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ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~  作者: 青空顎門
第3章 絡み合う道

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175 願かけとお守り

「イサク、レンリ。所望の品ができたぞ」


 しばらくして作業部屋の中から聞こえてきたアマラさんの声に応じ、俺達は寄りかかっていた壁から背を離すと扉を開けて再び部屋に戻った。


「すまぬが、精根尽き果てた。ワシは寝床へ行かせて貰う。後は自由に帰ってくれ。その時は一応、ヘスの奴に声をかけていって貰えると助かる」

「分かりました。ありがとうございました」


 疲労困憊といった様子のアマラさんは俺の感謝に一つ頷くと、着崩した袴の袖に片手を引っ込めて隠しながら去っていく。

 恐らく、そこに狂化隷属の矢を自ら突き刺していたのだろう。

 それを用いて暴走(パラ)複合発露(エクスコンプレックス)を使用した反動で、彼女はその力を使用した時間のおおよそ十倍、寝込むことになる。矢を引き抜いた時点から。

 そのことについてはレンリの前では大っぴらに言えないので、心の中でもう一度感謝の言葉を重ねておくしかない。

 文字通り身を切ってまで俺達の我が儘を叶えてくれることを、もう少し詳しくレンリに伝えることができれば彼女の悪感情も幾分か改善されるだろうに。


「さすがはホウゲツで最も優れた複製師ですね。仕事が早いです」


 そう思っていると、レンリは意外にも素直な感じの口調で称賛を告げた。

 当人が傍にいなければ、ある程度は能力について客観的な評価を口にできるようだ。

 とは言え、敬意らしい敬意は見られない。

 敵の能力は正確に把握しておかなければならない、とかそういう類の冷たい感覚からの言葉であることが容易に予想できる。

 そういうところは本当に困った子だ。なるべくなら改善を促したいところだが……。

 何にせよ、今は一先ずアマラさんの仕事振りを確認するとしよう。


 レンリの視線の先、作業机の上には第六位階(オリジナル)の印刀ホウゲツ、アガートラム。それから、その二つから複製された祈望之器(ディザイアード)が複数並んでいる。

 まずはアガートラムの形状を変化させた複製品。

 シンプルな白銀の指輪が八つ。

 右腕の義肢を元に戻したレンリはその内の一つを摘み上げると、矯めつ眇めつ確認しながら左手の親指(・・・・・)にそれを嵌めた。

 それから少しの間だけ自身の掌を見詰め、一つ頷くと共に口を開く。


「出来も素晴らしいです。わざわざ旦那様にお願いして彼女の手を借りた甲斐がありました。皆さんにも使用頂く以上、私の感傷などより性能が優先されるべきですからね」


 納得の表情を浮かべながら俺と向き直るレンリ。

 その指輪は明らかにサイズが合っていなかったが、指に通そうとした瞬間に大きさが変わって彼女の小さい手の中では最も太い親指にピッタリになっていた。

 どうやらオートフィット機能もあるらしい。

 本来は義手として所有者の体格に合わせなければならない訳だから、元々のアガートラム自体にもそういった力があるのだろう。


 それはそれとして。

 俺は彼女の行動を少し意外に感じていた。

 彼女なら嬉々として左手の薬指につけるものと予想していたのだが……。


「私にも最低限の分別はあります。何より、左手の薬指に指輪をはめるのなら旦那様が自発的に送って下さった婚約指輪や結婚指輪をつけたいという乙女心も」


 そんな心の中の疑問に答えるように、レンリは若干苦笑気味にそう告げた。

 思考が視線に表れてしまっていたらしい。

 けど、まあ、確かに。

 改めて考えると、その予想はちょっとないなと俺も思う。他の諸々に輪をかけて。

 そういう意図の指輪を相手の確認も取らずに自分の左手薬指につけてしまうのは、プロポーズの場に既に左手薬指に指輪をして臨むぐらい滑稽で独り善がりな話だ。

 指切りの契約を都合よく解釈して俺を旦那様と呼び、外堀を埋めようとするのも大概だが……それこそ乙女心的に、最後の一線だけは俺の方から越えて欲しいのだろう。


「けど、どうして親指につけたの?」


 と、影の中から出てきて興味深そうに尋ねるサユキ。

 左手薬指は特別枠として、それ以外の指の中でも親指は比較的珍しい感がある。

 他の指が全て埋まっているからとかではなく、そこにしか指輪をはめていないとなると、何か特別な理由があるのではないかと考えても不思議ではない。


「身体強化という点で言えば、どの指にはめても問題ありません。この指にはめたのは一種の願かけです。左手の親指に指輪をはめると目標が実現するそうですので。自分自身への戒めも含めて丁度いいかと思いまして」


 対してレンリはそう答えながら、白銀の指輪がはめられた自身の親指を見詰める。

 指輪を目にすることによって、自らに目的を再確認させようという意図もある訳だ。

 こういう小さな自己暗示の積み重ねもまた、レンリの瞳に宿る強烈な意思を形作る一つの要因なのかもしれない。


「左手の薬指以外にも意味があるの?」

「はい。つける指によって意味合いが変わると聞きます。元々、どこかの地方の風習だったようですが、何代か前の救世の転生者が自身と真性少女契約(ロリータコントラクト)を結んだ少女化魔物(ロリータ)の左手薬指に指輪をつけさせたことから一般化し、他の指につける意味も広まったとか」

「ふうん。他の指につける意味って?」

「……すみません。それはちょっとすぐには思い出せません。ですが、基本的に悪い意味合いのものはなかったはずですよ」

「うーん、じゃあ、サユキも親指にしておこうかな」


 レンリの説明を受け、サユキはちょっと考えるような素振りを見せてから机に置かれた指輪の内の一つを拾い上げて左手の親指にはめた。

 目標実現という願いは汎用性が高い。

 基本的に、何か願をかけたいことがある者ならば誰であれ適しているだろう。


「……姉さんを探し出せますように」


 そう思っていると、いつの間にかサユキに続いて外に出てきて指輪を同じ場所につけていたフェリトが、親指を凝視しながら願いごとを口にしていた。


「ご主人様と真性少女契約を結べるようになれますように、です」


 リクルも同様。

 テアは今一意味がよく分かっていない様子だが、楽しそうに皆の真似をしている。

 残るイリュファは余りそういうものに頼ろうとしないかと思ったが……。

 見ると、彼女もまた同じように親指にはめた指輪を見詰めており、口にこそ出していないが真剣に何か願をかけているようだった。

 昔、俺がサユキに簪を贈った時に合わせてイリュファに贈り、鎖を通して彼女が常に首にかけている薬指に合わせた指輪を、メイド服の上から右手で握り締めながら。

 そうした内に秘めた願いを無理に聞き出そうとするのは無粋というものだろう。

 しかし、その動作を見るに俺に関することであることは間違いない。

 救世という使命の完遂、あるいは俺の無事を祈ってくれているのかもしれない。


「旦那様もどうぞ。それと、一つはルトアさん用に」

「ああ、ありがとう」


 レンリから指輪を二つ手渡され、その内の一つを大事に懐にしまってから。

 俺もまた彼女達と同じ位置にもう一方をはめる。

 願うことと言えば、救世の転生者としての役目は当然果たすものとしてその先にあるもの、先達らしく後進を導く生き方と親孝行ができるように、というところか。

 勿論、願かけに頼り切りになって日々の努力を怠るようではいけないが、世の中には巡り合わせというものもあって、予想だにできない事態に直面することもある。

 うまくことが運ばずに弱気になることもある。

 こういうことが精神の安定に繋がるのなら儲けものだ。上手に使えば問題ない。

 ……という訳で、俺がアマラさんに依頼したものもまた、その類のもの。


「次はこっちだな」


 机の上の印刀ホウゲツを影の中に戻しながら、七つ並んだ複製品の一つを手に取る。

 こちらもアガートラムのように形状を変えて貰い、刀身が大幅に短くなっている。

 いわゆる短刀の中でも輪をかけて短く、鍔のない懐剣状。

 磨き上げられた黒漆の柄と鞘は、まるで宝石の如く美しく芸術品のようだ。

 一応、第五位階の祈望之器に当たるため、万一の護身用にもなる。


「前世の世界では、刀には邪気を払う厄除けの効果があるとされてたんだ。皆が今、その指輪にかけた願いがつつがなく叶うように、お守りとして持っていて欲しい」


 そう説明しつつ、こちらもまたルトアさん用に一つ懐にしまっておき、そうしてからイリュファ、リクル、フェリト、サユキ、テアの順に手渡していく。


「あ、あの、いいのでしょうか、です」

「当たり前だろ。リクルも俺の大切な仲間なんだから」

「は、はい。ありがとうございます、です。ご主人様」


 途中、願いごとにあったように真性少女契約を結べていないことに引け目のある彼女が申し訳なさそうにするが、若干強引に手の中に押しつけておく。

 リクルにはそれぐらいが丁度いい。


「後は……」


 最後に俺はレンリの前に立ち、残る一つを彼女に差し出した。


「え、っと、私も、頂けるのですか?」

「当たり前じゃないか」

「ですが、旦那様の分は……」

「これは日頃の感謝の贈りもの……レンリにはこの指輪のお返しだな。そういうつもりでアマラさんにお願いしたから、自分用に作るのは何か違うしさ。まあ、必要になったら、また作って貰えばいいから今は受け取ってくれ」


 言いながらレンリの手を取って懐剣を渡す。

 すると、彼女はそれを躊躇いがちに握り、抱き締めるように胸元に持っていき――。


「ありがとうございます、旦那様。大切にしますね」


 頬を紅潮させながら、心の底から喜んでいることが分かる笑顔を見せてくれた。

 そんな顔をしてくれると、依頼して作って貰った甲斐があるというものだ。

 俺も嬉しくなってくる。


 ……最初警戒していた時を考えると、随分と好感を抱くようになったものだと思う。

 しかし、間違いなく美少女であるところの彼女にあからさまに好意を示され、更には相手の心の内まで読み取れるアコさんが俺の味方だと保証してくれている訳で……。

 まだ出会って三日とは言え、それで絆されるなという方が難しいだろう。

 先述の通り、ハニートラップなどの害をなす存在である可能性もない訳だし。


 唯一の懸念はトリリス様達に向けられている妙な敵対心だが、その辺りの凝り固まった考えについては時間をかけて少しずつ解きほぐしていくしかない。

 俺の言葉が十二分に届くだけ親密になることを目指す、というのがレンリに対する当面の方針というところだろう。そんな風に心の内で結論し――。


「さて、この後はどうする?」


 とりあえず複製云々に関しては一段落ついたからと問いかけた俺に、レンリは慎ましく微笑みながら口を開く。


「ここでの用件は終わりましたので、後は街を散策しましょう」

「分かった。……デートの続きだな」


 対して、そう俺が方針に合わせて少し悪戯っぽく言うとレンリは「はい」と可愛らしくはにかみ、そんな彼女と並んで俺達はアマラさんの作業部屋を後にした。

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