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ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~  作者: 青空顎門
第3章 絡み合う道

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163 嘘も方便

 件の少女、レンリ・アクエリアル。

 彼女を伴ったセト達の突然の訪問は完全に想定外で、思考が一瞬止まりかける。

 しかし――。


「……セト、どうしたんだ? その子は?」


 俺は何とか平静を保ち、初対面を装って二つ問いかけた。

 同時に頭の中で状況を一通り整理しようと試みる。


 少なくとも弟達は、これまで俺が気配遮断を利用して何度か隠れて授業参観を行っていたことには全く気づいていなかったはずだ。

 レンリが何か余計なことを言った可能性はあるが、あの一瞬の邂逅だけで俺がどこの誰かまで即座に把握できたとは思えない。

 一先ず現時点では、彼女がこの場にいるのは偶然である可能性の方が高い。

 たとえ偶然ではなくとも、レンリの証言だけならセト達に関しては誤魔化すことも不可能ではないはずだし、問題の彼女についてもまだ敵対が決定事項という訳でもない。

 この場は、とにもかくにも波風を立てずに乗り切ることだけを考えるべきだろう。

 そう暫定的に結論していると、セトが俺の問いに応えて口を開く。


「彼女は今日からクラスメイトになった留学生のレンリさんだよ。どうしても兄さんに会いたいって言うから、連れてきたんだ」

「…………俺に?」


 対して俺は、如何にも心当たりがないと言うように首を傾げて素知らぬ顔をした。

 だが、真っ先に偶然説が消えてしまったことに、内心では結構狼狽えていた。

 加えて、僅か一日で俺の身元を割り出して住居にまで訪ねてきた事実にも。


「ホウゲツ学園に来る途中で助けて貰ったから、お礼を言いたいんだって」


 そんな俺を余所に、畳みかけるように新しい要素をぶっ込んでくるセト。

 明らかに、それはレンリの嘘だ。

 そうハッキリと分かるものの……殊更そんな嘘をつく意図までは分からない。

 疑問の視線を思わずレンリへと向けるが、彼女は愛らしい微笑を浮かべるのみ。

 どう反応したものか、判断に迷う。


「…………申し訳ないけど、記憶にないよ。人違いじゃないかな」


 色々と考えた末、俺はそう困り気味の口調で言った。

 そもそもが嘘ならば、証拠となるようなものなどないはずだ。

 ここは誤魔化しにかかった方がいい。

 そう思っての発言だったのだが――。


「でも、これってイサクさんですよね?」


 ラクラちゃんが何やら四つに折った紙を取り出し、横から俺に差し出してきた。

 それを受け取って開き、視線を落とす。

 すると、そこには一目で俺だと分かる精巧な似顔絵が描かれていた。


「た、確かに、これは俺みたいだけど…………」


 さすがにそこについては否定できず、そう呟きながら肯定せざるを得なかった。

 話の流れからするとレンリが描いたものなのだろう。

 どうやら彼女はあの僅かな時間で俺の顔を記憶し、それを基にこの似顔絵を描き上げていたらしい。その用意周到さには警戒心が高まるばかりだ。

 何にせよ、こんな絵まで見せられては、弟達がレンリの嘘を信じるのも無理もない。


「急に押しかけるような形になってしまい、申し訳ありません」


 と、それまで黙っていた彼女が可憐な声で告げながら、恥じ入るように頭を下げた。

 アクエリアル皇族の義務、祈望之器(ディザイアード)に関する血の試練の話を聞いたからか、誠実そうな言動にも妙な威圧感があるような気がしてくる。


「改めまして、私はアクエリアル帝国からホウゲツ学園へと留学をしに参りましたレンリ・アクエリアルと申します。名字は気にせず、ただのレンリとしてお扱い下さい」


 それから彼女は丁寧な口調で自己紹介をし、品のある微笑みを浮かべる。

 どうやらセト達についた嘘の設定の中では、ホウゲツ学園に来る途中に助けて貰った相手に自己紹介はしていなかったらしい。


「……イサク・ファイム・ヨスキです。ええと、レンリさん」

「私はあくまでも一生徒に過ぎません。既に補導員としてご活躍なされているイサク様に比べれば、取るに足らぬ者です。どうか呼び捨てて下さいませ。丁寧語も不要です」

「…………分かった。けど、レンリ。繰り返しになるし、もし本当のことなら君には悪いと思うけれど、やっぱり俺には何のことか分からないよ」

「ええ。私も遠くからお顔を拝見したのみですので、無理もないことだと思います。ですが、イサク様が暴走した少女化魔物(ロリータ)を補導して下さったおかげで、私は予定通りにホウゲツ学園を訪れることができたのは間違いありません」


 俺の返答に理解を示した上で、互いの主張が両立できるように続けるレンリ。

 これもまた嘘なのだろう。

 だが、内容にかなり曖昧な部分が多く、否定を重ねても上手くかわされてしまいそうな余地を残しているところが何とも嫌らしい。

 証拠として使われている似顔絵が更に、俺の否定から説得力を失わせている。

 まあ、これに関しては隠れて授業参観していた事実とレンリがそれを見抜いた事実を明かせば、証拠としての効果をなくすことができるだろうけれども……。

 さすがにそれは避けたいところだ。

 兄としての尊厳はともかくとしても、レンリ自身もまた間違いなく何らかの意図を持ってその嘘を展開しているのだろうから。

 この場は、レンリの嘘に乗っておいた方がいいかもしれない。

 幸いと言うべきか、記憶にございません、のままで流せる形にしてくれているし。


「どうしても、御礼を申し上げたく。クラスメイトとなったセトさんが何となく似ておられたので、似顔絵を描いてお見せしたところ、お兄様だと」


 ここは恐らく事実と見て間違いない。

 僅か一日足らずで俺の住居にまで辿り着いた経緯は、これでおおよそ分かった。

 しかし、天使のような中性的な顔立ちのセトと俺とは余り似ていないと自分では思っていたが、他人から見ると違うらしい。

 ラクラちゃん達も全く疑問を抱いていないところを見るに、尚のこと。

 この状況は、その辺りを全く客観視できなかった俺の落ち度か。


「ですので、こうして無理を言って連れてきて頂いた次第です」


 そう締め括ったレンリに、俺は少し間を置いてから「成程」と納得の意を示した。


「…………まあ、折角来たんだ。立ち話も何だし、中に入って」


 それから、部屋の中を視線で示しながら続ける。

 ここに至っては、彼女との接触を避けてトリリス様達の調査を待つとはいかない。

 虎穴に入らずんば虎児を得ず。

 あくまでも単なる弟のクラスメイトとして接しつつ、何とかレンリ・アクエリアルの芯にあるものを探るべきだろう。


「よろしいのですか?」

「構わないよ。でも、ちゃんと寮の門限までには帰るようにね」

「は、はい! では、その、補導員のお仕事について色々とお話を伺いたいです!」


 対して、両手を合わせながら花が咲いたような笑顔を見せて喜びを顕にするレンリ。

 外見相応の姿だが、俺が穿った見方をしているからか作り物めいて見える。

 とは言え、徹底して丁寧な物腰に不快感はない。

 女は誰もが女優とも言うし、猫を被るぐらいは普通の話だろう。

 っと、直接言葉を交わしていると無意識に絆されてしまうな。

 表には出さずにおくとしても、心の内の警戒は保っておかなければ。

 そう自分に言い聞かせながら、俺は彼女達を自室に招き入れた。

 ちなみにフェリトとサユキ、それからテアは既に俺が玄関の扉を開ける寸前に影の中へと避難している。イリュファとリクルは客をもてなす準備の真っ最中だ。


「イサク様はそのお歳でS級だそうで、本当に優秀なのですね!」

「ま、まあ、そこはいい出会いに巡り合えたからかな」


 それから。

 彼女自身の希望通りに補導員の仕事について話をしたり、セト達がこの前の社会見学の話をしたりしていると、間もなく日が没して学生寮の門限が近くなる。

 このままいけば、暫定的な結論通り、波風を立てずに乗り切ることができそうだ。


「またお話を伺いに来てもよろしいでしょうか」

「構わないよ。時間さえ合えば」


 そして最後にレンリの言葉と若干潤んだ上目遣い気味の目にそう応じ、学生寮へと帰っていく彼女達の背中を見送ってから。

 一息ついて居間に戻ると――。


「ん?」


 いつの間にか、テーブルの上に見覚えのある四つ折りの紙が置かれていた。


「あの少女が描いた似顔絵の紙のようですね」


 言いながら拾い上げたイリュファは、改めて中を確認するように開く。

 その瞬間、彼女は目を開き、それから硬い表情と口調で「イサク様」と名前を呼んで注意を促しながら、似顔絵が描かれた面を俺に向けた。

 そこには……。


「『夜が深くなる頃、再び伺います』……?」


 そのような文と共に、レンリ・アクエリアルという署名がなされていた。

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