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ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~  作者: 青空顎門
第3章 絡み合う道

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164 夜の密会と脅迫と指切り契約

「……来たか」


 コンコンという音に俺は閉じていた目を開き、その方向へと顔を向けた。

 視線の先には自室の窓。

 立ち上がり、そちらに歩み寄ってカーテンを開く。

 すると、職員寮の申し訳程度に存在するベランダに、微笑みを浮かべながら姿勢正しく立つレンリ・アクエリアルの姿があった。

 暗闇の中で俺の行動を待つ少女を前に、黙したまま静かに窓を開けて少し横に避けると、彼女もまた無言のまま音を立てないようにブーツを脱いで部屋に入ってくる。

 ここだけを切り取って見るとまるで逢引をしているかのようだが、実態は決してそのようなロマンティックなものではない。この心臓の高鳴りもまた。


「三時間振り、ですね」


 そして俺が窓とカーテンを閉めたのを見届け、一拍置いてからレンリが切り出した。

 セト達と共に訪問してきた時とは違い、仄かに口調から気安さが感じられる。


「そうだな。……けど、寮の門限を破っていいのか?」

「心配ご無用です。気づかれなければ、規則を破ったことにはなりませんので」

「……意外と悪い子だな、君は」


 まず警戒心を隠しながら当たり障りのない話題で返した俺に対し、レンリはどこか楽しそうに悪戯っぽい笑みを浮かべる。

 これまでと比較すると実に自然な表情だ。


「私は、目的のためなら手段を選ぶつもりはありませんよ」

「……目的、ね」


 少し踏み込んできたレンリに、俺は相槌を打つように繰り返した。

 正直、今の俺達からするとそこが最も知りたい部分だ。

 その内容如何では、これまでの警戒全てが杞憂に終わってくれるのだが……。


「救世の転生者様」


 世の中そう甘くなく、レンリの口から出てきた言葉に一瞬心臓が大きく跳ねる。

 だが、接点もなかった他国の人間が、救世の転生者が誰か知っているはずがない。

 これは間違いなく鎌をかけようとしているのだろうと即座に判断し、俺はギリギリのところで表情の変化を抑え込んだ。

 そんな己の内面における刹那の攻防の後。


「――を見つけ出すこと」


 ほんの僅かな間を置いてからレンリは続けた。

 そう言い終えるまで、瞬きもなく俺の目を見据えながら。

 どうやらボロを出さないか観察していたようだ。

 現時点では確証はない。が、疑いは抱いている、というところだろうか。

 その度合いは、それなりに高いと見ておいた方がいいかもしれない。

 尚のこと、顔に出さないように気をつけなければ。


「……それが、君の目的なのか?」

「いえ、最終目的は違います。ですが、そのための第一目標ではありますね」


 平静を装いながら尋ねると、彼女は一先ず刺すような視線をやめて答えた。

 しかし、第一目標ときたか。


「……最終目的というのは?」

「それは秘密です」


 駄目で元々の問いは、人差し指を唇に当てながらの言葉によって返答を拒否される。

 さすがに、そこは簡単に口を割ってはくれないようだ。

 まあ、聞けば無条件に教えてくれると考えるのは、いくら何でも想定が甘過ぎるが。

 何にせよ、そこに食い下がるよりは別の部分からアプローチした方がいいだろう。


「それを俺に言う意図は?」

「簡単な話です。イサク様には、それをお手伝い頂きたいのです」

「手伝う? 救世の転生者を探すのを?」

「はい。イサク様が救世の転生者様であれば話が早いのですが――」


 言いながら一瞬だけ再び鋭い視線をこちらに向けたレンリは、しかし、俺が何か反応を示す前に目を瞑って表情をリセットし、そのまま言葉を続ける。


「さすがにそう都合よく話が進むものではないでしょうからね。地道に探すしかありません。ですが、さすがに手が足りません。協力者が必要不可欠です」

「そうは言っても、俺は一介の補導員だぞ? 知り得る情報なんて高が知れている。そんな奴よりも、もっとそういう事情に通じた誰かと交渉すべきなんじゃないか?」


 素知らぬ顔で首を傾げながら問う俺に、レンリは瞑目したまま首を横に振る。


「私はあくまでも他国の人間です。秘匿された情報を取得可能な立場の者に易々と接触できるはずもありませんし、仮にできたとしても、この少女祭祀国家ホウゲツの宝にして世界救済の要たる救世の転生者様の正体を無闇に明かす者はいないでしょう」


 ……まあ、その反論自体に間違いはない。

 トリリス様達は言わずもがなだし、彼女達を除くお偉方にしてもそうだ。

 他人の行動はおろか性根まで見抜くことのできるアコさんという反則気味の存在がいる限り、国の上層部から裏切り者など出ようはずもない。

 五百年もの間、恙なく救世という事業が回っていることまで考えると、自白を強要したり、情報を持ち出したりするような精神干渉などにも備えていて然るべきだし。


「加えて。先日の事件もそうですが、救世の転生者様に救われた人々も記憶を一部封じられると聞きますし……たとえ、それ以外で正体を知る者がいたとしても、手がかり一つなければ見つけ出すことは困難です」

「……だろうな」


 お偉方以外で救世の転生者の正体を知り、その記憶を保っている者と言えば、補導員事務局受付のルトアさんか、服役中のライムさん達ぐらいのもの。

 彼女達については、それこそ俺が救世の転生者である事実から逆算でもしていかない限りは、辿り着くことなどまず不可能だ。

 他国の人間という立場の者からすると、可能性のある人物を総当たりにしていくぐらいでなければ、手がかり一つ得られないだろう。……本来は。


 しかし、実際には既に目の前まで迫っている。それが現実。

 確率で考えるなら、天文学的な数値になっているはずだ。

 もはや運命染みた巡り合わせとしか言いようがない。

 ご都合主義と言っても過言ではない。

 だが、人間原理に基づいたこの世界。

 観測者の意思如何では、そういうことが必然的に起こり得るものなのだろう。

 群衆の共通認識か、個人の執念か。そのどちらかは分からないが。


「この国でアクエリアルの人間が得られる立場の中では、留学生が最も自由に行動することができます。しかし、当然ながら祖国の助けなしにできることは限られています」

「だから、現地で協力者を得る必要があると」

「はい。そして、それは少女征服者(ロリコン)、特に優秀な補導員であればベターです」


 人伝に情報を得られないのなら、足で稼ぐしかない。

 であれば、複合発露(エクスコンプレックス)を使用できる者を、か。

 しかし、彼女は一つ前提を無視している。


「……残念だけど、補導員だってホウゲツの国民だ。簡単に君に靡くはずがない」


 まして当人である俺ならば尚更だ。

 救世の転生者が誰か知る者は、可能なら少なければ少ない方がいい。

 情報が漏れ、ガラテアにまで伝わるリスクを増やさないためにも。

 観測者の破壊欲求の顕現染みた存在であるそれ。

 救世の転生者を討つために、家族や知り合いを真っ先に狙ってくる可能性もある。


「ええ。承知しています。ですが、国の中枢に近い者よりも国家の首輪は緩く、身近なところに柵が多い。つまり、そこを利用すれば比較的脅し易い。でしょう?」

「……何だと?」


 少女らしい表情のまま物騒なことを言い出したレンリに、警戒心を一段引き上げる。


「俺を脅そうってのか?」

「はい。そのために、朝の出来事を彼らには話さずにおいたのですから」

「…………悪いけど、脅しの材料に使われるぐらいなら隠れて授業参観していたことぐらい、セト達には自分から言うぞ。そもそも学園から許可を貰っている話だしな」

「勿論、その程度のことで脅迫できるとは思っていませんよ。まあ、それで従って頂けるのであれば、それに越したことはありませんが」


 低い声で告げて睨む俺の視線を容易く受け流し、あくどい内容を話しているとは思えない綺麗な笑顔を作ってレンリは告げる。


「私を警戒しつつも、セトさん達のために波風を立てないように気をつけておられた姿は大変お可愛らしかったですよ。家族を大切になさっていることが伝わりました」

「まさか……セト達に、危害を加えるつもりか?」


 一層低く、声色に明確な怒りを滲ませながら問い質す。

 姿勢を変え、半ば戦闘態勢に移行するのを見せつけて威嚇するようにしながら。


「ええ。場合によっては」


 にもかかわらず、彼女はそれにすら調子を変えずに簡潔に答える。

 正直なところ俺は腹芸がそう得意ではない。

 だが、その姿はそうした演技とは一線を画した強者として俺の目に映った。

 迂闊に実力行使に出ることを躊躇わせるような。


「とは言え、鞭一辺倒では最終的な仕事の効率が悪くなってしまうものです。イサク様ご自身に最低限、納得して頂かなければ」

「この状況から俺を納得させられるとでも?」

「納得というのは語弊があるかもしれませんね。屈服、と言い換えましょうか」


 そう告げると、レンリは右手の小指を立てて俺へと向けた。


「模擬戦で勝負をしましょう。指切りの契約の下、私が勝てばイサク様には私の下僕として私の目的のためにその身を捧げて頂きます」

「指切りの契約で、か……」


 前世にもあった、約束を誓う一般的な仕草である指切り。

 それを用いた約束はこの世界では絶対の契約となり、破った場合には本当に針を千本飲まされたが如く喉が張り裂けて死ぬこととなる。

 恐らくショウジ・ヨスキか以前の救世の転生者が広めた結果、全人類の共通認識に至り、世界のルールの一つとなってしまったものと思われる。

 第六位階相当の強制力を持ち、身体強化などで一時的に防ぐことができたとしても世界に刻まれる契約故に、約束が無効になることはない。

 そうした妨害を一瞬でもやめた瞬間、罰は確実に下される。


「……俺が勝った場合は?」

「はい。イサク様が勝った場合、私はイサク様を主人と仰ぎ、セトさん達に決して危害を加えず、またホウゲツに滞在する限り彼らを守ると誓います」


 その内容自体は……約束としては割とフェアなものに感じる。

 だからこそ。レンリに負けてしまった場合、精神的に仕方がないと屈服し易くなる。

 それ故に、そのような条件をわざわざ持ち出してきたのだろう。

 勿論、勝利が大前提。余程、自信があるに違いない。


「……いいだろう」


 しかし、腐っても俺は救世の転生者。幼い少女に負けるつもりはない。

 その鼻っ柱を圧し折るのも先達の役目だ。

 もっとも、それ以前にセト達が脅迫の材料とされているこの状況では、模擬戦を拒否したり、保留したりする選択肢など俺にはないのだが。

 トリリス様達に相談しようにも、そうする間に弟達に危害を加えられては目も当てられない。この場で決断しなければならない。

 だから――。


「俺が勝ったら、約束は守れよ」

「勿論です。指切りの契約をするのですから」


 俺はレンリの小指に己の小指を絡ませ、彼女と指切りを交わしたのだった。

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