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ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~  作者: 青空顎門
第3章 絡み合う道

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158 秘匿すべき技術

「さて、今回の訪問の本題は、かの武器の代用品が欲しいというものじゃったな」


 隣の部屋にセト達がいるため、印刀ホウゲツのことはぼかしながら言うアマラさん。

 一応、木製の扉で隔てられてはいるが……。

 弟達は祈念魔法による身体強化を維持するようにヨスキ村で教育されているし、最近ではラクラちゃんもそうすることを心がけている。

 なので、こちらの声が彼らの耳に届く可能性は十分にある。

 防音の効果を持つ祈念魔法を使うという選択肢もあるにはあるが、祈念詠唱自体にはその効果は及ばないため、その部分は聞こえてしまう恐れがある。

 これから内緒話をすると宣言しているようなものだ。

 この場では一先ず、話す内容に気をつけるに留めた方が無難だろう。

 怪しまれないに越したことはない。


「言っておくが、いくら五百年という長きにわたって複製師をしておるワシでも、さすがにオリジナル(第六位階)祈望之器(ディザイアード)を個人で所有はしておらんぞ」

「ええ。それは分かっています」


 印刀ホウゲツ以外に自由にしていい第六位階の祈望之器があるのなら、国の象徴(奉献の巫女)たるヒメ様辺りが既に、救世のためとして貸し出してくれているだろう。

 ……まあ、国宝レベルである第六位階の武器を大っぴらに振り回していたら、即座に救世の転生者だとはならなくとも、結局そう疑われてしまう可能性が高いけれども。


「通常の複製品では位階の低下が起こるため、(アーク)複合発露(エクスコンプレックス)暴走(パラ)複合発露(エクスコンプレックス)に対抗するのは難しいことも、理解しておろうな?」


 一拍置いてから、念のため、という感じで尋ねてくるアマラさん。

 その辺りのことは勿論、承知の上だ。首肯してから口を開く。


「それでも、アマラさんなら何とかして下さると伺っています」


 自分でも無茶な要求だと認識しているが、駄目元でトリリス様に相談したところ、この工房を紹介されたという経緯がある。

 なので、詳細は全く教えて貰っていないが、いつもの悪戯っぽい顔で「期待していいゾ」と言われたので、抜け道的な何かがあるものと頭の中では予想しているところだ。


 トリリス様、ディームさん、ヒメ様、アコさんに続く、全ての事情を知る彼女。

 救世という使命を、複製師という立場からサポートしてきた五百年。

 その積み重ねは、伊達ではないに違いない。


「……前提として、総合的な性能では決して本物には敵わないことは忘れるでないぞ」


 そのアマラさんは俺の言葉を否定せず、一際真剣な雰囲気を湛えて告げた。

 微妙な言い回しは気になるが、それもまた改めて確認するまでもない程の常識だ。

 しかし、彼女の鋭い視線を受け、俺もまた真摯に「はい」と応じておく。


「それともう一つ。祈望之器とて、あくまでも道具に過ぎん。どのような性能であろうと最後は使い手次第だということも、胸に深く刻み込んでおくことじゃ」


 更に、念を押すように俺を見据えながら言うアマラさんの言葉は、以前ヨスキ村でイリュファに扱かれていた頃に散々言われたことでもある。

 強力な武器を持って気が大きくなるなど以ての外だ。

 戦いに当たり、過大評価も過小評価も致命的な隙を作り出しかねないのだから。

 今も影の中にいる彼女の指導に恥じぬように、アマラさんの目を真っ直ぐに見詰め返しながら俺は「肝に銘じます」と返した。


「……ふむ。余計な世話じゃったか。奴らの言う通り、性根も問題なさそうじゃな」


 そんな俺の姿にアマラさんはそう口の中で呟くと、僅かに雰囲気を和らげた。

 どうやら、自分の目で救世の転生者の人となりを確認しようとしていたようだ。

 彼女は、それから――。


「ワシも貴様を認めよう。ついてこい」


 そう俺の背中を向けながら言い、木製の扉とは逆側の壁へと歩き出した。

 そして、そこで何やら複製品が置かれた棚を弄ると……。


「おお?」


 また新たな隠し通路が生じ、更に地下へと続く階段が現れた。


「こっちじゃ」


 その先へと進むアマラさんの後に続き、階段を下りていくと再び鉄製の扉。

 開けた先は、セト達が残った作業部屋よりも小さな部屋。

 そこに入ると、彼女が何やら細長いストールのような布を持ってきて、立ち入り禁止のテープのように扉に張り始めた。


「これでこの部屋の中の音は外には漏れん」

「ええと、つまりこれも祈望之器ですか?」

「うむ。風を鎮める祈望之器切風比礼(かぜきるひれ)をワシが複製し、改良したものじゃ。言わば、防音の領巾(ひれ)、というところかのう」


 風を鎮める。転じて、空気の振動を鎮める。で、防音の祈望之器というところか。

 祈念詠唱なしで内緒話ができるのはいい。

 可能なら、後で購入できないものか交渉しておきたいところだ。


「さて。こうして他の者に聞こえないようにしたのは、何も貴様が救世の転生者だからだけではない。ここにあるものは、あるいは国家間のバランスを崩しかねないものも存在する。それ故、知る者は一人でも少ない方がよいからじゃ」


 俺達の周囲には、先の部屋と同様に様々な複製品が置かれている。

 だが、改めて観察すると何となく雰囲気が違う気もする。

 …………いや、今アマラさんの言葉を聞いたからかもしれないが。

 そんな俺の曖昧な感覚は置いておくとして、彼女に「と言うと?」と続きを促す。


「うむ。実はな。ワシは長年にわたる研究の末、第六位階の力を発揮可能な複製品を作ることに成功しておるのじゃ。我が暴走・複合発露〈破理(オーバーレプリカ)天目一箇(ディスポーサブル)〉によってな」

「……え!?」


 そうして返ってきた言葉の内容に、思わず驚きの声を上げてしまう。

 それが本当なら、確かに国家間のバランスを崩しかねない事実だ。

 しれっと暴走前提であることに関しては、もう一々気にはしないが。


「勿論、先に言った通り、本物には敵わん。様々な制限がある。複製元は第六位階でなければならないのは当然として、通常時は第一位階にまで劣化しておる。第六位階の力を引き出せるのは一度だけじゃ。そして一度使えば砕けて散る。しかし――」


 アマラさんは言いながら、小部屋の棚から歪な形状の剣を手に取った。

 彼女の奥には同じものが何個か見える。予備だろうか。


「例えば、これはフラガラッハという祈望之器の複製品じゃ。オリジナルは、敵に投擲すれば必ず命中し、あらゆる防御を貫き、その傷は決して癒されぬ呪いとなる、という逸話を持つ。まあ、射程は視認可能な範囲と少々短いがな」

「そ……それを一度だけだとしても、第六位階で?」


 続けられた内容に一瞬耳を疑い、無意識に声が微かに震えてしまう。

 第五位階以下の身体強化は勿論、場合によっては第六位階の身体強化であろうと貫いて致命傷を与えることができ、しかも視認できれば必中。

 恐るべき力を持つ武器と言って過言ではない。


 そんなものを、即時量産とはいかないまでも複数生産することができる。

 五百年の歴史の中で、どの段階で発明され、この国が何個所持しているかは不明。

 これがあくまでも一例であることを考えると、ホウゲツの力は計り知れない。

 他国に隠し玉がなければ、強引な領土拡大も容易いのではないかと思う程だ。


 …………なるべくヒメ様達には喧嘩を売らないようにしよう。

 そう心に誓う。

 まあ、元々売る気もないけれども。


「ふ、余り心配するな。我らがホウゲツは侵略など望まん。そもそもが救世のために存在している国であり、少女化魔物(ロリータ)と人間の安寧を第一としておるからな」


 俺の心を読んだように、苦笑気味に肩を竦めて言うアマラさん。

 実際、過去この力を用いて侵略戦争を仕かけてはいないのだから、彼女の言葉は真実なのだろう。少なくともヒメ様達が国の中枢にある限り、悪用はないと俺も思う。

 とは言え、外国に知られたら、どういう判断を下されるかは分かったものではない。

 防音の祈望之器を使ってまで、話が漏れないようにしているのも理解できる。


「……欲しければ、これを持っていくか?」

「え? い、いやいやいやいや、ちょっと物騒過ぎますよ」


 この祈望之器は、いくら何でも殺意が高過ぎる。

 少なくとも補導員の仕事において、暴走した少女化魔物の殺害は最後の手段。

 俺としては、最後の最後まで人外ロリの救出を諦めたくはない。

 本当にどうしようもない場合は、印刀ホウゲツを使う選択肢もある。

 投げて終わりというのは感情的に拒否感が強い。

 人間を相手取る機会があるとしても、捕縛して法の裁きを受けさせるのが先だ。

 前世とは異なる世界とは言え、無法が罷り通るような世界ではないのだから。

 正直、一撃必殺系の武器よりも、そちらの方向性の道具の方が助かる。


 若干慌てながらそんなことを考えていると、アマラさんがくつくつと笑い出した。


「冗談じゃ。ワシとしても、これは持っていかせるつもりはない。ワシの技術はおいそれと口外できるものではないと、貴様に知らしめるために見せたに過ぎん。……念のために言うが、ここでの話は他言無用じゃぞ」


 祈望之器フラガラッハの複製品を丁寧に棚へと戻しながら言う彼女に対し、やや硬い口調で「分かっています」と頷く。

 そんな俺の様子に、アマラさんは「うむ」と満足げに応じると――。


「さて、話を戻そう。印刀ホウゲツの代用品についてじゃが……」


 彼女は声色を比較的柔らかいものへと戻しながら、棚を物色し始めたのだった。

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