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ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~  作者: 青空顎門
第2章 人間⇔少女化魔物

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145 中天の拘束具

 二度。三度。四度。五度。六度。

 心を殺してリビングデッドの上位少女化魔物(エイペクスロリータ)の四肢を切り落とし続ける。

 第六位階最上位の祈望之器(ディザイアード)たる印刀ホウゲツの切れ味は凄まじく、一度たりともし損ねることなく俺が振るう度に手足が舞う。

 当然ながら彼女の暴走(パラ)複合発露(エクスコンプレックス)不死鎖縛(ロットホラー)感染(パンデミック)〉の力により、即座に元の状態に戻ってしまうが……。


「お、おおお、ああ……」


 再生した傍から切断することにより、呻く以外の行動をほぼ取らせないようにする。

 結果、彼女は(・・・)おおよそ同じ位置に釘づけになっていた。

 とは言え――。


「ライムさん、ルシネさん! 何とか精神干渉できませんか!?」

「無茶を言うな!」

「私達の目では対象を捉えられん!」


 俺の強い問いに対し、叫ぶように返答する二人。

 内心頭を抱えたい気分になるが、彼らに非は欠片もない。

 超高速で動く弊害なのだから。

 かと言って速度を緩めることは余りにもリスクが高過ぎる。

 増えに増えた感染者からの思念の蓄積によって、大幅に強化された対象の身体能力。

 僅かでも攻撃が掠れば感染する〈不死鎖縛・感染〉の恐ろしさ。

 それらを加味すれば。

 今は、(アーク)複合発露(エクスコンプレックス)裂雲雷鳥(イヴェイドソア)不羈(サンダーボルト)〉の速度と旋回性能を利用し、超高速で∞を描くようにしながら対象を攻撃し、均衡を作るので精一杯だ。


「イサク、これじゃあ千日手の状況は変わらない」


 硬い口調で焦りを滲ませながらアコさんが言う。

 決め手もなく、結局のところは現状維持の状態。

 確かに、大枠では先程までと何ら変わりないかもしれない。

 しかし、俺の余裕が段違いだ。

 思考に避けるリソースが格段に増えている。


「……分かってます」


 とは言え、未だ打開策が思いつくには至っていない。

 俺の心にも焦燥感が渦巻き始める

 だが、こういう時こそ冷静に状況を把握しておく必要がある。


「俺達の勝利条件は一つ。あの子の暴走を鎮静化すること」


 情報を整理するため、口の中で呟く。

 勿論、その間も印刀ホウゲツを振るって彼女の行動を妨げることは忘れない。


「手法は精神干渉。そのためには数十秒の拘束が不可欠」


 しかし、〈万有(アブソリュート)凍結(コンジール)封緘(サスペンド)〉による凍結は不可能だ。

 たとえ狂化隷属の矢を使用したとしても。

 理由はライムさんやルシネさんと同じく、サユキが対象を目で捉えられないからだ。


「せめて影の外から複合発露(エクスコンプレックス)を発動できれば……」


 今現在。リビングデッドの上位少女化魔物は身動きを制限されている。

 事実上、拘束されていると言ってもいい状態だ。

 俺の体にできる影の中から彼女を見ているせいで視覚で追い切れないが、外部からなら半ば動かない目標として視界に捉えることができる。だが――。


「……無理な話だ。イサクから離れたら鳥や虫に襲われる」


 頭を整理するための俺の呟きに、アコさんが当然の否定を口にする。

 地獄が溢れ出たような状況にあるこのウラバ。

 そんな場所に複合発露による身体強化を持たない者が生身で立つなど、無謀にも程がある。自殺志願者の行動としか言いようがない。

 アコさんが挙げた鳥や虫もそうだが、周囲には他の動物や人間、少女化魔物(ロリータ)の感染者も徘徊している。傷つけられて同じ感染者に成り果てるのがオチだ。


「イサク様、相対速度をゼロにするのはどうでしょうか」


 八方塞とも思える状況。

 そこへイリュファがそう提案してくる。


「相手は脅威と判断した対象を闇雲に追いかけ、攻撃しているようですし」

「……成程。やってみるか」


 百キロで走る車の前を百キロで走れば、後続車は止まって見える。

 リビングデッドの上位少女化魔物の速度に合わせれば、照準を合わせられる。

 そこで精神干渉を行えば……。


「ライムさん、ルシネさん」


 二人にその旨が伝わるように呼びかけてから距離を取る。

 斬撃がやんだことによって対象の四肢は腐った状態ながら即座に元に戻り、間髪容れず猪の如く俺へと突っ込んでくる。

 その速度に合わせて俺は後退を開始し、相対速度をゼロとした。

 しかし――。


「っ!? ああああっ!!」

「何っ!?」


 対象は己に対する干渉を察したらしい。

 突然足を地面に突き立てて急停止し、かと思えば、進路を変えて俺から距離を取る。

 音速以上の速度。ベクトルが逆になれば、相対速度は単純計算で二倍。

 一秒弱の間に一キロ以上の距離が開く。


「駄目だ。遮蔽物に身を隠された」

「……行動は単純だが、そこまで間抜けではないらしいな」


 ライムさんとルシネさんが忌々しげに告げる。

 どうやら、この方法は決定打にはならないようだ。

 全くフラットな空間ならうまくいったかもしれないが、いくら平原とは言っても天然自然の只中。茂みや木、地形的な凸凹もある。

 一キロもの距離があれば、身を隠すことは容易い。

 相手側にしても、排除は無理と判断して森に逃げ込む選択肢もあるだろう。


 仕方なく即座に踵を返し、対象との距離を詰める。

 すると、彼女もまた茂みから飛び出してきて、再度俺に襲いかかってきた。

 これもまた相対速度は二倍。一気に間合いが縮まる。

 対して俺は、速度を一気に上げて回避すると共に刀で四肢を切り落とす。

 状況が悪化することはないが、完全に元の木阿弥になってしまった。


「イサク様。申し訳ありません」

「……いや。考え方は悪くない」


 策が不発に終わり、心底済まなそうに言うイリュファにフォローを入れる。

 勿論、上辺だけの言葉ではない。

 一つのヒントにはなった。

 何も凍結するだけが拘束ではない。

 擬似的にせよ、相対的にせよ。

 動きを止めることさえできれば、それは拘束具として作用するのだ。

 その方向で考えれば――。


「くっ……」


 思考のさ中、突然軌道上に感染した鳥が入り込み、俺はそれを凍結しつつ回避した。

 衝突していれば、間違いなく無残な死に方をしていたことだろう。

 状況的に被害者と言って間違いないそれら。

 動物と言っても、むやみやたらと殺したくはない。

 そのために少し無理な軌道を取った結果、対象の手足を落とした後で視界に夜空が映り込む。感染した鳥が俺達を狙って旋回している。


「あ」

「あ?」


 ハッとして思わず漏らした気の抜けた声に、疑問気味の口調で繰り返すフェリト。


「ははっ」


 しかし、俺は彼女にその反応の意味を答えることはせず、自分の視野の狭さに思わず呆れ、自嘲の笑い声を上げてしまった。

 リビングデッドの上位少女化魔物。彼女に相応しい拘束具はそこにあった。


「ライムさん、ルシネさん。次で決めます。準備を」

「……策はあるのか?」

「はい。会心の策が」


 ライムさんの問いにそう自信を持って告げ、一度深く呼吸しながら刀を構える。


「待たせて悪かった。今、助けるから」


 そして手足の再生した彼女を目がけて空間を翔け――。


「はあっ!!」


 幾度目か。四肢を潰すと同時に刀の峰で対象の胴体を打ち、空へと打ち上げた。


「ど、どうするの?」


 宙に放り出されて重力に支配される対象を前に、パレットさんが戸惑い気味に問う。


「人型のリビングデッドは空を飛べない。だからっ!」


 そんな彼女にそう答えながら俺もまた空を目指し、同時に無防備を晒す対象へと超音速に加速した氷の塊を連続で射出していく。

 反撃もできずに胴体へと下から攻撃を受けた相手は、更に空へと押し上げられる。


「だあああああっ!!」


 空中にあって尚、再生する手足を切り裂くと共に峰を打ちつけて更に空高くへ。

 そのまま高く。高く。高く。

 弛まず攻撃を繰り返し、低い雲を突き抜けてまだ高く。

 ひたすら高く。高く。高く。

 鳥も虫も寄りつかない高さまで。

 そして、高度一万メートル強。


「ライムさん、ルシネさん! 高高度対応!」

「もうできてる!」

「こちらもだ!」


 天を翔け上がる中で俺の意図に気づいてくれたらしい。

 俺が指示するより早く、彼らは祈念魔法を使用して高度一万メートル以上の世界に体を適応させたようだ。ならば、すぐにでも二人を外に出せる。


「では、頼みます!」


 一瞬だけ対象から距離を取り、そこで彼らに影の中から出て貰う。

 念のため、足場を氷で生成すると共に祈念魔法を施しておく。

 気流から守られ、安定して浮かぶ氷の板。その上に二人が立ち、体勢を整えたのを確認してから、リビングデッドの上位少女化魔物へと視線を向ける。

 彼女は空中で足掻きながらも、まともに身動きが取れなくなっていた。


 翼なきリビングデッド。

 更には祈念魔法も使うことのできない暴走状態。

 彼女はこの空において自由に動く術はない。

 この空間、この中天こそが、彼女にとっての拘束具だ。


「合わせるぞ、ルシネ」

「了解」


 そして二人の(アーク)暴走(パラ)複合発露(エクスコンプレックス)千年(ラスティング)五色(オーバーライト)錯誤(パーセプト)〉が完全な形で発動する。

 しかし、相手は上位少女化魔物。

 しかも感染者達の思念によって強化されている。

 今の二人の状態であっても何秒かかるか分からない。

 その間に落下してしまっては意味がない。


 氷塊による攻撃。四肢の切断。峰による打撃。

 それらを繰り返し、対象の高度を保つ。

 そして、数分後。


「あ、ああ……」


 空中でもがいていた対象が、徐々にその動きを鈍らせ始める。

 そこで印刀ホウゲツによる攻撃をやめ、再生された四肢にリング状の氷を設置する。

 そのまま様子を見る。

 やがて……リビングデッドの上位少女化魔物は完全に動きを止め、その腐りきった体は何の変哲もない少女の姿へと変わった。


 暴走の鎮静化。

 彼女の変化を見れば、それが成し遂げられたことは疑いようもない。

 これに伴い、感染者達も皆、元の状態に戻っていることだろう。

 だから俺は、その少女の傍に近づくと氷のリングを消滅させ、〈裂雲雷鳥・不羈〉を解除すると共に祈念魔法を使用して彼女の安全を確保し――。


「もう、大丈夫だ。何度も傷つけて、ごめんな」


 高度一万メートルの夜空の中。

 精神干渉によって意識を失った彼女にそう小さく呟きながら、その小さな体をガラス細工を扱うように抱きかかえた。

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