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ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~  作者: 青空顎門
第3章 絡み合う道

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182 一対無限湧きの雑魚(殲滅厳禁)

 俺が出現した位置は本来ホウゲツ学園の校門がある、敷地の縁のところだった。

 小部屋に入る直前までいたロリータコンテストの地下会場でも、付近の地上でもない。

 どうやら、位置を調整した上で地下空間から送り出してくれたようだ。

 一定の構造を伴って作り出した空間に任意の対象を引きずり込んだり、中にいる者を外に弾き出したりすることができる〈迷宮悪戯(メイズプランク)〉の副次効果を応用することによって。

 さすがにスタートが敵のど真ん中だったりすると焦るので、その配慮はありがたい。

 ありがたいのだが……綺麗に建物一つなくなってしまった真っ平らなホウゲツ学園跡地という光景を前にしては、正直なところ効果は乏しい。

 特に、まだ二ヶ月程度しか住んでいないものの大分慣れ親しみつつあった職員寮まで影も形もなくなっていることには、少なからず動揺せざるを得なかった。


「これは……お前の仕業か?」


 そんな状況を前に、無数の分身体の内、最も近くにいた一人に向かって半ば威圧するように怒気を含ませた低い声で問いかける。


「いいや。全て、勝手に崩れて消えただけだ」


 対して、男は不本意そうにそう答えた。

 思ったのと違う反応に、肩透かしを食らったような思いを抱く。


「……勝手に?」


 一拍置いて問い気味に一部繰り返した俺に、彼は同じ表情のまま頷いて肯定する。

 嘘をついている気配はない。

 冷静に考えると、確かに男がやったとすると色々おかしな部分がある。

 想定外のホウゲツ学園の様相に驚いて短絡的に考えてしまったが、こうもまっさらに瓦礫一つなく諸々の建物を消し去ることなど並の複合発露(エクスコンプレックス)では不可能だ。

 こんなことができるとすれば、俺の知る限りトリリス様以外にはいない。

 となると……恐らく学園自体も備品も、今回のホウシュン祭用の様々な道具に至るまで全て、この闖入者から守るために地下の空間のどこかへとしまい込んだのだろう。

 人質とそうでない生徒や職員、一般入場者達の避難に加えてここまでやっていたのであれば、リソース不足で分身体に干渉できないのも分かる。

 分かるが、それはそれとして――。


「そ、そうか」


 このような事態を引き起こした相手だからと深く考えずに疑いをかけてしまったことに俺は顔と耳が熱くなり、思わず誤魔化すような相槌を打った。

 どんな悪党が相手でも、謂れのない咎まで押しつけるのはさすがに不公平だ。

 ともすると、罪を糾弾する際に余計な枷にもなりかねない。

 全く……思わぬ恥を晒してしまった。

 こういうことは事前に説明しておいて欲しい。

 後でトリリス様に文句を言っておこう。

 そう心に決めつつ、一つ大きめに咳払いをして仕切り直す。


「何故、ホウシュン祭を、ホウゲツ学園を狙った」

「俺の要求は既に伝えてあるはずだが? それよりも小僧、貴様が学園側の代表者、交渉役ということでいいのか? あるいは――」


 男は視線を鋭くしながら言葉をそこで区切ると、俺の両脇から挟撃しようとするように数体の分身体をけしかけてきた。

 対して俺はギリギリまで動かず、彼らの手が届く寸前で各々の鳩尾に素早く殴打を叩き込み、それによって弾き飛ばした分身体を以って他の分身体を薙ぎ倒した。

 衝撃を受けたそれらは形が崩れ、泥のようになって地面に落ちる。

 だが、そこから再び同じ形状の分身体が無数に現れ、俺を取り囲んだ。

 その様子を見届けてから、先程まで話していた一体が再び口を開く。


「……貴様こそが救世の転生者か」

「はっ」


 そんな男の言葉を鼻で笑う。

 内容自体は真実に触れている。

 しかし、今の僅かな攻防のみで判断しようと言うのなら浅慮以外の何ものでもない。


「そう疑われるのは光栄だけどな。この程度じゃ試金石にもなりはしないぞ。身体強化の祈念魔法でも対応できるレベルだ。それこそ、お前が要求した俺の弟達でもな」


 肯定はせず、かと言って明確には否定もしない。

 この男をこの場に釘づけにするのなら、疑わせたままでいた方がいい。

 一方で、どこで誰が聞き耳を立てているか分からない以上、否定気味に濁しておく。

 その上で、作戦通りに男の注意をより引きつけるために馬鹿にするような声色と共に告げた俺を前に、どこに反応したのか彼は見る見る内に表情を怒りに染めていく。


「弟達、だと? なら、貴様は、貴様もヨスキ村の出身者か!?」

「ああ、そうだ。俺はイサク・ファイム・ヨスキ。ヨスキ村出身の嘱託補導員だ」

「ヨスキ村…………ヨスキ村、ヨスキ村ヨスキ村ヨスキ村ッ!!」


 どうやら、そこが逆鱗だったらしい。

 男が狂気を孕んだ形相でそう連呼し始めると、周囲の分身体にまで伝播していって多方向から微妙に重なっていない叫びが耳に届く。

 彼は真剣なのだろうから少し申し訳ないが、嫌になる程やかましい。

 思わず眉をひそめていると……。

 突如として声が一斉にピタリとやみ、かと思えば、最初の一体を含めた複数の分身体が唸り声を上げながら俺へと殺到してきた。


「情緒不安定なのはいいとして、壊れたレコードみたくなるのは勘弁してくれよ」


 冷静さを欠く分には口を滑らせ易くなるから構わないが、度が過ぎて話が通じなくなってしまっては情報を得るも何もない。

 とにもかくにも、この暴徒のような有様のままでは困る。

 なので俺は、一先ず鎮圧するために複合発露で人の頭程の大きさの氷塊を無数に作り出し、先程殴りつけた威力程度に制御して迫り来るそれぞれに向けて射出した。

 正面衝突するように氷塊を腹部に叩きつけられた分身体は、体をくの字に折れ曲がらせながら地面に倒れ伏し、そのまま地面に融け込むように泥と化す。

 しかし、そこから再び分身体が現れ、またも戦列に加わって襲いかかってきた。


「……さすがに鬱陶しいな」


 サユキとの(アーク)複合発露(エクスコンプレックス)万有(アブソリュート)凍結(コンジール)封緘(サスペンド)〉なら、このホウゲツ学園の敷地上に存在する全てを凍結させてしまうことは不可能ではない。

 正直、そうしてしまいたくなるが……。

 しかし、本体がどこか別の場所にいる可能性が高い以上は意味がない。

 強化された視覚でザッと見た限り、ここにいるのは確かに血の通っていない分身体だけだ。それを下手に一網打尽にしてしまうと、今度こそ本体が雲隠れしかねない。

 手加減した状態で先の見えない時間稼ぎをするというのは中々に面倒だが、本体を見つけ出すか、その位置を特定するまでは耐えなければならない。


「何故、そこまでヨスキ村に拘る? 六年前の襲撃に何か関わっているのか?」


 しばらくの間、迫り来る分身体へとガンシューティングのように正確に氷塊を叩きつけ続け、やがて意識が乱れたのか僅かに敵の動きが鈍ったのを見計らって問い質す。

 それによって幾分か興奮状態が醒めたらしく、ホウゲツ学園の校門を背にする俺に対する半円状の包囲を継続しながらも男の内の一人が口を開く。


「人間に害をなす少女化魔物(ロリータ)とそれにへつらう救世の転生者を排除し、万物の霊長にして世界の観測者たる人間の尊厳を取り戻すため。道半ばで倒れた兄バイスの無念を、弟である俺は晴らさなければならない!」


 やや問いからずれた返答。しかし、疑問の答えは十分に推測できる。

 あの日、ヨスキ村を襲撃したのはこの男の兄であり、こいつはそれを引き継いだという訳だ。実に六年越しの計画実行なのだろう。

 ご苦労なことだ。反吐が出る。


「人間至上主義者が。お題目は結構だが、結局はお前も少女化魔物の力を借りなければ何もできないんじゃないか。少女契約(ロリータコントラクト)している自分をお前の理念は許すのか?」

「あれは狂化隷属によって首輪をつけられた人形に過ぎん! 道具と何も変わらん!」

「はっ、随分と都合のいいことだな」


 もし兵器をこの世から排除するためにと謳いながら兵器をぶっ放し回っている奴がいたら、おかしいと思うのが自然。本末転倒もいいところだろう。

 ひたすら別の敵を作り上げていくだけだ。


「矛盾しているんだよ、お前達は」


 馬鹿にするように吐き捨てる。

 勿論、心の内は冷静だ。身勝手な彼らへの怒りはあるが。

 あくまでも挑発のため。

 本体の居場所に繋がる重要な情報について口を滑らせる可能性を高めるには、もう少しだけ我を忘れて欲しい。無闇な攻撃をする一歩手前ぐらいまで。


「復讐のため、力が必要なのだ! 両親を殺した少女化魔物共を排除するために!」


 現在進行形で愚かしい真似をしているこの男の口から聞くと言い訳染みていて薄っぺらく感じるが、事実だけを見るとハードな過去ではある。

 人間至上主義に傾倒するのも分からなくもない。

 こうなると理念ではなく、私怨に過ぎないが。


「だとしても、憎むべきはその仇だけだろうが! それでも尚、全ての少女化魔物に転嫁したいなら、少女化魔物の力に頼るな! 復讐がしたければ、自分自身の手でやれ!」

「複合発露に対抗するには複合発露が不可欠だ!」

「……それで持ち出してきたのが、この程度の複合発露か。下らない」


 氷の塊を無数に射出し、数十体の分身体を一瞬で泥に返しながら嘲笑と共に告げる。

 当然、少女化魔物が悪いのではない。

 使い手の能力が低過ぎるのだ。


「狂化隷属による暴走(パラ)複合発露(エクスコンプレックス)を前にそのような口を利けるのは、運よく強力な複合発露を得たからだろう! 生身の人間が複合発露に敵うはずがない!」


 返ってきた言葉に思わず呆れ、深く嘆息してしまう。

 実際、複合発露に対して複合発露なしで挑むのは困難極まりない。

 だが、可能性はゼロではないし、それは人間至上主義者が吐いていい台詞ではない。


「……お前は、人間至上主義者の中でも特に愚かだな」

「何だと?」

「人間至上主義は人間がこの世で最も素晴らしく、他の者は劣っているという思想だろうに。お前は、人間が脆弱で劣っているから、人間より強い者を世界から消し去ってお山の大将になろうとしているようにしか見えない。人間をどこまでも貶めている」


 怒りを強く滲ませた声を作って言い、そうしながら影の中から印刀ホウゲツの複製改良品、第六位階を維持してはいるものの能力は皆無なキュウカを取り出す。


「お前のような阿呆相手に複合発露は必要ない。その卑屈な性根、叩き直してやる」


 そして俺はそう宣言すると構えを取り、キュウカの刀身を正面の分身体へと向けた。

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