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ロリコン村の転生英雄~少女化した魔物達の最強ハーレムで世界救済~  作者: 青空顎門
第2章 人間⇔少女化魔物

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138 一人足りない

「ガアアアアアアアッ!!」


 新たに生成したドーム状の氷の内側。

 その中央に置かれた檻の中で、グールの上位少女化魔物(エイペクスロリータ)が威嚇するように叫ぶ。

 元は郵便配達員の男性だったにもかかわらず、少女の姿へと成り果ててしまっていた彼は、今正に俺が封印の注連縄を解いたことによって更に異形へと変じていた。

 その全身にハイエナの如き特徴が現れている。

 封じ込められていた暴走(パラ)複合発露(エクスコンプレックス)が、その原因たる祈望之器(ディザイアード)の影響から脱したことによって自動的に発動したのだ。


「グオオオオオオッ!!」


 そして彼は、蓄積された憤怒と戦意を撒き散らすように咆哮しながら暴れ出す。

 直後、既に鎮静化を終えた他の者達の時と同様に、檻が容易く破壊されてしまった。

 しかし、それは肥大化による付随的な結果ではない。

 他の者達とは異なり、グールの上位少女化魔物である彼は人間大の体躯なのだから。

 強化された身体能力によって、力任せに鉄格子を捻じ曲げて脱出したのだ。

 それから彼は、眼前にいた俺を目がけて真っ直ぐに襲いかかってくる。

 あのサイズならば、氷に区切られたこの小さな空間内でも十分戦闘可能だろう。


「我流・氷鎧装(フロストアーマード)


 そのまま掴みかからんと迫る異形の手を前にして。

 俺は全身に(アーク)複合発露(エクスコンプレックス)万有(アブソリュート)凍結(コンジール)封緘(サスペンド)〉によって作り出した氷を纏いつつ、対象の行動をギリギリまで見極めて最小限の動きで回避し……。


「ふっ!」


 一際厚く固めた氷の拳を、その鳩尾へと交差気味にぶち込んだ。


「ガハッ!?」


 彼は肺の中の空気を全て吐き出すような鈍い声を上げ、体をくの字に折り曲げられながら弾き飛ばされて氷の壁に叩きつけられる。

 並の人間、少女化魔物(ロリータ)なら恐らくは致命傷となる威力。

 だが、再生能力に特化した身体強化故に、数秒とせずに立ち上がってくることだろう。

 だから、そうなる前に俺は〈万有凍結・封緘〉を駆使してコの字型の氷の杭を大量に作り出して射出し、彼を氷の壁に張りつけにするように突き刺した。


「ガアアアッ!!」


 当然の如く彼は拘束に抗い、己の四肢を押さえつけるそれを破壊して脱出を試みる。

 上位少女化魔物の暴走・複合発露を俺単独では完全に封じることはできない。

 氷の杭は端から砕けていく。

 が、壊された傍から全て再生成して均衡を作り、拘束を維持する。

 そして、彼が張りつけとなった壁だけを残してドーム状の氷を解除し――。


「ルシネさん!」

「ああ」


 彼女の(アーク)暴走(パラ)複合発露(エクスコンプレックス)千年(ラスティング)五色(オーバーライト)錯誤(パーセプト)〉によって暴走を鎮静化した。

 これで六人目。


「後一人だね」


 そうアコさんが告げる間に、精神干渉の負荷で気絶した彼が職員達の手で運ばれていき、最後の一人であるサラマンダーの上位少女化魔物が搬送されてくる。

 暴走を鎮静化する手順は同じ。

 氷のドームの生成。封印の注連縄の解除。

 暴走・複合発露が発動した対象の、氷の杭による拘束。

 ほとんど作業的に、先程までの展開をなぞっていく。


「よし。ルシネさ――」


 そのまま精神干渉の工程に進むため、彼女に呼びかけようとした正にその瞬間。

 視界の端で異変を感じ、開きかけた氷のドームを再び閉じる。

 見ると、サラマンダーの上位少女化魔物は首を自ら切り落とし、転げ落ちた頭部から全身を再生させる形で氷の拘束から逃れていた。


「マジか……」


 精神干渉のために頭部を氷で覆わなかったのが仇となった形だが、さすがにトカゲの尻尾切り的な行動、いわゆる自切を首の部分で行うとは思わなかった。


「ウウウウウウウゥッ!」


 そしてサラマンダーの上位少女化魔物は甲高い唸り声を上げながら……。

 ウーパールーパー的な四足歩行の状態で短い足をバタつかせつつ、しかし、その滑稽な動きからは想像できない速度で襲いかかってきた。

 先程までのように頭部を除いて拘束するのみでは、再び脱出される可能性が高い。

 だが、全身を凍結させて三十秒の猶予を稼いでも今度は精神干渉が効果をなさない。

 ならば――。


「力づくだ!」


 俺は迫り来る対象をいなし、素早くその背後に回って背中に馬乗りになった。

 更に四肢の辺りに氷を生成して自切が起きない程度に動きを阻害し、そうしながら右手に纏わせた氷を肥大化させて一回り以上大きな掌を作る。


「はあっ!!」


 それを以って対象の後頭部を掴み、床に圧し潰すように押さえつける。

 相手は当然もがき、氷は軋みを上げて破片を撒き散らす。

 しかし、破損した部分に氷を補充し続けて何とか体勢を維持する。


「よし」


 かなり強引だったが、これで工程を修正することができた。


「ルシネさん!」


 そして今度こそ。

 彼女の力を以って暴走は鎮静化し、サラマンダーの上位少女化魔物は見た目あどけない少女の気を失った姿を晒すに至った。

 これで七人全員。暴走状態から救い出すことができた。

 深く深く安堵の溜息を吐く。


「二人共、よくやってくれた」


 最後の一人が職員達によって運ばれていったのを確認し、アコさんが口を開く。


「これでこの子達()一先ず安心だ」


 労うような口調に混じって、妙なイントネーションが一部ついていた気がするが……。


「ルシネ。本当に助かったよ。これからも、この調子で特別労役をこなして欲しい」

「…………救世とライムのためならば、是非もないな」


 アコさんの要望に素っ気なく返すルシネさん。

 立ち場としては看守の長と囚人。馴れ合うことはできないだろう。

 特に、今日まで頑なにアコさんの説得を突っぱねてきた以上は。

 そんなルシネさんは俺に視線を移すと、打って変わって表情を和らげて口を開いた。


「イサク。救世の転生者の実力、しかと見せて貰った。もし私にできることがあるのであれば、何でも言って欲しい。必ず助けになる」

「はい。ありがとうございます。その時はお願いします」


 世話好きな姉のような雰囲気を醸し出す彼女に、感謝と共に頭を下げて言う。

 社交辞令ではない。

 恐らく、救世の転生者たる俺が彼女の力を借りたいと言えば、形式上は特別労役という形で許可が下りるはずだ。

 その辺り、ルシネさんも理解しての言葉だろう。

 正直、心強い限りだ。


「では、すまないが、少し休ませて貰うよ」


 と、彼女は申し訳なさそうな表情を浮かべながら断りを入れた。

 よくよく見ると、少し苦しげだ。


「やはり、その状態は辛いものがありますか」

「ああ。この矢を抜けば、間違いなく意識を失う。その自覚ができる程度にはね」

「すみません。無理をさせてしまって」

「構わないさ。私は過ちを犯した少女化魔物だし、十分な対価も得られる。自ら納得して行ったことだ。イサクが気に病むことはない」


 その言葉を受けて再度「ありがとうございます」と繰り返した俺に対し、ルシネさんは柔らかな笑みを見せて頷いてから己の手に突き刺した狂化隷属の矢を抜き取った。

 正にその瞬間、彼女は糸の切れた人形のように膝から崩れ落ちてしまう。

 慌てて近寄り、その体を支える。

 やはりアコさんも説明していた通り、ルシネさんは気を失ってしまったようだった。

 すぐに職員達が駆け寄ってきて、彼女を丁寧に運んでいく。


「……狂化隷属の矢を自分で自分に突き刺す。強力ですが、代償が大き過ぎますね」

「うん。だから、ここぞと言う場面でしか使えないんだ。長々と矢を刺したままでいると、徐々に制御が難しくなって暴走する危険性もあるからね」


 余程バックアップがしっかりしているか、もう後がないような危機的状況でもない限り、選択肢としては余り考えない方がいいかもしれない。

 何はともあれ――。


「これでとりあえずは一段落でしょうか」


 暴走した七人は全員鎮静化できた。

 根本的な原因である人間至上主義組織スプレマシーの件は残っているが、この場は一つ区切りをつけていいだろう。そう思ったのだが……。


「ああ…………いや……」


 アコさんは何故だか微妙な反応を見せる。


「何か問題が?」

「うん、実はね。……直近のウラバにおける行方不明者。それと、かの事件現場に残っていた石像や席の数、今回収容したあの子達。それらの数を差し引きすると一人、足りない可能性が高いんだ。恐らくは、女の子が」

「女の子が?」

「そう。ルコ・ヴィクトちゃん。十三歳。パン屋の娘だ。お使いに出て、そのまま行方不明になってしまったらしい」


 硬い口調で告げるアコさんの言葉に、思わず眉をひそめる。

 沸々と怒りが湧き上がる。

 あのような惨い真似を子供にまで行っていたのか、と。


「とは言え、まず見つからなければ始まらない。今、あちらの警察が草の根を分けて捜索しているところだ。彼女の行方が分かったら、また鎮静化の依頼をするかもしれないから頭の片隅にでも入れておいて欲しい」

「…………分かりました」


 目を閉じて感情を落ち着かせながら答える。

 今日の彼らと同じ境遇なら、同様に対処すれば暴走の鎮静化自体は問題ないだろう。

 俺はそれに備え、捜索はプロに任せておくとしよう。


 しかし、確か七人の上位少女化魔物達はウラバ近郊で暴れ回っていたのを、諸々対処し易いように父さん達が協力してあの場に集めたはずだ。

 つまりルコちゃんは唯一人、そうした目立った行動を取っていないことになる。

 その違いに引っかかりを覚え、妙なフラグを予感してしまうが……。

 ここで考え込んでいても進展はない。


「アコさん。今日のところは失礼します」


 だから俺は思考を切り上げ、一先ず特別収容施設ハスノハを辞去したのだった。

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