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ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~  作者: 青空顎門
第2章 人間⇔少女化魔物

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AR12 暴走鎮静化後の対応と国難の予兆

「あの事件があれ程の規模になったことに関しては、悪い偶然が重なったとしか言いようがない。正直、私達にも予測できなかった。……もしかしなくても疑っているね? 今となっては仕方がないことだけれど。なら、私の記憶で証明しようじゃないか」


***


 地方の小都市ウラバ近郊で暴れていた七人の上位少女化魔物(エイペクスロリータ)達を保護してから三日。

 イサクとルシネの手を借り、彼女達の暴走を鎮静化してから二日。

 人間至上主義組織スプレマシーによる人体実験の被害者。その最後の一人である可能性が高いルコ・ヴィクトちゃんの行方は、未だに分からずにいた。

 警察も、探知系の複合発露(エクスコンプレックス)を駆使して捜索しているはずだが……。

 それでも進展がないとなると、遮蔽物の多い森で逃げ隠れしているのかもしれない。

 この部分はあくまでも推測に過ぎないが、少なくとも積極的に暴れ回っていないことについては他の七人とは明らかに異なる行動と言えるだろう。


「……暴走の理由は、純然たる敵意、じゃないのかもしれないね」


 施設長室の椅子に座りながら独り言つ。

 暴走状態にあるからと言って、必ずしも暴れ回るとは限らない。

 何かに固執して、その何かのみを守ろうとすることもある。

 何かを恐れ、その何かから逃げ続けようとすることもある。

 分かり易く暴れるのが一般的ではあるものの、例外は腐る程あるのだ。

 勿論、その過程で他者に邪魔をされれば、それに即した反応を示しもするが。


「まあ、八人もいればそういうこともあるか。……いや、もしかすると、まだ十三歳と幼い女の子だからだろうか」


 口を閉ざし、しばし考え込む。

 この辺りの考察は、暴走状態での行動を予測する上で役立つことが多い。

 故に、その道のプロである警察ならば当たり前に行っていることだ。

 むしろ両親などへの聞き込みを行い、伝聞の情報であれこれ考えている私よりも遥かに鮮明な人物像を描き出しているはずだ。

 その上で、今頃は森の捜索にでも着手していることだろう。

 後は妙な刺激さえ与えなければ、早晩無事に彼女の居場所を特定できるはずだ。

 そうしたら再びイサクやルシネの力を借りて暴走を鎮静化すれば――。


「ん?」


 と、そんな思考を遮るように施設長室の扉が規則正しく叩かれる音が耳に届き、私は姿勢を伸ばしながら顔を上げて口を開いた。


「入りたまえ」

「はい。失礼します」


 私の声を受けて施設長室に入ってきたのは、金髪金眼の美しい一人の少女化魔物(ロリータ)

 施設長たる私の秘書のような立場にある職員だった。

 名前はエイル。ツーサイドアップが特徴的な、ヴァルキリーの少女化魔物だ。

 職員故に当然ながら画一的な詰襟の制服姿。しかし、私とは対照的に背が高い彼女にはよく似合っている。大きい胸は圧迫されて窮屈そうだが。


「施設長、ようやく彼女達が落ち着きました」

「そうか。それはよかった」


 そんな彼女からの報告に、私はホッと胸を撫で下ろした。

 彼女達というのは、あの七人の上位少女化魔物のことだ。

 ルシネの精神干渉によって記憶を操作された後、丸一日以上気を失っていた。

 実のところ、意識自体は数時間前には既に取り戻していたのだが……。


 拷問染みた人体実験の記憶を封印したため、あの子達の主観では、気を失って目覚めたら見も知らぬ場所にいて少女化魔物になっていた、という余りに荒唐無稽な状態。

 当然ながら大混乱だった。

 特に、元々は男性だった者。

 種族に加えて性別まで変わっているのだから、即座に受け入れられようはずもない。

 しかし、職員達の懸命な説得の末、事情の説明に耳を傾けることができるぐらいには冷静さを取り戻してくれたようだ。


「……使い方も分かっていないはずの複合発露を発動した時は焦りましたが」

「そこは事前に注意を促しておいただろう? 長いこと暴走状態にあった上位少女化魔物は、ちょっとした感情の変化で勝手に複合発露が発動するようになってしまう、と」


 疲れ果てたように告げるエイルに、嘆息気味に言う。

 これは何も上位少女化魔物だけの特性ではない。

 が、そこに至るまでの時間に差があり過ぎて特有の状態と言っても過言ではない。


 ちなみに。

 更に長時間、暴走を鎮静化できずにいると複合発露が常時発動するようにもなる。

 あの七人は途中封印の注連縄で強制的に複合発露を解除したりしていたからこの程度で済んだが、もしかしたらルコちゃんはそうなってしまうかもしれない。


 もっとも、暴走状態にない単なる複合発露は所詮第五位階。

 たとえ己の状態を受け入れることができずに多少暴れたところで、特別収容施設ハスノハの職員なら容易く対処できるレベルだ。

 日常生活に関しても、小さく複製した封印の注連縄をアクセサリーのように身につけていれば、普通の少女化魔物として暮らすことは何ら問題ない。


「と言うか、封印の注連縄で作った腕輪を外させちゃ駄目じゃないか」

「返す言葉もありません。一応、私も監督しておりましたが……」


 さすがに犯罪者でもなく、既に暴走もしていない子達を、私達の身の安全のためだけに特別収容棟の独居房にぶち込んだままにしておくというのは人権侵害も甚だしい。

 事情の説明と説得をするにしても、牢屋に入れたままでは不信感を煽ってしまい、あの子達の聞く耳を塞ぐ結果になりかねない。

 加えて、先述の通り、第五位階ならさしたる脅威もない。


 そういう訳で、封印の注連縄の腕輪をつけて医務室で寝かせていたのだが……。

 目覚めた後、一人一人別室に移して事情を説明する中で外されてしまったらしい。

 初めて己の姿を認識したことで混乱したせいだろう。

 ……意識を取り戻して早々に動揺を与えないように、医務室の姿見や窓ガラスは布やカーテンで覆い隠しておいたからね。


「まあ、何ごとも経験だよ。対応に当たった職員達もこういうケースがあると知れたことは今後に繋がるはずだ。私もいつまで施設長をしていられるか分からないからね」

「またまたご冗談を」


 いや、至極真面目な話だ。トリリスじゃあるまいし。


 そも、私達少女化魔物は不老ではあっても不死ではない。

 予想外のことが起きれば容易く死に至る、エイルと同じ一つの命に過ぎない。

 五百年生き永らえてきたけれど、正直かなり綱渡りだったと自分でも思う。

 多くの仲間が死に、私達がたまたま残っているだけなのだ。

 だから、この世の安寧を保つため、万が一に備えて後継者は育てておく必要がある。

 犠牲になった全ての者達の上に立つ私達には、その義務がある。だから――。


「君も複合発露をもっと使いこなさないと」

「……さすがに施設長やヒメ様達の要求は高過ぎます」


 エイルの複合発露〈万剣調伏(ハーモニートルーパー)〉は、光を束ねて分身を作るもの。

 分身が知覚したものは本体である彼女にも伝わるため、戦闘のみならず情報収集や情報伝達にも有用なのだが、如何せん分身の数と効果範囲が心許ない。

 今のところは施設内で監督をしたり、施設内で連絡係になったりするのが関の山だ。

 可能ならムニの後継になって欲しいところだが……。

 急いてはことを仕損じる。じっくり育てていくべきだろう。


「ともあれ、あの子達が落ち着いてくれてよかった。けど、ここからが大変だよ?」


 皆、あくまでも状況を理解したに過ぎない。

 ここから自分に起きたことを受け入れさせ、社会復帰にまで繋げるのは困難極まる。

 人間の心というものは多くの場合、合理的なものではないのだから。

 五百年の月日を経ても、未だに見誤ることがあるくらいだ。


「承知しています」


 だが、表情を引き締めて頷くエイルを見ると大丈夫だろうと信じられる。

 特別収容施設の職員たる者、私に比べれば経験が浅くともしっかり理解している。

 かの同情すべき被害者達に、挫けず最後までやり遂げてくれるはずだ。

 そんなことを考えながら、小さく笑みを浮かべていると――。


「施設長」


 突然。

 ハッとしたように施設の入口へと視線を向けてから、エイルが口を開く。


「どうした?」

「テレサ様がいらっしゃったようです」

「え…………な、何だって!?」


 分身体から得た情報を告げたエイルに、思わず私は驚きの声を上げてしまった。

 ヒメ専属の転移係であるテレサ。

 彼女一人が直接、私を訪れるなんて只ごとじゃない。


「すぐに通してくれ。それと人払いを」

「承知致しました」


 エイルは私の言葉にそう応じると、速やかに部屋を出ていく。

 それとほぼ同時に、見慣れた顔が施設長室に転移してきた。

 私と同じ悠属性を示す紫色の髪と瞳。ヒメ直属の部下であることを示す巫女装束。

 寡黙さが滲み出た、少しきつめの表情。間違いなくテレサだ。


「君が来るとは穏やかじゃないね」

「ご理解が早く、助かります」


 皮肉をものともせず、冷たい口調で告げながら軽く頭を下げるテレサ。

 あちらの言葉も皮肉っぽいが、これは単に素だ。


「緊急事態です。ことは国家的な危機に至る可能性があります」

「だろうね」


 テレサが単独で連絡係の真似ごとをするということは、そういうことだ。

 彼女にしては珍しい早口からも、緊迫した状況が伝わってくる。


「一体何があったんだい?」

「ルコ・ヴィクトの捜索を行っていた者達からの連絡が途絶えました。のみならず、現在ウラバ次いでアカハとの連絡もつかなくなっています」

「ア、アカハまで!? それは本当なのかい!?」


 予想以上の事態に思わず声を荒げてしまう。

 アカハはウラバの隣にある都市。

 何が起きたかは分からないが、そこまで影響が及んでいる時点で相当深刻な事態だ。

 テレサに視線で詳しい説明を求める。


「はい。詳細は不明ですが、アカハからの最後の連絡をそのまま読み上げますと、人間と動物の死骸の群れが迫ってくる、とのことでした」

「死骸の群れ、だって? ……まさかっ!?」

「……暴走(パラ)複合発露(エクスコンプレックス)不死鎖縛(ロットホラー)感染(パンデミック)〉」


 テレサが口にしたことは、今正に私が思い浮かべたことだった。

 過去に事例もある現象。

 その名の通り、感染する複合発露。

 かつて、感染者を皆殺しにすることによって難を逃れた脅威の名だ。

 大を守るために小を切り捨てた苦い記憶が思い出され、私は奥歯を噛み締め――。

 そこでふと気付く。

 当時感染したのは、人間と少女化魔物のみのはずだ。


「ど、動物も、なのか?」


 聞き間違いではないかと尋ねるが……。


「はい」

「馬鹿な! それでは感染者を殺して防ぐことすらできないじゃないか!」

「……はい。過去の解決策を踏襲した形では、感染の拡大を防ぐことはできないでしょう。根本的に異なる解決策を講じなければ、国が滅びます」


 淡々と、しかし、どこか悲壮感の滲む声と共に告げるテレサ。

 そんな彼女の姿に愕然とし、私は言葉を失ってしまったのだった。


***


「ご覧の通り。これは本当に予想外の出来事だった。君に対処させたこともそうさ。これは救世のプロセスに何ら関係のない事件だった。そして、だからこそ、君が救世の転生者に相応しい人間だと信じるに足る出来事だったと……私は、今も思うんだ」

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