒で思い切り殴られた程度の衝撃は入ったことだろう。


「本当に、勿体ないな」


 俺のカウンターを受けて泥と化しつつも、瞬時に体を生み出して再び襲いかかってくる分身体を見て、改めて妙な歯痒さを抱きながら呟く。

 この複合発露(エクスコンプレックス)は使い手の実力次第では相当有用だろうに、と。

 そうした心の内が伝わったのか――。


「何がだっ!?」


 男は苛立ち交じりに声を荒げて問うてきた。

 むやみやたらと集団で俺に襲いかかり、しかし、全て呆気なく返り討ちに遭いながら。


「お前自身の弱さが、怠慢が、この力の価値を貶めている」


 対して俺は、懲りずに迫る男の分身体を直刃の刀身で打ち据えながら、可能な限り冷たく聞こえるように淡々とした声色で率直に言い放つ。

 正に、豚に真珠。猫に小判。

 無数の分身体を生み出すこの力は、本体性能が如実に現れてしまう。

 雑魚が使えば、単に雑魚が増えるだけだ。

 一の力が一万体いたとしても一万の力になる訳ではない。


「お前がもっと強ければ、少しは手こずったかもしれないのに」


 それこそ無双ゲームのように分身体を蹴散らしつつ、あからさまに嘆息する。

 狂化隷属の矢などという非道な手段を用いているとは言え、暴走(パラ)複合発露(エクスコンプレックス)ならば間違いなく第六位階に属している。

 さすがにレンリ程とは言わずとも、もしも一定の戦闘技術を有していたなら、並の補導員は歯が立たなかったに違いない。


「どうせ自己鍛錬も碌にしていないんだろう。複合発露に生身の人間は敵わないからと最初から諦めて。少女化魔物(ロリータ)を隷属するという苦労の少ない道へと逃げた。そんなことだから、この程度なんだ。命を賭して戦う気概もない。復讐の意思も高が知れるな」


 すれ違いざまに分身体の腹部に刀の峰を叩きつけつつ、見下すように煽る。

 それによって男は臨界を迎えたように憤怒の形相を浮かべ――。


「こんな調子だと本来は有能なその複合発露も雑に使っているだけだろう。もしかすると、本体が遠隔操作できる距離も限られるんじゃないか?」


 彼が我を忘れそうになる寸前に、俺はそう嘲るように問うた。

 瞬間、分身体は全て僅かに動きを鈍らせ、表情に焦りの色を滲ませる。

 実に分かり易い。

 トリリス様は、通常まともな人間が増殖可能な数を大幅に超えているからと警戒していたが……あくまでも例外はそこだけだったのだろう。


「煩いっ!」


 そんな俺の推論を補強するように、反論も誤魔化しもなく襲いかかってくる男達。

 完全に図星を突かれた人間の反応だ。

 複合発露における特異な部分も既に定まってしまった。

 性格的な部分も透けて見える。

 少なくとも彼に関しては、もはや底が知れてしまったと言っていい。

 後は適当にあしらいながら、別働部隊が本体を確保するのを待っているだけで事態は勝手に解決へと向かうことだろう。


「もう先は見えた。投降しろ」


 しかし、今日は学園都市トコハにとってハレの日であるホウシュン祭初日。

 可能な限り早く事態を収拾し、できることなら再開させてやりたい。

 この一大イベントのために学園の生徒達は色々と準備をしてきたのだろうし、少女化魔物達にとっては貴重な就職活動の場でもある訳だから。

 いずれにしても大切な青春の一ページ。

 少年少女にとって、かけ替えのない思い出となり得る尊い時間だ。

 先達たらんとする者として、必ず守らなければならない。


「これ以上は無駄だ。諦めろ」


 だから、速やかな解決のために説得を試みるが……。

 そもそも、そうした言葉を受け入れて合理的に状況を判断できるだけの理性が彼にあるのなら、こんな愚かしい真似をするはずもない。


「黙れ、黙れ黙れ黙れ、黙れっ!!」


 男はとまることなく、余計に無謀な攻撃を仕かけてくるばかり。


「何なら、逃げた方がいいぞ。今正に、捜査員がお前の本体が潜んでいる場所を捜索しているところだろうからな」


 もっとも警戒を厳にしているこの状況下で、そんな派手な動きを見せたら即座に捕捉されて確保されてしまうだろうけれども。

 男もその程度のことは予測できるようで――。


「黙れっ!! このまま隠れ潜んでいれば、俺は見つからない!!」


 彼は、そう凄まじい形相と共に叫んだ。

 おかげで小さいながらも情報が一つ。

 少なくとも彼は転移系の複合発露など何らかの方法で隠れ家を現在進行形で転々としている訳ではなく、ただ一ヶ所の潜伏先にジッと息を潜めて隠れているようだ。


「そして、これは決して無駄ではない! 少なくとも、俺がここに留まり続ける限りはホウゲツ学園はその役割を果せないのだからな!」


 どうやら彼の中では短くない間、捜査員の目を逃れて潜伏し続けられる想定らしい。

 当然ながら、一分一秒でも長くという程度では意味がない。

 数日かそれ以上の単位で、ホウゲツ学園を妨害可能だと考えているはずだ。

 そうした様子を見る限り、食料などの問題もないのだろう。

 備蓄しているのか、あるいは協力者が持ってきてくれるのかは分からないが。


「……開き直ったか」


 嘆息しつつ、口での説得が難しいなら一度全て凍結してしまうことで本体を精神的に追い込み、何らかのアクションを起こさせることはできないものかと考える。

 うまく行けば、あぶり出すような形で捜査員をアシストできるはずだが……。

 しかし、男の反応がなければ無意味だ。

 加えて、凍結によって一網打尽にすることができるのは間違いないが、敷地に超巨大な氷の塊が残ってしまうという問題もある。

 それでは結局、ホウゲツ学園は機能停止状態に陥ったままになる。


「大人しくヨスキ村の子供達と救世の転生者を差し出すか、このままここを占拠され続けるか。二つに一つだ!」


 その辺りを知ってか知らずか、虚栄を張るように歪んだ笑みと共に告げる男。

 均衡を保ってさえいれば解決は確定。

 だが、時間経過はこちらにも少なからず損失を生む。

 人的被害こそ皆無ではあるものの、勝ちとは言いがたい状況になりかねない。

 何より、少しでも成果を得られたなどとこの男が満足する余地を残したくない。

 どうにかして、一足飛びに解決へと漕ぎ着けられるような方法がないものか。

 ほとんど作業のように分身体を潰しながら、そう考えていると――。


「旦那様、この場は私に任せて下さいませんか?」


 突如として背後に人間の気配が増え、そう背中に言葉をかけられた。

 それが誰かは声を聞けば分かる。


「レンリ? どうして」

「旦那様のお手伝いをしたく、彼女らに頭を下げてこちらに送って貰いました」


 言いながら、突然の乱入者を狙うように襲いかかった分身体を殴って粉砕する彼女。

 相変わらず見た目のギャップが凄い。


「セトさん達についてはラハを連れてきて貰って任せましたので御安心を」

「いや、その辺に不安は抱いてないけど」


 先回りして心配の種を潰してくれるのはありがたいが、聞きたいのはそこではない。


「外の状況はおおよそ把握しています。遅れてあの部屋にやって来たアコ・ロリータの力で、旦那様の視界を覗き見させて頂いたので」


 事態解決のために応援を要請したのだろう。

 それよりも、俺が知りたいのはその上で何をする気なのか、だ。


「折角のお祭りを台なしにした、この甘ったれた下らない男に報いを与えるために。この場から本体を追い詰めます」


 それを口にして問うと、レンリは男への怒りと侮蔑が強く滲んだ声色と共に答える。

 何か彼の言動に癇に障った部分があったのかもしれない。


「そんなことができるのか?」


 ともあれ、俺がそう続けて尋ねるとレンリは「ええ」と頷き――。


「ただ、善良な旦那様には思いつきにくい少々悪辣な方法なので……その、どうか私のことを嫌わないで下さい」


 そして彼女は僅かに不安そうに言いながら一体の分身体を殴り潰すと、愛らしい少女の顔にあるまじき冷酷な視線を分身体達へと向けて地面を蹴ったのだった。

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