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ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~  作者: 青空顎門
第3章 絡み合う道

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181 ブリーフィング

「〈迷宮悪戯〉(メイズプランク)


 そう宣言するようにトリリス様が続けた瞬間、視界が一瞬にして移り変わった。

 そして俺の目に映ったのは、見覚えある質感の壁に四方を区切られた小さな部屋。

〈迷宮悪戯〉。ミノタウロスの少女化魔物(ロリータ)たる彼女の複合発露(エクスコンプレックス)

 それによって地下に作り出された空間だろう。

 隣を見ると全く動じていない様子のレンリ。後ろを振り返ると、彼女とは対照的に驚いたように周囲を見回しているセト達三人とラクラちゃんの姿もあった。

 正面に向き直るとトリリス様。更にはディームさんまでいる。

 …………などと、自分自身の現状把握をしている場合ではない。


「人質はどうなったんですかっ!?」


 ロリータコンテストの地下会場で見た光景を思い出しながら、焦燥と共に問い質す。


「心配は無用だゾ」


 対するトリリス様は落ち着き払った様子。

 その揺るぎのない姿と返答に俺は一先ず心を静め、彼女の言葉に耳を傾けた。


「犯人を除く学園内にいた生徒、関係者、一般入場者は全員、再構築した安全な地下空間へと避難させたからナ。少なくとも、その中に負傷者はいないゾ」


 いつだったか、職員寮で就寝していた俺達を強制的に連行した時の超拡大版か。

 怪我人が出ていないのであれば、とりあえずは一安心だ。

 ……しかし、ロリータコンテストの会場のみに留まらず、あの僅かな時間で広範囲かつ数万人規模で影響を及ぼすことができる力だったとは夢にも思わなかった。

 破格破格とは言いながら、まだまだ彼女の複合発露を過小評価していたらしい。

 同時に、以前この学園で起きた問題の対処を丸っと俺に押しつけていたことも判明したが、あれについては子供達の成長に必要だったと思って問い詰めないでおく。

 と言うか、今はまだ、そんなことよりも優先しなければならないことがある。

 諸々の確認が先だ。


「犯人は別のどこかに隔離を?」

「いや、奴らは学園内に残したままだゾ。あの類の力は、本体を捕まえなければ意味がない。だが、学園の中にいるとは限らないからナ。……それに少々疲れたのだゾ」


 つけ加えたように呟くトリリス様。

 さすがの彼女も、あれだけの数への干渉は骨が折れたようだ。

 男達を放置した理由は、リソース不足というのが実際のところに違いない。

 最初に口にした理屈もその通りではあるだろうが。

 しかし、いずれにしても――。


「そうなると、早く対処しないと逃げられてしまうのでは?」


 こうして悠長に話をしている暇などないのではないか、と暗に問う。

 対して、トリリス様は「いや」と首を横に振ってから続けた。


「少なくとも、あの分身体が逃げ去る可能性は極めて低い。実際に、今のところその気配はないしナ。情報を整理するだけの時間は十二分にあるゾ」

「……何故、彼が逃げる可能性が低いと分かるんですか? 人質を全て失った以上、既に目論見は潰えたと言っていいのでは?」

「確かに人質を全て助け出すことはできたのです。ですが、近しい効果を持つものを奴らにまだ握られたままなのです……」


 首を傾げて問うた俺に応え、ディームさんが深刻な声と険しい表情と共に告げる。

 どうやら引き際を弁えない愚か者、という訳ではなさそうだ。


「それは?」

「このホウゲツ学園そのものだゾ」

「敷地内に分身体が留まり続ける限り、まともに運営することは不可能なのです……」


 トリリス様の答えとディームさんの補足説明に成程と思う。

 地下会場で見た限り、あの男が使用した力は無数に増殖する類の複合発露だろう。

 人質さえ取られていなければ分身体を倒すことなど容易だと思うが、常に対処に追われるような状況が続くのであれば安心して生徒達の教育を行うことなどできはしない。

 男の本体か少女契約(ロリータコントラクト)を結んだ少女化魔物をとめなければ、学園は機能停止も同然だ。

 天秤に乗せる錘としては十分過ぎると言っていいだろう。

 あるいは、国から見るとこちらの方が重い錘かもしれないぐらいだ。

 そう考えると、確かに彼が分身体を引き上げることはあるまい。

 時間的猶予がなくはないというのも間違いない。

 であるならば……勿論、悠長に構えていていい訳ではないが、ある程度は先に情報の整理を行ってから事態の解決を目指した方がいい。


「要求の内容から推測するに、奴は恐らく以前ヨスキ村を襲撃した人間至上主義組織スプレマシーの一味だろう。奴らは少女化魔物に教育を施し、社会へと広く浸透させる要とも言えるホウゲツ学園を目の敵にしているからナ」

「……でしょうね」


 トリリス様の言葉に同意の意を示す。

 そもそも、この少女祭祀国家ホウゲツにおける反社会的な勢力と言えば、人間至上主義組織スプレマシー……の中でも一部の過激派ぐらいのものだ。

 男の発言を殊更吟味せずとも想像は容易い。


「敵の正体はいいとして、どう対処するんですか?」

「方針自体は極めてシンプルだゾ。本体か複合発露の本来の持ち主たる少女化魔物のどちらかを見つけ出し、拘束する。それだけだ」


 まあ、それは当然だな。

 しかし、問題は――。


「居場所の見当はついているんですか?」

「残念だが、現時点では確かな手がかりは何一つとしてないナ」

「アコさんの複合発露……でも無理ですよね」

「そうだナ。〈命歌残響(アカシックレコード)〉はそこまで便利な能力ではない。あの男の名前も分からないし、分身体を目視しても条件を満たすことはできないゾ」


 他者の現在までの行動、思考を覗き見ることができる特異な複合発露。

 だが、万能という訳ではない。意外と制限がきつい。

 それこそ反則に近い能力であるだけに、仕方がないこととも言えなくはないが。

 何にせよ、アコさんに頼れないとなると捜索は困難を極めそうだ。

 今のところ、ライムさんの時のような手がかりはないようだし。


「そこで、学園の嘱託補導員であるイサクに頼みがあるのです……」


 トリリス様の返答に一瞬考え込んだ俺に対し、ディームさんがそう切り出す。

 セト達向けの理由とするためか、嘱託補導員という部分を特に強調しながら。


「何でしょうか」

「イサクには学園敷地内にいる分身体の相手をして欲しいのです……」

「それは構いませんが、根本的な解決にはならないのでは?」

「……幸いにして、と言うべきか、分身体共は人格なき木偶人形ではないからナ。戦いの中であれば、口を滑らせて何かしら情報を得られるかもしれない。それと――」

「こちらでも、人海戦術で学園都市トコハ全体を虱潰しにして本体を探すつもりなのです。それを気取られないように相手の気を引き、時間を稼ぐ意味もあるのです……」


 成程。しかし、それは中々に難易度が高い役割だな。

 戦闘中に言葉を交わして情報を得られるかどうかは相手の性質に依るところが大きいし、時間を稼ぐにしても捜索にどれだけの時間を要するか分からない。

 下手をすると、いつまで経っても成果が得られない可能性もある。

 とは言え、今打てる手として最良なのは間違いない。

 そして並の補導員には困難な仕事である以上、俺に白羽の矢が立つのも当然の流れだ。


「……学園都市トコハ内に本体がいるという確証はどの程度ですか?」

「確証はない。あの類の複合発露なら本来、本体は傍にいるのが基本のはずだけどナ」

「はず?」

「はい。感染型で独立しているならいざ知らず、あの男の発言を鑑みるに本体との繋がりがあるようなので可能性は高いはずなのですが……」

「世の中には、ムニのようにホウゲツの全国各地に分身を配置することが可能な少女化魔物もいる。例外というものは常に存在するものだゾ」


 ホウゲツにおいて情報通信的な役割を一手に担っているムニさんか。

 本体は首都モトハにいると聞く彼女の分身体は、かなり距離の離れた学園都市トコハはホウゲツ学園の補導員事務局にも一体いる。

 しかし、あれは――。


「数百年の練度と何週間にも及ぶ下準備が必要な上、分身体からの反動を抑えるために通常時はスリープ状態が不可欠、と今回の事例には適用しにくい例外なのだがナ」


 トリリス様の言う通り、今回の分身体とは全く以って趣が違う。

 練度にしたって、定命の人間が容易く辿りつけるレベルではないはずだ。

 あの男の本体は近くに存在する可能性は高いと言える。


「既に、生身の人間でありながら千体以上もの人格を保った分身体を維持できるという本来ならあり得ない事態に直面しているのです。例外は考慮すべきなのです……」


 とは言え、百パーセントではない。

 如何なる状況でも万が一の事態には備えておく必要がある。

 ディームさんの口振りだと、現状がもう万が一の事態のようだから。


「そうだナ。……しかし、よく自分が増える感覚に耐えられるものだゾ。下手をすると自我が崩壊しかねないと言うのに。既に正気を失っているか、全ての分身体が一点の曇りなく一つの目的で動くような狂気染みた執念の只中にでもいるのか」


 疑問を整理するように口の中で呟いたトリリス様は、今はそのような考察をしている場合ではないと思い直してか「まあいい」と思考を切り上げて俺と向き直った。


「一応、念には念を入れて周辺都市の捜索も行うためにヒメには捜査員の応援も要請してあるが、もしそれ以外の場所に隠れているようだったら分身体からの情報だけが頼りになる。可能な限り、対話を試みて欲しいのだゾ」

「分かりました。やってみます」

「……今日中にはかたをつけたいところだがナ」

「ええ。折角のお祭りをこれ以上邪魔されたくはないですからね」

「全くだゾ」


 軽く呆れ気味の笑みを交わし合い、それから表情を引き締めて改めて向き合う。


「……では、イサク。準備はいいカ?」

「はい」


 確認するように問うてきたトリリス様に俺は深く頷き――。


「では、頼んだゾ」


 それを受けて彼女はそう真剣に告げると、ほぼ同時に再び〈迷宮悪戯〉を使用したらしく俺の視界が突如として移り変わった。

 そうして目に映ったのは……。

 校舎が一つもなくなって更地のようになったホウゲツ学園と、数千人はいようかという数の男の分身体がそこに佇んでいる異様な光景だった。

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