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ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~  作者: 青空顎門
第3章 絡み合う道

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165 改めて自己紹介を

 真夜中の訓練施設。そのサッカーのフィールド程もある広い空間の中央にて。

 静けさの中、気負った様子もなく穏やかに微笑んでいるレンリと向かい合う。

 当たり前だが、彼女と共に不法に忍び込んだ訳ではない。

 訓練施設の夜間利用は生徒達には許可が出ないが、嘱託補導員には許されている。

 と言うより、むしろ推奨されているぐらいだ。

 放課後や休日に生徒達が利用できる機会を奪ったりしないように。

 まあ、実際には試験直前でもなければ生徒達が殺到するような状態になることは極稀で、普段は補導員も夜間に利用することはほとんどないようだが。


 ちなみに。生徒からの夜間利用の申請に許可が出ないだけで、教師か相応の階級の嘱託補導員が手続きをして許可を取っていれば施設を利用すること自体は可能だ。

 なので、俺のS級補導員の(実際はEX級だが、まだ内々の話なので反映されていない)身分証が持つ社会的信用と彼女自身の堂々たる態度の合わせ技で受付兼守衛を華麗に突破してきたレンリを伴っていることも、少なくともこの場では問題にならない。

 勿論、許可なく寮から抜け出したことが発覚すれば、その限りではないが。


 だから正直なところ。寮監に知らせてしまおうか、と全く考えなかった訳ではない。

 しかし、相手は弟達を持ち出して脅迫してきた存在。

 規則を破った事実を学園側に伝えて、この模擬戦そのものを有耶無耶にしようものなら、何をされるか分かったものじゃない。

 仮に門限破りに対して何かアクションするにしても、それはこの件が済んでからだ。

 もっとも、この程度の寮則違反一回(初犯)では厳重注意が精々だろうけれども。


「さて、念のためにルールを確認しておきましょうか」


 と、しばらくの間、あからさまに敵意を滲ませた俺の鋭い視線を易々と受け流し、小さな笑みを浮かべていたレンリが沈黙を破る。


「模擬戦は、どちらかが降参を宣言するか意識を失うまで。基本的には何でもありですが、当然ながら相手の殺害は厳禁です。また、いくら何でもありとは言っても、施設の破壊や無関係な者を傷つけるなど後々問題になる犯罪行為も禁止です」


 彼女は淡々と告げつつも、ここに来てようやく微笑みを消して真剣な表情となった。

 その顔を、祈望之器(ディザイアード)の複製改良品たる訓練施設の照明が照らし出している。

 第六位階の祈望之器たる文明の火。それを複製した闇払う灯火。

 炎の揺らめきを湛えた不可思議な光は、少女の姿に幻想的な気配を与えると共に、その引き締められた表情に幼い外見とはかけ離れた大人びた雰囲気を生じさせていた。


「先述の範囲で複合発露(エクスコンプレックス)や祈念魔法、祈望之器の制限もありませんが、あくまでも模擬戦は一騎打ちです。契約した少女化魔物(ロリータ)を含む仲間と共に戦うこと、仲間に援護をさせることは禁止と致します。よろしいですね?」

「ああ。問題ない。それで……俺が勝ったらレンリは俺を主人と仰ぎ、セト達に決して危害を加えず、またホウゲツに滞在する限り弟達を守る、で間違いなかったな?」


 指切りをする前にレンリ自身が口にした内容をなぞり、確認の問いかけを返す。

 対して、彼女は一つ大きく頷きながら「はい。間違いありません」と肯定の言葉を口にし、しかし、それから即座に「ですが」と前置いてから続けた。


「私が勝った暁には、イサク様には私の下僕として私の目的のためにその身を捧げて頂きます。それも、ゆめゆめお忘れなきように」

「……勿論、分かっているさ」


 負けるつもりなど毛頭ないが、契約は契約だ。

 俺もまた、一応は首を縦に振って了承の意を示しておく。

 そして――。


「さて、そろそろ準備はよろしいですか?」

「それは、こっちの台詞だ」

「……失礼致しました。では、この硬貨が落ちたら模擬戦の開始としましょう」


 俺の挑むような口調を受けて軽く頭を下げたレンリは、懐からアクエリアル帝国の通貨である十ブル硬貨を一枚取り出すと、それを親指で真上に勢いよく弾いた。

 激しい回転を加えられた銀色のコインは、高く高く弾き飛ばされ……。

 やがて天井の照明近くまで到達してから、重力に引かれて落下を開始する。


「本気で来ることをお勧めしますよ」


 そこまで見届けてから、レンリは視線を俺へと戻して静かに告げた。

 正にその瞬間。彼女の全身に竜の如き異形の特徴、群青の鋭利な鱗が現れ始める。

 複合発露の待機状態に入ったと見て間違いない。

 外見からすると、(ドラゴン)系統の少女化魔物との複合発露だろう。

 どうやら、レンリが保有している力は事前情報にあったアクエリアル帝国の国宝たるアガートラムの複製改良品、銀の義肢のみではなかったらしい。


 もっとも、そこまでは十分予想可能な話だ。

 公称S級の嘱託補導員たる俺に勝つことができるという確信が自身の中にあるからこそ、レンリはこのような勝負を提案してきたのだろうから。

 しかし、当然ながら最後まで彼女の思い通りにさせるつもりは更々ない。


「後悔、するなよ」


 だから俺もまた、そんな相手に呼応するように人ならざるものの特徴を発現させた。

 火竜(レッドドラゴン)の少女化魔物たる母さんから引き継いだ複合発露〈擬竜転身(デミドラゴナイズ)〉。

 サンダーバードの少女化魔物たるルトアさんとの(アーク)複合発露(エクスコンプレックス)裂雲雷鳥(イヴェイドソア)不羈(サンダーボルト)〉。

 この二つの影響による変化が特に大きく現れた今の俺は、雷光を纏った、竜人と鳥人を足して二で割った亜人のような姿となっていることだろう。


 互いに完全な戦闘態勢。

 数瞬後に来るその時を待ち、刃の如き視線が交差する。

 緊張感と集中力の高まりと共に、視界の端で俺とレンリの間の空間を回転しながら落下していく硬貨が緩やかに知覚され、彫り込まれた模様までハッキリと認識される。

 やがて、自由落下するそれが地面に接触する寸前。

 俺は更に、紫電を散らす翼を持つ氷の鎧を作り出して全身に纏い――。


「凍れ」


 しかし、十ブル硬貨が甲高い音を訓練施設に響かせるのと同時に。

 俺は準備したそれらを用いて真正直に戦うことなく、雪女の少女化魔物たるサユキとの真・複合発露〈万有(アブソリュート)凍結(コンジール)封緘(サスペンド)〉のみを使用して、レンリを氷の檻に閉じ込めた。

 広大な空間の中央に、一瞬にして美しい少女を内包した氷のオブジェができ上がる。

 それに伴う急激な温度の低下により、軋むような音が空間に鳴り響いた。


「え……ええと」


 その所業を影の中から目の当たりにしていたフェリトが、困惑したような声を出す。

 気持ちは分からないでもない。


「これはさすがに、ちょっと卑怯っぽくない?」

「……レンリが本気で来いって言ったからな」


 戦いとしては呆気ない展開に俺も若干申し訳ない気分にはなったが、そも少女征服者(ロリコン)相手なら、対象が一撃必殺の力を持つ可能性も想定しなくてはならない。

 そうなるともはや、やられる前にやる以外に術はない。

 つまり同じ少女征服者として、忠告通り、本気の本気でやった結果がこれなのだ。

 開始前に確認した条件にも抵触していないから、指切りの契約的にも問題はない。

 だから、後は一分程経ったら解除して勝利の宣言を…………。


 と、そんな風に既に勝った気になっていたのは、ある種の自惚れだったのだろう。

 凍結による封印を破られる事態は、少し前に何度か経験していたにもかかわらず。

 あくまでもそれは特殊な少女化魔物が相手だったし、今回は生身の人間、しかも幼い外見の少女だから救世の転生者の真・複合発露を防ぐことなどできるはずがない。

 そう高を括っていたのだ。

 だが、次の瞬間。


「何っ!?」


 そうした甘い考えを嘲笑うかの如く。

 レンリを封じた氷の檻は内側から力任せに破られ、粉々に砕け散ってしまった。

 弾け飛んだ氷の微細な粒が、キラキラと雪のように舞う。

 美しい光景とは裏腹に、その現象の原因は余りに暴力的だ。


「そんな、馬鹿な」

「確かに素晴らしい威力ではありましたが、この程度で驚かれるのは心外ですね」


 一時とは言え完全に凍結されていたはずの彼女は、しかし、まるで何ごともなかったかのように言いながら肩を竦めて不満を表した。

 その言動には余裕が垣間見え、これまで以上に眼前の少女に脅威を抱く。


「お前は、一体……」

「……そうですね。本格的に仕合う前に、改めて自己紹介を致しましょうか」


 思わず呆然と問うた俺を前にして、レンリは演劇の如く朗々とした口調で告げた。

 凍結を破った事実と相まって、その泰然自若とした姿からは底知れない強さが滲む。


「私はレンリ・アクエリアル。前アクエリアル皇帝の末娘にして、現在次期皇帝となる資格を有する者。即ち……実の父を完膚なきまでに叩き伏せ、その右腕から国宝たるアガートラムを奪い取って我がものとした簒奪者です」


 それから彼女は、言葉の途中で群青の竜の鱗に覆われた右腕を軽く前に出し、殊更強調するように拳を握り締めた。

 今レンリが口にしたことが事実であれば、その右手は……。


第六位階(オリジナル)のアガートラム、なのか?」

「ええ。間違いなく」


 込めた力に呼応するように白銀の輝きを放つそれを目にして自問するように呟いた俺に対し、レンリは断言しながら鷹揚に頷く。

 そして、彼女は更に――。


「ちなみに。このように学園の新入生と同程度の幼い姿をしておりますが、これは銀の義肢の影響によるもので実際の年齢は二十歳です。まあ、箱入りには変わりありませんので、さしたる影響はないでしょうが……改めてよろしくお願い致します。イサク様」


 そのような驚きの事実を口にしつつ、淑女のようにドレスのスカート……ではなく学園の制服たる袴を摘まみながら、優雅な動きでカーテシーをしたのだった。

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