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ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~  作者: 青空顎門
第3章 絡み合う道

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169 呼び出しと冷たい視線

「放課後の時間になったら、件の少女を伴って学園長室へ来て下さいとのことです!」

「…………分かりました」


 レンリとの模擬戦の翌日。

 深夜だからとあの後すぐに別れて床に入り、気疲れしたのか目覚めは遅く正午前。

 釈然としない気持ちを引きずったまま訪れた補導員事務局にて受付のルトアさんからトリリス様の指示を伝え聞いた俺は、仕事を受ける気を完全に失って自室に戻った。

 こういう時、自由業というものは助かる。

 当然、その分だけズルズルと堕落の道に入り込む可能性もあるため、一定のところでしっかりと踏み止まることのできる確固たる自立心も要求される訳だが。


「面倒なことになりましたね」


 居間の卓袱台に緑茶の入った湯のみを置きながら、労るように言うイリュファ。

 そんな彼女に全くだと同意しながら、眼前のそれを手で掴んで口元に持っていく。

 さすがの気遣いで俺好みの適温だ。渋さも丁度いい。

 おかげで少しは気分が落ち着く。

 とは言え、それでも――。


「結果として、あの子にいいようにやられたようなものだったわね……」

「試合に勝って勝負に負けた、みたいな感じです?」

「いや、試合に勝って勝負にも勝ったけど、盤外で急所を一突きされた、みたいな」


 フェリトとリクルの言葉にはそう力なく応じ、軽く嘆息せざるを得ない。


 思えば、俺は元々人外ロリコンなだけの日本の一般的な大学生。

 特別、策謀やら駆け引きやらに優れていた訳でもない。

 更には、転生してからは来たるべき戦いに備えるため、戦闘訓練中心の生活だった。

 それらが相まって、俺もまた割と思考が脳筋化していたのかもしれない。

 ああいった裏の思考まで読むには至らなかった。

 いや、まあ、たとえ冷静に考察することができていたとしても、セト達が絡んでいた以上は、どう転んでもああなっていた気がするけれども。

 こういうことが頻発しかねないから、できる限り俺が救世の転生者であることは隠さなければならないのだと改めて思う。


「けど、やっぱりあのレンリちゃん。悪い子じゃなかったよね?」

「……イサクに言い寄ろうとしてたから? 私の旦那様ぁ、とかって」


 状況を特に問題視していない様子のサユキに、フェリトが呆れたような声を出す。

 上辺の事実だけを並べると、それは指切りの契約の中にあった俺を主人と仰ぐという部分を誤魔化すための屁理屈のようにも見える。

 しかし、彼女の言動を見た限り、最初からそのポジションに収まることが目的だった可能性が高い。自分に勝利できる存在ならば、救世の転生者に違いないとして。

 勿論、強硬に拒否して、あれは主人と下僕の関係だと言い張ること自体は不可能ではないだろう。が、少女の外見をした彼女にそうするのは、俺には無理だ。

 かと言って契約を破れば命に関わる以上、その文言をなかったことにする訳にもいかない。そんなこんなで、文句を言うに言えない状況だった。


「まあ、確かにサユキと同類のような印象は私も感じたけどね……」

「でしょ?」


 何故か胸を張るサユキを無言で流し、フェリトは再度口を開く。


「でも、会って一日じゃない」

「サユキは初めて会った日から、ずっとイサクのことが好きだよ?」

「……あの子に関しては、救世の転生者ってフィルターを通した感情かもしれないし」

「切っかけは重要じゃないよ。少なくとも昨日ちゃんと会話して、戦って、あの子のイサクへの想いは増したように感じたし。その分はイサク自身に対する気持ちでしょ?」

「それは……そうかもだけど、百歩譲って好意があったとしても、その好意がイサクやイサクの周囲にとってプラスに作用するかどうかは別の話なのよ?」

「うん。それは分かってる。でも、サユキだって昔、イサクに迷惑をかけたもん」


 フェリトの慎重な意見に、自分を鑑みながら言うサユキ。

 迷惑をかけた、とはかつて暴走した時のことを言っているのだろう。

 もっとも、あの時のサユキは被害者色が強かったし、俺は迷惑とも思っていないが。

 それでも、同じく暴走したことのあるフェリトは思うところがあったようだ。

 一回マイナスに作用しただけで見限って遠ざけようとするのは、自分達の現在を否定することに繋がりかねないと。


「好きって気持ちが不幸な結果を生むのは悲しいことだよ。けど、好きな人が呼びかければきっと届くから。レンリちゃんが間違ってても、イサクなら正してあげられるよ」


 純度百パーセントの信頼が宿った笑顔を俺に向けるサユキ。

 それに釣られるようにこちらを見たフェリトと顔を見合わせ、思わず苦笑する。

 サユキは相変わらずだ。そのぶれない姿を見ていると何となく安心する。

 それだけにサユキには、いつまでも彼女らしい彼女であって欲しいものだと思う。


「まあ……レンリについてはトリリス様達と話し合ってからだな。いつまでもいつまでも、終わったことをくよくよしていたって始まらない」


 何はともあれ。皆との会話のおかげで幾分か気が楽になり、そう自分に言い聞かせるように呟きながら意識的に気持ちを切り替える。

 トリリス様達もいる場でなら、あれより妙な状況に陥ったりはしないだろう。

 そんな風に心の内で結論していると――。


「あ! テアちゃん、それイサクの湯のみだよ!」


 サユキが突然、少し大きめの声を上げた。

 見ると、話を傍観していたテアが横から俺の湯のみを手に取って、人形のような体の一体どこに消えていくのかは知らないが、残っていた緑茶をクピクピと飲んでいた。

 時と共に彼女は成長を続けており、最近では自発的な動きを割と頻繁に見せるようになっていたのだが、まだまだ行動は幼く突発的だ。

 そのテアは急に自分へと集まった視線を受けて、湯のみを口元から離してキョトンとした表情を浮かべながら首を傾げた。


「だめ?」

「ん……いや、別にいいよ」


 子供っぽい反応を示す彼女は可愛らしく、ついつい頭を撫でながら受け入れてしまう。

 そうすると「えへへ」と仄かに嬉しそうな反応が返ってくるから尚のこと。


「イサク様はテアに甘過ぎます。それでは躾になりません」

「テアちゃん。お茶を飲むなら、ちゃんと自分の湯のみを使いましょう、です」


 母親的な立場から発言するイリュファとリクルは別の湯のみを持ってきたが、テアは俺の湯のみを抱え込むようにプイッと体ごと顔を背けてしまう。

 ガラテアに思うところのあるイリュファは眉をピクリと上げつつも年の功で平静を保つが、リクルは涙目になって「私はやっぱり駄目なスライム、です」といじけ出した。


「多分、テアはイサクのものを使ってイサクの真似をしたいだけだから、そんな風に形だけ同じものを渡したって駄目よ」

「ふぅん、そういうものなんだ。よく分かるね、フェリトちゃん」

「幼い頃ってそんなものらしいしね。私もそうだったって姉さんが言ってたわ」

「…………フェリトのお姉さん。セレスさん、か」


 未だ行方不明の彼女。手がかりは依然としてない。

 毎度のことながら進展のない状況に申し訳なさを抱くと、そんな気持ちを読んだのかフェリトは「気にし過ぎないで」と言うような視線を向けてきた。

 その厚意に甘えて頷きつつも、兄さんのことも含め、なるべく早く集中的に捜査できる纏まった時間を作らないといけないなと思う。

 プロに及ばないのは間違いないが、EX級という立場も手に入れて以前よりはできることも増えているだろうし、少しはフェリトのために自分も動きたい。


「あ。テアちゃん、湯のみは舐めるものじゃないよ!」


 そう考えていると、再びサユキの声。

 緑茶を飲み終えたテアは、湯のみの飲み口をペロペロしていた。

 少しずつ成長はしているが、まだまだ幼児並だ。

 突拍子もなさ過ぎる行動が多い。

 長期的に、根気強く教育していかなければならない。

 あるいは、それこそがガラテアに対する切り札となり得るかもしれないのだから。


 と、色々課題は山積しているが、まずは目の前の問題から処理しなければならない。

 それから放課後までの数時間、皆と共にテアの相手をしながら過ごし――。


「……そろそろ行くか」


 放課後の生徒達の賑わいが耳に届いたのを区切りとして、俺達は職員寮の自室を出て一年A組の教室へと向かった。

 事前にレンリにも連絡が行っていて、彼女はそこで待っているはずだ。

 やがて弟達の教室に辿り着き、引き戸を開けて中に入る。


「旦那様!」


 すると、弾んだ声と共に影が迫ってきた。

 その身体強化の無駄遣いとしか言いようがない速度に一瞬警戒して迎撃しそうになるが、奥の方にセト達の姿があることに気づき、我慢してされるがままになる。

 超高速の接近。からの、一転して軽い衝撃と柔らかな感触。

 視線をやると、直近の問題たるレンリが当たり前の顔で腕を絡めてきていた。


「だ、旦那様?」


 彼女の発言に驚きと戸惑いの表情と共に声を上げるラクラちゃんと、同じような顔をするセト達三人。当然の反応だ。何も知らぬ傍観者だったら俺もそうなる。


「実は明朝、もう一度職員寮を伺いまして……そこで気持ちをお伝えしたのです」

「き、気持ちって昨日会ったばかりで?」

「はい。一目惚れです。そして、旦那様はそれを受け入れて――」

「いやいやいやいや。何を言ってるんだ、君は」


 左手を俺と右腕と絡ませたまま右手を頬に当ててはにかむような笑みを浮かべながら告げるレンリに、慌てて言葉を遮るように早口で言う。

 しかし、遅きに失し、ラクラちゃんが冷たい視線を向けてくる。

 不潔です、とでも言いたげだ。

 いや、これでも一応、外見的なつり合いは取れているのだが……。

 やはり年齢的には学園に通っていておかしくないものの社会人という立場で、(実際は二十歳だが)名目上は十二歳の一年生である少女と、となると外聞は悪い。

 出会って初日の相手からの告白に易々と応じる、というのも軽薄に感じることだろう。

 何とか、この場を誤魔化せないものかと思考を巡らす。


「そんな……受け入れて下さったではないですか」


 が、レンリはショックを受けたように涙目になり、しおらしい様子を見せる。

 間違いなく演技だが、本性を知る俺でなければ見抜けはしないだろう。


「兄さん……?」「「あんちゃん……?」」


 こうなると俺は悪者だ。

 名字からアクエリアル帝国の皇族と想像できる存在が、こんなところでそんな訳の分からない嘘をつく理由などセト達には予想できようはずもない。

 ましてや極一部ながら真実を含んでいない訳でもないのだから。


「待った待った。いくら何でも急なことだから、まずはもっとお互いのことを知ってからって言ったじゃないか」


 なので、一応は彼女の話に合わせながらも、まだ何とか俺の面目を保てる落としどころを提案するように告げる。


「…………ええ。ですが、深く私を知って下されば間違いなく心を寄せて下さると確信しております。つまり、もう受け入れて下さったと言っても過言ではありません」


 ほんの一瞬の間の後、俺の意図をくんで若干道化を演じるように言うレンリ。

 さすがに、早々に既成事実を積み重ねてしまおうにも、俺が余りにも及び腰過ぎると芳しくないと思い直してくれたのだろう。

 ラクラちゃん達の視線も、レンリの方が常識外れなのだと認識してくれたのか、幾分か和らいでいる。割と本気でホッとする。


「まあ、その不穏当な発言は置いておくとして――」

「はい。分かっております。確か、トリリス学園長様からお呼び出しがあったとのことでしたよね? 学園長室へは旦那様がご案内下さるとか」

「うん、まあ、その通りだけども」


 とりあえず、もう呼び方はそれで通すつもりのようだ。

 まあ、先のやり取りの後であれば少なくともこの場では、俺が無理矢理そう呼ばせているかのような疑惑を向けられることはあるまい。

 ……とは言え、他の場所、他の人の前ではその限りではない。

 今後、レンリが傍にいる時は引っかき回されないように注意を払わないといけない。

 本当に。面倒で妙な状況になってしまった。

 その辺、トリリス様との面会で緩和して欲しいものだ。

 そんなことを考えながら――。


「では、旦那様。参りましょうか。ラクラさん、セトさん達も、御機嫌よう」


 俺はセト達と別れ、レンリと共に学園長室へと向かったのだった。


「あ、セトさん達にはラハをつけていますので、ご安心を」


 ……わざわざセト達を伴って教室にいたのは、外堀を埋めるためだけではなく、どうやら指切りの契約を守るためでもあったらしい。

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